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ⅭⅬⅩⅩⅩ 星々の様相と局面編 前編(2)

第1章。暗闇の底から(3) 〖ヨクスの目〗

第2章。暗闇の底から(4) 〖ヨクスの目〗

第1章。暗闇の底から(3) 〖ヨクスの目〗



 朝の爽快(そうかい)な大気を割りながら、わたしは大地を鉄馬で()ける。

大気の一部が、心地よい風となり、わたしの()()をなでで、後方に()んでゆく。

女性として背が高すぎたわたしが、生き残るため見つけた道、

そう、武の人間として、その高みを目指すことを決めたあの日から、

日の出の前に起き、日の出と共に、訓練を始めるのがわたしの日課となっている。


「不思議なものね。」


(くに)破れて、わたしの心に宿ったのは故郷の景色ではなく、

底知れぬ苛立(いらだ)ちだった。


処刑を免れた残ったクズリー一族の放免というより、(とりで)の人々の赦免(しゃめん)を条件に、

新帝国の皇都を、死に場所に選んだ私だったが、

暗黒の妖精の魔力の高みは、今のこの天よりも(はる)かに高く、


『あんたの勝手な物語の幕引きに、付き合ってやるつもりはないわ!』


との言葉とともに、歯牙(しが)()()()()()()()()()()だけでなく、

挙句(あげく)の果てには、その暗黒の妖精ラティスが理事長を()()()()

