ⅩⅬⅡ 使嗾編 中編(2)
第1章。 会敵(1)
第2章。被 暗黒の妖精の襲来
第1章。 会敵(1)
山の端に光がさしてきた時、2台の鉄馬車は、空を覆うばかりの
教国の教都ムラン警備隊や傭兵隊らに、次々と襲撃を受けていた。
数刻前、教都方面から凄まじい魔力の能動的探知の挨拶がきたため、
だれかさんが、それ以上の攻撃的探知で、思いっきり返事を返したためだ。
軍略の天才と言われた、イルムでさえ頭を抱えたこの行為。
いつもなら、ラファイアが、だれかさんの頭を強制的に冷却したのだろうが、
その相方さんは、ヒールに集中していたため、ラティス様全開状態を防ぐ
手立てが、なくなってしまっていた。
教国第一陣の斥候隊は、会敵した瞬間、暗澹たる気持ちに襲われる。
戦場では、ここ50年余り現れず、歴史の影に隠れていた
軍の歴史書の中にしかいないはずの、蜃気楼体の超上級妖精が空中に浮かんで、
笑顔で、彼らを待ち受けていたからだ。
彼らは、一部を正規軍への連絡隊として戻し、残りは上空で散開、
遠距離からの追尾をしつつ、本隊の到着を待つ。
しばらくして本隊が到達、彼らも瞬時に状況を理解し、絶望的な攻撃に移る。
それでも、軍事書に記載されていた、超上級妖精の絶対的な一撃を避けるべく、
風の妖精契約者を中心に編隊を解き、少数ずつに分離し、
鉄馬車を攻撃しようとする。
しかし、軛を解かれた超上級妖精は、全方位に多目標を標的として捉え、
的確に先制する。
狙われた彼らの前面に、緑光の対標的魔法円が顕現し、次の瞬間、
ほぼ零距離の魔法円から発動する緑色の圧倒的な稲光の一撃に、
全てを刈りとられ、大地に落ちてゆく。
ほんの一部の、強力な障壁を構築できる兵は、くぐり抜け鉄馬車に接近を試みる。
だが彼らを待っていたのは、エリースによる、多目標精密雷撃であった・・・。
それで、第一陣は、本人の自由意思で逃亡したものを除けば、
ほぼ壊滅状態に追い込まれる。
入れ替わりに第二陣、第三陣、第四陣と、教国正規軍が姿をみせる。
第一陣のありさまをみて、たった2台の鉄馬車に対して、数万の正規軍に
対抗するような方円の陣形をとる。
風・火・水・土の妖精契約騎士のクァドラペルソナの集団が
天空に雲霞のように展開。火・水・土の妖精契約騎士を大地に投下し、
中空に残った風の妖精契約騎士は、即座に魔法円を構築、その魔法円を通過、
超高速度に加速、眼下の敵に、近距離攻撃を試みる。
第一陣と同じように、超上級妖精のリーエとエリースが対抗するが、
その超高速移動で幾ばくかは、その電撃を躱し、
風の妖精契約者として、電撃を鉄馬車に叩きこむ。
間をおかず、大地に展開した騎士らからも、炎の・氷の・鋼の魔力槍が
次々と鉄馬車に撃ち込まれる。
第二陣の襲来と同時に、イルムは鉄馬車を出て、フレイアと共に
戦塵の中に消えている。
森の木々は、或いは焼かれ、或いは凍らされ、或いは砕かれ、
鉄馬車の周辺は、爆煙・狂音・土埃・そして各柱を立ち昇らせ、
次々と大地を震わせ、大気を鳴動させていく。
その狂騒の中、前方の鉄馬車内では、アマトは鋼杖を、近接戦闘に備え、
震える手で、切り合いのなかで落とされぬよう、もう片手に帯で蒔きつけようと
何度も試みるが、上手くいかない。
そのさなかにも、闇と焔の妖精が構築するふたつの球状結界は、
揺らぐことさえもない。
この喧騒に退屈しきっていたツーリアが、片手を天に掲げる。
指先に光が渦を巻き、空間の色が消えてゆく、
400年前、火の妖精ルービスが風の妖精リスタルを
仕留めたといわれる魔力を振る舞おうと、
天に魔法陣を描き始める。
