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ⅭⅬⅨ 星々の天頂と天底編 前編(5)

第1章。カイム先生とアマトの情景

第2章。ふたりの妖精さんの光景

第1章。カイム先生とアマトの情景



 「あれは、初等学校の最終学年の直前でした。

ぼくたちの学年は、エリースを除いて、歴代最低といわれてました。

ぼくのような、無エーテルの生徒がいたのもありますけど・・・。」


「そんな時、講師が変更になり、カイム先生が、ぼくたちの前に現れたんです。」


「カイム先生の口から、『おはよう。』という言葉を聞いた瞬間、

ぼくだけじゃなく、男の子・・、男子生徒はみんな魅了(みりょう)され、

女の子たちは、カイム先生に(あこがれ)れを(いだ)いたんじゃないかと思います。」


アマトは、たき火に()えるルリの面差(おもざ)しに、

次から次へと、カイム先生との思い出が浮かんでくる。


「カイム先生は、妖精契約の核心は、契約する人間のエーテル容量ではなく、

妖精属性への()()()だと、ぼくたちに話してくれ、

それを重視した実習・講義をしてくれました。」

 

「また、その結果、今まではお題目にすぎなかった、

≪後天的にエーテル値を()()()増やすことができる≫

ということも、成果として現われてきました。」


「確かに、契約する人間のエーテル値で、あらかじめ契約できる妖精の級が

違うのかは、いまだにはっきり、わかってはいないわね。」


「事実、エーテル値だと、わたしより、カイム姉さんの方が優れていた。

だけど、わたしは風のエレメントの魔力に、興味、いえ親近感を思えたので、

あえて、風のエレメントの妖精を選んだわ・・・。」


知らず、ルリの美しい口から言葉がもれる。


「そのことが、カイム先生の心に残っていたのかもしれません。」


「姉さん・・・。」


アマトは、ルリのもらした言葉に躊躇(ちゅうちょ)せず、話を続ける。


「『わたしを信じて、契約の時は、妖精の光球の輝きより、親和性を選択して。』


 『親和性のある風の妖精と契約したら、中級妖精契約者になったけど、

  契約時の光球の輝きや、エレメントの好みや、()()()()で、

  他のエレメント妖精との契約を選んだため、

  初級妖精契約者になりました・・・。

  だったら、目も当てられないわ。』


 というのが、カイム先生の()()でした。」


「ただ、その頃になっても、ぼくは、エーテルが皆無だったため、

ほかの生徒からも、その家族たち、先生たちからも、ほぼ異端者と同じ扱いで、

ほかにも、エリース、ユウイ義姉をのぞく、街の人たち全員から、

侮蔑(ぶべつ)の石ころや殺意の矢を投げられる、人外扱いだったんです。」


そう話したアマトをルリは、海に(ただよ)う月影のような(ひとみ)で、見つめている。


「実際、妖精契約に至らない子など発生したら、

街の汚点、不名誉になる、不吉だ、

もはや契約の前に殺してしまえという動きがあったのを、

あとで、ラティスさんから聞きました・・・。」


「それが、なぜかうまくいかなかったことも・・・。」


「それっていうのは・・・。」


「おそらく、先生が(まも)っていてくれたんだと、今は思っています。」


「それに、全くエーテルに反応しないぼくに、講義後など、ふたりっきりで、

実習に付き合ってもらって、その時、


『アマトくん、最後の最後まであきらめるな。神々が必ず機会を与えてくれる。

 そのとき、必ずその手で(つか)むために・・・。』


と、手を重ねて、話してくれました。」


「その頃には、ぼくは・・、カイム先生を、先生としてではなく、

大人の・・いえ・・、ひとりの・・女性・・として・・、

心を寄せていたんだと思います・・・。」


そこで、アマトは口をつぐみ、沈黙がふたりを包む。


遠くで、魔鳥キルギリウスの鳴く声が、ふたりの耳に聞こえてくる。


「アマトくん。いろいろ話してくれてありがとう。

カイムも、きみの先生をしていたときが、一番幸せだったんじゃないか。」


「姉の生涯に、そういう時期を与えてくれた、アマトくんに感謝するわ。」


「そうです、ルリさん。今になって思えば、カイム先生との()()()()がなければ、

ラティスさんと、儀式外で出会った時、

妖精契約など、できなかったと思います・・・。」


アマトの話は、そこで中断した。


なぜなら、ルリが静かに、涙を流しているのを、アマトが見たから・・・。



第2章。ふたりの妖精の景色



 「へぇ~。だったら、アマトさんとカイム先生?の関係こそが、

ラティスさんとの妖精契約を成立させ、この世界の歴史を変えたんですね。」


