ⅩⅩⅩⅨ 使嗾編 前編(2)
第1章。離岸流
第1章。離岸流
帝都を出発し、夜が明ける前には、僕たちは街道を離れた。
創派の村から、帝都へ向かう街道に出てきたように、ラティスさんが
鉄馬車の前に魔法円を構築し、空間を削り取りながら進んで行く。
「アマト。私の進んだ跡に、道はできるべきよ!」
と、ラティスさんが、御者台の上から高らかに宣言する。
それを呆れた笑顔で見つめながら、ラファイアさんが、
ラティスさんの消し損ねた空間の残滓を、
丁寧に⦅融解の光の投網⦆で消滅させていく。
もし、このはかりごとがうまくいった暁には、帝都と教都ムランへの
直線の棒道が、軍隊が移動するに十分な幅をもって、ふたつの首都を
結ぶと思う。
リーエさんが、高い空から周囲を警戒?している。
そのうえ、ラティスさん、ラファイアさん、リーエさんそしてツーリアの
超上級以上の妖精の四重の障壁が、僕達と新しい道跡を隠す。
たとえ、教都ムランより、超上級妖精の契約者が探り手になって
こちらの空間を、受動的探知、いや能動的探知をしても、
歪みの欠片も感知できないだろう。
そして、その日、教都ムランの大聖門の前に、ラティスさんが屹立する。
双月教が、1000年の間撒き散らしてきた虚言が、悪夢として
彼らの目の前に顕現する・・・。
・・・・・・・・
教都ムランに到達するまで、イルムさんの計画では3回の休息をいれる
予定だったけど、1日半の遅れは、休息を2回とするしかなくなった。
今夜は、その第1回目の休息で、予定になかった森の中での野営。
魔鳥キルギリウスのほんの微かな鳴き声が、闇の彼方から聞こえる。
それを理由に、ラファイアさんとリーエさんは、いつものように周辺を
警備するため姿を消している。
向こうの焚火の前では、エリースとセプティそれにツーリエが
さっきまで話していたが、今は静かになっている。
ラティスさんは、鉄馬車酔いを起こしたユウイ義姉ェの回復を行うため、
馬車内に籠って、魔力を行使している。
僕の前には、鉄馬と馬車の点検を終えたイルムさんが、不要になった計画書を
焚火にくべている。淡い橙色に照らさられたその顔は、やはり美しい。
「アマトくん。まだ眠れないの?」
イルムさんのやさしい眼差しが、僕に向けられる。
「夜になると、どうしても考えてしまうんです。」
「双月教との争いを避ける術はないかと?」
「はい。」
「ハイヤーン老から聞いたわ。虐殺者オフトレと暗黒の妖精アピスの
歴史の影に隠れた真の姿をね。」
「だとしたら、彼らが折れることはないでしょうね。」
「けど、それで闘いが起こるのは・・・。」
「1000年に渡る教義の重さと、権益の積み重ねの大きさは、
双月教宗教者には、何百万の犠牲者をだしても、
守るべき至宝となってしまっているからね。」
「・・・・・・・・。」
「ラティスさんもラファイアさんも、情厚く愛深いわ。君が討たれ、君の首が
ムランの城壁に晒されたとしたら、オフトレとアピスの比ではない
血の雨がこの世界にふるでしょうね。」
「・・・・・・・・。」
「君も薄々気付いているはずよ。私もだけど、君も歴史の主演者のひとりに
なっているわ。」
「私はあの男に無理やりに・・・、なかば強制的に舞台にあがらされた・・。」
「けど君は、自分の意思で1000年の禁忌の妖精の手を掴んでいる。」
「だったら、何をすべきか、君はわかっているいるはずよ。」
静寂の中で、パチンと焚火が弾ける。
「どうしても、命を落とす人がでるのは・・・。」
「これは、彼らが売ってきた喧嘩よ。それに彼らはいつでも降りる事が
できたのよ。彼らの自由意思で君を殺しにきているの。」
「・・・・・・・・。」
イルムさんの表情は、泣いているようにも見える。
次の瞬間、僕の隣に凄まじい圧が膨らんでいく。
「アマトさん、イルムさん、異常はありませんでした。ん、どうしたんです?」
ラファイアさんの、能天気な美しい声がありがたかった。
第39部分をお読みいただき、ありがとうございます。
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