ⅩⅥ 海嘯編 前編
第1章。隠された真実。
第1章。隠された真実
「「ふふ。あ、はははは。」」
クリル大国のイルムは朝起きてすぐ、
コウニン王国のルイは昼香茶を飲んでいる時に、
2人は同じ結論を閃き、同じ感想に至った。
「「私は馬鹿だ。」」
2人は遺言書のその条文を思い返した。
『ⅩⅩ。帝位はわが義妹、テイシア=ゴルディールに譲る。』
先帝は、占星術や帝国外の古典にも詳しいと言われたので、遺言書全体に
アナグラムや数式を用いた暗号・占星術や古典を使用した文言迷彩が
施されていると、思い込んでいたのだ。
確かに、そうとしか思えぬ仕掛けが、遺言書の各所に施されていた。
真実は、あまりにも簡単すぎた。なぜ帝位継承の最重要事項を、
遺言書の条文の最初や最後に入れず、20番目に記載したのか!
『ⅩⅩ=20=ウィーギンティー』
つまり、テイシア=ウィーギンティー=ゴルディールの名を持つ娘が、次代の
王帝の継承者に指名されたのではないか!?
英邁と言われたが、不遇だった7世の遺言書なので、複雑なからくりが
あるだろうという思い込み自体が、謎解きの罠であった。
・・・・・・・・
その直後の、イルムとルイの行動は、次のとおりである。
クリル大公国のイルムは、化粧をするのもそこそこに、クリル大公国館に赴き、
『自分こそが遺言書の指定する王帝』とそれなりの根拠を持って
主張していたので、仮保護していた、
4人のテイシア(=ドゥオ、=デケム、=オクト―、=ノウェム)と取り巻きを、
はした金で追い出し、詳細をレオヤヌス大公に親書をしたためた。
そして、すぐに、信頼できるクリル大公国館騎士に極秘に、
テイシア=ウィーギンティーを捜し、保護するよう、
クリル大公国大使に依頼した。
コウニン王国のルイは、以前の情報にウィーギンティーの事がなかったのを
思い出し、暗殺部へクリル大公国・ミカル大公国・テムス大公国から索敵要員を
回すように、緊急の依頼の密書を送った。
☆☆☆
このまま夜が続いてくれればと思っても、普段通りに朝は来る。
アマトとセプティは周りの目を避けるため、鉄馬車で学院へ向かう。
決闘は帝国法で認められている事とはいえ、40人もの人間が屠られたのは、
自分達が直接手を下していなかったいえ、その現実は2人には重かった。
セプティは、何かいいたそうな目でアマトを見ながらも、沈黙している。
鉄馬車を降りて、教室へ向かうふたり。
学院生達は、先日の決闘で、【ラファイスの禁呪】をアマト(ラファイア)が
成就させた事に対し、怨みさえ感じる眼差しで、ひそひそ話をしつつも、
アマト達が進めば、避けるように道を開ける。
『なぜ、こんな残念な奴に、聖ラファイス様が降臨なされたのか?』
魔力で身を立てようと思う者にとってそれは、嫉妬と羨望の極致。
・・・・・・・・
今日は先に1人で登校したエリースが、いつもの朝と違い、学院生が数多く
密集していた掲示板の前に、蒼白な顔色で立っていた。
アマトに気付き掲示板を指差して、
「義兄ィ。」
と、ほとんど泣き声で、アマトを呼ぶ。
何があったと、アマトとセプティが駆け寄った先に、
『 (告)
アマト聴講生、本日をもって、退学処分とする。 』
の簡潔な張り紙が、風に揺らいでいた。
・・・・・・・・
駆け寄ってきたアマトの姿を見て、学院生達は掲示板の前から四散するも、
遠くから、アマト達3人の事を、凝視している。
「義兄ィおかしいよ、決闘の結果については、双方、関係者、遺恨を持たない事
じゃなかったの!」
「だいたい、あの卑怯な外道共は、自分達で20人、それに加えて玄人16人の
の36人で、アマト義兄ィを、嬲りものにしようとしたんだよ!!」
「アマトさんごめんなさい、私のせいで・・・・。」
それ以上の言葉を出せずに、呆然とその場に立ち竦むセプティ。
一時の感情が収まると、アマトは腹をくくった。
