CC フェーリアイ(3)
第1章。ラティスさまのある朝の景色
第2章。ラファイアさんのある朝の景色
第1章。ラティスさまのある朝の景色
太陽が元気よく、地平線から姿を現わしてきた。
わたしの、遥か低空を、ラファイアとリーエが、家宅の別々の窓から
中に滑り込んでいくのが見える。
夜間の警戒行動という触書だけど、毎日どこに行っているのかね~。
ただ、アマト・エリースへの裏切りになることは、してないだろうから、
ま、見逃すべきでしょうね。
これも、高貴な妖精の下賤な妖精への、格別な配慮とも言えるわ。
ん、アマトが、庭に出てきた。そろそろ、そんな時間か~。
わたしは意識を、家宅の中の部屋に向ける。
急速にエーテルが、わたしの周りに充満してくる。
そして、朝の陽光によって、青色に変わっていく天空の景色が歪む・・・。
・・・見慣れた部屋の光景が、
ラファイアの いつもにも増して間の抜け過ぎた笑顔が、
わたしの視覚に現れる。
こいつ、自分が、妖精界魔力頂点のひとりということを、完全失念してるわね。
残念な妖精の表情を見て、わたしの視線に憐みの色が浮かんでゆく。
それでもわたしは、現実は現実として受け入れ、そして、ため息をついて、
窓の外を眺めてみる。
庭で、アマトが、剣の型練習をしている。
リーエが、超高速移動・移動で、アマトの背後・視覚の外にまわって、
アマトの動きに合わせて、影の演技というべきもの?で踊っているわ。
リーエの動きは、見方によれば、舞闘の動きにみえるけど、
アマトの場合、どう頑張っても、健康体操にしかみえない。
拍子に合わせて、1・2、1・2・・・。
あれで、リーエはアマトのことを、バカにしているわけじゃないのが不思議。
ま、互いに、エリースに、片方は怒りの言葉で、片方は無慈悲な電撃で、
ボコボコにされているからね・・・。それも、現在完了進行形で・・・。
そう、《同病相憐れむ》ってやつかもね。
ん、イルムとルリが、家宅を出たか・・・。
ラファイスの奴も、透視の魔力で、こちらを伺っているし・・・。
これが、妖精界だったら、即、闘いに入っているわよ。
わたしの絶対防衛領域内に、極上級妖精がふたり、超上級妖精がひとりいる。
ほんと、これってどういう状況よ。
ま、賑やかでいいけどね。
「ちょっと、ラティスさんにラファイアさん。よろしい?」
え、いつの間にかユウイに背後をとられ、声をかけられた。
こ、こいつは、いつも、なんなのよ~。
わたしは、妖精界で魔力頂点の一角にいる、比類なきほどの魔力を誇る妖精よ。
わかってはいるわ。アマトのユウイに対する特別な感情が、
アマトと契約したわたしの感情にも、流れ込んでいるんだろう。
だから、わたしの察知の魔力の発動でさえ、ユウイにだけは、
極制限させられていると、思わざるを得ないわ。
わたしは、内面の動揺を隠して、いつものラティスさまの表情で、
ゆっくりと、体を後ろに向ける。
「ラティスさん、ラファイアさん。
どちらでもいいから、お店まで、荷物運びを手伝ってくれないかしら?」
と、にこにこ笑顔のユウイから、声が響く。
「ま、いいわよ。」
わたしは、世界平和の実現のための、小さな一歩に、ユウイの言葉を受ける。
「いえいえ、それはわたしの方で・・・。」
なんなの!?白光の妖精が絡んできた。
『う~ん、ふふふ、そういうこと、ラファイア。やる気!?』
闘気が全身を駆け巡る。見えないエーテルが、わたしの周りを乱れ舞う。
「ま、うれしいわ、ふたりとも。でもひとりで十分よ。
どうしようかな。」
「ん~、じゃあ、これで。」
ユウイが懐から、銅貨を一枚取り出した。
・・・・・・・・
結局、負けたほうが、ユウイの手伝いということで、お約束どおり、
ラファイアがユウイの手伝いとなったわ。
今回は、イカサマ抜きだったから、
≪あんたら、いい加減にしなさいよ!≫と響いてきた、
ラファイスの怒りの精神波でさえ、賞賛に感じたわ。
ま、わたしの絶対防衛領域は、アイツにとっても絶対防衛領域ということだから、
その内で、エーテルが乱れ舞い、闘気が空間を震わせる睨み合いをしたら、
危なかっしくてしょうもないって、ところかしら。
アイツは、ほんと、まじめすぎるわ!!
