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ⅩⅩⅩⅡ 欺罔編 前編

第零章。バクテルミーの粛正     第4章。聖剣エックスクラメンツ(4)

第1章。教皇の捕囚計画(1)     第5章。未然の教義書(2)

第2章。聖剣エックスクラメンツ(2)

第3章。聖剣エックスクラメンツ(3)

第零章。バクテルミーの粛正



【帝都発 最高度 至急簡易書簡44号。

 暗黒の妖精に、黒の最高枢機卿と暗闇の冒険者の正体を察知され、

 暗黒の妖精契約者への粛正行動も探知された。

 かのもの達の生死は不明である。      帝都枢機卿ワザク】


 青の最高枢機卿は、予想はしていたが、予想以上の反対に悩まされていた。

何に? 紫の最高枢機卿の処分の撤回の歎願(たんがん)にである。

その原因は、紫の最高枢機卿が、大双月教国立任官学校の年度主席卒業生

だったからである。


その学校は教国の頂点学府であり、その卒業生は執政官・司法官として、

教国組織の事務部門の大半の上位官職を占めていた。

紫の最高枢機卿は、任官学校から教会にはいり、卒業生として初めて

最高枢機卿の地位を獲得したのである。

彼らは、己たちの権益の少しでも毀損(きそん)するものは、集団で表に影に

反対してくる。

なぜなら、彼らにとって、卒業時の席次が、すべての現実の利益・権益の

根本であり、死後も名誉として永続するものでなければならなかった。


いろんな書類の決裁や実務業務があからさまに遅れだした。

その中で、帝都のワザク枢機卿の最高度至急書簡が放置されていたのは、

5人の最高枢機卿を激怒・震撼させるのには充分すぎるものだった。


直ちに異端審問の騎士達を送り、己の官職を盾に審問の拒否をしようとした

年度主席卒業生だったその部署の最上位官を、その場で、背信の現行犯として

首を打ち落とした。

そして、その週の最上位官会議で、各部署の最上位官へ異端審問の騎士達に

剣を、ひとりひとりの首筋にあてさせて、その部署の業務の遅れを問うた。


ワザク枢機卿の書簡に携わる執政官・それを知る事のできる執政官の全員は、

他の部署の執政官や司法官の登庁の時間に、各庁舎の入り口で公開で

背信者として殺処分が行われた。


紫の最高枢機卿の処分は早急に動き出し、業務は(またたく)く間に進み、次年度の

予算の編成さえ、史上最も早い時期に終わるありさまだった。


ワザク枢機卿の 最高度 至急簡易書簡44号は、死懐(しかい)文書として、

執政官達の記憶に、恐怖と共に刻まれる事になる。


これが、後年、バクテルミーの粛正(しゅくせい)と言われるであろう事件の、概略である。



第1章。教皇の捕囚計画(1)



