XCⅥ 星々の大三角と大十字編 後編(4)
第1章。ひとつの終息(1)
第2章。ひとつの終息(2)
第1章。ひとつの終息(1)
「ラファイア今頃来て、あんた何してたのよ!」
夕方、ようやく現れたアマトとラファイアに、暗黒の妖精はくってかかる。
・・・・・・・・
≪いえね、鉄馬車の車軸が歪んでいたんですよ。
だから、アマトさんが修理を終えるのを待って、
またおかしくなったらいけませんから、
ゆっくり来ました。≫
≪あのね~。あんたみたいな、ガラクタの妖精でも、きのうの夜現れたたのが、
風の妖精のリスタルか、水の妖精エメラルアか、土の妖精・・は・・、
ありえないか、・・・と、もろその契約者と分かっていたんじゃない!?≫
≪だから、今まで精神波さえとばさなかったですし、アマトさんを護って、
一緒にいたんじゃないですか。≫
≪それに、ラティスさんだったら、リスタルさんでも、エメラルアさんでも、
指先一本で、余裕で相手ができたり、するんじゃないですか。≫
≪ほ~、そのへんは、わかっているのね。≫
≪いやだな~。単なる社交辞令じゃないですか。
本気にしないで下さい。≫
≪おまえな~!≫
≪それで、エリースさんとリーエさんは?まさか、どちらかの極上級妖精と!?≫
≪いや、ふたりが相手にしたのは、水の超上級妖精と契約者だったわ。≫
≪水の超上級妖精ですか。なるほど、この惨状は、エメラルアさんが
魔力を使用したにしては、おとなしめですしね。≫
≪エメラルアは、わたしが相手をした。
ただのお見合いに終わった けどね・・・。≫
≪近々、また来るとか言っていたわ。≫
≪は~あ~、ラティスさん、ところ構わず、相手構わず、ケンカを売るのは、
やめてもらえませんか。≫
≪一緒にいるわたしまで、好戦的で脳筋な妖精とみられるんじゃないですか~。≫
≪わたしは、妖精界一の理性派のはずですが、ラティスさんと一緒にいることで、
武闘派ならまだしも、無頼派の看板を押し付けられてるみたいで、
はなはだ迷惑ですよ。≫
≪なんでわたしが、エメラルアにケンカを売った話になるのよ。
それに、理性派!? このまえ、わたしとアピスに同時にぶちかましたのは、
どこの妖精さんでしたかね。≫
≪あれは、わたしなりのおふたりへの愛情表現ですよ。≫
≪・・・・・・・・。≫
≪は~あ~、もういいわ。
ただ、地面に転がっているこいつらに、回復魔力をお願い。≫
≪それは、アマトさんのためにもなりますから、全力で行いましょう。≫
≪あとエリースは、キョウショウたち一行の元に、翔んでいったわ。≫
≪それにラファイア。超上級妖精同士の対決のあと、
リーエがエリースの呼びかけに、応じないらしいの。≫
≪それは心配ですね。ヒールが終わったら、ふたりでリーエさんに、
呼びかけてみましょうか。≫
・・・・・・・・
ふたりの妖精は、以上の精神波での会話を、アマトがまばたきしている間に、
終わらせている。
「ごめん、ラティスさん。エリースは?」
そうとも知らずアマトは、エリースの所在をラティスに尋ねている。
「こいつら一行の大半を葬り去った、水の超上級妖精とその契約者を退けたあと、
キョウショウとフレイアのところへ、飛翔していったわ。
もうずぐ、帰ってくるんじゃない。」
「え、ラティスさん。まさか、エリースに怪我とかは?」
超上級妖精とその契約者同士の戦い! 義兄として、義妹を心配するアマト。
「しもやけのひとつぐらいは、あるかもね。」
アマトとラティスが、深刻なやり取りをしている横を、
妖精の姿に戻ったラファイアが、鼻歌を歌うような、軽い足取りで、
複数人同時回復魔力をしようと、通り抜けていこうとする。
「ちょっと待ちなさい、ラファイア!」
「なんですか、ラティスさん。応急処置はしておられるようですが、
急がないと、この人たち、後遺症が残りますよ。」
「アンタまさか、今回はわたしに任せっきりで、受動的探知さえしてなかったと
いうんじゃないよね。」
ラティスは、危険な視線をラファイアに向ける。
「そのとおりですよ。たぶんエメラルアさんだと、思ってはいましたからね。
探知を使ったことで、わたしも参戦する気があると、あのお方が判断すれば、
話がとてつもなく、こんがらがってしまったでしょうし、
ここで転がっている人たちも、1人として生き延びれなかったでしょうね。」
そして、ラファイアはラティスの顔を、しげしげ見詰めて一言贈る。
「それに、これでもわたしは、ラティスさんを信頼してますから。」
第2章。ひとつの終息(2)
リリカは、夢の世界で放心した状態で、漂っていた。
現実の世界では、全身に優しいエーテルの慈雨が降り注いでいるのを、
どこかそれにも気が付いている。
『戻らなくては!』
この思いに、自分の無意識が拒否反応を起こす。
自分の献策の誤りで、この旅団の9割以上のミカルの戦士を亡くしたのだ。
無論、その中には、リリカが私的に知っている者も多い。
『そう、私は裁かれなければならない。』
それが、レリウスのもと、この世界に打って出た、理由の一つであったはず。
帝国は6世の統治下にあって、世襲貴族・大商人・双月教宗教者の、
横暴がまかり通っていた。
彼らの責任をとらない体質は、何十万の人の血を欲した。
残念ながら、ミカル大公国でさえ、この事態を完全に払拭しているとは、
とても言い難い。
リリカは、自分の重いまぶたを、無理やりにあけ開く。
夕闇せまる大地の上、白金の髪に白金色の瞳・大理石色の肌・49色の光の粒子を
降り注がせながら、超絶美貌の妖精が、エリアヒールを行っている姿が、
リリカの視界に写る。
「・・聖・・ラ・ファイス・・さま・・。」
リリカの嫌いな教会の中に描かれている、聖絵画と同じ光景が顕現している。
「ゆめ・・・?」
「夢じゃないわよ。」
突然声が響く。リリカは一瞬にして、目の端に写る妖精と同じように、
圧倒的な力を有するものが、自分に声をかけてきたことを理解した。
視界を広げる。そこに写ったものは・・・・。
長身・緑黒色の長い髪・雪白の肌・黒の瞳・超絶の美貌・・・
まさか、暗黒の妖精!?
