神さまのさがしもの
ボクはみんなが言うところの神さま。
ボクたちはね、人のねがいでうまれるんだよ。
でも、いまはすごく小さい。
しんちょうは人間の小指よりも小さい。
こんなに小さいのは、生まれたばっかりで、みんなのねがいをかなえないと大きくなれないんだ。
だからね、これからうーんとがんばって、たくさんのねがいごとをかなえて、大きくなるのがボクのゆめなんだ。
ボクが生まれるようねがったのは、ほら、そこの女の子。
毎年、サンタに会いたいとクリスマスツリーに星を乗っけてくれる。
おかげでボクのランタンには、ピカピカの星あかりがたくさんある。
冬の星空よりも負けないくらいピカピカだ!
そろそろあの子のねがいもかなえてあげられそうなくらいにたまったから、あの子のサンタをさがしに行こう!
あの子がさがしてるサンタは赤いふくをきたサンタクロースじゃない。
スーツすがたのちょっと変わったサンタなんだ。
変わってるからすぐ見つかるよね。
ボクはランタンを持ってたびに出た。
* * *
ボクはサンタの国についた。
この国はいつも冬で雪がつもっていて、サンタとトナカイしか住んでない。
赤や青、緑に黄色、色々な色のふくをきたサンタが住んでるんだ。
そしてみんなでプレゼントのじゅんびをしている。
ゲームにおかし、おもちゃにようふくに……そして本!
あの子もサンタって言ってたから、きっとこの国の人だよね。
あの子は『赤いふくをきてないサンタ』って言っていたから、あの青いふくのサンタにきいてみよう。
『ねぇ、きみはスーツをきたサンタを知らないかい?』
青いふくをきたサンタはぶんぶんと首をよこにふった。
『そんな人は知らないねぇ。スーツをきてたなら、スーツの国で聞いてみたら?』
『そうかもね。じゃあ行ってみるよ』
ボクはスーツの国に来た。
この国はスーツをきた男の人や女の人が、みんないそぎあしでスマホを持ってせかせかとあっちに行ったり、こっちに行ったりしている。
ボクはめがまわって、ベンチにすわった。
おとなりにはボクと同じように目がまわったのか、ベンチにすわるスーツの男の人がいた。
ちょっとこわそうだけど、ゆうきを出してこの人に聞いてみよう。
『ねぇ、スーツをきたサンタを知らない? ぬいぐるみをくれた人なんだ』
ボクはいっしょうけんめいはなしたけど、とってもつめたくされた。
『ンな奴、知らねえーよ。ぬいぐるみくれたのなら、ぬいぐるみの国じゃね? さぁ、用がすんだならさっさと行けよ!!』
ボクはじゃまものみたいにおっぱらわれて、スーツの国から、ぬいぐるみの国に向かった。
ここはスーツの国とちがってとても温かいところだ。
道も木も花も雲も太陽もふわふわでやわらかそう。
きっとやさしい国なんだよ。
だってみんなでこわれた道をなおしたり、綿がはみ出た木をぬっていたりするんだもの。
ボクはちょっとだけ安心して、ふわふわうさぎに聞いてみた。
『ねぇ、スーツをきたサンタを知らない? どこを探してもいなくてこまってるんだ』
ふわふわうさぎはうなづきながら、ボクのはなしをきいてくれた。
『どこにもいないのは、こまったねぇ。そうだ、黄泉の国は行ったかい? ざんねんだけど、もう死んでしまったかのかもしれないよ」
死んでいる?
