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Ⅴ 最凶の聖なる禁呪編

第1章。密議 

第2章。紫吹(しぶき)

第3章。ラファイスの禁呪

第4章。白光の妖精

第1章。密議 



 エリースは、少しうつむいたまま、闘技場で立ち尽くしていた。

体のまわりの緑光は、一段と激しく渦巻(うずま)いている。

誰もエリースの元に近づく事ができない。


「暗黒の妖精とその契約者と、一緒にノープルに来ただ。」


その言葉が、人々の間を、さざ波のように広がっていく。


「エリース!」


アマトは、席を飛び出し、エリースの元に駆けよる。

緑の雷光がアマトを焼く、それに構わず義妹を抱きしめる。


「ハハ、義兄ィ・・・カイム先生の悪口言ってると思ったら、

カーツとなって、意識がとんで・・・。

暴走しないように、・・・抑えは・・・したんだよ・・・。」


「もういい。もういいよ。」


アマトは、ギュッと、震えている少女を抱きしめ続けた。

波が引くように、少女が(まと)っていた緑光が徐々に消えていった。



☆☆☆☆



 大公国では、表向きの政治は春宮で、それ以外の事は秋宮で行われる。


秋宮の一室に軍事担当のウーノ伯爵・内政担当のカキ子爵・

財務担当のレンリ伯爵・情報工作担当のツルキ子爵・

公都治安担当のウェイ子爵が集まっていた。


「今 あの娘の、身柄はどうなっているかね、ウェイ子爵。」


あの時、貴賓(きひん)席にいた将軍 ウーノ伯爵が(たず)ねる。


「泊まっていた宿屋で、軟禁状態にしております。閣下。」


「刑罰の停止など。本当に御老体が言われるがほどのものですか?」


とカキ子爵が疑問を(てい)す。


「間違いなく、上級妖精契約者()()()()、最高レベルの力であった。

最上級妖精契約者をいれて考えても、今の公国軍の中でも3本の指に(はい)ろう。

平時ならともかく、王国連合との(いくさ)を考えれば、

あの魔力(ちから)捨てておくには惜しい。」


「しかし、本当にそれほどのものなのですか?

