プロローグ
僕の名前は、芦屋蓮。座右の銘は『他力本願』の天才陰陽師です。
現在、僕は式神に今回の依頼について説明しています。
「てことで、よろしくねしゅんちゃん」
「よろしくねじゃないですよ、大将。ちゃんと説明してください」
僕の前にいる式神はあの伝説の妖怪、酒呑童子のしゅんちゃん。
今回、僕について来てもらう予定の式神です。
「だーかーら、僕依頼に行く。君それに着いてくる。OK?」
「OKじゃないです。そもそも、大将自身が出張る程の依頼ってなんですか?あんなに、頑なに自分じゃ行きたがらない大将が自分から行くって言い出すなんて…」
「ちょっと待ってよしゅんちゃん。僕をダメ人間みたいに言って。僕もたまには仕事するんだよ。いつも式神任せじゃあ、周りから笑われてしまうからね!」
今回の僕が受けた依頼は、超高難易度の調査依頼です。
依頼内容は、数週間前に『魔のトライアングル』にて猛烈な謎の力を確認。
その後、調査員が近くまで確認しに行くと、不思議なことに、そこには孤島ができていたので、今回はその島を調査することが目的です。
ただし、不可解な点が1つ。
この天才陰陽師の僕が、本気でその島を占っても何も分からなかったことなんです。
「カクカクシカジカ。そういうことだから、何があるか分かんないから着いてきて」
「まぁ、そういうことなら。しかし、大将が占いできないって、一体どんな所なんですか?」
「うーん、どんな所なんだろ?僕が過去に1度だけ占えなかった時って、神様が絡んでたんだ。だから、もしかしたら神様関連の場所なのかも?」
「えっ、それって大丈夫ですか?他に兵隊必要じゃないですか?逆に自分1人で大将守れるか不安になってきました。ちょっと、茨木達呼んできてもいいですか?」
「ダメだよ。もし僕達じゃ手に負えなかった時のために人員はなるべく多く現世に残しとかなきゃ。…まぁ、大丈夫だよ。パッと行ってサッと終わらせて帰ってこよう。明日は、ちょっと用事があるから」
そう言って僕は、部屋の扉に向かう。
「それはそうと、今からどうやって行くんですか?」
「そこはもう準備バッチリ!占えなかっただけで、場所は把握済みで、呪力ピンも刺してるから、あとは僕の空間呪術で、瞬間移動するだけだよ」
「さすが、大将。用意周到ですね」
次の瞬間、2人の姿は一瞬にして無くなった。
※※※※※
僕の空間呪術で島に転移したあと、僕達は、少し周りを見渡しながら島の中央を目指して歩いている。
「着きはしたものの、本当になんにもないね」
目の前に広がるのは、草木がひとつもない、大地。
自然に生成するには、あまりにもおかしい異常な光景があった。
「こりゃあ、なんですかい。地面も、土じゃないみたいだし。不気味ですね」
「うん、確かに。それに、この島の中央部分から神力が溢れ出て来てることも要注意かな…」
「えっ!?それ、マジですか?」
現世では、感じることが決してない神力が、この島の中央部分からは溢れ出てるいるのだ。
「こりゃあ、想像よりもヤバそうだ。とりあえず、急ぎめに中央部分を目指して見よう。」
「了解しやした。」
2時間ぐらい、警戒しながら、中央に向かって進んでいくと、段々と、像らしきものが見えてきた。
「なんですかい、あれ。なにかの像みたいですけど」
「本当だね。なんの像なんだろ。まぁ、とりあえず近くまで行ってみようよ」
それから1時間。
近くまでいくと、よりはっきり見えてきた。
どうも、どこかの女神を模した像のようだ。
天使の羽が生えた女性が手を胸の前で組み、なにかを祈っている様子だ。
「さて、どうしたもんか。…とりあえず、しゅんちゃん触ってくる?」
「なんでそうなるんですか。嫌ですよ。絶対なにかあるじゃないですか」
「そうなんだよね。うーん、じゃあ式神に行かせてみようかな」
そう言って、式札を取り出して、呪力を練り出す。
