ⅩⅩⅩ 綺想編 中編
第1章。非日常の日常 第4章。追加入学者の入学式の影で(1)
第2章。信仰と宗教と金貨と(2) 第5章。追加入学者の入学式の影で(2)
第3章。信仰と宗教と金貨と(3)
第1章。非日常の日常
ラティスとラファイア、それにイルムもその場で、聖剣の力を解放して
みたかったが、幼い時にクルーに、よく遊んでもらった記憶のある、
セプティの落ち込みはひどく、
それにツーリアも、『じゃ。』と一言残して、
なぜか急に、その場から翔び去ったので、
確認を行う雰囲気ではなくなった。
聖剣が取られ、残された金属の台座に、ラファイアが、
〔セプティの年長の友、クルー、ここに眠る]
融解の魔力で文字を書き込み、彼の墓碑銘とする事で、彼女の心に寄り添う。
皆の心遣いに感謝し、真摯に祈るセプティ。
「ある日、『長い勤めになる。』とお別れの挨拶をおっしゃって、
その後お会いする事は、ありませんでした。」
「今ならわかります。クルーさんは真っすぐな人でしたから、帝宮の人達に
嫌われていたのかもしれません。」
「けど、こんなところで、誰にも知られずに、お亡くなりになってたなんて。」
セプティは、誰に話すとなく、ひとり言のように呟く。
太陽が、大地に口づけをする頃、アマト達は、その地を離れた。
☆☆☆☆
ラティスもラファイアも、聖剣を使った自分達の誇りをかけた大命題に、
本当はすぐにでも、取り掛かかりたかった。
ただセプティが母親から聞いた、
『英帝と呼ばれたアバウト2世が、【これは乱世の能剣 平世の奸剣である】
と宣言し、封印させ隠したのよ。』
という秘話を聞けば、どうしてもイルム抜きでの確認は、無理がある。
しかし、誰がみても働き過ぎの元クリルの軍師に、責務を振るのは、
『これ以上の負担はかけられない。』と、キョウショウが主張し、
全員が無言の同意を示している。
【敵対している国の有能な宰相が、夜も寝ずに働いている情報を掴んだ将軍が、
小競り合いを頻繁に繰り返す持久戦を仕掛け、宰相を過労死させた戦略】は、
誰もが知ってる話だから。
・・・・・・・・
今はとにかく、時間と人手が足りない状態で、まずセプティが学院側から、
特別な講義の組み立てをされ、自由になる時間がなくなったため、
ユウイの織物の手伝いと、この家の掃除や食事の用意のため、
ギルドを通じて、新しくガルスの町の孤児院出身のカオ・ルーを
メイドとして雇い入れている。
テムス側のやり取りはアストリアが、学院側のやり取りはフレイアが補助に
入る事になった。セプティの警護は今までどおりエリースとエレナが担当
している。
ルリは、しばらくの間は、ノマ他30人のコウニン王国の暗殺者達の
心の回復に力を注がざるを得ない。
学内の一部にいる不穏な人間については、ツーリアの方から、
「おいたしたなら叩くから。ただし、レアヘタレさんを撒き餌にするので、
よろしく。」
と協力の申し出があっている。
そのアマトも、学院側講師達から出される課題に、時間がほぼ無い状態だ。
暇を持て余してるのは、妖精のラティスとラファイアで、今度アマト達に内緒で、
テムスの伝説の火の妖精ルービスのところへ、遊びに行こうと、
紳士的な話し合いをしながら、裏では良からぬ事を画策している。
ラティスは、『顔も見たくない。』と挨拶をしてきた、ルービスを
不快にさせて、放たれれる怒りの白色の爆炎を、ラファイアが
躱せぬタイミングで、自分だけ避ける術はないかなどと考えていて、
ラファイアはラファイアで、たぶんラティスがルービスを怒らせて放つ炎を
自分だけに向けさせようとするだろうから、数十の障壁を屹立させ、
ラティスだけに、もろ炎と直面する展開にもっていけないかと
段取りを思考している。
こういう下らぬことには、自分の全知全力を傾ける、つくづく残念な
黒と白の妖精さんである。
第2章。信仰と宗教と金貨と(2)
たまたまとか、偶然とか、という言葉がある。歴史書には1回しか名前は