いまは、教会まで、アマトを引き連れて、歩いてるんだけど・・・。
「アマト!」
わたしは、通りの隅々までとどく品のある声で、アマトに話しかける。
「なんだい、ラティスさん?」
「なんだい じゃないわよ。なぜ、外套で顔を隠しているのよ!」
アマトは、何かを考えているようだったけど、顔の部分の外套を外したわ。
そして、わたしも、あらためて口を開く。
「アンタがどう思うと、人間でわたしの横に立つのを許されたのは、
アマト、アンタだけ。」
「だから、わたしが姿を消さなければ、横にいるのは、顔を隠そうが
必然的に、アンタになるでしょうが。」
わたしは、指をならし、周りに音響障壁を構築する。
「アマト。他の人間に、汚物を見るような目で見られるのは、そんなにイヤ。」
「・・・・・・。」
「アマト。ふつう人間では、会った人間が10人いれば、2人は敵、
6人は日和見、残り2人のうち、1人は弱い味方。
けど、もう1人は味方の皮を被った敵。」
「友と言える人間は、機会に恵まれれば1千人にひとり、
普通なら1万人にひとりいれば、実りある人生よ。」
「あとの人間たちに、どう思われようが、いいんじゃなくて!」
「そうだよね。ありがとう、ラティスさん。」
これが、【予告された帝王】と?とても、とても、あてはまわらないわね。
だれかに唆されて、アマトが〖天下布魔〗なんてとち狂って、
そして、あのお調子者のラファイアが協力するなんて、言い出しても、
わたしが、全力で止めてあげるわ!
四地安寧・四海平穏。これが、わたしの次の主題だからね!!
第2章。ラファイアさんのある朝の景色
山の稜線から、太陽が昇ってきてますね。
わたしは、リーエさんとの夜の警戒行動を終え、居宅へ帰ってきました。
ん、ラティスさんが、高々空に浮かんで、なにやらポーズをとっています。
《煙となんとかは、高いとこへ上る。》というのを、
自ら実践されているとしか思えません。
あれで本人はかっこいいとでも、思っているんでしょうが、
本当に、残念な妖精さんです。
おっ、窓から、庭に出てゆくアマトさんが、見えます。
ぬっ!空間の歪みが・・・。反射的に身構えましたが、
慣れ親しんだ魔力の香りが・・・。
「なる~。ラティスさんですか~!?」
わたしの言葉に被さるように、目の前に、例のお姿が顕現しました。
どうしてこの距離で、瞬間移動の魔力を使いますかね~。将来デブりますよ。
ラティスさんの、醜くお太りになられた未来のお姿を想像して、
わたしは、いつもの笑顔がより笑顔になっていきます。
ん、ラティスさんの視線が、窓の外に・・・。
アマトさんの、剣を使っての、健康体操ですね。
いつの間にか、リーエさんが、アマトさんの背後で踊っています。
器用なもんですね。超高速移動を使って、アマトさんの視線の外に
常に自分を置いています。
こうした遊びで、エリースさんを待っているんですか・・・。
そうですよ。けど、エリースさんの寝起きの、あの機嫌の悪さっていうのは、
あれは、どうにかならないんでしょうか・・・。
たしかに、リーエさんの、〖おはようございます電撃〗もどうかとは思いますが、
その返礼が、軍隊一個師団を滅し去るような、極電撃の攻撃というのは、
狙いが外れた時のことを考えると、
さすがの私でも、生きた心地がしませんよ。
やはり、平和が一番ですよ。ところで、世界平和を指向なされたラティスさんは、
あの後、どうなされたんでしょうかね。
まさか、四地安寧・四海平穏とかいう、世迷い言葉で、
ユウイさんを納得させる愚行を、行ったんじゃないでしょうね?