『ラファイアさんは、僕とセプティのために、汚れ仕事をしてくれた。
これも剣をとらずに、綺麗ごとに逃げた自分に、
逃げた分が何倍も大きくなって、
戻ってきたに過ぎない。』
決意の色がアマトの顔に浮かぶ。
「エリース、セプティを頼むよ。中で話を聞いてくる。」
「義理兄ィだけでは行かせない。」
「私だけではないわ、リーエもブチ切れているから。帝国に50年ぶりに現れた
超上級妖精の怒りを、味あわせてやるわ!!」
「ありがとう、エリースにリーエさん。けど、こう見えても僕も男なんだ。」
「1人で行かせてくれ、頼むよ。」
ふたりとひとりに、やさしく笑いかけるアマト。
そして、一歩を前に踏み出していく、その残念な容姿から、
かもし出される眩さに、心を射抜かれる
エリースとセプティであった。
・・・・・・・・
まず事務室に立ち寄るアマト、ノリアに代理理事長室に行くように言われる。
何度も来たことのある代理理事長室に、ノックしてはいる。
そこにはロンメル代理理事長だけではなく、
ハイヤーン・バレン・ジンバラの3人の御老体がソファーに座ってアマトを、
待っていた。
「座り給えアマト君。」
イスに座るアマト。
「退学処分にして言うのもなんだが、アマト君に考えてもらいたい提案がある。」
とロンメルが、話を切り出そうとするが、ハイヤーン老がそれを遮る。
「ロンメル、ワシの方から話した方が、よかろう。」
「まず間違えてもらっては困るのだが、今回の君の退学の理由は、
魔法剣の不出来が原因だ。」
「あの有り様なら、なるべく若いうちに進路の変更を、させてやりたくてな。」
と、ジンバラ老が一言、話を挟む。
アマトの顔を見ながら、再びハイヤーン老が話を始める。
「だが、そう言ってもおれなくなった。」
「どういう事ですか?」
「アマト君、上流帝国民と下流帝国民が決闘して、下流帝国民が勝った場合、
遺恨が発生しないと、本当に思うかね?」
「遺恨を持たずというのは、上流帝国民が勝った時のみの都合だ。下流帝国民が
勝った場合は、上流帝国民は、いつまでも追いかけ、本人のみならず、
その家族、場合によっては、一族まで根絶やしにしてきたんじゃよ。」
「本当に、胸糞悪いことだがな。」
と、バレン老が言葉を入れる。
「そして、アマト君、君はこの件で元とはいえ、上流帝国民20家を敵に
まわしてしまった。」
「君が、聖ラファイス様を降臨させたことで、決闘のあらましを、無理やり
彼らにとって都合のいいように書き替える事はできなくなった。
誰も1000年ぶりにこの地上に現れた、かの御方が御照覧された決闘を、
平気で嘘で汚す事はできん。」
「それに君が、ラティス殿の契約者であることは、ノープルの事と合わせて、
ここ2・3日のうちに帝都中に知れ渡るだろうよ。」
「それでも、彼らは思い込むだろう、この汚辱を雪がなければ、
貴族位・騎士位に復帰しても、未来永劫、笑いものになるとね。
上流帝国民にとって、笑いものになるというのは、許されざる恥辱だ。
相手が、下級帝国民ならばなおさら。
彼らに残された唯一の解決はどんな手立てを用いても、
君とセプティと君たちの家族を抹殺する事だ。」
「それでしか、自分達の周りの上流帝国民の嘲笑を消す事はできない。
上流帝国民の矜持にかけて、汚名は雪がなければならんとな。」
「その結果どうなる?」
「正直に言おう。我々は怖いのだ。やつらが、君やセプティ君やその家族に
手を出した時、ラティス殿が鬼になられる事が。」
アマトは、その場合、ラティスとラファイア、2人の妖精がどういう態度をとるか
を想像し、目の前に惨劇が浮かび、本当に吐きそうになった。
「あの場所で闘いを挑まれた聖ラファイス様が、ラティス殿との
戦いを避けられた。」
「つまりラティス殿は、聖ラファイス様以上の力を有しておられ、
もし、ラティス殿がアピスのような殺戮の妖精と化されたら、
