表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/24

当然の顛末

「何の騒ぎだ?」

国王陛下がやってきた。

背が高く、白髪の混じった髪はしっかり整えられていて、立派な口髭をたくわえている。

頭を高く上げ、毛皮のマントの裾を翻して歩く様は威厳に満ちあふれていて、見る者を圧倒する。

武力、教養、人望、全てを兼ね備えた国王陛下のお出ましとあってか、周囲の人々はサッとその場から離れて、国王陛下に道を譲った。


どうしてこの立派な国王陛下からあの王子様が生まれたのか。

本当にあの国王陛下の子か。

社交界ではそんな醜聞が飛び交っているのに、王子様は一向に意に介していない。


──本当に、どうしようもない王子様ね


マルグリットは王子様を軽蔑の眼差しで見つめた。

「聞いてください父上!他でもないあなたが決めたこの婚約者マルグリット・エレオスは、ここにいる男爵令嬢ジュリエット・ヴァノロス嬢に、数々の嫌がらせを行ったのです!!」

国王陛下が出てくるなり、王子様は訴えた。

「ヴァノロス男爵令嬢、エレオス嬢から受けた嫌がらせというのは、どのような?」

「たとえば…」

王子様が割って入って、口を開く。

「エクソリア!私は今、ヴァノロス男爵令嬢に問いかけている」

国王陛下が王子様をたしなめた。


──この王子様ったら、会話すらまともにできないのかしら?


「……ううっ、えっ…ええッ、こないだなんか…階段から突き落とされましたあ。わたし…酷いケガをしてしまって……ほんとうに怖かったんですう……」

ジュリエット嬢はまた、わざとらしい泣き真似を始めた。

それでバカな王子様は騙せても、聡明な国王陛下は騙されるわけがないのに。

「いつの話だ?」

「ううッ…1ヶ月前のことですう」

「1ヶ月前というと、はて?その頃は確か、マルグリット嬢は「挨拶周り」に出向いていたはずだが…」

「挨拶周り?」

王子様は鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をした。


──この王子様、本当に何も知らないのね…


未来の王妃となる令嬢は、結婚する1年前くらいから、国中の王侯貴族に挨拶をして周るしきたりがあるのだ。

その際には、国王陛下が選んだ監視官もついて来る。

どこの貴族に、どう挨拶したかを報告させるためだ。

建国以来、このしきたりは守られ続けてきた。

王族なら知っていて当たり前なのに、遊んでばかりの王子様は知らなかったらしい。


「挨拶周りをするには、各地を移動する必要がある。貴女に嫌がらせする暇はなかったはずだ。そんな大それたことをすれば、監視官から報告がなされるはずだが……」

「しかし父上っ!嫌がらせは他にもあったんだ!あの女が犯人に決まってる!あの女は、未来の王妃には相応しくない!」

王子様は引き下がらない。

意地でもマルグリットを悪者にしたいようだ。

「その嫌がらせの証拠はどこにある?まさかとは思うが、その男爵令嬢の証言のみとは言うまいな?」

「それの何がいけないんだ!俺はジュリエットを信じている!!」

王子様の悪あがきは止まらない。

王子様は真剣そのものだが、マルグリットは笑い出してしまいそうになるのを、必死で堪えていた。


本人が言うように、この婚約は他でもない国王陛下が決めたもの。

それを左右し、破棄できるほどのものなど、王子様の主張にも、ヴァノロス男爵令嬢の思惑にも、マルグリットの無実にもありはしない。

それを決めるのは王子様ではなく、王なのだ。



「論外だな」

国王陛下がハアと大きなため息を吐いた。

「父上、どういうことです?」

父王の思わぬ反応に、王子様はあからさまに戸惑ってみせた。

「ヴァノロス男爵だが、横領に密輸入、文書偽造などの容疑で、すでに取り押さえられていることを、お前は知っていたか?反論なら受け付ける。まあ、人的ならびに物的証拠はもう十分に備えているがな」

「え、そんな…嘘でしょう……⁈」

ジュリエット嬢が驚いた顔をした。

「え……ジュリエット?」

それ以上に驚いた顔をしたのは、王子様の方だった。

「ちがうのエクソリア様!わたしっ、本当にマルグリット様にいじめられて……!」

ジュリエット嬢はあわてて取り繕ったが、もう手遅れだ。

これではもう、実家の悪事を自ら暴露したようなものなのだから。

「ジュリエット嬢、お前がヴァノロス男爵の手先だということも、とっくに調べがついているぞ。あの男爵の放蕩三昧が原因で、お前の家は財政難ということもな。おそらく、王族たる我々と関わりを持って、また贅沢三昧をしようという魂胆だったのだろう?」

国王陛下がジュリエット嬢を睨んだ。

あの猛禽類のような瞳に睨まれては、生半可な出まかせなど通用しないことぐらい、嫌でも思い知らされる。

「ち…ちが……」

案の定、ジュリエット嬢は何か言おうとするが、何ひとつ言葉が出てこない様子だった。


「第一王子エクソリア、ジュリエット・ヴァノロス男爵令嬢。お前たちの処分に関しては、追って伝える。近衛兵たちよ、この2人をこの場所から退去させろ!!」

国王陛下の命令に従って、あっという間に近衛兵たちがドカドカと押し寄せてきた。

近衛兵たちはジュリエット嬢と王子様の腕を引っつかみ、パーティー会場から引きずり出そうとした。

「違う、違うわ!!わたしは悪くないわ!!……いやああああ、やめて!ちょっと、離して!離してよおお!!」

屈強な近衛兵3人がかりで掴まれては、か弱い乙女はひとたまりもない。

あっという間に外に出されてしまった。

「おい、何をするんだ!やめろ!無礼者どもめ!!俺は、未来の国王陛下だぞ!!」

王子様は「未来の国王陛下」という立場はもう過去のものということすらわからないらしい。

往生際悪く、最後の最後まで悪あがきし続けていた。


国王陛下の少し後ろで、王妃様が顔を両手で覆って嘆いているのが見えた。

王妃様曰く、あの王子様は小さい頃は体が弱く、それが不憫でつい甘やかしてしまったのだという。


未来の王妃としての最初の挨拶周りは、王妃様のもとへ向かう。

その際に王妃様は、マルグリットに向かって後悔の念を述べていた。

同時に王妃様は、こんな不甲斐ない息子だが、いつかは更生してくれるはず、真人間になってくれるはず、と今日まで希望を捨てずに生きてきたらしい。

その期待までも、あの王子様はキレイに裏切ったのだ。

何たる親不孝者か。




──それにしてもあの子、なかなかの役者ねえ


近衛兵に引っ張られて追い出されていく最中、ジュリエット嬢がこちらに意味ありげに目配せしてきたのを、マルグリットは見逃さなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