 双月教教会で会談を終えた翌日、イルムはアバウト学院へ出仕している。

アマトがあの場で言い放った、教皇の捕囚の計画を、彼女はアストリアに

計画の素案を任せようと思っている。無論、学院側の講師にもそのような事に

詳しい者もいるだろうから、協力を仰ぐために、ハイヤーン・バレン

ジンバラの三剣老に面会をしたのであった。


「まずは戦略学のノープスかの。それに帝国史学のタレラも個人的にも戦史に

は詳しかろう。どう思う、バレン老に、ジンバラ老?」


イルムの話を聞いてハイヤーン老が、ふたりに問う。


「二人が適任でしょうな。実戦、最前線の経験もありますし。」


バレン老が即座に返答をする。


秘匿(ひとく)性を考えれば、あまり多いと()れる恐れが大きくなりますし、

たしか二人とも、双月教には、あまりいい想いを持っていないはず。」


ジンバラ老も、武人の慧眼(けいがん)で賛成する。しかし自分の疑問もイルムに問う。


「なぜ、今回の計画をアストリアに()る?我らの助けは、計算に入れられての事

だとは思うが?」


「ワシもそれは聞きたい。」


バレン老もイルムを見据えて話す。


「アストリアさんが次代の軍師になって欲しいとの思いがあります。

彼女にはその才がありそうですし、ただ彼女個人には幸運なのですが、

戦場の経験がありません。それは誰かが補ってやらないと。」


「それに、全く功績がないものの言う事など、よほどの將でなければ、

聞きたくもないでしょうから。」


おもむろに、ハイヤーン老も話に加わる。


「イルム殿、あなたの〖諸国民のための統一民法典〗の話を

講師の皆にした。ルックスやウルスそしてツルスまでが、

その話に乗ってきたわい。」


「イルム殿、あなたは生き急いではおらんかの。あんたは大戦後も生きていて

もらいたい人間なんじゃ。どれだけの協力もしよう、ただ約束して欲しい

どんなに惨めであっても生き残ると。」


「そうそう、若いもんがそういう態度だと、年をくったワシもジンバラも

身の置きどころがないわい。」


三人の暖かい想いがイルムを包む。それを嬉しく思いながらも、


御配慮(ごはいりょ)感謝いたします。十分に気を付けたいと思います。」


としか言えないイルムであった。



第2章。聖剣エックスクラメンツ(2)


 

 「ラティス、こんな事してていいの。イルムに捕囚計画の話をさせたあと、

魔力で、爆睡させたでしょう。」


ツーリアは呆れて、ラティスに確認をとる。


「イルムは働きすぎ。いざとなったら、私の名に()いて、教都でも宗都でも地の底に

落してやるわよ。」


勇ましく、何気にラファイア以外の仲間にはやさしい、暗黒の妖精さんである。


「しかし皆さんよく集まりましたね。私がちょっと口を(すべ)らした程度で。」


と、にこにこ顔でラファイアが呟く。


「原因はお前か、ラファイア。」


ラティスは周りを見渡す。聖剣の持参を頼んだルリ、妖精たちの本来の

目的であるアマト、仮持ち主認定されたセプティは仕方ないにしても、

ツーリアに、フレイア・アストリア・エレナが加わり、

学院からも、ハイヤーン・バレン・ジンバラの3賢老はもちろん、

ジンバラ老の弟弟子で、新しく学院の講師として加わった、魔力槍のカザン講師

魔力矛のナザン講師も来ている。


「人が多い方が、楽しくて、いいではないですか。」


「あのね、ラファイア・・・・・。」


そこにエリースが、駆け寄ってきて、話に割り込む。


「リーエが、結界や障壁が(かす)かに()らいでいるというので来てみたら、

聖剣を持ち出してきてたのね。何のつもり、ラティス?」


「エリース、このふたりが、仲良く何かを為すというんだから、

普通の言葉に訳すと、悪巧(わるだく)みという以外のものが思い浮かぶ?」


エリースの疑問に、ツーリアが油を注ぐ。


「そうよね~!」


エリースの背後に、淡い緑光が光り出す。


「いやだな~。私がそんな事をするつもりなんか、ないじゃないですか。

ラティスさんの本心はわかりませんけど。」


ラファイアは、笑いながらも、さらりと矛先をラティスに向けさせる。

エリースが、ラティスに、言葉を続けようと数呼吸置いたため、

その間に、ハイヤーン老も、ラティスに近寄ってきて、話しかける。


「名誉学長殿、本日はご招待いただき、ありがとうございます。

聖剣エックスクラメンツですと、どこで拾ってこられた?