聖ラファイス様でも止められるかどうか。」
『そういう風に思われているんだ。これも、ラティスさんとラファイアさんが
が予見して行ったんだろうか?』
考え込んでいるアマトに、バレン老が衝撃的な一言を投げかける。
「それはアマト君、君もだよ。君がオフトレ以上の虐殺者になる可能性もな。」
『自分も?』アマトは考えがまとまらない。
「ワシも、剣を教えた君が、暗黒の妖精の妖精契約者だとを聞いて、、
急所をつけないヘタレで、初めて良かったと思ったわ。」
ジンバラ老が、ポツリと呟く。
・・・・・・・・
「これから話す事は、妖精史学上、最大の禁忌じゃ。だがアマト君には話して
おかなければなるまい。」
「バレン老・ジンバラ老・ロンメル、今から話す事に対し、
【沈黙の掟】を誓う事ができるか?」
一瞬考えた3人だが、それぞれ力強く頷く。
「アマト君、虐殺者オフトレが、なぜあのような事を犯したと聞いてるかね?」
「オフトレは、暗黒の妖精アピスと契約をしたことで、その強大な力と
闇からの誘いに、魂を売り渡し、神々を裏切り、自ら最も至高なる地位を
望んだと。」
「ではアマト君。暗黒の妖精と契約を結んだ君に、闇からの誘惑があったかね?」
「いえ、そんなものは、欠片もありませんでした。」
「ほお~~!!」
思わず、他の3人の息がもれる。
「無論、ラティス殿とアピスでは全く違うと言うのかもしれんが、
同じエレメントの妖精で、それはなかろうよ、」
「つまりは、一般に流布している話が、いかにデタラメかとかと言う事だ。」
ハイヤーン老は自分自身を落ち着かせるよう、香茶に手を伸ばす。
口を湿らせたうえで、再び語りだす。
「ワシが、口伝で師匠から継承した話では、オフトレは騎士を目指す、
準騎士見習いの下級帝国民だったらしい。」
「その当時は、今以上に、どんな力の妖精と契約しているかが人生を
左右しておった。あの時代は、風・火・水・地の4つのエレメントの
妖精しか妖精でないと思われていたので、オフトレは級外妖精契約者として
悲惨な扱いを受けていたのではないかのう。」
「そのオフトレじゃが、幼なじみの婚約者がいた。」
「が、貴族のバカ息子5人が、お遊びで、無理やり彼女を辱めた。
婚約者の娘は、それが原因で、自ら命を絶った。」
「それを知ったオフトレは、5人を衆人の面前で罵倒し、そちらは助っ人自由
とまで言って、うまく決闘にまで持ち込んだ。」
「無論、ソドラのの街の5大家という名門の5人は、それぞれの家の配下騎士
20人、傭兵25人の計50人で会場に乗り込んだらしい。」
「上級妖精契約者もいたそうだが、1人 暗黒の妖精アピスの前に、5人以外は
瞬殺され、バカ息子の5人は、惨めにも衆目の前で命乞いをしたのだが許されず、
泣きわめきながら、逃げ出そうとし、背中から止めをさされたという。」
さらにハイヤーン老は話を続ける。
「双方遺恨無き事の誓いもあったが、そんなものは言葉だけじゃよ。」
「だが、暗黒の妖精アピスの力は、貴族達が、今まで行ってきたやり方では
どうにもならないくらい、強大だった。」
「ソドラの5大家は、まずは大量の裏金を使い、王帝と双月教を動かして、
その頃暴れまわっていた妖魔4ッ首の兜竜を退治するよう、オフトレに
命令させたんじゃ。勝利のあかつきには準爵位を与えると餌を与えてな。」
「アピスの力を持ってしても。兜竜との戦いは厳しいものだったらしい。
その戦いで、オフトレは相討ちで死んだと思われた。
当然、暗黒の妖精は、契約者の死によって、妖精界に帰ったと。」
「歓喜したんじゃろうな。その後、ソドラの5大家の、復讐がはじまった。」
「オフトレと婚約者の一族のものは、拷問され、罪をかぶらされて、
小さい子供まで、火刑に処せられた。」
「若い女だけは、ソドラと5大家の親戚が支配するゴモムの街の男達の
慰み者に堕とされた。」
