ⅩⅩⅥ 潮汐固定編 前編
第1章。2⇆6⇆2の通式 第5章。追加試験前夜
第2章。星降る夜に
第3章。星降る夜に(2)
第4章。星降る夜に(3)
第1章。2⇆6⇆2の通式
イルムが、平然と400名しか期待していなかったと口に出した事、
それはあの場にいたアマトを愕然とさせた。
自分の生命、家族の将来に関わる決断した事でも、2割の人間がその決断を
裏切るだろうと、予見したという知性。
そして、それが現実になった事に、感情を揺らさず、いや達観としか思えぬ態度を
とった事にも。
アマトは、2割の人間が裏切りを予測したイルムの慧眼とその達観の理由を
知りたいと思った。
・・・・・・・・
そう、初めて黒い森の中で、彼らと出会った時を、僕は思い出していた、
メライ老はじめとする創派の代表たちは、僕たちを疑ったリョウリ將も含めて、
自分たちの死も覚悟していた。
僕も、エリースもユウイ義姉ェも、その覚悟に打たれ、協力を誓い、
自分達に起こるかもしれない、万が一の事さえ、受け入れようと思った。
子供のために、涙を流し、ラティスさんに頼み込んだ母親の姿。
しかしなんでなんだ? 自分の住処がなくなってしまうのなら、住んでいる人は、
全員一致団結して災いに抗う。
このあたりまえと思える事でさえ、物語の中にしかありえないものなのか?
湧き上がる感情にのまれて、押し流されてしまう。
そこに落ちてしまったら、【ラファイスの禁呪】の講義の後と一緒ではないか、
同じ過ちは犯してはいけない。
僕はイルムさんに声をかけていた。
「イルムさん、2⇆6⇆2って、何ですか?」
・・・・・・・・
「イルムさん、2⇆6⇆2って、何ですか?」
アマトの坊やが、声をかけてきた。
創派の將たちとの話合いで、私が出した組織における通式の説明かと思って
顔を見つめてみた。
少し前までは、すぐに顔を赤らめていたのに、この格好に慣れたのかな、
下らぬ事も思ってみる。
『ちがうわね。』
通式の話ではないようだ。
『では何?あと考えられるのは、人々の裏切りのことか!』
戦いのなかで、裏切りを当然すぎるものと、見せつけられ、そういうものだと
人間を判断していた私の感性にも?が、ついたのか・・・。
そこは違うようね。
ほんと、この坊やは・・・。もっと幼かったら、抱きしめてやったろう。
わかる、心が泣いているのだ、善人なんだ。
人の善意を信じている。全力でそれに応えようとする。
しかし、簡単に人は裏切ってくる。講義の時もそうだったしね。
『だから、まずは理屈で納得させたいの。いいわ、2⇆6⇆2説明をしてあげる。
けど、それから先は、自分で乗り越えて。』
『待てよ、だったら、当事者の私がするより第3者の説明の方がいいか。』
横で、テムスとの秘匿条約の素案を精査していたルリに話しかける。
「ルリ、ごめん。アマト君に、2⇆6⇆2の説明をしてくれない。」
・・・・・・・・
「ルリ、ごめん。アマト君に、2⇆6⇆2の説明をしてくれない。」
え、私が?イルムは何を? そうか!近々に行う、テムスとの交渉のため、
キョウショウと膝を交えた、聞き取りの時間が必要か。
キョウショウも、第3者に聞かれたくない創派の秘密もあるだろう。
「わかったわ、イルム。」
私は、アマトの方に体を向きなおす。
「アマト君、今日の夕方、フレイア達がくるわ。その時一緒に説明するわ。
彼女たちも知ってた方がいい、通式だから。」
「わかりました。お願いします。」
アマトが答える。知りたいと思う、坊やの瞳が眩しい。
『なんかいいわ。カイム姉さんも擬態の最中に、こういう気持ちを味わって
いたの?』
『どうだったの、姉さん。』
私は、ふたりの妖精に解放された心で、優しかった姉を思い出していた。
☆☆☆☆
「・・・・・以上が7変8化けと言って、暗殺者が
擬態しやすい職業。時間がない時は、これだけでも最低おさえとくといいわ。」
いつもの、フレイア・アストリア・エレナに併せて、今日は、セプティ・エリース