とにかく、自分がこの妖精に対抗して、ほんの少しでも敵意を示せば、
瞬きもしない間に、この世界から消し去られるであろうことも、
十分に感じさせられていた。
「・・お名前を・・お伺いしたい。暗黒の妖精・・ラティス殿か・・・?」
暗黒の妖精は、その問いに答えず、自分の契約者に声をかける。
「アマト。ひとり目を覚ましたわよ。対応をお願い。」
絶対的強者である妖精のその態度に、リリカはなぜか、納得感と爽快感を覚える。
そして、自分の目の前に、情けない容貌の若者が、駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?わたしたちは、新帝国の者。セプティ陛下に命じられて、
警護にまかり越しました。」
リリカは、上半身をやっと起こしながら、最も知りたい事を、アマトに尋ねる。
「アマト殿、レリウス陛下は?」
「無事です。ヒールを行っている、ラファイアさんによれば、
ほかに生き残っていた方たちも、すべて、もうすぐ目を覚まされるようです。」
リリカは安堵のため息をつき、アマトに弱々しい笑顔を向ける。
「そうですか、本当に助かりました。
私はミカル大公国副宰相のリリカと申します。
ところで、先ほどの戦士殿は?是非、お礼を申しあげたい。」
「エリースですか?今、本隊の方に、この状況を知らせに行っています。」
リリカ副宰相は、立ち上がろうとするが、よろけて座り込んでしまう。
その目の前に、黒い影が立ち塞がる。
「悪いけど、今、ラファイアの存在を公にはできないみたいでね。
少し記憶を消えさせてもらうわ。」
ラティスの右手から白銀の輝きが・・、光がやさしくリリカを包む。
リリカは、また夢の世界へ落されていった。
・・・・・・・・
リリカは、夢の世界に、漂っていた。そこから、苦しみに満ち溢れた世界に
急激に引き戻される。息苦しさが、荒い呼吸を引き起こす。
「はあ~、はあ~、はあ~、はあ。」
リリカは、飛び起きるように目を覚ます。
「おう、リリカ。目をさましたか!」
リリカの両目に、はにかんだように、微笑むレリウスの顔が飛び込んでいる。
リリカのまわりで、「お~。」「よかった。」など暖かい言葉が飛び交う。
「暗黒の妖精のラティスさんのヒールで、目を回してた奴らは、
オレを含めて復活したんだが、おまえが、なかなか起きてこないもんで、
心配したぞ。」
「ま、最後の最後まで、障壁をはり続けていたんだってな。
あれがなかったら、間に合わなかったと、エリースという嬢ちゃん、
いや戦士も、言ってたらしいしな。」
「ほんと、ありがとうよ。」
リリカは、言わなければならない、言葉を思い出す。
「陛下、わたしは、とんでもない愚策を具申してしまいました。」
言葉と同時に、腰の細剣を、両手で鞘ごとレリウスに渡そうとする。
「やめな、リリカ。決断したのはオレだ。」
「ですが・・・。」
「今ここに生き残っている奴は、みんなお前が目を覚まさないことを
心配していたんだぜ。」
「じゃ、先に逝った奴のためか、誰もそれは望まんよ。」
「戦士にとって、宮殿の寝床の上で寿命を迎えるなんて、苦行でしかないさ。
生き残った奴は、敵・味方の先に逝った奴の想いを、
両肩に背負わなければならねぇ。
それは、増える事はあっても、減る事はねぇからな。」
「だがおれは、ミカルの大公として、おまえにイヤなことを
言わなきゃならねぇ。」
「・・リリカ・・。・・生きろ・・!」
ミカルの副宰相は、レリウスから目を逸らし、顔を俯かせ、
口を真一文字に閉じ、肩を震わせる。
それでも漏れてくる、嗚咽が、ミカルの戦士達の耳に届いていた。
第96部分をお読みいただき、ありがとうございます。
この物語にでてくる、妖精の名は、宝石の名前を崩して使っています。
ラティス≒ラピスラズリ≒アピスなど。
じゃ、リーエは?ラファイアは?と言われると、
すいません、その基本から大きく外れています。
ちなみに、ラファイアは、ラ+ファイアで、
見込みでは、火のエレメントの妖精の名前でした。
ではリーエは、⇒思いつきです・・・・。