「だが、オフトレは、不幸にも死んでいなかった。その事を知り、実際に
ゴモムの街で、自分の姉妹のありさまを見て、オフトレは壊れてしまった
ようじゃ。」
「その怒りは、暗黒の妖精アピスの力を極限まで増大させ、ゴモムの街は
一瞬で芥と化した。」
「ソドラの街とて、同じこと。後を追うよう、塵と化した。」
「帝国も教会も、事実を隠蔽するため、数個の軍団と聖騎士団を送ったが
全く相手にならず、一蹴され、流砂と化したと。」
「もはや、帝国も教会も風前の灯火かと思われた時に、聖ノープル様と
聖ラファイス様がオフトレとアピスの前に立ち塞がった。」
「それからは、皆の知ってのとおりよ。」
再びハイヤーン老は香茶を手に取る。
「そのような過去があったんですか、道理で双月教の聖ノープル様と
聖ラファイス様の扱いは、異常とも思えるほどのものなのか。」
とバレン老は納得する。ジンバラ老も、
「帝国としても、歴史には絶対残したくない話ではありますな。」
と、感想を述べる。ロンメルも
「何か、救いのない話ですね。」
と3老体の顔を伺いながら、自分の感じたままを話す。
なにか釈然としないアマト。その思いをハイヤーン老は指摘する。
「アマト君、君のやった行動は、知らん事だったとはいえ、オフトレの行為を
そっくり、なぞっているようにしか思えん!」
・・・・・・・・
最終的にハイヤーン老からの提案は、まず今回の退学は、決闘の次第を
重くみた学院の判断として、アマトを罰したとする事。
これで20家の溜飲を多少なりとも下げさせる。
それで時間を稼ぎ、
次にアマトを、自分の(名目上)後継者として、学院の準講師補として雇入れ
報酬も支払うとの事だった。
暗黒の妖精の契約者である事、帝国の至宝とも言われたハイヤーンの名跡を
事実上継承する事となれば、復位を目指す元貴族や元騎士にとっては、
泣き寝入りをせざるを得ないだろうと。
極めつけは、アマトとセプティとその家族に何かあれば、20家が共同して
謀議をしたとみなすと、3大公国から信書を送らせるとの事だった。
・・・・・・・・
「少し考えさせて下さい。明日には返事をいたします。」
と言って代理理事長室を去るアマト。ロンメルも所用があるということで部屋を
後にする。
3人になったところで、バレン老がおもむろに話を振る。
「ハイヤーン老、なぜそこまで入れ込まれる?暗黒の妖精に対する恐怖と
いうことばかりでは話が見えませんな。」
答えようとしない、ハイヤーン老。
「もう一つの道もあると言う事か、ハイヤーン老?」
「そう、アマト君が、正確に言えばラティス殿が公爵以上の地位を
その魔力で掴み取り、彼に与える事。」
と、ジンバラ老が話をつなぐ。
誰に聞かせるでもなく、ハイヤーン老は話始める。
「帝国も建国以来1000年以上になる、劣化が激しい。この学院の建物の
ように、誰かが手を入れる時期に、きたのかもしれん。」
「手にいれるでも構わんがの。」
と、ハイヤーン老は、さらに独り言めいた言葉を2人に投げかけた。
「清らかな泉からしか、清らかな水は流れぬものだ。」
☆☆☆
ハイヤーン老の講義が急遽中止され、自習になったので、セプティを無理やり
付き合わせて、エリースは、電撃訓練場へ来ている。
途中、リーエが我慢できなくなったのか顕現し『私も。私も。』ポーズで
うるさいので、周りに人の目がないのを確認し、
2人?で上級妖精(契約者)レベルに手加減して、
電撃をぶっ放し続けている。
セプティは友の怒りが収まるまで、静かに待っていることにした。
『なんで義兄ィは、ああ、あるの。ヘタレすぎるのも甚だしい。』
『今回のことも、あの元上級帝国民の精神が爛れきった奴の、存在自体が
引き起こした事。何を悩んでいるの?あいつらの精神に、スープン半分の
人としての誇りがあれば、いつでも引き返せたはず。』
『豚野郎どもが!豚野郎どもが!豚野郎どもが!