そしてアマトも参加し、頷いている。
『フレイア達3人に、セプティの警護をするにあたり、暗殺者の目線の知識が
欲しいと言われて話すのも、終点に近いわね。』
『本来なら、ここまで知らなくてもいい知識、でも警護の人手もないから、
しばらくの間は、自助努力が必要ね。』
いつもの話はここで終わる。
『イルムが思う仔細は聞いた、ひとりの人としては素晴らしく、哀しいことだわ。
さあ、アマト坊やの質問に答えるか。』
「アマト君が、朝聞いてきた、2⇆6⇆2だけど、人が集団になったとき、
とりうる本質と言っていいかしら。」
「つまり10人いたら、最初の2人は積極的に行為をなす。中間の6人は
それなりに事をする。最後の2人は何もしないか、もしくは邪魔でしかない。」
「不思議な事に、私が暗殺を生業とした時、警護の者は大体こうだったわ。
だから、新手の警護者が来ない状況だったら、積極的に警護をする2人を
どうにかしたら、簡単に成功したわね。」
「その2人以外は、『わが身に変えても。』と、剣に誓っていても、
全くの嘘か、その場で、都合よく体が動かなくなるかだったりしてね。」
「ルリさん。それは、戦の中でも通用するのかしら。」
『アストリアが聞いてきた。鋭いねこの子は、軍師の才があるわ。』
「これは逆に、戦場の中から導き出された通式よ。軍隊の配置の基礎になるわ。」
「そう、軍隊の配置に、鶴翼の陣・魚鱗の陣・雁行の陣などそれらしき事を
言っている兵法書もあるけど、イルムなら笑うでしょうね。」
「軍隊の配置の中で、最後の2人にあたる者達をいかに死地に置くかが、
その軍の將の腕ね。自分が死ぬかもしれない状況なら、
マジで剣を振うしかない。」
「だけど、戦場では中間の6人は、最後の2人の方に流れ易いわね。
負け戦の撤退戦なんかはそう。だから信じられないくらいの
一方的な戦になってしまうわ。」
「ルリさん。それは、軍事以外の、人の行動でもあてはまるの?」
『アマトの坊やが聞いてきた。これを理解したら、ここから先はあなた自身で
乗り越えていってね。イルムと私の期待を裏切らないで、アマト君!』
「大きな店で、10人の売り子がいたら、そうなるでしょうね。
給金以上の働きをするのが2人。給金並みの働きをするのが6人。
全くお話にならないのが2人ね。」
「これは、例えば10人の子供に教室の掃除をさせ、陰で子供がどう動くか
見てたら、よりわかりやすいかも。
2人の子供は何もしてない、むしろ他の遊びをやりだすでしょうね。」
「なぜなら、自分達が動かなくても、教室はきれいになると、
人の本性で感じているから。」
「どう、通式の意味が分かった、アマト君。」
・・・・・・・
「どう、通式の意味が分かった、アマト君。」
ルリさんの目が、何かを訴えている。
「わかったよ、ありがとうルリさん。」
そう答えたものの、何か気になっていた。
思い出した、カイム先生の目だ。
『きっかけは与えるけど、それから先は自分で考えて』
と、カイム先生はそのような答え方をよくしてた。
イルムさんも、何度も同じ目にあってきたんだと思う。それでも何度も挑戦して、
いつかは、人の理知は本性を超えていけると、思っているのだろう。
たぶん、ルリさんも、イルムさんの冷たさの裏にあるものを感じとっている。
『結局、努力も、苦労もせずに、果実だけを欲しがる人間が、集団の
2割はいるということか。』
『創派の2割の人達もそれと同じ。自分で解決できる・せねばならぬ問題を
先送りしたいのだな。』
人の本性か、特に自分達の命に係わるなら、それは剥き出しになるだろう。
難しいなと思う。しかし、そこから目を背けたら、生きてはいけない。
第2章。星降る夜に
『流星が夜空を駆けている。あ、またひとつ流れた。』
帝都に来てから、夜、空を見上げるなんて、なかったよね。
媒介石の灯りが、思ったより路々にたくさんあって、星々を隠していたせい?