ホント余生の少ない老人も楽しませて、いただけますな。」


その後、子供のような顔で、聖剣を興味深く、凝視している。


さらに、


「「「ラティス~!」」」  「「「なんか面白い事するんでしょ~!」」」


この学院の最も情報強者である、ハーに引き連れられた子供たちが、パラパラと

どこからともなく、集まってきた。


「わかったわよ。みんな聖剣を試してみたいんでしょう。いいわね、セプティ

あんたが認定仮所有者なんだから、この場を仕切りなさい。」


「ほぇ~。」


急に話を振られたセプティは、奇妙な声を上げた。


・・・・・・・・


 子供たちの歓声が飛び交う集まりがバレないはずがなく、他の講師、

暇な事務官、空き時間のある学院生、出入りの商人、近所の方々など

種々雑多な人々が、三々五々集まって来て、

もはや予定されていた(もよお)しものと化している。


「エックスクラメンツは、本来、剣・槍・(よろい)の三体一対を指す言葉らしいです。

今は剣のみを示す言葉になっていますが・・・。」


「ヘ~カ~。もういいよ。早く使っているところを見せて~。」


セプティの奮闘(むな)しく、子供たちからの声が響く。

暗黒の妖精のラティスの方は、


『聖剣を見つけられたんですって、さすがはラティス様。』


とか、


『やはり、至尊(しそん)の御方は違うね。』


との学院生のヒソヒソ話が聞こえたため、上機嫌で当初の目的を忘れている。

()()が浮かれているので、ラファイアは、にこにこしながらも、

アマト・セプティに敵意があるものを、じっと観察している。

アマトに関して言えば、敵意のてんこ盛りといった按配(あんばい)で、


『おかわりできそうですね、この暗黒の妖精ラティスさんと契約している以上、

仕方ないですか。』


自分も、アマトと契約してるのは、全く考慮にいれない白光の妖精さんである。

だがセプティの方には、生暖(なまあたた)かいなりに、好意が多いのに気付く。


『帝都も以前に比べて、()()とか治安が格段に良くなってきましたし、

まず王帝にとって必要なのは、人々の生命の保障ですしね。』


今、帝都には二人のラティス様がいるという。ひとりは昼のラティス様、

もうひとりは夜のラティス様、夜のラティス様は帝都を蝕む者に情け容赦なく、

白光や輝緑の雷電をお放ちになり、闇のラティス様ともいわれている。

そして、人々は、太陽が沈むと、ラティス様は本来の暗黒の妖精に、

立ち返られるという噂が広がっている。



第3章。聖剣エックスクラメンツ(3)