学院からの本年度の予算の申請書の添付(てんぷ)書には、

そのような特記事項はなかったとの、報告を受けていますが。」


とレンリ伯爵も意見する。


「両爵に申し上げる。」


と、ツルキ子爵が口を(はさ)む。


「部下より、カイムという講師の件で報告がきております。

この娘は、あの講師の教えを受けております。

だとしたら、不思議はないものかと。」


「大公殿下が勅命(ちょくめい)をなされた、あの件か。」


とウーノ伯爵が言う。


「将軍。講師本人は残念ながら行方不明です。街道での事件と合わせて考えれば、

恐らく生きてはいないでしょう。」


 沈黙が支配する、


(いくさ)は、もうはじまっているという事か。」


そうレンリ伯爵が(つぶや)く。


「その娘、相当な美貌(びぼう)だという事です。」


と、ツルキ子爵が付け加える。


「戦には英雄も必要ですな。兵站(へいたん)の確立と戦力の充実のみでは、

戦の継続は難しい。」


と、カキ子爵も持論を展開する。


美貌(びぼう)の話したということは、女優を舞台にあげる方策は、

考えているのだろうな、ツルキ子爵。

ただ、予算の事も考えてくれよ。」


と、レンリ伯爵が、それとなく釘を刺す。


「しかし、その脚本をつくるにも一つ問題があります。暗黒の妖精の存在です。

特に我が大公国国民は、英雄でも暗黒の妖精と関係があるという事は、

許さないでしょう。」


と、ウェイ子爵が疑問を投げる。


では、「私の方で考えました案を。」と、ツルキ子爵が計画を(しる)した紙束(かみたば)を渡す。


「まず。ウェイ子爵の部下の報告によると、あの暗黒の妖精は

娘の兄と妖精契約を結んでいるとのことです。」


「あの娘の兄なら相当な力を持っているのか?」


と、将軍が期待する。


「ガルスにいる者から、なんの能力もないとの報告がきております。」


「兄はくずか・・。」


と、ウーノ伯爵の思いが、思わず口に出る。


「それで、皆様もご存じのように、契約者が死んだ場合、契約してた妖精は、

妖精界へ去ります。」


「そしてこの兄は、ノープル高等学院の補欠試験を受ける予定です。」


「そして()()()()()が起こるわけだな。

ツルキ子爵、予算の事も考えてもらった案だな感謝する。」


計画書を(めく)りながら、レンリ伯爵が礼を言う。


「あとは、必ず仕留(しと)めなければなりませんので、舞台設定の方は、

カキ子爵のほうで、あと、あの娘を取り込む算段はウェィ子爵に

(まか)せします。」


「わかった。指揮の方は、ツルキ子爵の方に(まか)せたいと思うが、

どうかなレンリ伯爵?」


レンリ伯爵が(うなず)く。


「では、そういう事で・・。この会合は、公国の議事録にはのせない。

各人の奮闘(ふんとう)を期待する。」


「それとだ。あのように年下の者に(いど)まれ、はじめは地位の影に隠れようとし、

あまつさえ衆人環視の前で尻餅(しりもち)をついた、あの講師の処分もお願いする。

大公陛下の名誉を汚す、あのような(くさ)れは、当地にはいらぬ。」


「以上だ。」


ウーノ伯爵が、会議の終了を宣言する。



第2章。紫吹(しぶき)



