ⅭⅩⅬⅣ 星々の象意と進行編 中編(2)
第1章。契約妖精(1)
第2章。契約妖精(2)
第1章。契約妖精(1)
「いたい!」
ぼくの意識が、僕自身のこころに戻ってきた。
ぼくは、剥き出しの金属の椅子に座らせられたようだ。
のど元に、左右から槍の穂先が押し付けられる。
目だけで、左右を確認する。5人の警護の騎士が左右に立っていた。
この試練場は、地面をくり抜いて作ってあるようで、
地面部分が闘技場、正面が見学席、残り三面が予備席なんだろう。
天井は透明な水晶らしきもので覆ってあり、太陽の光が全面を照らしている。
こんな事を考えるなんて、自分が現実から逃避しようとしているのに、
ぼくは気付いてしまう。
闘技場の真ん中に、錆びついた金属製の椅子がひとつ。
仮面を被らされた人間が、座らせられている。
対面の見学席には、緋色の制服を着た学生たちと、黒い服を纏った、
教師らしき人物も数多く見える。
一番上層の席は、赤揃えの鎧を着た者たち、
間違いなくカブラ王国正規軍の人間たちだろう。
椅子から立ち上がった仮面の男の前に、緋色の略式鎧に黒い下服の学生が、
対面の席の出口から現れ、進んできて向かい合う。
≪「ウィーギンティー、ウーンデーウィーギンティー、・・・・。」≫
正面の学生席から、数字が逆に読み上げられていく・・・。
「ウワー!!!」
雄叫びを上げて、仮面の男が地面の上に置かれた剣を拾い、
鞘から抜きはらい、学生に切りつける。
だが、仮面の男の剣は、氷の魔法盾で受けられ、体の捌きでかわされ、
全く用をなさない。
≪「・・・・、ウーヌス、ニヒル!!」≫
正面の席の学生たちの、数えが終わった。
学生の全身が青色に光る。仮面の男の一撃をヒラリと軽く流しながら、剣を抜く。
刃面から、青白い光が・・・。
≪「剣を使った、氷結凝固か!」≫
対面から、感嘆の声と精神波が響いた。
身動きできない仮面の男に、その学生は一礼をし、一足一刀の間合いに近づき、
剣を振り下ろした。
凄まじい悲鳴を上げて、彼は倒れた。服が血にまみれてゆく。
しかし彼は、それでも出口の方へ、這いずりながらも、逃げようとする。
しかし、血に濡れた剣を構えている学生の方は、固まって動けずにいた。
ぼくの横にいた警護の騎士が、地上を滑空し、彼の前に立ち塞がり、
なんでもないように、槍で背中の中心部を、突き刺した。
・・・体液が飛び散る・・・。
それとは別に、彼の体は、光粒に変化し分解してゆき、
深紅の光を放って契約していた妖精が、彼の体を離れ、消えていく。
学生は、無意識に、彼から目を逸らしてしまう。
≪デック!その程度のことで目を逸らすなら、卒業は取り消しだ。
君が勝てるのは当然のことだ。感情を克服するのが、試練なのだ!≫
対面の席から、だれかの精神波が、この場に響く。
戻ってきた警護の騎士が、ぼくの前に仁王立ちして、口を開く。
「ぼうず、時間だ!」
そして、ぼくは左右の騎士に槍で突かれ、処刑場の真ん中へ、
ふらふらしながら、追い立てられて行く・・・。
第2章。契約妖精(2)
≪時間がない。これからは、犯罪者どもに自由に攻撃させる、
20の待ち受け時間は設けない。≫
≪そのつもりでおこなえ!≫
≪次の者、闘技場へ!≫
対面の席の一部が開き、ひとりの学生が、ぼくの方へ歩いてくる。
≪「見て、伯爵令息さまよ!」≫
≪「英雄マリーンさまの末裔、カブラ王国の至宝、ラウトさま。」≫
≪「最上級妖精の契約者。わが学院の頂点、双翼のうちのひとり!」≫
≪「かわいそうに、あの罪人、一拍も持たずに黒墨かよ。」≫
激しい打音が、対面の2階席・3階席から起こる。
つぶやきと精神波に合わせて、多くの学生が足で床を踏み鳴らしてる。
ぼくの唯一の魔力、精神波が聞こえるという能力がうらめしく思う。
目の前の美丈夫が、右手を上げる、一瞬にしてこの場が静寂に包まれる。
そして、かれは口を開いた。
≪「わたしの名は、ウラト=マリーン。始祖の功績により、未冠・未爵ながら、
公の前で、姓を名乗るのを許されし者!」≫
その瞬間、ぼくの左右に、真っ赤な火柱立ち上がった。
一部が、ぼくの服に燃え移り、その熱さのあまり、ぼくは悲鳴を上げながら、
地面に転がりながら、火を消そうとする。
≪「このように、最上級妖精と契約したわたしは、
無詠唱で、自由自在に 火の魔力を使える。」≫
≪『生キ続ケタイデスカ?』≫
とうとう、空耳も聞こえ出してきている。
ぼくは、恐怖のあまり、歯の震えを抑えることができない。
≪「だが、わたしも、情けを知る者。
詠唱を使う公式な魔力で、君を次の世界に送ってやろう。」≫
≪「詠唱を唱えるのに、ほんの少しの時間がある。
その間、そこにある刀でも槍でも使って、生き残る努力をしたら、
いかがかな!?」≫
≪『生キ残りタイデスカ?』≫
また、空耳が聞こえる。ぼくは、どこかに逃げるところはないかと、
必死になって、周りを見渡す。
『えっ!』
いつの間にか目の前の男は、空中高く浮遊し、
彼の前に深紅に光る魔法円が、もう構築されている。
≪『死二タクナイデスカ?』≫
ぼくは、涙を垂れ流しながら、その空耳に答えていた。
「あたりまえだ~~!!!」
≪『スィク、ドミナス!!!』≫
次の瞬間、断罪の雄叫び上げながら、炎の爆流が、ぼくの全身をつつんだ。
第144部分をお読みいただき、ありがとうございます。
また、全部分をお読みいただいた方が、いらっしゃるようで、
あわせて、お礼申し上げます。
作者には珍しく、同日投稿です。
やはり、こういうダークな部分は、早めに手もとから、
放したい気分になります。
中編の間は、このような世界がつづきますので、
ご容赦いただければ、うれしいです。
(追記)
➀1拍≒2秒。〈この世界の時間の単位のひとつです。〉
②爵位等がなければ、人前で姓を名乗るのは、この世界では、
非常に失礼にあたるものと、思って下さい。