なぜ神々は豚に意思を与えた!!』
『奴らの一族が、私や、セプティや、義姉ェや、義兄ィに手を出してくるのなら、
永久に悩みのない世界に送ってあげる。お前たちの血筋の一滴でも
残しはしない。』
最後に、信じられないくらいの連射を続けたあと、
「ふう~。」
一息をつき、セプティを振り向くエリース。その顔の表情から鬼気が消えている。
一方リーエも、満足げな顔で姿を消していく。
「ありがとうセプティ、付き合ってくれて。」
「このくらいの事、私が今回しでかしたことを思えば・・・・。」
エリースは両手でがっしり肩を掴み、セプティの言葉を遮る。
「いい、セプティ、あなたは悪くない、むしろ被害者。胸をはって、
顔を上げて!」
「この世界に、超上級妖精を超える魔力を持つものなど、まずいないわ。」
「あいつらが、殺戮の妖精アピスを連れてきたとしても、私が倒す。」
「だから、迷惑をかけたなんて、思わないで!」
「エリース・・・。」
友の迫力に頷くセプティ。彼女の瞳にも消えていた光が灯る。
何かを感じたようで、フッと遠くをみるエリース。
「セプティ、休憩所でアマト義兄ィが話たがっている、行こうか?」
「あ、これは風の索敵魔力ではないわ。女の勘よ。」
・・・・・・・・
エリースの勘が示したように、アマトが休憩室で、2人を待っていた。
校舎の方から2人が出てこなかった事に、少し驚いた表情をしている。
「自習になったからね。で、義兄ィ、どうだったの?」
「エリース、まず音響障壁をはってくれないか。それから話すよ。」
エリースの全身が一瞬淡い緑色の光に包まれる。
アマトは、ゆっくりと、提案された事を2人に話しだした。
話を聞き終えた後、エリースがアマトに尋ねる。
「私としては、全く納得がいかないけど、義兄ィはそれでいいの?」
「アマトさん、私のために、無理はしていませんよね?」
セプティも、不安そうな顔で、アマトに質問を重ねる。
アマトは、少し考え、言葉を選んで話し出す。
「おそらく、3人の御老体が真剣に考えてくれたんだと思う、
いい落としどころじゃないかな。」
「本心から思っている?」
「もちろん。僕らは、帝都で生きる事を選択したんだ。
これ以上の案はないと思う。」
「義兄ィが、強制退学の不名誉を受けても後悔しないというんであれば、
これ以上の事は言わない。ただ、あいつらが何か手を出して来たら、
私は、情け容赦なく、キレるからね!それは覚えといて。」
セプティは複雑な表情で、それでも一言一言を聞き逃さないように、
2人の話を聞いていた。
・・・・・・
ほんのしばらくして、フレイア・アストリア・エルナがこちらの方に
急いで来るのが見えた。
エリースが気付いて、音響障壁を解除する。
「アマト君、大丈夫なのか?もう外へ出てもかまわないのか?」
と、フレイアが声をかけてくる。アストリアも、
「【ラファイスの禁呪】は、引き換えとして、アマト君の寿命が
削られるようなものではないの?」
と心配し、エルナも肯いている。
『確かに、【アルケロンの息吹】という使用したら、莫大な魔力の代わりに、
術者は一気に老化するという魔呪を、聞いた事があるな。』
と思いながら、アマトが、
「ご心配をかけました。ほんとうに、とくに不都合なことは起こってないです。」
と、答えると、3人の顔に安堵の色が浮かんだ。
少しの沈黙。フレイアが意を決して
「どころで、聞きにくいんだが・・・・。」
言いにくそうに、声をかけてくる。
「わかっています。退学の件ですよね・・・。」
「エリース、もう一度音響障壁をお願いできるかな。」
その後、おもむろに、オフトレとアピスのくだりを除いて、
話をするアマトだった。
3人は、途中アマトを恐怖の眼差しで見たが、話し終わるころには、
いつものように戻っていた。
「退学は覆わされないの?」
フレイアは残念そうに話す。
「やはり、なんらかの罰をうけた形にしないと、元上流帝国民の一族は、
収まりをつけれないと、いうことでしょう。」
「ラティスさんは 自分が思うがままに 行動します。ただ 契約者が
傷つけられるのを 看過しないのは 暗黒の妖精も 他の妖精と
変わりは ありません。」
アマトは、俯いてポツポツと話す。
「確かに、暗黒の妖精契約者というのは、重いわね。ごめん、話を聞いてる途中、
アマト君が怖くなった。」
とめずらしく、エルナが自分から話しをする。
「ごめん、わたしも。アマト君の人間性は知っているはずなのに、
それにラティスさんが、帝都で何をしたというわけでもないのにね。」
アストリアも妹の意見に同意する。
「それなら私もだ、あやまるわ。アマト君ごめん。」
フレイアも素直に頭を下げる。
『やはり、そうなんだよな。普通の人にとって、暗黒の妖精の実在は
悪夢なんだ。』
ラティスとラファイアの、日頃のやりとりを見せつけられているアマトには、
実感がわかない。
「それは気にしてませんから。」
『この機会だ、聞いとかなくては、ラティスさん悪名を借りるよ、ゴメン。』
「フレイアさん、アストリアさん、エルナさん。この機会に
聞いておきたいことがあるんです。なぜ、セプティを監視してるんですか?