 まずは、学院生が、剣組と矛組に分かれて、金属柱の試し切りとか、

己の魔力の発動を試してみる。


確かに、本人が持つ能力以上の魔力放出や、特に上級妖精契約者が使用すると、

刃面が光りを(まと)い、凄まじい切れ味が学院生レベルでも発動するのもわかったが、

反面、使用者の疲労感は半端なく、中級妖精契約者の学院生では、使用後は

大半のものが座り込み、肩で息するありさまだった。


学院生の最後に、フレイア・アストリア・エレナの三人が挑む、

凛々(りり)しい立ち姿に、観客からため息がもれる。

剣技は勇壮にして可憐。特にフレイア・アストリアの剣や矛が動いた後には

刃先の光跡が、美しい模様を描き、金属柱をなんなくスパッと切り落とす。

魔力放出による破壊には、最上級妖精契約者なみの一撃が、大気を鳴動させ、

的は完全に破壊された。

しかし美しい舞姫は三人とも、


「「「これは、自分の理性が保てないわ。何だか狂戦士化するみたい。」」」


といって、再度の剣技要求の拍手が鳴りやまなかったが、

二度目は触ろうともしなかった。


学院の講師も挑戦、ジンバラ老らの動きは流麗で、さながら剣舞のようで

見つめる観客達は、その美しい動きに、目を奪われた。

金属柱は何の抵抗もなく切り落とされ、光跡は雷光を呼び、

聖刃から放たれる一撃は、魔力障壁さえ突破し、台ごと(まと)を消滅させた。

そのすごさは、剣や矛が終動の位置に戻っても、しばらくは沈黙が支配し、

そのあと大歓声と拍手が巻き起こる、ありさまであった。


 夕食の時間が近づいて、パラパラと子供たちが帰っていく。

興味本位で集まってた人々もそれを機に、三々五々自分のいるべきところに

戻りだした。

ジンバラ老ら3人は戻る前に、ラティスの方に近づいてきて、口を開く。


「名誉学長殿、この剣はいかん。我々のような者でも、最上級妖精契約者以上の

魔力を発揮できる。たぶん、エテールを何らかの形で集結させているんだと思う。

しかし、超強力な剣は、絶対に力が持つ暗闇の世界へ、持ち主は魅了される。」


「2世陛下が、【平世の奸剣】と喝破(かっぱ)されたのもわかる。

これは、戦を呼び込むものだ。生半可(なまはんか)の者では、

剣に使われてしまうだろう。」


彼らの後ろで、剣と矛の刃面が妖しく光っている。


・・・・・・・・


 鼻歌を口ずさみながら、ラファイアが聖剣に近づく、そして触れもせず

ジロジロと(つか)の部分を(なだ)める。


「ははは、見つけましたよ、ラティスさん。アルケロン(じるし)ですよ。

ほらここ、ここ。」


ラファイアが、柄の部分に、白金に輝く小さな魔法円を構築し、

魔法式を浮かび上がらせる。


「なに、ラファイア、アルケロン印!なるほどね。」


「なにかしらの魔法式が組んであるとは、想像してたんですが、

ラティスさんのような性悪な魔力の発現法、どうにもおかしいでしょう。

だけど、これだけのいろんな人が試してくれたので、私の目を誤魔化(ごまか)すことが

できなくなりましたね。」


ラティスの頬がヒクヒクと動いている。アルケロンの名に余程(よほど)の思い入れが

あるらしい。ラファイアにさり気なくディスられているのに、

気付いていない。


「ラティス、アルケロンって?」


ツーリアが、無邪気にたずねてくる。


「あんたの本体の(ゆが)みねくらが、ラファイアを『顔も見たくない。』って

言ってたでしょう。」


自然なラファイアへのディスりか、記憶の改ざんか、初めに言葉を置くラティス。


「私にとって、アルケロンは顔を見たら、ぶっ飛ばしてやりたい相手なのよ。」


「アルケロン()()()に関して言えば私も同じ意見です。」


めずらしく、ラファイアも同意する。


「あいつ、こんなブータれたもの、仕上げていたのね。」


ラティスの目が聖剣に光る。聖剣の刃面の光が無くなり、刃面に大粒の水滴が

浮かんでいる。


「私も試してみたい、セプティいいかな。」


背後の妖精と妖精もどきのやりとりを知らないルリが、お気楽に声をかける。



第4章。聖剣エックスクラメンツ(4)