アバウト学院の講師までさせられている。


「帰ったら、学院生との手合わせの連続か。」


そう(つぶ)いて、()っすらと笑う、この感覚に戸惑(とまど)う わたしがいる。


・・・・・・・・


この街道の前方から、ほんのわずかな、いやほんの(かす)かな氷のような気配が、

近づいてくるのに、わたしは気付いている。


わたしは、昔、旅の途中、(とりで)(とど)まれた、剣聖と言われたキューレ殿に、

手合わせした際、これと似た気配を体験させられたことがある。


ーもの静かな殺意ー、それを全身で感じた瞬間、

それまで巨大に見えていた老先生の姿が、透明化してゆき、

わたしの感覚は、何の引っ掛かりも(とら)えられない状態になってゆき、

わたしは(ぼう)然とし、あげく、槍と過ごした日々を()()()()()()心持ちにさえなり、

『まいりました。』と、われ知らず(さけ)んでいた。


手合わせが終わったあと、キューレ老はおっしゃった。


『どんなに強い魔力を持とうとも、高みを目指すなら、

必ずどこかで、見えない壁に、あたるはずです。

その壁に(はば)まれているのも良しとし、むしろ壁自体と同化し、

限界の感覚に身をまかせているうちに、それさえ無くなり、

自分の心身が、透明になってゆくような心持ちに達します。』


『それができたら、あなたも、このーもの静かな殺意ーを会得(えとく)し、

あなたの才なら、さらに乗り越えることが、できるのかもしれません。』と。


前からゆっくりと、見えない鉄馬車の速度で迫ってくる、この人間の力は強い。

ディウ・インクリナ(長い坂)の吊り橋前で対峙した、クリル大公国の大軍の威圧が、

かわいく思えるほどに。


わたしは、街道の左に鉄馬を停止させ、目を閉じ、この世界の小さな風の動きに、

心遊ばせ、数を数えだす。


『・・・(クアトロ)、 (トレス)、 (ドゥ)、 (ウーヌス)、 (ニヒル) !』


≪鉄馬車の(わだち)が、完全に消えてないわよ?≫


精神波で、わたしの右前の空間に言い放ち、次の動きを待つ。

だがこの()さぶりに、音も、光も、魔力も、何もおかしいことは、おこらない。


≪隠れていないで、出てきたら!?≫


そう精神波で言い放つと同時に、わたしは、鉄馬につけていた箱の中から、

数多(あまた)の金属(つぶて)を魔力で、わたしの前面に展開させ、

空中に浮遊させる。


次の瞬間、わたしの感覚は、大地から何本もの、

黄金の閃光が噴出するのを(とら)えた。

ほぼ反射的に、わたしは、鉄馬の両(あぶみ)のところに、金色の魔法円を構築し、

空中高く身体を反射跳躍(ちょうやく)させ、逃げる動作を選択する。


『黄金の断糸か!!』


わたしの心の叫びに呼応するするかのように、大地から噴出した黄金の糸は、

鉄馬を何通りにも切り裂き、更に空中に逃げたわたしを追いかけてくる。


≪≪リベラシオン(解放)!≫≫


その瞬間、用意した金属(つぶて)が、全方位に超高速で発射される・・・。



第2章。暗闇の底から(4) 〖ヨクスの目〗



 百数十という数の、金属の(つぶて)の発射は、

急上昇してくる黄金色の断糸を撃ち落とし、

同時に、前方にとんだ(つぶて)は、写されていた偽りの風景を(ゆが)ませ、

透明な金属で(おお)われていた、鉄馬車の姿をハッキリと浮かばせてゆく。


わたしは、着地と同時に、魔法円を足元に、中空に、いくつも展開し、

次の一撃に備えた。


だが、次の一撃は発せられず、

そして、鉄馬車の御者台から、少年がゆっくりと降りてくる。

平凡な容姿だが、その指の先から断糸が伸びており、

朝の陽光を浴びて、断続的に黄金の輝きが、わたしの瞳に写っている。


「いまさらですが、お姉さんは、新帝国の武人さんですか?」


そう言う少年の全身から、まごう事もない、上位の妖精契約者の威圧が流れる。


「新帝国の?それは違うわ。まあ、陣借をしているという感じかしら。」


お姉さんと問うてきた相手に、わたしは、(くだ)けた口調で返答する。


「お姉さんが、半端(はんぱ)に強いので、手加減出来ませんでしたが、

新帝国と濃い関係がなければ、ここは、引いてくれませんか?」


「残念ながら、それは、できそうにないわ。

大人になるとね、貸しと借りは、キチンとしなければならないの。」


その少年は、困ったように、こちらをみている。


「ぼくの両手はね、お姉さん。おびただしい他人の血に染まっています。

だから、ぼくは、ただ、ぼくを、裁くために、圧倒的な強者である暗黒の妖精と、

闘いたいのですよ。」


「ハハハ、なぜなら、情けないことに、ぼくには自死による、

終焉(しゅうえん)を迎えることができないんです。

ぼくと契約した妖精さんが、全力で邪魔してくるんで・・・。」


「たしかに、暗黒の妖精ラティスさんは、この先の駐屯地に、

今日中には、帰ってこられるわ・・・。」


「だったら、ぜひに!!」


驚いたことに、この底知れぬ力を持つ少年は、ためらいもなく、

私に頭を下げている。


「わるいけど、やはり通すわけにはいかないわ。

あなたの力は、わたしの武人としての一分(いちぶ)に火をつけた。」


「そうですか、それは本当に残念です。」


泣きそうな顔をした彼から、ーもの静かな殺意ーが、清流のごとく流れくる。

わたしは、その流れにあらごうことなく、身をまかせている。


彼の指から伸びる、黄金の糸の一本、一本が、異なる波形を描き出し始める。

糸の太陽の光を反射するときにできる色彩が、バラバラのものになっている。


さらに、わたしも、地上に、空間に、いくつもの魔法円を創りだす。


わたしの中の緊張が、高まってゆく。


わたしの全身からも、ーもの静かな殺意ーが、流れ出す。


『先生。わたしも、先生の境地に達していますか!?』


次の瞬間、目の前の少年の姿が(ゆが)んだ・・・・!!







第180部分をお読みいただき、ありがとうございました。

また、第1部分から最終部分を通しで、お読みいただいた方が、

複数いらっしゃたようで、お礼申し上げます。


ヨクスさんとレサトくんの戦いは、スッと終わらせるつもりだったんですが、

書いているうちに、話が膨らんでしまいました。

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