「ちょっと、ラティスさんにラファイアさん。よろしい?」
ぞわっと、背筋に寒気が走りました。
わたしは、妖精界で魔力頂点の一角にいる妖精さんですよ。
ラティスさんのようなパチもんでも、
ラファイスさんのようなバッタもんでもなく、
正真正銘 白光の妖精ですよ。
けど、ユウイさんが、背後に立ったのを、何故か気づけません。
でも、ここでわたしは、特上の笑顔で振り向きます。
「ラティスさん、ラファイアさん。
どちらでもいいから、お店まで、荷物運びを手伝ってくれないかしら?」
と、にこにこ笑顔のユウイさんから、声が響きました。
「ま、いいわよ。」
え、ラティスさんが同意?しました!最悪な未来しか考えられません。
これは、いけませんと思うより早く、
「いえいえ、それはわたしの方で・・・。」
と、全身全霊で反射していました。
ん、見えないエーテルが、ラティスさんの周りを乱れ舞っています。
『ふふふ、そういうことですか。ラティスさん、受けて立ちますよ!』
わたしの闘気も、全身を駆け巡り、エーテルが乱舞していきます。
「ま、うれしいわ、ふたりとも。でもひとりで十分よ。
どうしようかな。」
「ん~、じゃあ、これで。」
え、ユウイさんが懐から、銅貨を一枚取り出しました。
・・・・・・・・
負けたほうが、ユウイの手伝いという取り決めが、面白くありませんでしたが、
結局、わたしが、ユウイさんの手伝いとなりました。
『今回は、イカサマ抜きだったわよ。』との、ラティスさんの無言の笑いが、
わたしのカンを逆なで、
≪あんたら、いい加減にしなさいよ!≫と響いてきた、
ラファイスさんの怒りの精神波も、わたしの嘆きを加速させました。
あれは、絶対にイカサマに違いありません。
このわたしの目をちょろまかした、ラティスさんの魔力、褒めてあげましょう。
これでイカサマ抜きなら、お約束になってしまうじゃありませんか!
「ラファイアさん。ご迷惑だったかしら。」
わたしの笑顔に、苦渋の色が浮かんでいるのに気付いたのか、
鉄馬車の運転台の隣に乗っているユウイさんから、声がかかりました。
「とんでもないですよ、ユウイさん。
ユウイさんとふたりだけで、鉄馬車に騎乗できるなんて、
平和そのものじゃないですか。
これ以上の、何を望みます。」
なんか、いつものユウイさんと違うのを、わたしは気付きました。
「もしかして、アマトさんのことですか、ユウイさん!?」
わたしは、精神透過の魔力を使うことなしに、ユウイさんに想いを投げました。
「やさしいのね、ラファイアさん。」
「そう、エリースちゃんのことは、なんとかなると思うわ。
リーエさんなみの魔力を行使できるし、この新帝国のひとりとして、
このままいけると思うの。これは、義姉としての、いえ女としてのカンね。」
「けど、アマトちゃんは、このまえの水の伝説の妖精の魔力を借りた
レウス公女の剣撃みたいなことが、またいつ起こらないかと・・・。」
「あ、あの時のことは、十二分に反省してます。」
わたしの背筋に、冷たい流星が走ります。
ほんと、エメラルアさん如きに、名を成さしめるなんて、
白光の妖精の黒歴史です。
でもあれは、〖ラティスさんが悪い。〗これにつきます。
「そのことは終わったこととしても・・・、
アマトちゃんは、ずっと命を狙われるんじゃないかと。
それに、アマトちゃんは、何の能力も持っていないし・・・。」
「たしかに、アマトさんが、この新帝国の影の象徴みたいになっていることは、
否定できませんからね。」
「ラファイアさん。あなたたち ふたりがいてダメなら、
それは、それで、もうダメだと覚悟はしてる。だけどね・・・。」
わたしは、ユウイさんに語ります。
「・・・ユウイさん。妖精のわたしが、こんなこと言うのもなんですが。
アマトさんは、ユウイさんとエリースさんを助けるために、
ラティスさんの差し出した手を握りました。」
「けど、その前に、あのラティスさんの怒りと威圧の嵐のなかで、
『だったら殺せ!』と、叫んだそうです。」
「これは、わたしだけではなく、
伝説を纏っている、アピスさん、ラファイスさん、
ルービスさん、エメラルアさんでも、とても とてもできません。」
「つまり、その瞬間、この世界で最強の名を欲しいままにする妖精たちを、
アマトさんは、はるかに超えていたんです。だから・・・・・。」
「それに、わたしとラティスさんが、アマトさんの物語を完結させるために、
全力を尽くしますから・・・。」
第200部分をお読みいただき、ありがとうございました。
また、複数の方が、全部分を完読されたみたいで、
あわせてお礼申し上げます。
本作品も、200部分、文字数にして80万文字を超えました。
これも、この作品を追いかけておられる、みなさまの行動が、
燃料となっています。ほんとに、ありがとうございます。
本部分は、198部分の第1章の前部と、時間軸的には一致しています。
そして、第1章と第2章は、同じ時間軸の流れの中で、
それぞれ、ラティスさん視線、ラファイアさん視線で、
文章は進んでいきます。