ラティスさんも不審がっている。」
「義兄ィ、何をいっているの?」
とエリースが、椅子から立ち上がり、アマトを咎める。
「嘘でしょう。私をですか、アマトさんじゃなくて!」
とセプティが、アマトと友人たちに大きな声で尋ねる。
・・・・・・・・
しばらく沈黙の時間が流れる。
アマトは、3人から真実を聞き出そうとして、独り言のように語り始める。
「初めは、僕が暗黒の妖精の契約者だという事で、帝国本庁が
フレイヤさん、アストリアさん、エルナさんを監視につけたのだと、
考えていました。」
「けど、その内に僕が、席を離れてもあなた方は、僕を目で追う事も
しませんでしたが、セプティが席を外したら、3人のうちの1人が
なんらかの理由で席を立っていましたよね?」
「そして今日、フレイアさん達のとった態度は、どう見ても、
僕が暗黒の妖精の契約者だと初めて知った人の態度としか
思えません。」
「「「・・・・・・・・」」」
・・・・・・・・
「フレイア、私は本当の事を、アマト君達に話した方がいいと思う。」
と、アストリアが沈黙を破る。
「フレイア姉さま、私もこれ以上、友人としてアマト君達に隠しておくことは、
気が引けますわ。」
と、エルナも真剣な顔で、フレイヤに迫った。
フレイアは、深々と頭を下げ、おもむろに話し出す。
「セプティさん、そしてアマト君・エリースさん、本当に悪かった。
ただ、アストリアもエルナも私を手伝ってくれただけなの。」
「もし許せないというのであれば、私だけを軽蔑して。」
机の前に出してた拳を握りしめながら、フレイアは話を続ける。
「前に、私が聴講生として入学したのは、お金がないから、というような
事を言ったことがあるよね。」
「実際に、期日までに入学金も用意が出来なかった。だから入学を断りに
この学院を訪問したわ。」
「それを受付のキノリさんに言っていたとき、偶然居合わせた副理事長に、
『ちょっと、話がある』と言われ理事長室に連れていかれた。」
「そこには理事長と、見知らぬ男が、座っていた。」
「その男は言ったわ、『女か、考えれば、男よりいいかもしれん。』とね。」
「理事長は、常にその男に低姿勢だったわ。」
「そして言ったわ。『きみの魔力剣の成績は群を抜いていたと聞く、
ひとつその力で、人助けをしてみないかね。無論ただとは言わない。』」
「その仕事というのが、聴講生として入学する、セプティという娘を
3年間、学院の中だけでもいいので、それとなくガードしてくれれば、
入学金をこちらで持つという事だった。」
「うさんくさい話とはおもったが、予備隊にいたとき、そういう裏の仕事もあると
聞いていたので、その話を受けたんだ。」
「それって、何なんですか?」
セプティが声を荒げて、フレイアに詰問する。
「セプティさんゴメン。理事長から『わかっているとは思うけど
詮索はしないように』と釘をさされ理由は知らない。」
「ただその男から、『きみとは2度と会うまい、もう一つ頼まれて欲しい。
この娘が無事卒業できたら、渡してくれ。』と言われ、
預かっているものがある。」
「それを、セプティさんのところに持参する。それで何かわかるかもしれない。」
『監視じゃなくて、ガード!?』思わぬ言葉にアマトは考えを反復してみる。
嘘じゃないだろう、フレイアさんは、そんな腹芸のできる人ではない。
「セプティ!それでどうするの。」
急にエリースが親友に尋ねる。
「フレイアさん、アストリアさん、エルナさんを許す事ができるの?」
「わからない。わからないよ。エリース!」
オープンテラスの6人を、風が吹き抜けていった。
第16部分をお読みいただき、ありがとうございます。
あわせて、ブックマークありがとうございます。
今後の励みにさせていただきます。
(作者からのお願い)
本作品も、令和3年12月末で、100部分まですすんでいます。
当初から勢いだけで、書き進んでいきましたが、だんだんそのエネルギーも
摩耗してきています。
こういう状態ですので、ブックマークをいただけると、励みになります。
作品を続ける、新たなエネルギーとなりますので、
本小説を、今後ものぞきにきてもいいよというのであれば
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