ⅭCⅩⅩⅩ 星々の紅焔と黒点編 中編(3)
第1章。礼を言う
第1章。礼を言う
ふたつの月が、泉から湧き出るような光を、大地に投げ落としている。
その光の落下の中に浮かぶ、存在が4つ。
ここは、皇都、闘技場の遥か高空・・・。
≪はじめに、礼を言う。ラティス、ラファイア、それにリーエ。≫
美しくも、壮絶な圧を、うち広げる存在が、残りの3存在に頭を下げる。
≪見ての通り、ノエルも・・闘技場の中での、ラファイスの禁呪ごっこは、
やめてくれたしな。≫
白光の妖精ラファイスは、眼下を見つめながら、精神波を続ける。
≪だから、ラファイア。おまえが、わたしの姿を使ったのは、不問にしてやる。≫
≪ラファイスさま。なんか、上から目線の言葉、カンにさわるんですが。≫
ラファイアの笑顔が、多少の好戦の色を帯びる。
リーエの笑顔は、いぜん無関心の色彩を帯びている。
それとは別に、ラティスが、精神波で、語り出す。
≪礼を言われる筋合いはないわ。わたしたちも、留守の間、皇都の・・・
ユウイの守護を頼んだからね。≫
≪それに、わたしが動いたのは、友を想うノエルの真摯な心に、
わたしの魂が震えた・・・なのだからね。≫
≪それに、そこのふたりは、わたしのような高貴な動機ではなく、
上手く立ち回って、香茶をせしめようという、おもしろい心持ちと、
エリースに引き回されそうで、それを避けようとする、おかしい心掛けで、
動いただけだから・・・!≫
おもしろい!? おかしい!? ふたりの妖精の笑顔が、
完全に好戦的なものに、スパッと変化する。
その超絶した魔力圧を膨らませるふたりを無視して、
ラファイスは、精神波に、思いをのせて応える
≪それでも礼を言いたいのだ。ラティス!ラファイア!リーエ!≫
≪ノエルのやつ、ミカルに聖ラファイスが顕現したと聞いた時、わたしが、
『ノエルの気持ちが、ラファイスさまに届いたので、
彼等が現れたと、思うわ。』
と、言ったら、ノエルのやつ・・・
『わたしのか細い想いが、ラファイスさまに届いたなんて、その考えは不遜よ。』
『けど、リア。そうだったら、嬉しいわね。』とわたしに、返したのだ・・・。
おまえたちの行動で、ノエルの純粋な心が、折られなかったことに対して
本心から礼を言う・・・!≫
その精神波に流されながら、さんにんの妖精は、
無言でちゅうに浮かんでいる・・・。
・・・・・・・・・・
ラファイスの精神波での語りは続く。
≪わたしの前の契約者、ノープルは、どうしようもない小悪党だった。
それは、それで、おもしろかったのだが・・・。
それに対して、ノエルは、いくつも抜けている・・・
いわゆるバカと言って構わないが、救いようもないほど善人だ。≫
≪それで・・・、いや、だから・・・愛しいのだよ。≫
≪今、ノエルと過ごす日々が、光の欠片のように、輝いている・・・。≫
≪わたしは、ノエルの見える世界で跋扈する、醜き生き物を許さない。≫
≪ラファイス。何を話したいのよ!?≫
ラファイスの精神波での語り口が、長くなってきたのにいら立ったのか、
暗黒の妖精ラティスが、言葉を射れる。
≪あせるなよ、ラティス。いまから説明する・・・。≫
≪皇都・旧帝国に、本人たちから言えば名家、本質は単なる旧家なのだが、
14氏族というやつらいる・・・。≫
≪そいつらが、皇都いや新帝国から、アマトとエリースを追放するという
算段をしていることに、先日、気付いた。≫
≪あのふたりが、皇都から出ていけば、
暗黒の妖精と風の超上級妖精も消えるだろう、
そうなれは、新帝国を内部から、好き勝手に食い荒らすことができる。
そして最終的にはこの国を、昔のように、自分たちのものにする。
そういう算段だった・・・らしい。≫
≪だから、なんだって言うのよ?≫
≪そうですよ。わたしたちを動かせる人間・・・妖精でさえいないですよ。≫
そう言って、ラティスとラファイアが、ラファイスに詰め寄る。
≪ラティスにラファイア。人間と妖精は違う。人間が行う陰湿な分別は、
まともな人間の精神を、ゴリゴリと削ってしまう。≫
≪そして、陰でそれを仕掛けた奴らは、私たちは全く関係ありません、
との態度でね。≫
≪ふふふ・・・やつらの生存は、未来のノエルのためにもならない。≫
≪新帝国は・・・、現在の皇都は、ノエルが生きて、そして死んでゆくには、
他の場所より、善きところ・・・。≫
≪だから、わたしは動いた。
ノエルのためにする攻撃に関して、わたしは、一切の躊躇しない!≫
≪そして、その長老たる7賢人は、わたしに会ったことで真から狂い、
14氏族は、数十年にわたる、排除の計画どころではなくなった・・・。≫
≪つまり、ラファイス。
あんたがやったことが、アマトやエリースのためにもなったので、
わたしとラファイア、それにエリースにも礼を言えということ?≫
≪ははは、これは、わたしが勝手に行ったこと。だが人間どもは、
暗黒の妖精が・・・ おまえたち・・・ラティスとリーエが、
行ったことだと思うだろうよ・・・。≫
≪だから、事前に通告しておく・・・。≫
≪どうやら、礼を言った方がいいようね。≫
≪ラファイス、ありがとう。≫
暗黒の妖精ラティスと、ふたりの妖精が頭を下げる。
≪おまえらが、頭を下げるとは・・・。≫
驚くラファイス。
≪あんたにとってのノープルがそうなら。
わたしとラファイアにとってのアマトが。
リーエにとってのエリースが、同じだからね。≫
ここまで、無言を貫いていたラファイアが、精神波をはさむ。
≪けど、ほんと、人間ってやつは、どうにかならないんですかね。
ま、この世界の神々っていうのが、おかしいのかもしれません。
どんなに取り除いても、人間には一定数、
必ずそういうのが湧いて出ます・・・。≫
ラファイアの精神波に、ラティスとラファイスは、押し黙った。
ただ、超上級妖精リーエだけが、硬質の笑顔を変えず、三妖精を眺めていた。
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