この全域を、触れれば切れるような張りつめた魔力が、覆い尽くしていく。
その神々しくも不気味な魔法陣が完成する寸前、
≪終わりました~!≫
この場に似合わぬ精神波が、戦場に響く。
≪あんた何を遊んでいるのよ。終わったら手伝いなさい。
リーエが{手加減するのは面倒くさいんです}と、
泣き言を言っているわよ。≫
間の抜けた精神波が、混迷を極める戦場に拡がる。
リーエはこの中でも、 私は健気な妖精さんです のポーズを
正確に決めている。
『手加減!?』 『手加減!?』 『手加減!?』 『手加減だと!!』
攻め手の騎士たちの心の中を、驚愕の想いが、かき乱す。
それに加え、先ほどから現場総司令から指示がきていない現実にも気付かされる。
彼らを嘲笑うかのように、天空に構築された巨大な魔法陣の下、
ユラリと中空に6体の暗黒の妖精の蜃気楼体が顕現する。
≪ 聞け! わが名はラテイス、暗黒の妖精。愚か者たちよ、無駄に死を選ぶか?
今からは手加減はしない。≫
重々しい重低音の精神波が、この戦域にこだまする。
圧倒的な力の根源、破滅への誘い、宙天に現れし極光・・・。
『『『『われらの敵えし相手ではないのか。』』』』
その場に生き残った者たちは、彼我の圧倒的な力の差に戦意を吹き消され、
次から次へと、無意識に剣から手を放していた。
第2章。被 暗黒の妖精の襲来
戦場を突破して、アマト達の鉄馬車は、教都ムランの大聖門の前に到達した。
その巨大な門は1000年以上にわたる双月教の象徴であり、
その教えを彫像として門壁に刻み込んでいる。
1000年間鳴らなかった、今から1000年の後も鳴り響くはずもなかった
ー暗黒の妖精襲来警報ーの鐘々の音が、バカ高い城壁の中からうるさいほどに
響き木霊し、同時に、石壁の最上部・中程・下部から、
絶え間なく攻撃が行われる。
だが、魔力のない妖精契約前の子供でさえわかるような、
教都ムラン全体に張られた厳重な何重にもわたる多重結界から、
ひとりの騎士さえ討って出ようとしない。
絶え間ない攻撃を、防禦の障壁で無効化しながら、ふたりの妖精は、
真面目に口喧嘩をしていた。
「いいかげんに、しなさいよ!」
あきれかえって、ツーリアが口をはさむ。
障壁には、激しい光の花がいくつも咲き続けている、外には土柱と陽炎が。
風の超上級妖精が音響の障壁を構築しているので、障壁内は静謐を保つ。
「ツーリア、アンタも見てたでしょう。」
「あの不細工な6体の暗黒の妖精、ラファイアに悪意があるとしか思えないわ。」
「いや~、ラティスさん。私の魔力は真を写しますから。」
と、ラファイアは火に油を注ぐ。
「ほんと、バカは死ななきゃなおらないわね。」
エリースも、この諍いに参戦する。
リーエは、ほんとうにおバカさんですね のポーズをとっていて、
アマトはすでに空気化している。
ラティスの怒りが、沸騰点に達しようとした時、
「ラティスさん。教都の香茶も美味しいのよ。せっかくここまで来たのよ。
皆さんで、一緒に飲みましょうよ、ね?」
うしろの鉄馬車から、ルリに手を引かれて降りてきたユウイが、声をかけた。
第42部分をお読みいただき、ありがとうございます。
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本作品も、令和3年12月末で、100部分まですすんでいます。
当初から勢いだけで、書き進んでいきましたが、だんだんそのエネルギーも
摩耗してきています。
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