すると、ここで僕はおかしいことに気づく。
「あれぇ、おかしいな。ねぇ、しゅんちゃん。ここで呪力練れないんだけど」
「またまた、そんなわけ……。って、練れない!?」
普通、現世ではどこに行っても、一定の呪力があるため、呪力が練れないなんてことはない。
呪力が練れないということは、この場所に呪力が全くないということ。
つまり、異常事態である。
僕たち陰陽師や妖怪は、呪力がなければ、全ての力が使えなくなり、生身の体で戦わなければならない。
「なるほど、これで納得が言った」
「急にどうしたんですか?」
「あぁ、今になって、なんで僕が占ってもこの場所が分からなかったか分かったんだよ」
そう言って、像を指差す
「あれのせいだ。あれから、神力が溢れ出てるせいで呪力での干渉が全く出来なかったんだよ」
「なるほど。・・・ってことは、ここは擬似的な神域になってるってことですか?」
「その通り。さすがしゅんちゃん察しがいいね」
僕も過去に何度か神域に入ったことはあるが、ここと似たような空気感だった。
まぁ、ここの方が気味悪いけど。
「てことは、この島もどっかの神の仕業ってことですかい?」
「そうなるね。となると・・・はぁ、これは僕じゃ解決できないかな。帰ってからうちの神さんにても相談してみるかな」
僕としゅんちゃんは、僕達じゃ手に余る依頼であるため、ここで一旦帰ることにする。
「それはいいんですけど、ここから帰れます?まさか、泳いで帰るなんてことありませんよね?」
「フッフッフ。この天才陰陽師がそんなミス犯すわけがなかろう」
「流石、大将。よっ、日本一。 それで、どんな方法なんですか?」
「聞いて驚け。僕は、こんなこともあろうかと、うちの神さんから、神力の扱い方を教えて貰っておいたのだ」
「マジすか!?それは凄い!!人間でも神力使えるんすか!?」
僕が天才陰陽師ゆえ、可能なこと。
本来、神力とは神が使うことを前提にあるため、制御するだけでもかなり膨大な処理が、必要となる。
「でも、1つ問題があるんだ」
「なんですか?ここまで来て、やっぱ出来ませんとかはなしですよ?」
「そうじゃない。まだ僕自身、神力の扱いに慣れてないから術式完成までに少し時間がかかるんだ。その間、しゅんちゃんには、像を見張りつつ、僕を守ってもらいたい」
「なんだ、そんなことですか。お易い御用です。ちなみにどのぐらいかかるんですか?」
「約1時間ぐらいかな。それじゃあ、作業に入るから、見張りよろしくね」
「合点!!」
僕は、早速印を組みつつ周りの神力を僕の制御下においていく。
※※※※※
それから40分ぐらい経って術式も完成目前に迫ってきた頃、しゅんちゃんが突然話しかけてきた。
「大将、あの像さっきと比べて口元笑ってませんか?」
「なんだよ。もう少しで完成なんだ。ちょっと待ってくれよ」
「いや、やっぱりそうですって。今も少し口元動きました。絶対、あの像動いてますって」
「そんなことあるわけないだろ。像が動くって、像は生き物じゃありませんよ?酒呑童子君。緊張しすぎて頭おかしくなったんじゃないか?」
まったく、しゅんちゃんは。
部下の前では、あんなに立派なボスなのに、2人きりになるとすぐこうなる。
こっちも術式完成までもう少しなのに。
「大将、大将、たいし…」
「なんだよ。術式完成まで、ほんとあと少しなんだって
」
「大将。まじで、笑ってますってあの像。気持ち悪いです」
しゅんちゃんは、まだ僕を驚かせようとしてるらしい。さすがの僕でも、そろそろ我慢の限界だぞ。
「もう、しゅんちゃん。そんなわけないでしょ。像が動いて、笑うなん・・・て」
ちょっとキレ気味に、像の方を見て、恐怖で固まってしまった。
最初は、清廉潔白な女神を模した像だったはずのそれは、口元が、ニタァーと不気味に笑っており、何か楽しげな様子だ。