出てこないが、その人物の言葉・行動が歴史の流の分岐点になる事が、
往々にしてある。
黒の最高枢機卿の帝都における手札の1人、ナフ副司祭は、やはり手札の1人である
ナヤ司祭の命令で、王国連合の共都ノストに向かう帝国本領の国境の町
コツに来ていて、布教者の仮面を被りながら、この方面の索敵をになっていた。
暗黒の妖精が帝都を本拠としたことにより、様々な理由をつけて、
ワザク枢機卿とヨスヤ教導士見習い以外の宗教者が、帝都より逃げ出したため、
仕方なく、ナヤ司祭をはじめ、帝都ならびにその周辺広域の手札たちに、
黒の最高枢機卿から、教都ムランへの帰教命令が出ている。
『ナヤの野郎、己だけうまい汁を吸いやがって。』
とは、思ってみたものの、黒の最高枢機卿に逆らう術もなく、
コツの町の教会に待機させられていた。
本国より、
『(黒の最高)枢機卿自身が、大いなる祝福〈闇の冒険者〉と共に帝都に
布教にお入りになる。早々に帝都に戻る準備をしとくよう。』
との秘匿文字で書かれた便りがきたあと、
黒の最高枢機卿は勿論、本国からの通知も絶えてしまった。
さすがにナフが焦りだした時、教会に、見知った顔の来客があった。
「これは、オベレ様ではありませんか。今日は岩塩の商いでコツの町に?」
「いえいえ、帝都では商売がしにくくなりましてな。ノストの方を中心に
商売をしようと思って引き揚げて参りましたところ、
こちらでナフ様が布教に従事されているのを思い出し、
帝都ではお世話になりましたので、
ご挨拶をと。」
ニコニコ微笑む、好々爺としか見えないオベレ、無論ナフは彼の裏の顔が、
戦争商人で、王国では別の名があるのを知っているし、
ナフの正体もオベレは知っているだろう。
「それはそれは、ご丁寧に。その御好意、ナヤも喜びましょう。」
「う~ん、やはりご存じではなかったか。今、異端審問の騎士達が動いてる
という噂がありましてな。ナヤ司祭も背信の御疑いがあり、拘束なされたとか。」
「そういえば、ネテウ67世猊下も、祈りの小部屋から出てこられぬとか、
そいういう話もございますな。」
さすがにナフは動揺するが、微塵にもその動きをオベレに悟らせない。
そして、戦争商人はあるまじき、このような義理堅さが、オベレを今日まで
生き延びさせてきたという事も、ナフは情報として掴んでいる。
「いや、ナヤ司祭は、熱心な宗教の徒であられますから。
なんかの間違いでしょう。」
「それに、67世様は、教皇猊下になられる前から、そういう生活を送って
おられましたし。」
「そうだと、よろしいですな。しばらくの間、帝国には戻りませんので、
お借りしたものは、お返ししとかないとと思いましてな。
では、供の者達を待たせておりますので。」
椅子から立ち上がるオベレ。同じようにナフも椅子から立ち上がって、
答礼の挨拶を行う。
「オベレ様に、神々の御加護があらんことを。」
と。
オベレが教会を出て行った後、ナフの頭は全力で回転する。
『恐らくは、闇の冒険者も黒の最高枢機卿も暗殺に失敗し、生きてはおるまい。
ナヤが異端審問の騎士達に拘束された。ナヤは、偽りの背信の言質を取るまでは
生かされているだろう。
教国が考えているのは、恐らくは、暗殺の行動の完全なる隠蔽。
帝都とその周辺にいた、黒の最高枢機卿の手札は、どこに逃げようが
追手がかかる。
生き残るためには・・・・。さあ、考えろ。」
狩る方に、組織を生き延びさせるための理由があるとすれば、狩られる方にも
己が生き残るために反抗する必然がある。関係ない他人からみたら滑稽でも、
命のやり取りをさせられる方は、お遊びでは済まない。
文字通り、命をすり減らす考察の結果、ナフは一つの結論に、
たどり着いていた。
第3章。信仰と宗教と金貨と(3)
ワザク枢機卿が、いつものように辻説法をし教会に帰ってくると、
ヨスヤ教導士が駆け寄ってきた。
「ワザク様、裏門のところに、ひとりの男がずっと佇んでおります。
暗黒の妖精の手の者でしょうか?」