 エリースは、一日のほとんどの時間、窓際の椅子に座り、

ボーっと外を(なが)めていた。


学院の方からもその後、何も言ってこない。

超上級妖精のリーエさんも、ほとんどエリースの後ろに立ちっきりで、

時折、精神感応で話かけているようだが、上手くいってないようだ。

エリースの怒りを抑えられなかった事を、相当()いているみたいだ。


 アマトの補欠試験の2日前、急遽(きゅうきょ)部屋を移るよう、

宿の主人からお願いがあった。部屋を移る、

部屋の中に、もっとも今、いて欲しい人の姿があった。


「ユウイ義姉ェ!」


エリースは、ユウイに抱きつき、(せき)が切れたように泣きじゃくる。


「エリースは悪くない。悪くない。私がついているから、

心配することは何にもないわ。」


子供の頃のように、髪をなでながら、ユウイはエリースをなだめ続けた。


 エリースが落ち着いた後、ユウイは今までのこと話出す。

最後の宿場で、通行規制があり、動けなかったこと。

レオヤヌス大公の侍従の人と仲良くなったこと。

侍従の方に特別に入都許可がおり、その鉄馬車に乗せてもらったこと。

わざわざ、宿の前で降ろしてくれたこと。

ノープルの街で生活を始めるなら、頼ってほしいと言われた事。


「あ、侍従の方と言っても、女性の方だからね。心配しないでいいわ、

アマトちゃん。」


と、ユウイは付け加えた。



☆☆☆☆☆



 ハルトという少年の心に、善悪の感情はない。

彼にあるのは、快か不快かの感情である。


エリースという少女は彼にとって、不快そのものである。

あの少女は、彼にとって(めかけ)にする女だった。

自分を飾る装飾品以外の未来は、あり得ないはずだった。


しかし彼女は、自分を(はる)かに上回るエーテル量を持っていた。

多くの可能性を持つ人間だった。誰もが一言一動に注目する美少女であった。

だから、ハルトが得意の、裏から手をまわしてしてという

やり方ができなかった。

だったら殺すしかない。不快だから。


 そしてハルトは簡単に彼女の大きな弱点を見つけた。

義兄のアマトだ。アマトはエーテル量がニヒル(ゼロ)だ。

妖精契約は失敗し、間違いなく信仰の厚き人々に、

あの一家は火あぶりにされるはずだった。


その際に、確実にエリースもこの世から消えてもらわないといけない。

万が一の事が起こらないように、

彼はその場に居合わせし、扇動(せんどう)もした。しかし、ならなかった・・。


 面白くなかったが、次の手を打った。

アマトが妖精と契約できたことはおかしい。

妖精の門の新人の守護騎士に(そで)の下を使い、アマトが式外で

契約をしたという情報を手に入れた。


それを知る者はいない。なぜならハルトは、自らの能力で焼き殺したからだ。

それは、自分の上級妖精契約者としての、正確な能力を知るためではなく、

騎士の顔が自分にとって不快だったから。



 公都から来た審査官にハルトは密告した。

前回と違って、帝国の法で裁かれると確信したが、何も起こらなかった。

本当に不条理だ。


 どこかの暗殺者が、ロトル一行はうまく()ったが、

エリースの一行は逃がしたと聞き、()()いいのかと、

エリースへの不快は更に大きくなった。


 入学式の武闘会で自分が左手を上げたのは、相手が自分の発射する

火炎に()()()()()()()()ので、不快になったからだ。

忖度(そんたく)もできない相手に、自分の時間を与えるのは、

不快が高まる。


 恩師を侮辱(ぶじょく)されたとあんな事をしでかしたエリースと、自分が比較され、

『補欠試験から受け直せ!』とぬかした老将軍、こいつも不快だ。

排除()()()()()()()()()者の黒名簿に追加した。


 公都でも有名人になってしまったエリースを、直接殺すためには、

数々の段取りが必要で、かつ成功確率も低い。

それを努力している自分を想像すると、不快が増した。


()()()()()()()アマトを殺す!


アマトを殺せば、エリースは壊れるだろう。

自分のここ数年の不快は消える。


暗黒の妖精と契約したアマトという存在は、この大公国にとって

絶対に不快のはず。


そしてハルトが望む使者はやってきた。



第3章。ラファイスの禁呪



 試験は実技のみとされた。やり方は武闘方式が採用された。


ラティスさんとユウイ義姉も会場へついてきた。


途中、2人を職質した治安担当の人達は、次の瞬間には、にこにこ顔になり、

ラティスさんとユウイ義姉を通す。ラティスさんの精神支配の能力。

だぶん2人に会ったことも、記憶に残ることはないだろう。


「私を止めたいなら、〖白光の妖精ラファイス〗でも連れてくることね。」


とラティスさんは意気軒高(いきけんこう)だ。


 ラティスさんが付いてきたのは、どうしてもあの(のぞ)かれている感覚が

()()()()()だかららしい。

エリースの方は、超上級妖精のリーエさんもいることだし、

とりあえずは大丈夫という事だろう。


けど、ラティスさんが朝から言った、


「実技のみでアマトが、学院の補欠試験に通る可能性は、

【聖剣エックスクラメンツ】を使っていい、という破格な条件が付いたとしても、

全くないわ。」


(ひど)い怪我をしないうちに、すぐに左手を()げることね。」


という(はげ)ましは、さすがにちょっとな。


むろん僕は気付いていた。いざという時、治癒(ヒール)の力を使用するために、

色々な理屈をつけて、ラティスさんがついて来てくれたことを。



・・・・・・・・



 受付を済ませた後、控え室に入った時、驚くべき人物に会う、ハルトだった。


「やはり、知っている顔に会うと安心しますね。

私はウーノ将軍の不興(ふきょう)を買ったようで、

中級妖精契約者部門の補欠試験を受けるように言われました。

世の中は不条理ですね。」


「僕は相手の先輩を傷つけたくなくて、左手を上げたんですが、

だれも()()()()とってくれません。」


「だから今度は、途中で()めるようなことはしませんよ。」


 あれは将軍以外の不興も買っただろうと思いながらも、

ハルトが一方的に話し、出ていったので、

アマトは、自分の試験の入試要項をみて、その内容を再確認をする。

試験は勝ち抜き戦方式だ。


勝ち抜いた者は勿論(もちろん)、観客席にいる100人の3回生の入学許可投票もある。

一回戦が、その年のどちらが最終勝ち残り者になってもおかしくない

組み合わせだったというのも、よくあることらしい。


アマトが受けるのは、魔力の発動がない、初級妖精契約者部門だ。

入学ではなく、聴講生(けん)学院の掃除夫として3年間を過ごす。

終了後は最低5年の軍務が命じられる。

主に兵站(へいたん)の部門や修理・工作の部門に回される。


アマトにも模擬(もぎ)剣とマスクが渡される。

マスクは情実審査を防ぐためらしい。マスクの表裏に13の文字が書いてある。


剣は初等学校卒業後、ブレイさんに手ほどきを受けただけだった。

同じ負けるにしても、見苦しくないようにしようと、アマトは覚悟を決める。

 