「ちょっとちょっと、しゅんちゃん。何あれ?気持ち悪くね?」
「だから、呼んでたじゃないですか。大将、ずっと無視するんですもん。あれ、明らかやばいでしょ」
「ヤバいってもんじゃないでしょ、あれ。早くこの場から逃げないと、なんか嫌な予感がする。術式急ぐね」
そう言って、今までよりも高速で術式を組み出した。幸い、あと少しで術式が完成しそうだったので、そう時間はかからない。
術式完成まであと2分のところで、突然像が、光出して神力が吸収される妨害がおこる。
「しゅんちゃん、本格的にまずいかも。あの像が妨害してきた。僕から離れないで」
「了解です。何があっても大将だけは守り抜きます!」
僕は、像に神力の制御を取られまいと、必死に神力の制御を維持しながら、術式を完成させていった。
僕と象の攻防が数分続くと、更に像が黒く輝きだして、島全体の地面から見たことも無い不思議な魔法陣が浮き出てきた。
その瞬間、僕は嵌められたことに気づいてしまった。
「ごめん、しゅんちゃん。これ誰かに嵌められたみたい」
「謝らんといてください、大将。それに、今更ですよ。今まで、何度滅茶苦茶な目にあってきたか。わしは大将に忠誠を誓っとるんです。死ぬその瞬間までわしはあなたのお傍におります」
「ありがとう。でも、急にクサイこと言うの恥ずかしくない?」
「ちょっと大将。こんな時にも、からかうんですかい?」
「アハハハハ。いいじゃん。こんな時だからだよ。それにもしかしたらもう詰みかも知んないわけだし。僕とあろう者が対応策が全く出てこない。完敗だね。とりあえず残った神力で、僕としゅんちゃんに結界張っとくね」
その間にも、どんどん輝きは増していき、遂には地面からも黒い輝きが出だした。
「あぁーあ、これ終わったわ。来る前に楓に一言言って来たら良かった」
「ちょっと、大将。諦めるんですか?それに、大将がいなくなったら、あの嬢ちゃん何しでかすか分かりませんよ」
「だって、しゅんちゃんも薄々感じてるでしょ。これ多分、僕たちとは違う世界の神さんの仕業だよ」
一日で島を作り、そこに神力が溢れ出る女神像を置いて、僕たちをおびき寄せ、見たことも無い魔法陣で島全体を覆い隠す。
こんなことを僕たち神の化身に気付かれずにできるのはこの世界に知られていない、異界の神しかありえない。
「まぁ、うすうすは感じてますけど…」
「でしょ。僕たちがいくら頑張っても神さん相手だとなかなか厳しいよ。てことで、手、繋いどこ。離れ離れにならんように」
「まぁ、いいですけど。これワシ達死ぬとか、そういう魔法陣じゃないんですか?」
「それはないよ。さすがの異界の神さんも、違う世界の罪なき者を殺すことは出来ない。神様法的なのに引っ掛かるからね。それに、浮き出てる魔法陣の中に、空間呪術系の魔法陣模様が入ってるのはわかったから。多分どこかに転移ってところじゃないかな?」
そう言うと、しゅんちゃんは、びっくりしたように見てきた。
「流石というかなんというか。今の状況でよう分かりましたね。やっぱり大将に着いてきて良かったです!!」
「何言ってんだよ。今からがもっと大変だぞ。どんな所に転移させられるか分かったもんじゃない。覚悟はできてる?」
「それはもちろん。大将に、忠誠を誓ったあの日。あの時より、わしの命は大将の物。覚悟などとうの昔にできております」
「ヒュー、流石しゅんちゃん。ありがとう。じゃあ、また」
僕としゅんちゃんは、手を繋ぎながら静かに目を閉じた。
それから数秒後、島は黒い輝きと白い輝きがマーブルのように全体を覆い、突如として島ごと消えた。
まるで何事もなかったかのように、そこには何も無く、ただただ静かな波があるだけだった。
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