ⅭCⅩⅩⅩⅤ 星々の紅焔と黒点編 後編(2)
第1章。ラファイスさまの独白
第2章。立ち眩み
第1章。ラファイスさまの独白
ミカル叛乱のこと。人間の諍いの最中に、偽りの聖ラファイス様が、
出現・干渉して、結果、宰相トリハの命を救った。
これを聞いたノエルのやつは、闘技場で、ラファイスの禁呪御踊りを
することはなくなった。
わたしの姿を無断で借りたのは、あのラファイア。
あいつとは、いつかは、拳をつき合せて、話をつけなければならないとは思うが、
今回は、ノエルのやつが、わたしの前の契約者と同じ名を持つ都市、
ノープルまで行って、ラファイスの禁呪音頭をすると言いかねなかったので、
それを消してくれた礼に、目をつぶっている・・・。
ノエルのやつは、ここ皇都での暮らしを相当に気に入ってるらしい。
朝の学園までの出校時間、朝から昼間の学園の講義、
昼の後半から夜の始めまでの治癒の店での、治癒行為。
エリースやセプティらとのお話合い、
治癒に来た人々が支払う、数多くの銅貨と幾ばくかの銀貨が、
ノエルの笑顔を、普遍のものにしている。
むろん、新帝国執政官のイルムから、わたしたちの、居宅での家賃・食費、
学園の学費等は、すべて免責されている。
そのことは、ノエルは理解しているのか、理解してないのか・・・。
無論、わたしは新帝国にとって、大いなる政治的利益を与えている。
いくら強大な魔力を持っているとしても、
わけわからん、ラティス、ラファイア、それにリーエの3妖精がいるより、
話のわかる、わたし、ラファイスがいるのは、
彼らにとっても、ありがたいだろう。
しかし、ここで問題が生じた・・・。水の極上級妖精・・エルメルアの出現・・。
ラティスやラファイアの圧縮精神波によれば、
エメラルアほどの攻撃魔力には、いまだ達してないようだ。
だが、わたしの皇都での現在を、エルメルア・・は知っていた。
そして逆にわたしは、エルメルアの存在に気付いていなかった・・。
つまりは、彼の妖精の潜聴の魔力は、わたしの対抗魔力を、
上回ると判断せねばならないのか・・・。
それとも協力妖精がいるのか?
まさか、リスタルや○✕△▢が、そのお仲間という訳でもあるまい。
だとしたら、他に、私が知らぬ、極上級妖精がいるということか・・・。
フフフ、若いからといって、そうバカにはできんようだ。
妖精界のやつらが、人間の家畜化をしようと、わたしは興味がない。
だが、その手が、ノエルにおよぶなら、わたしは、あの時のアピスと化して、
彼等と闘うのは、やぶさかではない。
わたしが望むのは、ノエルの最期の時、それが最後のひと言になるか、
最期のひと吐きになるかは、わからないが、
このおバカで、お人好しの人間が、
笑顔と一緒に、この世界から旅立つことだ。
その刻まで、わたしがノエルを孤独にすることはないし、
ノエルに降りかかる、すべての曲事は、
きれいに消し去ってあげよう。
第2章。立ち眩み
この日、イルム執政官は、思いがけない国から、密使を受け、
いつもの旧南宮の応接室と、別の部屋に案内している。
「お待たせした。新帝国執政官のイルムです。」
イルム執政官の姿を見たふたりは、反射的に長椅子立ち上がり、
全世界公式儀礼で挨拶をしようとし、
イルムに、右手で窘められた。
「正使の方は、カル―殿、副使の方はモート殿で、間違いありませんか?」
「これは、これは、先にご挨拶をいただきまして、ありがとうございます。」
「使節としては、情けないかぎりです。おっしゃるとおり、
わたしが正使のカル―、となりの者が、副使のモートです。」
「本日は、貴重なお時間をいただきまして、感謝の念に堪えません。」
「カル―殿。わたしの横におりますのが、副執政官のルリ。
背後に控えておりますのが、キョウショウ将軍とリント将軍です。」
