ⅭⅬⅩⅩⅩⅨ 星々の様相と局面編 中編(5)
第1章。風の行方(1)
第2章。風の行方(2)
第1章。風の行方(1)
ぼくはリーエさんを連れて、いや連れられて?、
皇都の街道を、旧南宮(内のイルムさんの執務室)に向かって歩いている。
道の向こうから来る人々が、ぼくたちの方を見て、ギョッとして固まり、
無理やり自分を納得させた様子で、再び動き始めるのを、
ぼくは、次から次に、目撃させられている。
緑の、陽光の加減によっては、緑金色の背光を纏う、半透明の蜃気楼体、
それに有無を言わせぬ超絶の美貌。
この姿から、だれもが想像し得るのは、
伝説に彩られる、超上級妖精しかないだろう。
戦史書においては、〖その魔力、1師団を軽く屠る〗と記載され、
契約者に、無条件で膨大な魔力を約束する妖精と、
巷では囁かれているけど・・・。
ま、ラティスさんやラファイアさんみたいな、
わがまましたい放題な、極上級妖精と契約するより、
戦士としても、いやひとりの人間としても、よほど見返りが多いなと。
『平時には為政者の厳重な監視のもとにおかれると言うのは、
終身刑を受けた犯罪者と同じ。』という以前の考えを、
ぼくは訂正したいと思う。
なぜなら、新帝国に吹いている、新しく自由な風が、
その見返りを、個人の幸とすることを、可能にしているからだ。
この恐怖、いや畏怖を纏わせている、美しい妖精の顕現。
その圧に、多くの人々が街道の脇に寄り、道を開けてくれる。
叫び出す人や、道に座り込む人がいないのは、
エリースが、風のエレメントの超上級妖精の契約者であるという真実が、
皇都の人々の間に、噂として広がっているからなのだろう。
戦場に於いては破壊神の神々之使とも揶揄される妖精さんだが、
今、ぼくの周りでは、誰かさんの怒りの刃から逃げられたと、
自分が超恥ずかしがりやということも忘れ、ホッとしたニコニコの笑顔で、
宙に浮かんで、流れるように進んでいる。
ホント、家にいる3にんの妖精さんたちは、
どれだけ、ユウイ義姉を激怒?させるのが好きなのかと、
つい余計なことを考えてしまう。
そうしているうちに、旧南宮が見えてきた。
ぼくは、手だけでカウシム王太子の密書があるかを確認して、
衛兵の人達が守る入口へ、足を進める。
第2章。風の行方(2)
「イルム執政官閣下。アマトです。入ります。」
そう言って、ぼくは、執政官室の隣に新設された、広めの応接室の扉を開ける。
イルムさんはもちろん、軍の解散後その足で来ている、ルリさんにリントさん、
そして、キョウショウさんに、カシノさんが、椅子に座っている。
彼女たちは、片手を上げたり、指を立てたり、笑顔を向けたり、
カシノさんにいたっては、片目を閉じたりして、ぼくを歓待してくれた。
けど・・・。
『なんで、ラファイアさんが、ここにいるの!?』
ラファイアさんは、いつもの平凡な侍従の姿をかりて、窓際に佇んでいる。
ぼくは、思わず後ろにいるリーエさんを振り向く。
リーエさんは、驚きの笑顔になっている。
ふたりして、何か企んで、行動を起こしたわけでもなさそうだ。
「ハハハ、アマトさん。わたしも妖精界では、魔力頂点のひとりですよ。」
「存在すること自体が、きせきと言われているんですから、
ユウイさんの目の前から分身体を残して、本体であるわたしが逃げることなんて、
朝香茶まえのことですよ。」
軌跡?輝石?奇石?帰責?いや奇跡ね。頭が混乱して、
該当する単語が、うまく浮かばない。
だけど、こういうセコい技術は、絶対領域に達しようとしているんじゃないかな。
ま、ラファイアさんまで、〖世界平和〗を言い出す未来に続く現在より、
相当にマシな状況の今と、思わないと。
「とにかく、そういうことだから、アマトくん、座ってくれ。」
と言って、イルムさんが、沈黙を選ぼうとしたぼくに、
対面の椅子に座るように、勧めてきた。
ぼくは、自分の契約妖精の行動に呆れながらも、素直に椅子に座る。
ん、リーエさんの姿が、消えている!
