ⅬⅩⅩⅡ 星々の合と衝編 前編(3)
第1章。超上級妖精の契約者と暗黒の妖精
第2章。神々の駒たちの談笑
第1章。超上級妖精の契約者と暗黒の妖精
その日、クールスの廃城の休息の間にいた、テムス大公国の警備の騎士たちは、
自由に呼吸のひと息も出来ない状態に、追い込まれていた。
部屋の片隅に、美少女がなかば放心状態で座っている。
新帝国からの客人なので、それはそれでかまわないのだが、
その少女の周りを、右から、左から、正面から、空中に浮いて上からも
慰めるように揺蕩っている、緑の光を放ち、長身・緑色の髪・青色の瞳・白い肌・
超絶の美貌の蜃気楼体。
それは今や伝説と化している、超上級妖精。
戦時であれば、その姿を確認しただけで
無条件で逃げよと言われる存在。
そして、その超上級妖精だけではない。
凄まじい圧とともに、長身・緑黒色の長い髪・雪白の肌・黒の瞳・
超絶の美貌の妖精が顕現し、少女の前の椅子に、長い脚を組んで座った。
千年の間、双月教から、世界の禁忌と言われた暗黒の妖精。
だが、この人外は、双月教の教皇猊下と同じ鉄馬車に搭乗して、
この地にやってきたのだ。
自分らを歯牙にもかけない、二つの存在。
だが、聞かされずに、理解させられている事もある。
もし、少しでも少女に敵意を示したら、
この廃城ごと、何のためらいもなく、消滅させられるであろうことも。
☆☆☆☆
リーエは、自然な様子で、遮音の障壁を、3人の周りに構築する。
そのリーエは、『ラティスさんお願い』とばかりに、潤んだ目でラティスを
見つめている。
「あんた、よくあのルービスの頬をはったわね。」
ラティスは、心をどこかに飛ばしている、エリースに話しかける。
しばらくの沈黙が去ったあと、
「わかっていた。ツーリアがルービスを恨んでいないのは、わかっていた。」
「けど、教都からの帰り路、皇都に入る寸前、苦しみだしたツーリアを見たら、
夕陽が差し込む部屋で、すべての運命を受け入れて、透明な笑いを浮かべていた
ツーリアの姿を見たら・・・・・。」
「どこかに怒りをぶつけなければ、やり切れなかった。」
「らしくないわね。」
その口調とは違い、暗黒の妖精の少女への眼差しは優しい。
「ラティス。 フッ 笑っていいよ。」
「笑えないわ。人間と契約した妖精の多くが半覚醒状態であるのは、
私のような異能の妖精には、いつもうらやましく思うわ。
なぜだか、わかる?」
エリースは、その美しい顔を、軽く左右にふる。
「人間の寿命は短すぎるわ、・・別れのその日・・、私たちのような、
覚醒している妖精は、この世界の神々を忌み狂うわ。」
「『なぜ、わたしの契約者を天に召した。』とね。」
「その人間に、思い入れがあれば、思い入れがあるほどにね。」
「私もラファイアもその日がきたら、今回は耐えきれるか・・・。」
「そうなんだ・・・。」
やさしい時間が、ゆっくりと流れていく。
「ありがとう、ラティス。なんとか乗り切れると思う。」
「期待している。リーエも心配しているからね。」
「だけど今のことは、ラファイアとアマトには・・・内緒で頼むわ・・・。」
第2章。神々の駒たちの談笑
控えの間にも、絵画とか彫刻物とはなかったけれども、今の時期旬の花々が、
さりげなく部屋を彩っている。そして、部屋の隅々まで、掃除が行き届いている。
私も、帝宮の掃除人をしてたからわかるけど、これは、やっつけ仕事ではない。
ここで歓待をおこなう主人が、来客の前で恥をかかないように。
その主人が、いかに掃除をした人々に敬意を持たれているのかがわかる。
そして、その人物が私の目の前にいる。アウレス4世大公とファウス妃。
このテムス大公国の統治者。
円形の机に合わせた、円を三等分した弓型の肌触りの良い長椅子。
机の上には、旬な素材をいかした料理、それに逸品といわれる飲み物が、
これも品よく並べてある。
その左前の席から、ファウス妃が声をかけてきた。
「セプティ陛下のお口には、あまり、あわなかったかしら?」
「いえ、緊張してしまって。」
しまった。私は、愚にもつかない、返答をしてしまう。
「セプティ陛下、気を遣う必要はないぞ。アウレス大公もファウス妃も
それは、望んでおらん。」
モクシ猊下が、こういう場に慣れてない私に気を遣ってくれるのがわかる。
「猊下!」
いつものように、カシノさんが猊下をたしなめる。
「いや、猊下の言われる通りだよ。考えることは、テムスはファウスに、
新帝国はイルム殿に任せて、われらは、ただそれに、
『はいはい。』と答えて壮健であればいい。」
「陛下は考える事を放棄されてるだけです。悪い見本をセプティ陛下に
押し付けてはいけませんよ。ですよね、イルム様。」
「はい、その通りです、ファウス殿下。」
「セプティ陛下には、もっとお勉強をしていただかないと、
思っておりますので。」
先ほどまで、あれほどの緊張したやり取りしていたのに、5人供
全く緊張していない。いつ私もそうなれるのだろうか。
「なんじゃ、なんじゃ、組織の頭で、考えているのは、ワシだけか?」
「猊下は、単にやっかいごとを、増やされているだけです。」
「カシノよ。教都にいるときは、もっと優しい女性だった気がするんじゃが?」
「猊下が、教徒を出られてからが、崩れすぎです。」
いつもの、小芝居につい噴き出してしまう。
「おっ。陛下が笑われた。」
「猊下!」
そのやり取りに、頬を緩ませたアリウス大公が再び、セプティに声をかける。
「セプティ陛下、公式の場では仕方がないが、
このような私的の場では、気楽にな。」
「なにより、新帝国とこのテムスそれに新双月教教会は、
同じ船にのったのだから。」
「あなたは、先ほどから飲み過ぎです。次の分から
果実水にして下さい。」
美しい声が、それ以上の語りを妨げる。
「わかった。わかった。知っているか、イルム殿。テムスの真の統治者は、
このファウス妃なんだぞ。」
イルムさんは、軽く杯をあげた。
あ~あ、イルムさんのようなしゃれた振る舞いが、
いつになったら出来るんだろう。
第72部分をお読みいただき、ありがとうございます。
アクセス解析から、全部分を数日で読まれた方もいらっしゃる様子。
本当にありがとうございます。