ボクはぶんぶんと頭を横にふった。
そんなことはない、きっとどこかにあの子のサンタはいるはずだよ。
でも……。
ボクはとぼとぼと黄泉の国に行った。
ここは人間の世界とかわらない。
こわいひと、やさしいひと、おこりっぽいひと、しんせつなひと、いじわるなひと……。
たくさんのひとがいる国。
もし、死んでいたらどうしよう。
どきどきしながら、ぼくは強そうな黒いスーツをきた、もんばんの男に聞いてみた。
『あの……スーツをきたサンタ、ここにいますか?』
どうか、いませんように。
ボクはめをぎゅっとつぶって、こたえをまった。
『きみはあの人の知り合いかい? ちょうどよかった。どこでまいごになってるのやら、こまるんだよねぇ……』
もんばんの男の人はうでを組んで、はぁとため息をついた。
ボクはサンタがいなくてちょっとホッとしたけど、この人もこまってるみたいだ。
『どこかでみつけたら、ここへつれてきてくれよ。きっとそいつもまいごになってこまってるだろうからな!』
強そうなもんばんは、にかっとわらった。
ああでも、どこにもいないなんて、あの子はとてもがっかりするよね。
ボクはとぼとぼとあの子の元に向かった。
あの子はおとうさんとニコニコ楽しそうにおしゃべりしていた。
黄泉の国ではひとり迷子がいる。
まさかね。
思いたってランタンをおとうさんに近づけてみた。
みるみるうちにすがたがとけて、あの子のサンタに変わった。
スーツすがたのサンタがニコニコ笑ってあの子の話を聞いていた。
ボクはびっくりして、サンタにきいた。
『どうしてこんなところにいたの? ボク、すごく探したんだよ』
スーツすがたのサンタもぼくをみて、びっくりしていた。
『ご、ごめんなさい……。本当は黄泉の国に行かなくちゃないのに、ないてるあの子をどうしてもほうっておけなかったんです。ぼくはこれから黄泉の国に行かなくちゃいけないのですか?』
さっきまで笑ってたスーツすがたのサンタはしゅんとして、とても悲しそうな顔をしていた。
『黄泉の国でもきみがこないって、こまっていたからね。連れて行かなくちゃならないけど……』
しおれたお花みたいなげんきのないサンタのすがたに、ボクもちょっとかわいそうになった。
『そうだ! ちょっとそこにいて』
ボクはランタンから星明りをひとつとりだして、男の頭にのっけた。
星あかりは男をつつみこむと、ぽんともうひとりの男をつくりだした。
おでこには星の形のあざがある。
『ボクがきみのかわりにこの子を黄泉の国に連れていくよ。そのかわりにボクと2つやくそくして。もう自分から死んだりして、あの子を悲しませないってこと、次に死んだらまっすぐ黄泉の国へ行って、この子を迎えにくるって』
『ぼくはこれからもあの子のそばにいてもいいんですか?』
サンタはぽかんとして、そういった。
『だってそうしないとまたあの子が悲しむよ。あの子が悲しめばボクが消えちゃうもの』
サンタは側にいたいし、ボクも生まれたばかりで消えたくない。
そう、これは“とりひき”というやつだ。
ボクってあたまいいでしょ!!
『ええ……ええ! ぜったいにやくそくします。ぼくはあの子を二度と悲しませたりしません!』
サンタはとてもうれしそうに、ぼくにやくそくしてくれた。
『じゃあ、そろそろ戻ろ……』
『うわぁ!! ぼくが……ぼくが消えてる!!』
サンタの体はすこしとうめいになって、むこうがわがみえている。
なぜかはすぐわかった。
あの子は事故にあって、びょういんにいたからだ。
たくさんのくだにつながれて、ぴくりともしない。
あの子のおとうさんはそばで手をにぎってわんわんないていた。
おとうさんが泣くたび、サンタがとうめいに近づいた。
でも、どうしてあの子はめをさまさないんだろう。
ボクはランタンをみた。
ランタンの星あかりがだんだんよわくなっている。
『たいへんだ、あの子の心がここにいないよ!!』
だからランタンもよわくなっているんだ。
『ど、どこに行ったんですか? 早くむかえにいってあげないと……』
ボクはあの子の願いで生まれたから、あの子がどこにいるかわかった。
『あの子、境目の国に行ったみたい。ボク、むかえに行ってくる。 サンタさんは戻ってて!!』
ボクはいそいで境目の国に行った。
あそこはとってもあぶない国なんだ。
なにもかもがあって、本当はなんにもない。
はやくきづかないと、さいごはまっくらやみに心を食べられちゃう。
とてもおそろしい国なんだ。
どこ?
