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ⅭⅬⅩⅫ 星々の天頂と天底編 後編(3)

第1章。彼らはゆく

第2章。彼らがくる

第1章。彼らはゆく


 

 アマトとふたりの妖精を乗せた鉄馬車は、教都の門を過ぎた地点から、

通常の街道をはずれ、自力で道を切り開きながら、進んでいる。


それは、暗黒の妖精ラティスが魔力を()るい、片手を前に軽く突き出し、

鉄馬車の前に魔法陣を構築。

そして、燈黒色に輝く正八面体は、邪魔するものすべてを

消滅させていくだけではなく、道そのものも平面に(けず)っていく。


そしてそれは、教国の首都から武国の首都へも、

直線の幹線道が出来ていくことを、意味している。


彼らは、いつのまにか、教国と武国の国境も超え、さらに先へと進んで行く。

同時に、少しずつ、もうひとりの暗黒の妖精からの能動的探知魔力が、

()くなっていっているのを、ふたりの妖精は感じている。


・・・・・・・・


御者台の上で、(ひま)そうに操車するラファイアが、ラティスに問いかける。


「ラティスさ~ん。なぜ、地べたの上を進んでいるですか?

アマトさんを()()()()()、空を()ければ、早いじゃなかったですか?」


ラティスは、かわいそうな妖精()を見る目つきで、ラファイアを(なが)め、

おもむろに口を開く。


「バカなの、ラファイア。空でも飛んで行った日には、相手があのアピスよ。

(そく)、敵対行為と間違われて、闘いに突入するじゃないの。」


「わたしたちは、あくまでもイルム執政官の使者だからね。」


「それは、ラティスさんの、妖精界での(おこな)いが、悪かったせいでしょう。」


ラファイアは小声でつぶやくも、ラティスに聞きとがめられ、


「はあ、1000年以上前、高速飛行をしてきて、問答無用でわたしに、

致滅(ちめつ)の一撃を放ってきたのは、だれよ!?」


「それと同じことを、アピスなら警戒してるだろうし、

2対1でもあるし、契約者のために先制攻撃を・・・と、考えるのが、

自然じゃなくて。」


「ほんと、()()()()()()には、こだわるんですから・・・。」


ラティスは、ラファイアのその言葉を全く無視して、言葉を(つな)ぐ。


「それに、アンタの目には、世界線の移りが、わからないの?」


「ほえ~?」


ラファイアは、ラティスにバカにされたことによる怒りを保留し、

しかし、あげ足をとって、倍にしてバカにしてやろうと、

この時点での反撃はしない。


「ラファイア。アンタみたいな、この世界にとって、()()()()ならないような、

伝説級の妖精が、次から次に、妖精界から降臨しているわ。」


「この流れで言うと、()()()が降臨してて、武国軍なり連合軍なりに

(ひそ)んでいても、()()()()()()()ないじゃない。」


「まさか、()()()さんですか!」


「そう、あいつよ!」


「これが、あの四角四面のリスタルなら、不意に顕現(けんげん)してきても、

ラファイスの()()()()()のアンタでも、

なんとかなると思うわ。」


沈黙のラファイアの背後に、怒りの49色の光粒が乱気流に舞うように、

鉄馬車の背後に流れていく。

そのことに、全く頓着(とんちゃく)もせずラティスは、言葉を続ける。


「しかし、空を()けていって、出し抜けに遭遇(そうぐう)したのがあいつで、

そして、あいつが先制攻撃を仕掛ける魔力と言えば・・・。」


ストレンジレット(異様な光粒)プロシオン(爆発)ですか!?」


「たぶんね・・・。」


「たしかに、あの攻撃だったら、全力で対抗魔力を放たねばなりませんし、

当然、アマトさんの防御が、お留守になりますよね・・・。」


「だから、大地の上を走っていたほうがいいのよ、ラファイア。」


「アンタ、あいつとも、妖精界では、いろいろとやらかしてるじゃない。」


「その点で言えば、ラティスさんも、ほとんど()()()()()じゃないですか。」


「・・・・・・・・。」


次の瞬間、鉄馬車は、うっそうと(しげ)った森を突破し、幹線街道に(おど)り出る。

ラファイアは笑顔を捨て、真面目な顔で、鉄馬車を止める。

そして、光折迷彩を使い、平凡な御者の姿に、自分の姿を擬態(ぎたい)してゆく。

一方ラティスは、口をつぐみ、幹線道路の片方をみつめてみる。


その彼方から砂埃(すなぼこり)が大きくなってくる。

十数騎の鉄馬が駆けてくるのを、ふたりの妖精の感覚は当然に(とら)えている、

敵意の有り無しを含めて・・・。


やがて、武国の旗を背負った騎士たちは、鉄馬車に追い付き、

鉄馬車が掲げている帝国旗、使者旗を確認し、全員が鉄馬を降り、

そのなかで指揮官と(おぼ)しき騎士が、御者台のところに駆け寄り、

ラティスに対して、敬礼の姿勢をとり、

そして、全ての騎士が剣を抜き敬礼の姿勢をとるのを、魔力視覚で確認し、