 闘技場と観客席の間には先日の、入学式の事件で、

より強固な障壁が仕掛けてあるらしい。審判も観客席の方から声をかける。


「1番と2番、闘技場へ。」


試験が始まった。



・・・・・・・・



「13番と14番」


と案内担当の講師が声をあげる。

アマトは闘技場へはいる。相手は自分より背が高そうだ。

厳しいなと思いながら何か違和感を感じる。

模擬(もぎ)剣を持ってない?嫌な予感がした。


開始の声がかかる。


アマトは、自分の(カン)に従って、右前に()んだ。熱気を左後方に感じる。

アマトのいた位置に、赤色の火柱立ち上がっていた。

相手の手から、いくつもの橙色の炎弾が発射される。

とにかくジグザグに走り回って炎を避ける。


観客席を見る、3回生は騒いでいるが、審判になんの動きもない。

14番から視線を切って、審判席を見た動作が(すき)になった。

左手・両足に衝撃を受ける、炎が着弾。アマトは錐揉(きりも)み状態で倒れ込む。

激痛がはしり、左手も両足も動かない。マスクに火が残る、

まだ動く右手でマスクを引き()がす。


相手が近づいてくる。相手はアマトの模擬(もぎ)剣を拾い、

アマトの頭に(たた)きつける、激しい痛みと流血、剣は根元から折れた。


「起きましたか?今から僕は自分の最大の力で火炎を放ちます。

今度は途中で()めないと言いましたよね。アマト君」


「もっと早く自分でやれば良かった。あなたもそうだが、

エリースさんも不快・不快・・不快でした。

ようやく悪夢から解放されます。」


「エリースさんも、あなたの(なぶ)り殺され方を知ったら、壊れてくれますよね。」


ハルトの顔に、天上の()みが浮かぶ。


「あ、いけません。これから起こるのは()()でした。

()()()()()。」


「それに、教えてあげましょう。わたしは、親和性でなく、自分の意思で、

土の妖精ではなく、火の妖精と契約し、最上級妖精契約者に並ぶような、

この魔力を手にいれたのです。」


「ところで、焼き方はレア、それともミーデイアムがお好みですか?

やはりウェルダンですよね。」


アマトはまだ見えてる片目で、ハルトが武闘場の一番端に歩いていくのを見る。

ハルトは詠唱し、地面に六芒星(ろくぼうせい)の魔法陣、左右の空間に

薔薇模様(ばらもよう)の魔法円をつくり始める。


戦場でしか使えないような劫火(ごうか)殺戮(さつりく)魔法を、この場で構築していることに、

3回生の間で、『やめさせろ』『正気か』ざわめきが起こる。

審判は、ここに至っても何もしようとしない。


≪これで終わりにするの?≫


冷たく優しい声が、頭の中に響く。

『だれだ?』アマトは心の中で叫ぶ。返事はない。

幻聴か?しかし、エリースのため・・・せめて相打ちに。


『もう、あれしかない!』


アマトは、片手でなんとか座り直し、右手を水平にハルトの方へ向ける。


命を代償とすることで、魔力なき者でも、力を発動させるといわれている、

ー決して唱えてはならぬと言われるー

〖最凶の聖なる禁呪〗を、アマトは唱えだしていた。


「私は(はか)るものである。


 私は自分の命の残り時間を(はか)るものである。


 と同時に、(なんじ)らの世界の残り時間を(はか)る者である・・・ 」


3回生の間で、


「【ラファイスの禁呪】!!」「あいつは暗黒の妖精と契約してる奴だぞ!」


その意味することを(さっ)した、女性徒から悲鳴があがる。


審判3人から、


「13番止めろ!」「禁呪を()めさせろ!」「失格!」「失格!」


との声が重なる。


「・・・白光の妖精ラファイスよ。


 力なき私の()()()()を聞け。


 そして我が命と引き換えに、罪に(けが)れし者を、


 とこしえの(やみ)に落としたまえ・・・。」


 「ルーン!!」

 