いや、心に余裕がなかったせいね。
夜とは言え、私の住んでいるとこから、学院の周辺までは、治安がいい。
アマト義兄ィが生きて帝都にいる間は、帝都で最も安全な場所かもしれない。
『さあ、始めるか。』
短詠唱を紡ぐ。全身に浮力感が走り、次第に風切り音と共に風圧が激しくなる。
この前のラファイアとの会話を思い出していた。
・・・・・・
「エリースさん、立ち合いをして欲しいと言う事ですか?」
横で、リーエが 何の話をしてるの ポーズで宙に浮かんでいる。
ラファイアが、あごに手を当てながら、即答した。
「できませんね、というか無理ですね。」
「なぜラファイア?帝都に向かう途中、キョウショウとは立ち合いを
したじゃない。」
「あれは、キョウショウさんの想いに、ほだされたというか・・・。」
「私もそうよ。あの時、あなたとラティスが間に入らなければツーリエと
ぶつかっていた。だけど、もしやりあったら、あそこに
倒れていたのは私だったかもしれない。」
「義兄ィは、あなたとラティスがいるから、いいかもしれない。
けど、義姉ェは?一人で重い荷物をしょわされたセプティは?」
「私は自分のためだけじゃない。あのふたりのためにも、今より強くならなくては
ならない。」
ラファイアは、不思議な笑顔で私に答えてきた。
「まず、超上級妖精、その契約者と渡り合うなら、キョウショウさんの時のように
手加減はできません。滅し合いになると思います。」
「それで、エリースさんが倒れたら、それこそユウイさん・セプティさんは
誰が守るのです?」
「・・・・・・・・。」
ラファイアが言うとおりだ。その可能性は極めて高い。自分の浅はかな考えに
気付かされる。
「アマトさんが、自分の身が犠牲になっても守りたいと、何も考えず反射的に
動いてしまうのは、エリースさんとユウイさんだけ。」
「そのひとりに滅し合い覚悟の立ち合いなんて、私には、とてもできません。」
「それは、ラティスさんも同じでしょう。」
「けど、ルービスが現れたのよ、今は味方かもしれないけど、将来は?
それに、両大公国・コウニン王国・王国連合他の国々とも戦いに
なるかもしれない。」
「その時敵側に、ラファイス・アピス・リスタル・エメラルアと
その契約者がいたら!」
「だとしても、私は風のエレメントの妖精では、ありません。」
「例えば、最上級妖精契約者であるキョウショウさんが、更なる高みを
目指したとしても、水の妖精でない私には、どうしようもないのですよ。」
「最上級妖精契約者でさえそうです。ましてやエリースさんは、
超上級妖精契約者、ここから先、高みを目指すのであれば、そうですね、
砂を嚙む思いで、自分の力だけでレンガを積み上げていくしかありません。
そしたら、いつかは家ができるでしょう。」
「頂点に近い者が、更なる強さを求めるのなら、そういうものです。」
・・・・・・・・
なんか、うまく言いくるめられた気もするけど、結局は地味な日々の努力か、
天秤の片方に、死をのせた、実戦体験しかないというわけだ。
眼下に、いつもの練習場が見えてきた。
第3章。星降る夜に(2)
着地する前から、【いつもと違う】と、エリースの心の信号が、
うるさいぐらいに主人に警告を促す。
それを無視して、大地に身体を降ろす、エリース。
「隠れてないで、出てきたら・・・。」
エリースは、闇に向かって声をかける。森の木々の一部が、揺らぎ消える。
彫像のような凛々しい長身の人型の男が現れる、だが人間ではないと、
エリースの感覚は喝破する。
「上級妖精契約者レベルなら、我が隠密障壁、見破れぬのだが。
思ったより、帝都の双月教教会の報告は、あてにならぬ。」
感情のない音声が、その人型から流れる。
『一人のみ、舐めてんのコイツは。』
エリースの柳眉が上がる。
「言い直すわ。あと3体も出てきたら!」
ゴーッと、風鳴りがしたあと、周りの森が消える、森も虚像だったようだ。
この前エリースが、試技をした時と違い、森が大きな広場に姿を変える。
先程の男の後ろに、フードを被った影がひとり。右斜め後方と左斜め後方に
影がひとりづつ現れる。
「おまえは、正三角形の中心、サナトス・トポスにいる。
最上級妖精契約者といえど、もはや逃げられん。」
先程の人型が、またも無機質な音声を流す。
それに対し、侮蔑した笑いを浮かべる、エリース。