「カル―殿、モート殿、副執政官のルリと申します。
今日は、お会いできてとても嬉しいと、思っております。」
そのルリ副執政官の言葉に、モート副使が口を開く。
「ありがとう、ルリ殿。われわれも、日が昇るような、これからの国。
その、頂点の方々とお会いできて、このモート、光栄の思いにたえません。」
イルムの合図で、4人は、それぞれ銘品と呼ばれる椅子に腰かける。
ひと息の後、イルム執政官が、カル―正使に、簡明直截的な言葉を投げかける。
「それで、ご用件は?」
ルリ副執政官も、ふたりの方を、厳しい視線で睨んでいる。
「簡単に申しますと、わがコウニン王国は、双月教国、
個々に言えば、枢機卿たちにもですが、非常に多くの金を貸し付けております。」
キョウショウ将軍とリント將軍は、不思議そうな視線で、コウニン王国の密使を、
眺めている。
「ですが、新帝国のみなさんが、教国に引導を渡されたことで、
われわれは、その金を回収する手段を、失ってしまいました。」
「だから、わが国の円卓政権は、金の代りに、双月教国の領地を
我が国の一部として、併合したいと思いまして。」
「新帝国さまの方も、いろいろお考えがありますでしょうが・・・。」
「われわれも、こんなことで、新帝国との戦争は望みませんので・・・。」
「・・・・・・・・。」
邪気のない笑顔で、この場に望むふたりのコウニン王国密使に、
イルム、ルリの新帝国の執政官は、さすがに無言で対応する。
「双月教国の歴代の教皇猊下、全枢機卿猊下から、一金貨も返せぬ時は、
全領土を移譲するとの、公的公文書も受け取っております。」
「信用いたしかねますね。」
その、そっけないルリの言葉に、
「我が国も、双月教国に対する貸が回収できるのであれば、
このように、戦争になるかのようなまねは、いたしません。」
「しかし、最期通牒の形で、我が国から、新帝国に公文書を出す準備は、
すでに終了しております。」
「新帝国さまに、超絶級の妖精さまと、超上級の妖精さまがいることは、
重々承知しておりますし、近頃は、テムス・ミカル両大公国や、
武国とさえ、友誼を結んでおられるようで・・・。」
「それに、うしろのキョウショウ将軍の訓練も上手くいっておられますな。」
「だが、それらのものは、次の戦には、役立ちますまい。」
「また、新帝国の皆さまにも面子というものがあられるでしょう。」
「だから、わが国の円卓政権は、国家間の善意として、内密に私どもを、
この国に差し向けたのです。」
「むろん、そちら様が、武国・テムス、ミカルの両大公国に対して、
なにかの事前取り決めがあれば、止めてもらいたいとの、
すけべ心もありますが・・・。」
笑顔を欠かさないふたりの密使に、新帝国側の人間の表情は厳しくなってゆく。
「ご存じのとおり、わが国は、お金の貸借によつて、成り立っています。」
「だから、貴族の相続のときなど、次男坊・三男坊などには、
十分な金銭を与えることで、領地の要求を廃棄させ、
国内的には平和そのもの・・・。」
「それも、国家に、貴族家に、十分な金があってからこそ。」
「わたしたちにとって、貸し倒れなどあってはいけないのです。」
「そして、これは、わが国の国是・・。」
「今、新帝国の政府さまの舵取りをみておりますと、過大な領地は、
必要とされておりますまい。」
「我が国の円卓政権は、30日の猶予を、考えております。」
「新帝国のみなさまが、正しい判断をされますように、
わが国は、祈念しております。」
第235部分をお読みいただき、ありがとうございました。
本作品も、みなさまのおかげで、総文字数も90万文字を越えました。
これを機に、副タイトルの部分≪≪新帝国建国伝承≫≫を、
主タイトル部分に加えさせていただきました。
これからも、よろしくお願いいたします。