 何も起こらない。


『エリース・ユウイ義姉ェ・ラティスさん・リーエさん・・・ごめん。』


ハルトの魔法陣・魔法円から、勢いよく流れ出した橙色の炎は一体化し、

青色の侮蔑(ぶべつ)奔流(ほんりゅう)になって、

アマトに襲い来る・・・。


だが、刹那(せつな)、アマトの周りに、何個も白金に光る球体が現れる。

球体から白光が輝き、炎は吹き消すように消滅した。


同時に、球体が一斉に光った瞬間、ハルトも審判席の男達も白い光に(とら)えられて、

闘技場の壁に(たた)きつけられていた。


そして白光の洗礼を浴びた、屋根の全部・壁のほとんどが融解していく。


数日前の少女が解き放った緑雷が動なら、ならこの白光の輝きは静、

いや虚無だった。


3回生達は、ラファイスの禁呪が起こす光景に、魅入(みい)られていた。


「アマト!」


と叫びながらラティスが宙を駆け、飛び込んでくる。


「ラティスさん・・・。」


ラティスの力に包まれたときに、

・・・≪死なせはしませんよ。≫・・・と、

冷たく美しい声が聞こえ・・・アマトは意識を無くした。



第4章。白光の妖精



 僕は無意識の暗闇の底から浮かびあがり、静かに目をさます。


ユウイ義姉・エリース・ラティスさん・リーエさん、

そして、初めて見る 白金の髪に白金色の瞳・大理石色の肌・白金の背光・

超絶美貌の妖精さん?が僕を見つめている。


『あの時、命と引き換えの【ラファイスの禁呪】を唱えたはず。

・・・だが生きている。そうか、ラティスさんが助けてくれたんだ。』


と、心の中での思う。自然と口から感謝の言葉があふれ出した。


「ラティスさん。ユウイ義姉ェ。エリース。リーエさん。ありがとう・・・。」



・・・・・・・・



 その言葉に、暗黒の妖精ラティスは下を向く。

次の瞬間、ベッドに寝ているアマトの襟袖(えりそで)(つか)み、

彼をずり起こしながら、アマトに言い放つ。


「アマト。あんたって人間は、なんて、〖ふしだらな〗人間なのよ!」


アマトは???状態だ。ユウイ義姉も〖ふしだら〗の言葉に反射して言う。


「アマトちゃん、〖ふしだら〗はいけないわ。お義姉ちゃん悲しい。」


エリースは、〖ふしだら〗の言葉を聞いて目を()らすし、

風の超上級妖精リーエさんの目も、いつになく厳しい。


「そういっても、アマトさんには何のことか、

全くわからないんじゃないですか。」


と、白金の髪の美しい妖精さん?が、美しい(あざ)やかな声で、ラティスに語る。


「とにかく、あんたが一番悪いわ、ラファイア!