 先ほど、ラティスに文句を言ったものの、エリースも矛を持って闘技場に

立っている。

ルリは剣。ふたりがゆっくりと始動をおこなう。すぐに速度が上がり、切っ先が

見えなくなる。

光跡が緑色の雷光を呼び込み、美しい模様を描く。

金属柱は、二つが四つに()ぎ落とされる。

聖刃から放たれる一撃は、やはり魔法障壁を突破し、台座ごと的を破壊する。


「は~無理、無理。聖剣に心を持っていかれそう。命のやり取りをする場では、

いつもこんなに冷静ではいられないからね。」


大粒の汗を額に浮かべ、ルリが呟く。


「エリース、あんたはどうだったの?」


ツーリアが、エリースに話かける。


「ま、邪魔にはならないってとこかな。」


興味なさげに、エリースが、答える。


「あんたの場合、リーエがいるからね。聖剣の有無で魔力が左右される事は

ないでしょうね。」


あの立ち合い以来、ツーリアも積極的にエリースやセプティと係わり

話をするようになっている。


急に顕現(けんげん)したリーエが、そうです私って凄いんです ポーズを決める。


「そろそろ、撤収しようか?」


能天気に、アマトが残っている皆に声をかけた。



・・・・・・・・


「は~!?」


「何を言ってるんですか、アマトさん。」


ふたりの妖精がアマトを睨む。


「え!」


ふたりの妖精がアマトに詰め寄る。アマトは悪い未来しか思い浮かばない。


「これだけの人が、聖剣を試してみたのよ。なぜ『トリに自分が。』って

言えないの。」


「そうですよ、アマトさん。最後にいいとこを見せようとかいう、

気概(きがい)はないいんですか?」


ふたりの妖精のいつもにない詰め方に、周りは唖然(あぜん)と見守っている。

さすがに気の毒に思ったのかセプティが、


「あの、ラティスさんに、ラファイアさん。」


と声をかけるが、


「セプティ、あんたも聖剣を試しなさい。」


「そうですね。セプティさんだけにさせるなんて真似は、アマトさんも

しないでしょうから。」


と、墓穴?をほってしまう。


「わかったよ。やるよ、やるよ。」


なぜふたりの妖精が、眉間にしわを寄せて詰めてくるのかわからないが、

取り敢えずアマトは台座の方に向かおうとする。


「ちょっと待ちなさいアマト。」


「アマトさん、ちょっとおまじないをするから、待ってくれませんか。」


とふたりの妖精は、台座の方へ向かい、皆に気付かれないように

エックスクラメンツに、凄まじい笑顔で語りかける。


「アンタ達、元ネタはバレてるんだから、失敗したらわかっているわよね。」


「『お仕置きだべ~。』という言葉、現実に味わいたいですか?」


ラティスは、剣をアマトに。ラファイアは矛をセプティに渡す。

もはや、二つの刃面は蒼白と化し、水滴がボタボタと地面に落ちている。


まずは、セプティが、聖矛を持ち、魔力の発動を試みる。

全く反応しない。

刃面が、橙色に変わるが、何も起こらない。

見かねて、エリースとツーリアが、セプティの元に駆け寄る。

何らかのやり取りがあって、エリースとツーリアが離れる。

刃面が、素色から、再び橙色に変わり、更に真っ赤に変わる。

セプティの周りの大気が鳴き、空間が(ゆが)む。

やっと、刃先から若干の火花がとぶ。


「やった~。反応してくれました。」


セプティが、飛び跳ねながら戻ってくる。聖矛の刃面は真っ白と化している。


いよいよアマトだ。異様すぎる緊張感がふたりの妖精と聖剣の間に流れる。

アマトが、競技場に立ち、聖剣を両手で(かが)げる。

やはり何の反応もしない。刃面が素面から、橙色から赤色にさらに真紅に変わる。

大気が鳴き、空間が(ゆが)み、光が舞い狂う。

しかし、火花どころか、何の魔力の発現も現れない。


「エックスクラメンツ!!」


怒りのあまり、ラティスが大声をあげる。

次の瞬間、音も、光も、空間の(ゆが)みさえ消え、聖剣の刃面は真紅から紫色に、

そして真っ白に変わり、グニャッと中折れした。



☆☆☆☆



 いつぞやのように、黒と白の妖精が夜空に浮かんでいる。

ただ二人とも、見るからに疲れ切っている。

二つの月がなげやりに、くるおしいほどに美しいふたりの人外を、

照らしている。


「ラティスさん、聖剣には私の魔法式も組み入れましたので、

今後は戦いに飢えて狂走するようなことは、ないと思います。」


「・・・・・・・・。」


「どうしたんですか?」


「あのアルケロンよ。あの狂気のオタク妖精よ!あいつの(しるし)のある剣でも、

火花の一つもでないというのは、どういう事よ。」


「それがアマトさんの、アマトさん所以でしょう。」


「私とアンタよ、妖精界の頂点にいる妖精よ。それに、あのオタクの狂気を

加えても、何も起こらなかったのよ!」


「ラティスさん一緒に、妖精界の笑い者になりましょうよ。」


「嫌よ。その栄誉はアンタに譲ってあげる。」


やれやれという色が、ラファイアの顔に浮ぶ。


「じゃ、アマトさんが亡くなるまで、どこかでふて(くさ)れて待っていれば、

いいんじゃないですか。」


「それは、もっといやよ!」


ラファイアは、(かす)かに笑いながら、この場をしめる。


「だったら、あきらめましょう。」 



第5章。未然の教義書(2)