口を開く。


「暗黒の妖精ラティスさまとその御一行さまと、お見受けいたします。

わたしは、武国親衛隊の副隊長、ミーユと申す者。

まずは、このたびの、戦への()()()()感謝いたします。」


「そして、親衛隊隊長のコールスより、みなさまをお連れするように、

命を受けております。」


「なにとぞ、ご同行いただきますよう、お願い申し上げます。」



第2章。彼らがくる



 戦いは、戦場での時間よりも、戦場前、前場後の時間が(はる)かに長い。

武国軍は、王国連合軍を追撃するのを、予定通りに断念し、

水没しなかった一方向から撤退し、首都に戻るまえに、

軍の中枢部分は、ミカの街に逗留(とうりゅう)し、

マイチ侯爵派の、貴族・騎士・大商人・その他の人々に、

最後通牒(つうちょう)ともいうべき書状を作成し、それぞれの街や町へ、

使者を派遣(はけん)していく。


街の最も大きい旅館の大食堂を本営に、クレイ(旧ズース)卿が中心になって、

ブーリカ・ウェリキン・ゲトラクス・イケ二に差配し、

彼らが、武国を4方面に分割し、自分が担当になった地区に、

使者を派遣している。


カウシム王太子とレティア王女は、各軍・各地から集まる書状に、目を通し、

その可否を署名し、次から次へと処理をしていく。


・・・・・・・・


 カウシム王太子は、別のちいさな机に置いてある地図の上にある、

敵味方の部隊を表す、各種駒の位置をチラ見し、

レティア王女に声をかける。


「レティアさん。そろそろ、首都に帰還しても、いいんじゃありませんか?」


カウシム王太子は、なるべく平穏(おだやか)な笑顔を浮かべ、当然のように提案する。


却下(きゃっか)!首都に戻られれば、書類の山が、数段にわたって積み重なって、

少しずつ増えていく未来しか見えませんよ、義兄上!」


義妹に冷たくあしらわれた、カウシム王太子は、

中規模な机の上の書類の山の(ふもと)で、ため息をついた、クレイ卿に声をかける。


「クレイ卿!」


「は、陛下。」


「この戦の最大の功労者の1人である()()()に、報奨(ほうしょう)を与えとかないと、

恩賞の下賜(かし)がすすみません。侯爵位はどうです?」


クレイ卿は、武国王となる予定の人物の問いかけなので、仕方なく返事をする。


「なるほど、陛下。侯爵であれば、公文書に、陛下や王女陛下の代理で、

署名しても、おかしくはありませんな。」


「・・・・・・・・。」


なおも、あきらめがつかないのか、カウシム王太子は、

クレイ卿の指示を待っている、4にんの騎士にも目を向ける。


「ブーリカ・ウェリキン・ゲトラクス・イケ二、だれでもいいから、

侯爵位は欲しくありませんか?」


よくとおる声のはずだが、4人供も、なにも聞こえないふりをしている。


「いいかげん、あきらめたらどうだ!?」


窓際に直立していた、警護の役割の騎士のコールスが、(あき)れて声をかけた。


・・・・・・・・


「そろそろ、あの()()()()3人組が、この宿に来るぞ。」


黒騎士のコールスが、無表情な顔で、声をかける。

その声を聞くや否や、クレイ卿が立ち上がり、歩み出て、

カウシム王太子・レティア王女の前で、(ひざまず)く。


「王太子陛下に、王女陛下、そして、コールスさま。

新帝国からの使者を迎えるにあたり、(しん)は、

ブーリカ・ウェリキン・ゲトラクス・イケ二に、

コールスさまのご正体を、ご開示したと、

彼らに語るべきと、上申いたします。」


クレイ卿の、常ならぬ覚悟を(さっ)し、4人も、椅子(いす)から立ち上がり、

クレイ卿の背後にすすみ、その場で、拝跪(はいき)の姿勢に変わる。

それを見て、カウシム王太子は、黒騎士のコールスの態度を(うかが)い、

口調を改めて話そうとする。


「わかった。それでは、・・・・。」


だがそこで、コールスの言葉が、カウシムの言葉を(さえぎ)る。


「いや、カウシム。それは、わたしの口から、(じか)に語ろう。」


5人を見つめる黒騎士コールス、そこには、今さっきまでとは違い、

人を(はる)かに超越した()()アウラ(オーラ)が、輝いている。

しばし、静かな時間が流れてゆく・・・。


「わが名はアピス。そう、暗黒の妖精!」


次の瞬間、黒色の鎧を(まと)った長身の騎士の姿は、白銀の光と化していき

徐々に光が、緑黒色の長い髪・雪白の肌・白銀の瞳・超絶の美貌の妖精の姿に

変わっていった。






第172部分をお読みいただき、ありがとうございました。

今章も、綱渡り状態での執筆です。なかなか、筆が進んでくれません。


それにしても、知らないうちに、PVが1万5千を超えていました。

これも、作者のモチベーションになります。

本当に、ありがたいです。感謝しています。

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