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14.消えた二人


 深夜、俺はこっそりと荷物を纏めてある場所に向かおうとしていた。

 今日の夕方、奴と出会ったあの場所だ。


 奴が逃げる為に入り口を壊して行ったが、恐らくあの先は奴の新しい本拠地に繋がっているのだろう。

 俺の中に残っている生命の母神(マテァ)の力を使えば、その場所を特定出来るはずだ。


「リノ、起きて……って起きてる?」


 窓から出て行こうと開けると、突然ナディアがやって来た。


「どうした、何があった?」

「レーヴェとイデアが居なくなった」


 二人が居なくなった? まさかフサッグの奴が何かして来たのか?


「イデアが夜中に私たちの部屋に来て、レーヴェに用があるって連れて行ってから帰ってこない」

「何か様子は変じゃ無かったか?」


 俺がそう尋ねると、ナディアは少し考え込んだ。


「そう言えば、治ってたはずの火傷の跡が濃くなってた気がする」


 とすると、イデアが奴に掴まれた時に何か仕込まれてた可能性が高い。

 よりによって先手を打たれたか。


「わかった、急ごう」

「うん」


 俺はそのまま、ナディアとともに二人の救出へと向かった。


 夕方に奴と出くわした場所に辿り着くと、俺は地面に手を当てて集中する。

 入口自体は壊されて塞がってしまっているが、【世界の眼】とマテァの力の残滓があるお陰で、この抜け道がどこに続いているのかは大体知る事が出来る。


 地面から伝わる魔力の痕跡を辿って行くと、奴が居ると思われる場所、そしてその少し奥の王都からはみ出た林の中にそこへと延びる穴が見えた。

 二人が居るかまでは見きれなかったが、入り口と目的地の場所はわかった。


「本当は一人で解決しておきたかったんだけど……」

「また一人でやろうとしてたの?」

「まぁ……。でもナディアが居てくれるのは頼もしいよ」


 奴の事は出来れば俺だけで対処しようと思って準備していたのだが、夕方の事もあったし、ナディアが共に来てくれるのは心強い。

 二人の無事を祈りつつ、俺達は目的地へと急いだ。




 ◇ ◇ ◇




 ぼんやりとした視界が徐々に鮮明になって行く。

 横たわった肌に触れるのは固く冷たい岩肌。

 その感触に気付いた私は、意識を無理矢理覚醒させて周囲を見渡す。


「ここは、一体?」


 確か寮に帰って、夜寝ようとしたら腕の火傷が痛み始めて、それから……。それからの記憶が思い出せない。


「とにかく、ここに居るのはマズいわね」


 周囲は暗く、殆どなにも見えない。

 私は手に炎を灯して辺りを確認する。すると、自分は牢の様な物に入れられているのと、向かいにもう一つ似たような牢があり、誰かが横たわっているのが見える。あれは―――


「レーヴェさん? レーヴェさん!! 大丈夫ですか!?」

「う……イデアちゃん? ここは……?」


 どうやら意識を取り戻したようだ。

 彼女はゆっくりと起き上がると、周囲を見渡す。


「確か、夜中にイデアちゃんに話があるって連れて行かれて……そのあと……どうしたっけ?」


 どうやら、私が彼女を巻き込んでしまったらしい。

 彼女に治して貰ったと思っていた火傷は、未だに私の腕に残っていた。

 それどころか、より濃くなって現れている様な気がする。


「この牢、何とか破れないかしら……」


 私は、牢に向かって炎の弾を撃ちだす。

 しかし弾は鉄格子に当たった瞬間、魔力が霧散されたのか形を保てずに崩壊した。


「まさか、魔力による攻撃を受け付けない……?」

「わ、わたしもやってみます、えい!」


 レーヴェも魔力撃(バレット)を使って牢を破壊しようと試みるが、先程の魔法と同じように霧散してしまう。

 魔法の無効化ではなく、魔力による攻撃の無効化であるため、彼女の攻撃まで防がれてしまうようだ。


「どうしよう……」

「困りましたね……これでは打つ手がありません」


 恐らく今日の夕方、王都の裏路地で出会ったあの人物が関係しているのだろう。

 リノの話からして異神復活に利用された、と言う感じか。

 火傷の跡が濃くなっているのも、人を操る何かしらの呪いや呪術の類なのだろう。


「ごめんなさい、私が不覚を取られたばかりにこんな事になってしまって……」

「イデアちゃんは悪くないですよ。それに、きっとリノ君達が助けに来てくれると思います」


 彼女はこの状況に臆するでもなく、彼らが助けに来てくれる事を信じて疑わない様子だった。


「……仲が良いんですね」


 思わず口から言葉が漏れた。

 騎士の家系に生まれ、ずっと訓練を受けて育って来た。

 そのせいか、自分だけでなく他人にも厳しくなるようになっていき、友人と言える様な関係は作れなかった。


 今日彼女の誘いを断らなかったのも、私を避けずに誘ってくれるような彼女なら。もしかしたら私の友人になってくれるかも知れないと言う思いがあったからだ。

 だが、そんな彼女をこんな目に巻き込んでしまった。

 

「私は、貴方の友人になる資格なんてありませんね」


 自虐の言葉が口を出る。


「私とイデアちゃんはもうお友達ですよ?」

「え?」


 彼女が放った言葉は、私の思っていた事とは真逆の言葉だった。


「でも、私は無愛想で、貴方をこんな事にも巻き込んでしまったし……」

「イデアちゃんは確かにムスッとしてて他人に厳しくしてますけど、それと同じくらい他人に優しいと思いますよ。今日だって、リノ君を追いかけたのは彼が私たちの事を避けてるか確認するためだったでしょう?」

「うっ」


 まさかバレていたとは……。


「その……良いの? 私が、貴方の友人であっても?」

「はい! 私はイデアちゃんがお友達ならとっても嬉しいです」


 彼女は満面の笑みでそう言ってのける。


「ありがとう……レーヴェさん」

「レーヴェ、で良いですよ」


 私は初めての友人が出来た事に泣きそうになる。しかし


「おやおや、仲がよろしいようで何よりです」


 そこに冷えた声音が響き渡る。

 暗がりから現れたのは、あの裏路地で見かけた長身の男。


「やっぱり貴方だったのね」

「ええ。その腕の呪印、お気に召しましたか?」

「最っ高に腹立たしいわ。今すぐ解いて欲しいくらいにね」

「ええ、いいでしょう。解きますとも」


 相手は随分と余裕なのか、私の腕の呪印を解く。

 ヒリつくような焼ける痛みは、次第に退いて行った。


「さて、貴方たちを今から生贄に捧げようと思う訳ですが……ん?」


 男の言葉の途中で、男が出てきた方とは反対の暗がりから、凄い音が響いてくる。

 それは次第に近くなって行き、そして


「百合の間に挟まる男は殺されるって知らねぇのかクソ司教!!」

「リノ、意味がわからない」


 隆起した洞窟の大地が、凄い勢いで目の前の男を跳ね飛ばした。


「レーヴェ、イデア!! 無事か!? さっさとあいつを片付けて帰るぞ!!」

「はい!」「ええ!」


 男を吹き飛ばして私たちの前に現れたのは、私達を助けに来たリノとナディアだった。


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