ⅩⅬⅣ 使嗾編 中編(4)
第1章。空城
第2章。虐殺者アマト
第1章。空城
4人の超上級以上の妖精の一撃は、聖門と〖ムランの宝冠〗と言われる
外殻の結界を粉砕しただけでは止まらず、
内聖門と言われる6つの門も消し去っている。
そう、消失した大聖門から、聖道に沿って、最奥の尖塔の教会まで
覗き見れるようになっていた。
ここで、ラティスは、中空に浮び、凄まじい圧の精神波で教都ムランの隅々にまで
言い放つ。
≪わが名はラティス、暗黒の妖精。
我が契約者アマトに、暗殺者を送りし、愚か者どもよ。
売られた喧嘩、買いにここに来た。
我と思わんものは、我が前に現れ出でよ!≫
・・・静かだった、何の反応もない。教都内から一切の攻撃もなく、
先ほどまで鳴り響いていた鐘々も、今は聞こえない。
「空城の計?」
ルリがイルムに問いかける。
「まさか。この時点で用いる計ではない。ラファイアさん、分身体をムランの中に
飛ばすことはできる?」
イルムは、白光の妖精に依頼する。
「上下の結界は残ってますが、壁面はスカスカ状態です。全く問題ないですね。」
ラファイアの体から、6つの光が教都内部へ飛翔する。
上空から、精神波が、落ちてくる。
≪エーテルの残り香から言うと、6つの内壁にもそれぞれ結界があったわね。
それで、大外の結界と連環させてたみたいね。
確かに強固になるけど、大外が滅失したら、あとの6つにも
飛び火するわ。それで、一気に消え去ったってとこじゃない。≫
≪それに少し前、多量のエーテルで、結界を補強・充実させたのもわかるわ。≫
と、ラティスは冷徹な表情で、滔々と語る。
「ラティスさんどうしたんです。熱でもあるんですか?」
ラファイアの笑顔に、驚愕の色が浮かぶ。
「イルムさん、ひとつの首都が落ちるという時には、こういう信じられない事が
おきるんですかね!?」
「・・・・・・。」
さすがにイルムは、その当然すぎる感想を、聞こえてない振りをする。
一方でリーエが、イルムの前で⦅わたしもわたしも⦆のポーズをとっている。
「では、リーエさん。教皇猊下を探し出して、警護をお願いします。」
イルムは振り返って、ルリに声をかける。
「ルリ、エリース経由で、リーエさんに精神感応で、猊下がいらっしゃいそうな
場所の地図を送って。」
「わかったわ。」
ルリとエリースの間で閃光が煌めく。
次の瞬間、リーエは ⦅行ってきます⦆のポーズを軽くきめ、尖塔方面へ
もの凄い勢いで飛翔する。
その時、ラファイアの身体が、微かに光りだした。
「イルムさん、精神感応がきましたよ。聖騎士と言うんですか、見た限りでは
たぶんエーテルぎれをおこして、ほとんどが倒れて動けないようですね。」
「普通の家々や店々は、扉や窓を閉めて、誰も外には出てない状態です。」
「ただ、教会や教国政府の関係建物は、人の出入りが激しく、
恐慌を起こしています。ここと反対の門に向かって、鉄馬や鉄馬車で
逃げていくの人達も多いですね。」
「教国の高官たちか、情けない。」
小さな声でイルムが呟く、美しい横顔に軽侮の色が。
「ありがとう、ラファイアさん、あとは打ち合わせのとおりに。」
自分の感情をのせずに、涼やかな声でイルムはラファイアに感謝の声をかける。
「では、みなさん。いってきますので。」
笑顔と同時に、ラファイアも幻のように消える。
イルムはその場に残る全員に声をかける。
「さあ、私たちも行きましょう。」
そして、精神感応でラティスに伝える。
≪ラティスさん、先鋒をお願いします。≫
第2章。虐殺者アマト
2台の鉄馬車は、なんの抵抗も受けずに、ムランの大聖門跡を通過する。
「イルムさん、なぜリーエさんを?」
アマトは軽やかに手綱を捌く、イルムに尋ねていた。
「アマトくん。幽閉した教皇など、この国の真の為政者からすれば、良き日時で、
始末するしか使い道がない。」
「私が今の状況で、軍師として策を聞かれたら、
『下級教国民の居留地の至る所に火を放ち、
それと同時に、教皇にお隠れになってもらいましょう。』
と、進言する。」
「そして、そのすべての罪を、歴史上稀にみる虐殺者として、
アマトくん、君に背負わせる。」
「第二のオフトレの誕生だ。」
「そう、上手くいくんですか?」
アマトは、天才と呼ばれる、才色兼備な軍師に、なおも問いかける。
「人をやり、いろいろな国々で、あらゆる機会に、その嘘を吹聴する。
10年もしないうちに、それは揺るぎない事実となる。」
「もっとも情けないことには、君とセプティを蹴落とすため、
または教国から支払われる黒い金のためかもしれないが、
新帝国内でも、それをしたり顔で話す奴が現れてくるでしょうね。」
「そんなものですか。」
「刃を使うだけが戦争じゃないわ。」
「虚無的に言えば、【平和とは、刃を使わない戦争の時間。】と、
言えるでしょうね。」
アマトはイルムの激しい言葉に沈黙してしまう。
そのアマトの気持ちと関係なく、奥に奥に鉄馬車は進む。
3つ目の円形の城壁を超えるところまでは、
下級・中級教国民の居留地そして商店であるが、
それから先は上級教国民・宗教者の居住地にかわる。
無論中心にいけばいくほど、高位の宗教者のものに変わり、木造りの建物から
豪華な石造り建物に変わっていくはずだ。
ものかげから、数十人の人間が飛び出してくる。
イルムは、慌てて、鉄馬車を止める。
よく見ると、若い少年少女たちだ。まだ妖精契約をしてないだろう子供の姿も
見て取れる。
彼らは、模擬剣すら手に持ってない。
彼らが手にするのは、鉄の棒であり、木の棒であった。
彼らの顔に浮ぶ、覚悟の色を確認して、イルムは無機質な声で、
自身にも宣言する。
「是非におよばず。」
イルムの前に、彼らを焼き払う、劫火の放射のための魔法円が現れる。
第44部分をお読みいただき、ありがとうございます。
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本作品も、令和3年12月末で、100部分まですすんでいます。
当初から勢いだけで、書き進んでいきましたが、だんだんそのエネルギーも
摩耗してきています。
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