「後ろにいる奴、お前だけは、生かして残した方が良さそうね。」
冷たく美しい声が、エリースの口からもれる。
次の瞬間、3人の人外の前方に、青色の魔法円が浮かび、その円から弩青流の炎が
三角形の中心にいるエリースを襲い、エリースは巨大な青き松明と化す。
女声めいた音が、男の後ろでさえずる。
「うそ~。届いてないわよ。」
フードからあらわれた、彫像のような美しい女型の顔が、ゴキ〇〇のように歪む。
≪リーエ!!2拍遅い!≫
怒号の精神波が大気を揺らす。
呼応するように、麗しい緑雷が、天空から地上へ、芸術的な幾何学線を描く。
松明の炎も消失する、エリースは無傷だ。
「おまえ、契約者と妖精との乖離の妖力を行使しているのか!?」
再び、青い炎を放ちながら、長身の人外が音声を後ろの人外になげる。
「十分過ぎるほどにね。でも、やられたのに気付かないあなたに言われてもね。
では、ごきげんよ~う。」
長身の人外が、真っ二つに切り裂かれ、体液を出来の悪い噴水のように
撒き散らし、前後に分かれて倒れていく。
エリースの後方に立ってた二つの人外は、黒焦げの醜い焼き炭となっており、
黒い小さな断片を周辺に舞落としつつ、崩れていく。
真空刃が、左右、空中からも女性の人外を襲うが、フード付きマントのみを残し
女型の影は消える。
「チッ、逃がしたのか。それとも最初から影だったのか。」
上級妖魔相手に初実戦を行った、エリースの反省だった。
第4章。星降る夜に(3)
「まさかね、超上級妖精契約者だったとわね、けど・・・。」
暗黒の妖精の結界に阻まれ、帝都へ入れないため食した、黒の最高枢機卿の
偽物の分身体を作り出す妖力さえ、もう残っていない。
逃げるか、どこに?
「逃げられないわ。この世界から。」
はじめの者達として、この世界に来たのだ。
資源(人間)を食し、同化させる事によって、この世界のエーテルを
取り込めるを知った。
そう、あの時、資源(人間)を家畜化すれば、このざまはなかったろう。
だが、次から次へと、この世界にきた者達は、己の欲望のままに食した。
人間という資源は有限なのに、減らさぬ努力を怠った。
奴らは、資源(人間)が枯渇すると、なりふり構わず同族を滅し、
少なくなった資源(人間)を奪い合い、
資源(人間)がなくなると、とうとう獣や鳥まで喰らい、
知性なき妖獣・妖鳥に堕ちていった。
そしてこの資源(人間)は、知恵を持っていたのだ。
資源(人間)が、後からこの世界に侵略してきた妖精と手を結ぶ術を、
身につけた時、我らは食物連鎖の頂点からも滑り落ち、
狩られるものと化した。
資源(人間)が逆襲してきたのだ。
それどころか資源(人間)は、妖精をかしずかせ、己の欲望の武器としても
使い出した。
「敵わないわね、本当に。」
もはやこれまでだろう。このような森の奥に迷い来る資源(人間)も
いないわ。
それに最後まで、共に生存をしてきた友らと違って、私の攻撃妖力は少ない。
友らの消滅は、私の私としての終わりをも意味する。
資源(人間)と比べれば、遥かに長い時間を生きた。もういいか。
それに友らがいた、孤独ではなかった。
『もう、おどける必要もないわね。』
飢えに耐えかね、妖獣に堕ちる前に、最後の妖力を私自身の消滅に・・・。
あの美しい元の世界から、帰れぬとの覚悟をして、この醜き世界に旅立った時、
夜空には、空いっぱいに、渦巻き状の巨大な星雲が輝き、
今夜のような星降る夜だった。
私の旅立ちを、祝福してるように見えた。
『もう一度、あの美しい夜空を見たかったな・・・。』
第5章。追加試験前夜
延び延びになっていた、アバウト学院の追加応募の試験がやっと
行われる事になった。
なんと学院やイルムが予想した人数の、18倍の応募があったのだ。
アマトやセプティを暗殺・誘惑を企む者だけではなく、
【門地・出身地に寄らず】という信じられない条件で募集したため、
帝国本領の元貴族・元騎士・平民だけではなく、
三大公国の貴族・騎士・平民の次男・三男・次女・三女、
中立国や仮想敵国の貴族や騎士の妾腹の
長男・長女、そして平民も押し掛けた。
帝国本領の元貴族・元騎士の一部には、アマト・セプティへの復讐は
放棄します、との誓約書を出す者まであらわれた。
クリル・ミカル・テムスの大公国の三竦みの関係の中、
テムスからアバウト学院に物資が運び込まれたのに、
