ⅩⅩⅩⅦ 欺罔編 後編 (3)
第1章。ふたりの決意
第1章。ふたりの決意
協議が終わって、明日、キョウショウさん・グスタンさん・ハンニさんと
アストリアさんは、創派の本拠へ、ルリさんとノマさんとフレイアさんは
先に教都ムランへ、出立することになった。
イルムさんが言った。
『セプティ、ほとんど奇襲と同じ行動になった以上、
≪拙速は巧緻にまさる≫と思って欲しい。』と。
それからは、キョウショウさんが音頭をとっての、飲み会になったけど、
それは、二度と会えないかもしれない寂しさを、誤魔化すような
ものではなかったと思う。
実戦の経験のある、イルムさん・ルリさん・ノマさんはなんとなくわかるけど、
キョウショウさん・グスタンさん・ハンニさんたちも非常に陽気だった。
けど、
『ひと月後、だれかがこの場にいなくなるかも。』
と思ったら、私の涙腺が崩壊し、エリースとユウイさんに付き添われ
あの場を抜けてきた。
協議の後に、ツーリアをはじめとする妖精さん達は、それぞれ席をたったので、
ツーリアにも、よくお礼を言えなかった。
旅立ちの日には、真っ先にお礼を言おうと思ってたところに、
部屋の扉が叩かれた。
「セプティ。エリースだけど入っていい?」
そこには上気した顔のエリースが立っていた。
中に迎え入れて、椅子をすすめる。
おもむろに、エリースが話し出した。
「ユウイ義姉ェは、あの場に戻っていったわ。明日、離都する人がいるのを
忘れてるんじゃない。フレイア・アストリア・エルナまで
一緒に騒いでいるし。」
エリースが軽く両手をあげ、やれやれというポーズをとった。
さっきの事でエリースが来たのかと思い、私は、
「エリースごめんなさい。もう落ち着いたから。」
と、言ったものの、次の言葉が出てこない。
優しいまなざしで、エリースが語る。
「みんな、戦乱とかで、覚悟ができているからね。かえってセプティの涙が
新鮮にみえたかもよ。」
一番聞きたかったことを、エリースにたずねてみる。
「エリース、私が行くと言ったことを、怒ってないの?」
「ツーリアが、護るって言ってくれたからね。でなければ全力で止めていたわ。」
「あのあとイルムも、『新帝国ができるにあたっつて、まず陛下の親征があったと
いうのは、いい伝説になる。』といってたぐらいからね。」
「そんなものなのかな。」
「どこの王国も、創始王には華々しい物語があるじゃない。」
エリースが、私の言葉に怒っていない事だけはわかった。
「セプティ、新しい国が出来ると言う事で、終の棲家ができる人も多いの。
創派の人々だけでないわ。私・アマト義兄ィ・ユウイ義姉ェ、それに
イルム、ルリ、ノマ達、そうたぶん、私たちが知らない多くの人達もね。」
「だから、ツーリアだけじゃない、私も、いえみんなが、全力をあげて、
あなたを守るわ。」
「そうセプティ、たとえもし私が倒れたとしても、あなたは私を見捨てて、
帝都にどんなことをしても、帰って。」
「エリース!?」
「約束よ。でなければ、教都ムランへは絶対いかせないわ。
超上級妖精契約者の能力を使ってもね。」
決意に満ちた美しい友の横顔を見つめながら、私は言わざるをえなかった。
「わかったエリース、約束する。その時はあなたを見捨てて、
這ってでも、帝都に戻るわ!」
☆☆☆☆
二つの月が、煌々と涼しい光を、天地に分け与えている。
ラファイアは、その夜空に浮かんでいる。その膨大な魔力でエーテルを集め、
暗黒の妖精に似せた、蜃気楼体の分身をつくっている。
「存在するのは、50日程でいいですかね。しかし、ルービスさんは
さすがですね。昔から器用な方でしたが、土のエレメントの妖精ではないのに、
質量を持つ、分身体を作れるなんて・・・。」
ラファイアの横、強大な圧で空間が歪み、暗黒の妖精が姿を現す。
「何をしてるのよ、ラファイア。」
「帝都の護り妖精をつくっています。」
「・・・私はこんな、不細工ではないわよ。」
「それは、見解の相違というやつじゃないですか?」
ラティスも、目の前に魔法円を顕現させ、エーテルを分身体に注ぎ込み、
ラファイアと共に、分身体を完成させていく。
「・・・ラティスさん。あれは何ですか?なぜ、ユウイさんのことになると、
あんなに弱いんです?」
「知らないわよ。相性とかが悪いんでしょう。」
「暗黒の妖精様が、何を言ってるんですか。」
ラティスに瓜二つの、暗黒の妖精の姿が完成し、ふたりの妖精に会釈をし、
スッと消えていく。
「忙しいですね。今度はリーエさんですか。」
呟くラファイア。
フッと空間が揺れ、ラティスの反対の横側に、風の超上級妖精が現れる。
「リーエさん、夜の警備行動は、ちょっと待ってもらえますか。」
瞬時に風の妖精は、 私は待てる妖精さんです のポーズを構築する。
「だけど、ラティスさん。『 い、や、よ! 』とおっしゃたのは、
本当にアマトさんを、第2のオフトレに、したくなかったからですよね?」
ラファイアの笑顔に、真摯の想いが浮かぶ。
「捕囚に、戦まで組み合わせてしまったら、万単位の死者がでるでしょうね。
だとしたら結果がどうであれ、アマトは第2のオフトレと言われるでしょう。
暗黒の妖精・・・、私の契約者である限り・・・。」
「人間の寿命は短いわ、ラファイア。アマトの死後、生きた時間の何十倍もの
時間、全世界の人間に、血も涙もない虐殺者と、言われ続けるのはね・・・。」
「ラティスさんは、本当に私の知っている暗黒の妖精ですか?
そこまで、人間に入れ込むなんて。」
「アンタにも原因があるのよ、ラファイア。」
「ほぇ?」
「ノープルでアンタとも契約がなった瞬間、アマトとの間にあった壁が崩れて、
アマトのすべての想いが、私に流れ込んできたわ。」
「私はアマトの全感情を私のものとしたわ。」
「私も、契約当初からその感覚がありました。」
「不思議なものです。あの時、白光の妖精の最大の能力をもってしても、
アマトさんから離脱することが、できませんでした。」
「初めから、私の知っている、冷徹な白光の妖精ではなかったわけだ。」
「この華麗で儚げな妖精をつかまえて、どこがです、ラティスさん?」
「アマトのため、怒りで、帝都を、光砂に変えようとしたのはだれ!」
「ハハハハ、忘れてました。」
信じられない顔で、隣の妖精を見つめる、風のエレメントの妖精。
「だからこそ、この世界はおもしろいと思いませんか!」
言葉と共に白光の妖精の消え、追いかけるように風の妖精の姿も消える。
その気配を追わず、ラティスは思う。
『アマト、あんたは気付いている?ラファイアが契約した事によって、
私もラファイアも、この世界で、妖精として完璧以上の魔力を
振う事が出来るようになったのよ。』
その魔力の存するところ、ラティスは言い放つ。
「この世界の運命にアマトを導かせない、私、ラティスこそがアマトを導く。」
ラティスは夜の狭間の一点を睨む、その先には、この世界の神々を祭る
教都ムランが鎮座している。
第37部分をお読みいただき、ありがとうございます。
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本作品も、令和3年12月末で、100部分まですすんでいます。
当初から勢いだけで、書き進んでいきましたが、だんだんそのエネルギーも
摩耗してきています。
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