「めったな事を言うんではありません。確かに暗黒の妖精は、底知れぬ力を
持つ人外ではありますが、かの者が我々のところに来るのなら、この前のように
堂々と表の門から来訪するでしょう。その仲間とて同じでしょう。」
けれども、若いヨスヤ教導士を安心させるように、柔らかく笑い、
「ヨスヤ教導士、ギミヤ司祭補を呼んできて下さい。ふたりで会ってみましょう。」
・・・・・・・・
裏門から、ワザクとギミヤが出て行く。男は全く動こうとはしない。
ワザクが男の前に回る。男は自分で、頭部のフードをあげる。
「ナフ副司祭!?確かコツの町の周辺で神々の栄光を説いておられたと
お聞きしましたが。」
「ここでは・・・。」
そう言ったあと、何も話そうとしないナフを、
ワザクとギミヤは、教会内の小部屋に案内する。
「先ほどの話ですが。」
ワザク枢機卿が、改めてナフ副司祭を問い詰める。なぜ、教会の指示なしに
帝都に戻ってきたのかと。
「やめましょうや、ワザクさん。あんたも気付いていたんじゃないか?」
「なんの話ですか。」
「なるほど、若い奴の前では、双月教の正体は教えたくないか。」
ナフの顔は醜いほど歪んでいる。
「あんたは帝都では、信仰の人として通りがいいらしいな。」
「だが、信仰の人だと、笑わせる。あんたらが祈りをのんびりできたのは、
歴代の黒の最高枢機卿様をはじめ、我々手札が、邪魔な奴らを片付けるという
汚れ仕事をしてきたためよ。」
「黒の最高枢機卿、そんな役職はなかったはずですが?」
「ふん、それがあるんだな。教会に反対する者達を、粛々と粛正していく
要職がな。」
「そこでは、妖魔とすら取引し、闇の冒険者と命名して、暗殺部隊として
使っていた。」
「けどな、暗黒の妖精が本当にこの世に蘇ったせいで、俺たちはお払い箱。
背信者という濡れ衣を着せられて、異端審問の騎士に
始末される側になっちまった。」
薄ら笑いと共に、双月教の一面の真実をぶちまけるナフ。
「馬鹿な、それは異教徒とか異端者とかが、正統派教会を貶める、
教会伝説の類でしょう。」
若いギミヤが激昂して叫ぶ。
「いや、私も若い時に確かめた事があります。確かに色々な痕跡はありました。
だが実態は、全く影さえ掴めなかった。」
「当然だ。口にした者、耳にした者、子供でも容赦なく神々の御許へ、
俺たちが送ってやったからな。」
「しかし今、黒の最高枢機卿も闇の冒険者も、連絡がつかねぇらしい。
繋ぎに帝都に残ってた奴も、帝都の周辺に奴らが来たとこまでは、
奴らの行動は掴んでいたがな。まあ、暗黒の妖精に排除されたと考えるのが
普通だろうな。」
「わかりました。いつかそれを見逃した報いは受けましょう。ただナフ副司祭、
ここに懺悔にこられたわけでは、ありますまい。」
「ほう、信実を聞いてまだオレを、副司祭と呼ぶのか。あんたも、なかなかだな。」
「なんとでも。で、御用の要件をお承りましょう。」
「ま、オレもあんた達、信仰の人をどうこうしようと思わねえ。」
「オレの望みは、暗黒の妖精と話をしたいんだよ。その時はあんた達と
オレを見張ってた教導士のお嬢ちゃんも一緒にな。」
「急がないと67世のおっさんも、不本意な殉教というはめになるぜ。」
第4章。追加入学者の入学式の影で(1)
南中した太陽の光が差し込む部屋の中に、ふたつの人影が座っている。
「ラティス、あんた名誉学長だけじゃなく、確か最高顧問の肩書も
名乗っていたわよね。式には出なくていいの?」
と、こちらも新入学生のくせに、名誉学長室で香茶を飲んでいるツーリアが
至極真っ当な問いかけを、暇そうな妖精にする。
「私はアマトと契約した妖精なのよ。アマトが出ているなら別だけどね。」
不思議そうな顔でラテイスの顔をみるツーリア。
そう、とても殺戮の妖精という、人外の口から出るセリフではない。
「私の代わりに、私の姿であの出たがりの、バッタもん妖精が席についているし、
超上級妖精のリーエも空から警戒している、たとえ斥候者の仕入れ元から
違う指示がきていても、奴らにおいたは出来ないだろうしね。」
