ⅭⅬⅩⅧ 星々の天頂と天底編 中編(5)
第1章。武器商人オベレ
第1章。武器商人オベレ
炎、閃光、爆音、衝撃、吹っ飛ぶ肉体、血の匂い、地面に叩きつけられた、激痛!
「う、う~。」
漏れ出る声。体に視線をとばす、左腕には感覚がない。右脚からの出血。
音は聞こえる、目も大丈夫。立ち上がろうとした。右足に鈍痛、立てない。
「おにいちゃん~、いたいよ!!」」
後ろから聞こえる妹の悲鳴、振り向く。左腕が血まみれになってる、ソーシャ!?
ぼくが右手で掴んでいたのは、
ちぎれて、血を撒き散らしている、小さい妹の左腕!?
「φ、σ、μ、σ、ギャ~~~!!!」
その目の前の小さな影が火柱と化す。
「ソーシャ~~!!!」
・・・・・・・・
意識が、死の記憶と暗闇の中から戻ってくる。
『また、あの夢か!』
その言葉が、頭に浮かぶ。
そして、はっきりしてゆく眼差しが、皺に覆われた左の手のひらを、
ボーッと写し出す。
「若い頃は、昼間にうたた寝など、あり得なかったものですが・・・。」
『ソーシャ許してくれ。いまだ、お前の復讐は成し得ていない・・・。』
オベレは、口と心では、別の言葉を呟いて、
椅子から体を起こそうとする。
若い時とは違い、体のどこかに不具合がないか、無意識に確認をおこなう。
その年を重ねた自分の姿に、失笑しながらオベレは、
「キャーシュ。」
と従者を呼ぶ。こたえがない。
≪キャーシュ!≫
再び、精神波で呼びかけてみる。何も応答がない。
次の瞬間、ためらうことなしにオベレは、戦闘態勢に入っていた。
彼の心に、うすい赤燈色の炎が輝き、揺れ始める。
≪ククク、世間には、中級妖精契約者のご老体と、偽りの姿を見せておいて、
その実、最上級妖精契約者、それも火のエレメントの・・・。≫
≪・・・現役の戦士。おまえ、実に、面白いな。≫
凄まじい圧・・・、気づけなかった?瞬時オベレは、心の中の炎を消し、
「どなた様かは、存じませんが、お人違いでは!?」
と、ひとり言のように語り、あわせて《自分は純朴な岩塩の商い人》と、
強力な自己催眠の能力で、自分自身を変えようと試みる。
だが同時に気付く。自分の周りの空間が、演劇のため描かれた壁絵のように見え、
現実離れをした凪を、六感に与えてくることを。
≪興をさますな。時間の進みは、おまえだけのために あるものではない。≫
オベレは、自分が、岩塩の商い人から、武器商人、いや戦士としての自分に
戻らなければならないのを知覚する。
『どうにか、誤魔化せないか?』
オベレは、いまだ姿を見せぬ超絶者から逃げようと、
おそらくは、生涯で一度あるかないかの瞬間思考を行い、
そして、何もなかったさまで、精神波での会話を試みる。
≪では、問いをかえましょう。このオベレに、なんのご用ですかな?≫
≪ご用!?おまえが、われを、いやわれらを呼んだんだろうが。≫
≪呼んだ!?≫
オベレは、不可視のモノが放つ精神波に、明確な対応を出せない。
≪超上級妖精の契約者を、探していたのだろう。≫
小馬鹿にした精神波が、この空間に響く。
次の瞬間、空間が歪み、オベレの前に、
白色の髪・冥い瞳・白い肌・赤金色の背光、超絶美貌の蜃気楼体の妖精が、
白金の光粒を撒き散らしながら現れる。
『超上級妖精・・か!?いや違う。そう、自分の意思を伝えてきている。
まさか、伝説級の・・・。』
オベレの精神は、それ以上の答え合わせをする事を、拒絶してしまう。
≪こちらは、わざわざ姿を現わしたのだ。超上級妖精の契約者を求めている由、
語ってもらおうか。≫
蜃気楼体の妖精は、すべてを洞察するような圧を、目の前の人間に与えながらも、
オベレの言葉を要求する。
「わかりました、蜃気楼殿。わたしは、岩塩の売買商人のオベレというもの。
今、ラスカ王国での岩塩の専売契約を、目指しております。
その営業のなかで、ラスク王国子爵クラテス様と縁ができまして・・・。
そのクラテス子爵様が、超上級妖精契約者を強くお探しになっています。
で、そのお手伝いを・・・。」
わざとオベレは、精神波から音声に変え、謎の蜃気楼体の反応を様子見る。
≪・・・・・・・・。≫
蜃気楼体の妖精の表情が、ほんの微かに歪む。
≪わたしは、『時間の進みは、おまえだけのために、あるものではない。』
と、語ったはずよな・・・。≫
≪真を語れよ、オベレ!≫
蜃気楼体が再び発する更なる圧に、オベレの顔面は蒼白に変化している。
『ここにいたっては、真実を語るしかあるまい。』と、
オベレは、腹をくくって、会話を精神波に戻す。
≪ふう~、さすがに、偽りはできませんか。わたしは、旧帝都で武器商人、
いえ戦争商人組合の長をしておりました。
ですが、暗黒の妖精さまに、正体を暴かれかけましたので逃げ出し、
新たな拠点を創らなければ、ならなくなりました。≫
≪それで、どこぞ良い所はないかと、眺めておりましたら、
ラスカ王国が目に留まりまして、先程の子爵様を焚きつけて、
謀反を起こさせようと、近づいたのですが・・・。≫
≪話し合いをするもなにも、まず条件を突き付けられまして、
それが、『超上級妖精契約者を、見つけ出し、仲介せよ』とのこと
だったというわけです。≫
≪ほお~。あのラティスに追い出されてな~。≫
謎の蜃気楼体の表情に、笑いが浮かぶ。
≪ふふふ、だそうよ、水のエレメントの超上級妖精の契約者。≫
オベレは驚く、自分の目前に、全身を外套で隠したひとりの人間が
陽炎のように、そこに佇んでいたからだ。
そして、その人間は口を開いて、言葉を放った。
「アルケロン。オベレとやらとの会話は、聞かせてはもらった。
そして、オベレ。お前が語った事は、9割9分はその通りだろう。」
「しかし、お前は大事な事を隠している。つまり、ラスカ王国を選んだ理由だ。
そしてそれは、お前自身の人生に起因しているのであろう?」
第168部分をお読みいただき、ありがとうございました。
また、ブックマークありがとうございます。
この部分は少し短めです。
この作品も、みなさまの後押しのおかげで、
あと一息で、総文字数70万文字を超えようとするところまで、
到達いたしました。
しかし現在、展開が思いつかず、苦戦している最中です。
少しずつでも、物語をすすめようとは、思っておりますので、
あらためて、よろしくお願いいたします。