どこ?
あの子はどこ?
ボクはランタンをかざして、ぐるぐるとあたりをみまわした。
いた!!
あの子は小さなころにもどって、とても楽しそうにサンタやふわふわうさぎといっしょにあそんでいる。
『ああ、みつかってよかった。むかえにきたよ。さぁ、かえろう! おとうさんもサンタもまってるよ』
『かえる? どうして?? ここはおとうさんもサンタもいるんだよ。ほら!!』
あの子はふしぎそうなかおをしてから、ポンとおとをたてて、ふたりをつくりだした。
ボクはくびをよこにふった。
『ここはね、きみのみたいものをみせてくれる、とってもいいところで、とってもよくないところなんだ』
ボクはランタンをふたりにかざすと、ふたりはどろどろにとけて、まっくらやみにめだまがふたつのかいぶつにすがたをかえた。
ついであの子も、もとのすがたにもどった。
『きゃーっ! なによこれ、キモーーーーーい!!』
あの子のはなしかたも、もとにもどった。
ボクはいつもどおりのあの子にちょっとあんしんした。
『それに、はやく帰らないと君のサンタはほんとうにきえてしまうよ。だからはやくかえろう』
『……サンタ? あえるの?』
ボクがサンタといったら、あの子はすこしだけ目のいろをかえた。
『きみのサンタに会わせてあげる。まいとし、星をくれたお礼にね」
でも、ほんとうにいそがないとサンタがきえちゃう。
ボクはちょっとだけズルをして、ランタンの力でサンタのもとにいそいでもどった。
* * *
ボクはあの子をつれてサンタのもとにもどって、約束どおりあの子をサンタに会わせてあげた。
あの子のサンタはちのつながった、ほんとうのお父さん。
いろいろあって、お父さんは死んでしまってちのつながりはとぎれてしまったけど、今のおとうさんとあの子、こころだけは本当のおやこなんだ。
でも、あの子のおとうさんはまだないていた。
サンタはもうすけすけで、うっすら目とくちびると歯しかみえない。
『ごめんね。あんまりはなすじかんがないみたいだ。すがたはかわっても、これからずーーっといっしょにいるからゆるして。だいすきだよ、星李花』
それだけ言うと、サンタはまたおとうさんのもとにもどった。
『いやだよ、きえないで。ひとりはいやだよ! お父さん!』
こんどはあの子がなきだした。
ないて、ないて、からだじゅうのすいぶんぜんぶをなみだにかえるみたいにないた。
『まだきえてないから、だいじょうぶ。きみもいそいでむこうにもどってめをあけないと、おとうさんがずっとないてサンタがほんとうにきえちゃうよ』
きみがなけば、ボクもかなしい。
そんなになかないでよ。
『だから早くもどりなよ、しばらくはいたいかもしれないけど』
ボクはあの子、せりかの背中を押した。
* * *
あれからずいぶんたって、せりかはすっかりげんきになった。
せりかがげんきにわらうたび、ボクもぐんぐんせいちょうした。
いまはせりかとおなじくらいのしんちょうだ。
まいとし、ちゃあんと星もくれる。
―――おとうさんにあわせてくれてありがとう。
ボクはランタンをおとうさんに近づけた。
せりかのほんとうのおとうさんがボクにきづいてわらった。
―――いま、ぼくはとってもしあわせです。ありがとう。
そりゃあそうだよね。
だってきょうはせりかのけっこんしきだもの。
『よいしょっと! せりかってばこんなたかいところに星をのっけなくてもいいのに』
ぼくはうーーんとせのびして、ウエディングケーキの星をとって、ランタンにいれた。
ボクのランタンは冬のよぞらにもまけないくらいピカピカだ!
さあ、今日はだれのねがいをかなえようか。
いつかきみのところにいくかもしれないよ!!