両大公国が表立って異議を唱えなかった事から、
帝国本領の政府が、何らかの形での再始動が行われるだろう
その時の、地位・職を求めての先物買いという事だろうか。
試験の合否が分かるまで、野宿で過ごそうという者まで現れたので、
急遽、付属小等部の子供用寮の解放をしたが足らず、中には鉄馬車に
車中泊する者まで現れた。
・・・・・・・・
「イルム、この状況は予想したの?」
ルリさんが、呆れたように呟く。イルムさんは、諾とも否とも言わず、
微笑んでいる。
「副校長は、テムスの方をお願いすることになるわね。」
と、けむに巻くような言葉を、ルリさんに投げかえす。
「あんた、レオヤヌス大公に警戒されるわけだわ。」
キョウショウさんも、その言葉に反応する。
イルムさんはまず、想定外という言葉を使わない。
予想を外れる事もあるだろうが、言葉に出すときは次の手を
いくつか用意している。
その引き出しの多さが、老いを感じた、レオヤヌス大公にとって
脅威だったのだろう。
イルムさん自身が大公位を狙わなくても、誰かと組んで・・・
妄想が飛躍して、暗殺者を送ったのかもしれない。
フレイアさんも、ガクさんのテラスで果実水を飲みながら言っていた。
『この頃、クリル大公国の人事は、以前と比べて世襲貴族が重用されるように
なった。結果的に回り道して、アバウト学院のきたのが、正解だったわ。』
やはり、レオヤヌス大公の失速は、誰もが感じているものなんだなと、
僕は思う。
これが、セプティだったら?イルムさんが帝位を奪うと宣言しなくても、
帝位も玉璽も、のしをつけて、お渡しするような気がする。
もし、自分の子供に帝位を引き継ぐ器量がなければ、
『イルムさん、あなたが帝位を簒奪しなさい!』
と、公開公文書の形で発布したりして。
・・・・・・・・
アマトが、能天気なことを考えている時に、黒と白ふたりの妖精は
悪巧み?をしていた。
正確に言うと、白が黒に、巻き込まれた形だが。
「ラティスさん、本当にするんですか?」
「そうよ、ラファイア、これはアマトのためなのよ。」
「あいつは、すぐ人を信じて、裏切られて、凹むじゃない。この前の講義の時も
そうだった。」
「それは、そうですが。」
白光の妖精の方は、気が乗らないらしく、相づちも適当だ。
「あいつの落ち込みを真に受けて、爆発してるんじゃ、帝都がいくつあっても
足りないわよ。」
「・・・・・・・・。」
流石に心当たりがありすぎるラファイアは、沈黙してしまう。
「特にアイツは、少しばかり顔の造詣が整った女性に、『アマト様!』なんて
言われた日には、財布の中身まで進んで見せるようなレアなヘタレよ。」
「ここいらでガツンと、人間の残酷さ恐ろしさを、身にしみて覚えさせ、
少しの裏切りぐらいでは動じない、普通の心を持たせなければならないと
思わない!?」
「けど、魔力試験用の人形の中に、アマトさんを入れて、衝撃・痛み付きで
受けさせるというのは、どんなものですか。」
「私とアンタで、障壁なり、結界なり、2重にはれば、あの歪みボッチの
ルービス本人がきても、どうってことはないわ。」
「アマトが中で気を失っても、起き上がり子法師のように、すぐに立ち上がる
仕掛けをして、受験生には、一拍でも早く起き上がれなくなったら高得点と
いったら、鬼の形相でやるでしょうね。」
「これで、アマトは、アマト自身が好意を持つような綺麗な若い女でも、
【心は醜い妖虎同然】と、肌身に刻みつけさせるわけよ。
だったら人間の、裏切りの一つや二つあるのが、当然と思い、
凹む事もないでしょう。」
自分の考えに胸を張る、ラティス。
「よく、そんな事考えますね。だとしたら、アマトさんは目を回して、
家に運び込まれるでしょうね。」
「事前か、事後か、知りませんが、ユウイさんへの説明はお願いしますよ。」
その状況を想像し、固まってしまう、暗黒の妖精。
しばらくして、厳かに話し出す。
「ラファイア。真の勇気ある登山家は、山が荒れると予想できるなら、登らずに
山を下るそうよ。」
「私も、山が荒れるとわかっているなら、名誉ある撤退を選ぶのに、
なんら恥じるところはないわ。」
第26部分をお読みいただき、ありがとうございます。
(補足します)
・1拍=約2秒
・2拍=約4秒
・この世界では、2⇆6⇆2の法則は、軍事から発見された事になってます。