「ところで、セプティにしてもアマトにしても、テムスにというか、
新帝国自体にも何の拘りもないわ。それはわかってるわよね。
用は済んだはず、あんたはテムスに戻らなくていいの?」
香茶ポクルムを、優雅に口から離し、ツーリアはいたずらっ子ぽい
表情を顔に浮かべて、ラテイスに問いかける。
「ルリさんをくれるなら、いつでも退学して、テムスに戻るわよ。
この香茶味わったら、他のは飲めないわ。」
「それはダメよ。上手い香茶の混ぜ手と温泉は、渡せないわ。
新帝国なら、のしをつけて、くれてやるわよ。」
即答するラテイス、そこに躊躇いの表情はない。
「あ~あ、人生って、うまくいかないものね。」
穏やかな時間が、妖精と妖精の分身体の間に流れていく。
「ところで、ラテイス。アンタにしても、ラファイアにしても、私の正体は
気付いているでしょう?」
「ルービスの分身体というとこかしら。アイツは昔から器用だったからね。
火の妖精で分身体をつくれるのは、アイツぐらいじゃない。」
「ふ~ん、そうなんだ。けど、正解は保留とさせていただくわ。」
「だけど、もし私がアンタが言う分身体だとしたら、
寿命はどれくらいと思う?」
ラテイスは一瞬、ツーリアの方を凝視して、そして答える。
「もって1年。土の妖精がつくった分身体なら、契約者が亡くなるまで
もたせる事は出来るだろうけど。」
微かな笑いを浮かべ、ツーリアは遠い目をして、言葉を並べる。
「ルービス様は、ファウス様を非常に愛しておられて、テムス大公国に
火の粉が降ってこない限りは、国外に出ないというファウス様の生き方を
良しとしていらっしゃるわ。」
「けどね、ルービス様の根源は、激しく鮮やかに燃えさかる炎なの。
流れに掉さす生き方は、ルービス様の本質ではないわ。」
「私は、ルービス様の心の葛藤が生み出した影。だけど影ゆえに、
私は私という存在を、このくだらない世界の、時の流れに刻みたい。
だから、テムスには戻らない、ここにいる。
あんたたちが歴史を動かしそうだからね。」
香茶の香りが、ゆっくりと流れる。
「好きにするといいわ、テムスの宿舎を、追い出されたらうちにくるといい。
ひとつ覚えといて、私もラファイアも、あんたをルービスの分身体とは
思ってはいないわ。」
「あんたはあんたよ。他のなにものでもないはず。」
第5章。追加入学者の入学式の影で(2)
式が終わった雰囲気が、名誉学長室にも漂ってくる。
それに合わせて、部屋の外に、巨大な魔力と圧が近づいてくる。
やがて、もうひとりのラティスがはいってきた。
「おつかれさま。あんたもラティスの影武者までしなければならないって
たいへんね。」
一仕事終えて来ましたよとの風情のラファイアを、ツーリアが気遣う。
「いえいえ、ラティスさんが出たら、廃校の決定日になるかもしれませんしね。
それよりも、魔力を【どうだ!】とばかりに周りに拡散するのは、
何回やってもなれませんね。」
ラティスはラファイアの言葉に反応しない。
「あれ、どうしたんですか、ラティスさん。ここは突っ込んでくる
ところでしょう?」
ラファイアは、光折迷彩を解いて、本来の姿に戻りながら不思議がる。
少し遅れて、淡い緑の光に包まれて現れたリーエも、⦅なになに教えてよ⦆
ポーズで、3人の顔を見渡す。
「うるさいわね、ふたりとも。わたしのように妖精の頂にいる存在は、
時間の流れに澱みができてないか、心静かにこの世界の外側を、
内観する日もあるのよ。」
「はあ~。」と誰のかわからないため息が名誉学長室に流れるが、
その後すぐ、4人の目は、部屋の扉に注がれる。
扉が叩かれ、ノリアが部屋に入ってくる。チラリとツーリアを確認する。
「あ、いいわよ、ノリア。なんかツーリアにも関係ありそうな事じゃないの。」
ラティスの妖精としての視界は、もう何かを捉えているようだった。
「では、テムス大公国の代表者と言う事で。」
ノリアが、有能な事務官としての側面をみせる。