 その塔の中の一室に続く廊下は、警備が厳しく、毎日のように通う

教導士のカシノでさえ、騎士達に途中何回も検査のため、

持ち物を改めさせられる。

最終の検査場では、女性の騎士により、全裸にされ全身を検査され、

所定の衣服が渡され、やっと(いの)りの小部屋の控えの部屋に通される。


猊下(げいか)、カシノです。お言いつけの教義書をお持ちいたしました。」


小部屋から、疲れた表情の教皇67世が現れる。

カシノ教導士が、2冊の偽典、〖未然の教義書〗を差し出す。


「カシノ教導士。これです、これです。やはり、教会の大書庫にありましたか。

本当にありがとうございます。」


子供のように喜ぶモクシ教皇に、カシノ教導士は当然の疑問をぶつける。


「なぜ、この誰もが見向きもしない教義書を、お求めになりましたのですか?」


「そうですね。では、カシノ教導士。なぜこの教義書が見捨てられたのかは

ご存じですか?」


「当教会の黎明(れいめい)期につくられたこの書の内容は、1000年前の暗黒の妖精の

出現を預言していましたが、その前後の出来事があまりにも史実と

異なっていたために、見返られなくなったと記憶してます。」


「書の中身を読まれましたか?」


比喩(ひゆ)暗喩(あんゆ)や文字遊びが多くて、よくわかりませんでした。」


「そうですか。」


モクシ教皇は少し残念そうに(つぶや)く。

カシノ教導士は、具体的な事柄を出してみる。


「例えば、暗黒の妖精は、3つの顔を持つとはっきり〖未然の教義書〗に

記されていましたが、どの歴史書にも、暗黒の妖精にそのような外見

だったとの記載はありませんし、その比喩(ひゆ)が意味する事象も

なかったとしか思えません。」


「だったら、こう考えられませんか。教義書が間違っているのではなく、

読み手の解釈が間違っていたと。」


さらに、言葉を続ける。


「この書で唯一はっきりしているのは、暗黒の妖精の出現と双月教の危機です。

しかし、この書のどこにも、暗黒の妖精の出現のため双月教の危機が

引き起こされるとは、記載されていません。」


「≪危機≫というのは、我々が黎明(れいめい)期に書かれた〖未然の教義書〗の中の言葉

クリーネンを、危機と訳したからですが、私が調べたところ、

当時クリーネンという言葉は、【蘇生】という意味が

一般的であったとという事です。」


「であれば、暗黒の妖精の出現と双月教の蘇生という意味にとれるでしょう。」


モクシ教皇は、そこで一息入れる。


猊下(げいか)は、この書が、1000年前の事ではなく、今現在を予言していると?」


カシノ教導士は、ハッと気付いたように、教皇に尋ねる。


「この書には、何かの出来事のため教皇のなり手がいなくなり、低き者が

戴冠(たいかん)するだろうと読める記載があります。」


「それにこの教皇は、2度の捕囚を受けるそうです。」


「失礼ですが、猊下(げいか)の読み違いというのも、考えられるのではありませんか?」


「そうですね。それも十分に考えられますね。」


モクシ教皇は、あの出来事のあとも、ただひとり側仕(そばづか)えをしてくれる

カシノ教導士に、柔らかい笑みを向ける。


「それになぜ、2冊も同じ教義書を、お求めになったんですか?」


「もう1冊は、カシノ教導士、あなたに読んで欲しいのです。」


「この書の中に、拝金の国から来て、崩壊して拝金の国ではなくなった

場所に戻るか迷う、教皇の女弟子と思える人の記載もあります。」


「それが、私であると?私は生涯猊下のお側を離れたくありません。」


「そうですか・・・。」


会見に許された時間は直ぐにきて、カシノ教導士は控えの部屋を後にせざるを

えなかった。

そして部屋を後にする、1冊の未然の教義書を持って。



第32部分をお読みいただき、ありがとうございます。



(作者からのお願い)


本作品も、令和3年12月末で、100部分まですすんでいます。

当初から勢いだけで、書き進んでいきましたが、だんだんそのエネルギーも

摩耗してきています。

こういう状態ですので、ブックマークをいただけると、励みになります。


作品を続ける、新たなエネルギーとなりますので、

本小説を、今後ものぞきにきてもいいよというのであれば

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