あんた、あと何百年かは、こちらの世界に来れないんじゃなかった!?」


「いやだな~。ラティスさんが、こちらの世界に現れたのに、

私が現れることができないわけ、ないじゃないですか。」


「ただですね、最後の障壁みたいのが、突破できなくて。

この世界の直近に来ていてしばらくは、悪戦苦闘していたんです。」


「そしたら、ラティスさんが、私の力で感じるところにやって来た。

嬉しかったですよ。それで、障壁みたいのを壊すのを手伝って欲しくて、

あんなに秋波(しゅうは)を送ったのに、気づいてくれなかったし。」


いつまでも、話が終わりそうもないので、アマトはラティスに聞いた。


「こちらは?」


ラティスはそっぽを向く。仕方なく、白金の髪の妖精?が直接答える。


「私は白光の妖精で、名前はラファイアです。

アマトさんと、なんか、妖精契約を、()()()()()みたいです。」


アマトが茫然(ぼうぜん)としていると、エリースが耳もとで小声で言う。


「ラティスが言っているんだけど、妖精さん達は、

人間ひとりに対して、妖精さんひとりの契約が、()()()()()ですって、

1対2の契約なんてあり得ないそうよ。

なんで、そんな面倒なことしたの。」


にこにこ笑いながら、美しい妖精が答える。


「聞こえてますよエリースさん・・・。

本気じゃなく、ほぼ冗談だったんですよ。

けどなぜか、契約がなってしまって、そして実体化でしょう。

なんとか解除しようとしたんですが、できなくて。

どうしようもないですね。わたしの魔力(ちから)も落ちたものです・・。

で、ラティスさんが正妻で、私がお(めかけ)さんということで。」


「なにが、『・・・で。』よ、ラファイア。

あの時のケリをここでつけようか。」


「それは無理ですよ。ラティスさん。

同じ人と妖精契約を、(むす)んでしまったんですから。」


ラティスは顔を真っ赤にしながら、言葉を探すが出てこない。

しばらく黙っていたが、一言だけいった。


「ラファイアありがとう。私だけだったら、アマトの命は(あぶ)なかった。」



☆☆☆☆



 僕は、まる3日間 寝込んでいたらしい。

いやしかし、3日で済むような傷ではなかったはず。

ラティスさんとラファイアさんが治癒(ちゆ)の力を、

3日3晩浴びせていてくれた・・・。


あらめて、ラファイアさんにもお礼を言い、

あの後どうなっているのかと確認してみる。


ニコッと笑ってラファイアさんが、


「あの4人は私の結界に閉じ込めてありますので、2日間は外に

逃げられなかったと思います。


わたしの結界を解除できるのは、ラティスさんを除けば、

暗黒のエレメントのアピスさん・私と同じエレメントのラファイスさん・

風のエレメントのリスタルさん・火のエレメントのルービスさん・

水のエレメントのエメラルアさん・

土のエレメントの〇△×□さんぐらいですからね・・・。」


と、言っている途中に、ラティスさんが口を(はさ)んだ。


「土のエレメントの妖精、〇△×□の名だけは言うな。

あいつが、興味半分降臨でもしたら、この世界が訳わからなくなるから。

もうアンタだけで冗談はいい!」


ラファイアさんの話に、有名どころの妖精の名前が、いっぱいでてきている。

この妖精さんは、⦅私は凄い⦆と何気に言いたい、

妖精さんなんだなと、アマトは思う。


「続けて言うと私の結界は、なんと、近づく者を光電で防ぐ()()()付きでして。

無様(ぶざま)さを抹消(まっしょう)しようとした人間は、どうしようもできなかったはずです。」


「先ほど分身を飛ばして確認しましたが、融解した建物跡なんて、押すな押すなの

大見世物になっていますよ。」


「過去に、【ラファイスの禁呪!?】なるものを、成し得た人が

いなかったんですかね。

けど、何か胸の前で五芒星(ごぼうせい)を描いている人達が多かったのは、なぜです?」


ここで真剣な顔で、エリースがラファイアの手を握って頼む。


「【ラファイスの禁呪】は、術者の命を代償として発動するものと聞いている。

私は義兄ィの命を助けたい。

同じ白光のエレメントの妖精の名を(かん)する禁呪、

助ける方法を知ってるなら教えて、・・・お願い・・・。」


ラファイアは、きょとんとした顔でエリースに答える。


「アマトさんが唱えた、【ラファイスの禁呪】ですか?