ラティスの障壁(しょうへき)の上から、聞きなれた言葉がふってくる。


「なに、ラファイアなの。急に、上から声をかけられれば、驚くじゃない!」


「驚く!?ハハハ、暗黒の妖精()()が、何を、おっしゃいますか!」


ここは、アマトたちの野営地の(はる)か上空。

ラティスは、ルリの障壁に全く干渉しないように、透過(とうか)の魔力をふるい、

アマトとルリの様子(ようす)を、(のぞ)いていたのだが・・・。


「ラティスさん。いくらアマトさんが心配といっても、()()()はいけませんよ。

()()()は!」


ここぞとばかりに、ラティスをたたく、ラファイア。

逆に一方的に、ラファイアに追い込まれる、ラティス。

ラティスの目に(あせ)りの色が浮かんだが、ふと、あることに気付く。


「・・・・ちょっと、待ちなさいよ、ラファイア!

わたしも、この場所にきて、すぐに魔力障壁(しょうへき)をはったはず。

アンタが、探知魔力に極振りしたとしても、わたしがどこにいるか、

それ以上に何をしているかは、わからないはずよね・・・!?」


「やっと、気づかれましたか。

わたしも、ラティスさんがこの場所に来られる前に、

魔力障壁(しょうへき)をはって、この場所に(ひそ)んで、下を(なが)めていたんですよ。」


「アンタ、それって、ふつう()()()と、言うんじゃない。」


ラティスは、ラファイアに攻め込まれた失地を回復すべく、

白光の妖精に対して、積極的に、攻勢の姿勢を構築する。


()()()だなんて、失礼な。わたしは、()なる任務に目覚めて、

この場にいるんです。」


「はあ~!?()なる任務ってなによ!」


「ふふふ、聞いてください。」


ラティスに対して、悠然(ゆうぜん)と胸をはる、ラファイア。

それに、万が一にも、下界の人間に、特にふたりに気付かれないよう、

白金の、7色の、49色の、光粒を、今は(まと)わせてはいない。


「あのおふたりに、()()()とか、()()()()とか、が起こるようなら、

あの、おふたりの周りに、わたしの全力の結界をはって、差し上げることです。」


どうだとばかりに、リーエよろしく、ポーズをとるラファイアに、

やれやれとラティスは、相棒に、可哀想(かわいそうな)なやつとの眼差(まなざ)しを送る。


「いろいろと、突っ込みどころはあるけど。

まず、その理由をお聞かせいただけるかしら、ラファイア()()。」


いつにない、暗黒の妖精の下手な態度に、ラファイアは機嫌(きげん)よく言い放つ。


「おふたりの間に、子供ができ、お孫さん、いえひ孫さんの時代になったら、

あらたな契約者として、妖精契約をする。そうすれば、何十年か、

楽しい時代を、過ごすことができるじゃありませんか。」


「きたるべき未来に対して、楽しい種をまいておく。

これは、(すご)い事だと思いませんか。

ひょっとしたら、おいしい香茶を()れる才能も、ルリさん(ゆず)りで、

引き継いでくれるかもしれませんし・・・。」


そう、うれしそうに豪語(ごうご)するラファイアに、ラティスはあきれかえって、

その想いに指摘をいれる。


「まずね、ラファイア。アンタみたいな強大な妖精と契約をするんだったら、

ふたりのひ孫? そのエーテル量が皆無でなければ、いけないでしょうが。」


「ふつう、ありえないと思わない。」


「それに、その()()()()なり、()()()なりを、全力で応援しましたなんて、

結果ができた時、エリースとユウイに言えるの?」


顔色が、みるみるうちに(あお)くなる、白光の妖精。


だが、いつもと違いラティスも、それ以上の言葉は発しなかった。

隠された、ラファイアの真情を、感じとっていたから。


『アンタの思いはわかるわ、ラファイア。わたしも、アマトたちと共にある、

この時間が、永遠に続いてくれればと、思うもの。』


『だけど、新たな人間たちと、そういう時間に巡り合えたとしても、

今のこの時間ではないわ。この時間は、唯一無二なもの。

そうでしょう・・・、ラファイア!』


自分の命の長さを思い、必ずくる別れに思いを()せ、月を(あお)ぐ、

暗黒の妖精であった。











 


第159部分をお読みいただき、ありがとうございました。

また、ブックマークありがとうございます。

本部分は、少し しんみりとした話になっていますが、

いかがだったでしょうか。

本作品も、定期的に訪ねていただいている方が、少し増えたようです。

ほんと、ありがたいと思っております。

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