「学長。双月教教会のヨスヤ教導士が、お会いしたいとおみえになってます。」
☆☆☆☆
『これでは、話合いになりませんね。』
ノリアが入ってきた途端、姿をラファイアとリーエは消している。
ノリアとツーリアも気を利かせて、席を外した後、
ラティスと1対1になったヨスヤ教導士は固まっていまい、
一言の言葉を発することもできない。
それどころか、視線は宙を彷徨い、呼吸は激しいものに変わり、
全身が小刻みに震え出している。
その情景を見かねたラファイアは顕現し、ラティスの後頭部に
ネコパンチをくらわせ、素早くヨスヤの背後に回り、魔法円を作成し、
緊急手段で、彼女の緊張状態を解放させる。
「ラファイア!何をするのよ?」
ラファイアは、いつかのデコピンの仕返しですよと、内心では思いながらも、
「ラティスさん、これだけの圧をかけて、睨み殺すつもりですか?」
と、きわめて真っ当な返答をする。
「え、アマトと初見した時の、ほんの何十分の一しか圧はかけてないわよ。」
「アマトはそれでも、『だったら殺せ!』と元気な返事をくれたし・・・。」
「妖精契約史に残るような、ぶっ飛んだ契約をなさったのはわかりました。
けど、普通アマトさんみたいな人間はいませんから。」
なおも、ブツブツ言っているラティスを無視して、ラファイアは全力で
ヒールをヨスヤ教導士におこなう。
『ラティスさんも、たいがいな妖精とは思っていましたが、アマトさんも
初見で、ラティスさんに{だったら殺せ!}と言い放ったんですか、
私でもそんなこと、ラティスさんに言えませんよ。』
『アマトさんも、ラティスさんに輪をかけて、かっ飛んでいるんですね。
いや、いわゆる似た者同士ってやつですか。』
『とにかくそれを知った以上、今後は、妖精界一の良識派たる私が、
しっかりしないと。』
と、ラファイアは、決意をあらたにする。
けれども、たぶん全く悪気はないのだが、帝都を流砂に変えようとした行いは、
ラファイアの記憶の中から、けし飛んでいる。
やがて、ヨスヤの目に生気が戻ってきたものの、今度は子供のように
泣きじゃくり出してしまう。
リーエも姿を現し、⦅あきれた⦆のポーズでラティスを責める。
なんとか、ヨスヤが落ち着くのを待って、執事の姿になっていたラファイアが
訪問の目的を聞き取る。
ワザク枢機卿がなるべく早い機会に、ラティスと話し合いの場を持ちたいとの
申し出を、礼法に則って、ヨスヤを派遣したみたいだった。
『こちらは4人、そちらは何人でも。場所・日時はお任せする。』との打診だった。
☆☆☆☆
その日の夜、ラティスを中心に、イルム、アマト、ラファイア、エリースが、
食堂兼居間に集まった。
ラティスが珍しく、話題の口火を切る。
「双月教会の私に対する用ならば、ヨッシャの原野で、暗黒の妖精たる私に
1000年前の報復戦をやりたいという果し状を渡すという事かしらね。
私はいつでも準備できるわよ。」
「ばかか、却下!」
エリースがすげなく、その言葉を全否定し、イルムの方に水を向ける。
「義兄ィに、破門状でも、渡すという事かしら?」
「それはないでしょう。でしたらアマトさんを指名してくるでしょうから。」
「しかし、ナフ副司祭という人物が気になります。この頃帝都に戻って
きたというのが。なにかやっかいな物事を持ち込んできたような匂いが
プンプンします。」
「しかし、あまりにも情報がありません。ラティスさんにアマトさんと私。
それに、ラファイアさん、影供を頼めますか?」
全員の同意をイルムは確認する。
「後は場所と時間ですね・・・。」
少しの時間、考えを巡らせるイルム。
「向こうからぼろを出すかもしれないので、教会にしましょうか。」
「こちらから返事を出したあと、ルリとノマさんに忍び込んでもらいましょう。
もし、ノマさんが今後、私達と一緒に行動するなら、能力のほどを
確認する必要がありますからね。」
第30部分をお読みいただき、ありがとうございます。
(補足いたします)
影供⇒警護する対象を、隠れて警護する警護者。