え、あれってそれらしい言葉を並べてあるだけで、

なんの術式も、ましてや力なんかありませんよ。」


エリースが、啞然(あぜん)とした顔で、ラファイアの顔を見つめた。


「本当にあの時、偶然、残ってた障壁のようなものが砕けて、

こっちの世界に戻れたんですよ。」


「アマトさんって、ラティスさんの、契約者という以上に、

大事ぽい雰囲気の人じゃないですか。」


「こりゃここで、アマトさんを助ければ、ラティスさんと

仲直り出来るかな~と思って、

あの詠唱に合わせて、私が光球を飛ばし魔力(ちから)を振るいました。」


それまで、ラファイアを無言で(にら)んでいたラティスが口を開く。


「さっきから、おとなしく聞いていると、なんかアンタ色々と

知りすぎてるじゃない。」


「ずーっと(のぞ)かれていた感覚があったのは、ラファイア、

あんたが犯人だったのね。」


ラティスさんの(まゆ)が吊り上がっている。こうなったらこのお(かた)は止まらない、

アマトは経験上知っている。


「それも、アマトさんを助けたことで、チャラと・・・あれ・・・。」


ラティスさんの背後に怒りの背光がみえた・・・みえた気がした。


「ラ・ファ・イ・ア・!」


「ビスケ!」


2人の姿がかき消すように消える。

ところで、『ビスケ』ってなんだろう。



☆☆☆☆



 2人の妖精が姿を消した後、義姉のユウイは、


「アマトちゃん、大丈夫なようね、お義姉ちゃんは、少し横になるから。」


とベッドに向かう。ユウイが完全に寝入ったのを確認して、

アマトはエリースに話しかける。


「エリース、ハルトは僕たちの生きてることが不快といった。

僕を焼き殺して、エリースが壊れてくれれば、

悪夢から解放されるとも。」


「あいつそんな事を言ってたの。私にエーテル量で(かな)わなかったから?

学校でのあいつの視線は、最初は敵視だったわ。

そのうちに上から下まで()め回すような、気持ち悪いものに変わって、

最後は憎悪に変わっていたけど・・・。」


「けど、義兄ィを殺そうとした事は許さない。

今からでも、私が、()()()を刺しに行く。」


「エリース!」


あわてて、アマトはエリースを止める。


「おそらくハルトが単独でやったんじゃない。

あの場にいた審判も止めなかった。

3回生ですら、間違いに気付いて、騒いでいだんだ。

単に、気付かなかった事故というんじゃないだろう。」


「この筋書きを考えた者がいる。

ハルトも、『不幸な事故』になる前提で話していたし。

この大公国の高位者が(から)んでる可能性も高いよ。」


「ハルトは実行しただけということ?義兄ィは、無駄(むだ)なところで鋭いね。」


「『策は種がわかれば、逆に小さな力で、反対に利用できる。』

だったかしら。」


エリースはカイム先生の授業を思い出していたようだ。

ひとまず剣を収めてくれた。

超弩級(ちょうどきゅう)妖精化したリーエさんが、

ノープルの街で破壊を引き起こす未来がとりあえず消えた事に、

アマトは ほっとした。



☆☆☆☆



 アマトの知らないところで、人々の彼に対する人物像が、

一日にして変わってゆく。


ノープルの街での、慈悲(じひ)と博愛の妖精ラファイスへの敬愛は(すご)いものであり、

白光の妖精ラファイスの象徴の()()()である


ー1000年近くの間、賢者・魔術師・超上級妖精契約者さえ、

 成し得なかったー【ラファイスの禁呪】


がこの街で()されたことに対する、

人々の衝撃は大きかった。


 現場に居合わせた3回生、教授らの驚きは、それを上回るものだった。


作り話・子供のおとぎ話と、まともに相手にもしてなかった、

【ラファイスの禁呪】は本物であった。


その威力は上級妖精契約者が起こす、

劫火(ごうか)殺戮(さつりく)魔法を一瞬で吹き消し・建物を瞬時に融解(ゆうかい)させ

かつ敵術者を結界に封じ込めたのだ。

複数の魔法を、上級妖精契約者でも防げぬレベルで、同時に発動させる。

()()()()そのもの詠唱であった。


 アマトは禁忌(きんき)を犯し、暗黒の妖精と契約してしまった、

残念な容姿の使い魔モドキから、

暗黒の妖精を使役し、【ラファイスの禁呪】を発動させる

ーなんて恐ろしい子ーなのと、(うわさ)が爆上していた。

・・・「残念な容姿」・・・の言葉が付け加わるのは全く変わらないが。


 事実と虚構と人々の願望が融合したとき、アマトの虚像は

レオヤヌス大公ですら下手に手を出したら

火傷(やけど)で済まない怪物になっていた。


第5部分をお読みいただき、ありがとうございます。

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