そうか、おそらくは、ラファイアさんの行動に対して、
エリースの状況がより悪くなったと想像して、
応援?に、翔んで帰ったんだろう。
「アマトくん。本当にお疲れさま。武国にまで、行ってくれたそうね。」
イルムさんが、やさしい笑顔で、話をふってくれた。
それに対して、ぼくは少し硬い表情で、口を開いてしまった。
「ありがとうございます、イルム執政官閣下。
そして、カウシム王太子陛下より、書状を預かってきております。」
そして、蝋で武国の封印がされている書状を、
椅子から立ち上がり、イルムさんに手渡す。
「アマトくん。サニーは、職業斡旋ギルドのザクトから、
追加の経費を要求されたので、その交渉にギルドに行っているので、
しばらくは帰らない。」
「だから、かしこまった話し方をする必要はないよ。
君からそういう言い方をされると、背中がかゆくなる。」
ぼくの周りから、美貌の戦士たちの柔らかい笑いが起こる。
けど、すぐ静かになって書状を呼んでいるイルムさんに、
皆が注目する。
・・・・・・・
「ふ~。腐っても、武国の凶虎。侮れないわ。」
「なにが書いてあるんだ、イルム?」
そのイルムさんの言葉に応じて、ルリさんが疑問を投げかける。
「みんなに、一読してもらって、意見をもらおうかしら。」
そう答えて、イルムさんは、ルリさんに書状を手渡す。
そして、ぼくに問いかける。
「みんなが、書状を読む時間を利用して、アマトくんに尋ねてみたい。
カウシム王太子と何を話したの?」
「それは、・・・・。」
「アマトさん。わたしが同席した時間は、みなさんへ、わたしの方から、
凝縮精神波で、その映像を送りましょうか?」
ラファイアさんの気遣いに、ぼくは、即、返答してしまう。
「ラファイアさん、お願いするよ。」
と。
・・・・・・・・
「アマト君。カウシム王太子や、レティア王女、クレイ卿と、
そんなやりとりをしたのね。」
「シュウレイ將の戦死で、
『双月教国は、モクシ教皇猊下の勅命により、国として終結宣言をし、
後双月教国の建国を宣言、シュウレイ將を臨時の政務官とする。』
この第一案を、見直すことになったわ。」
そこで、イルムさんはひと息ついた。そして、
「彼らは。『教皇領と永世中立の宣言』と、言ったのよね。」
「それなら、二か国での、教皇領の中立の担保は、いかにも弱いわ。
歴代の教皇猊下への不安を取り去るために、
内密に、ミカル大公国・テムス大公国にも、同意を取り付けることが、
必要になるわね。」
と、話をつないだ。イルムさんは、ぼくに話すことによって、
考えをまとめているようだ。
「けど、ここまで先読みしてくる相手と、交渉しなければならない現実は、
ほんと、イヤになるわ。」
「で、アマトくん。ラファイアさんがいない時間帯で、カウシム王太子
と、どんな話をしたの?」
言葉とともに発射された、イルムさんのその眼差しが、ぼくを射抜いてくる。
『これが、ふたつ名を持つ人間の、才気なんだ。』
と、ぼくは思い。美しい新帝国の執政官に、その答えを準備する・・・。
第189部分をお読みいただき、ありがとうございました。
現在7月23日のやがて、午前2時になります。
今回、何とか、日曜朝の投降に、間に合いました。
今、ほんと、筆が動きません。
だけど、何とか、日曜日午前の投稿に間に合うように、
これからも、がんばります。




