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CXⅩⅩⅥ 星々の象意と進行編 前編(2)

第1章。双月教国からの使者(1)

第2章。双月教国からの使者(2)

第1章。双月教国からの使者(1)



 アマトの眼前に、独特の形状をした、教会の建物が見えてくる。


建築時、白亜の尖塔(せんとう)と呼ばれた建物は、少し前まで黒い汚れに(おお)われており、

信仰の場としては、いまひとつの外観だったが、

モクシ教皇をお迎えしたあと、イルム執政官の政策でというより、

暗黒の妖精ラティス()()が、モクシ教皇という人間を、

『ま、ギリ、弟子にしてあげても、いいわよ。』と、

お認め(?)になられたので、魔力を使った大々的な清掃が、

おこなわれている。


だが、アバウト学院の校舎を復活させた時と同じに、

ラティス()()が主催したはずであったが、

ラティスさまと、ラファイア・リーエ・エリース・キョウショウとの間で、

(特に、ラティスさまと、ラファイア・エリースの間で)

()()()()()めに()め、

それでも、なんとか、新築時の()で立ちになるまで、

教会を磨き上げている。


だから、綺麗(きれい)になった以外は、当然以前と外観は同じ建物であるはずなのだが、

旧帝国時代、人々を睥睨(へいげい)していると感じさせた建物が、

今現在では、人々を見守っているという風に、皇都の人々に感じさせている。


・・・・・・・・


アマトを、この場に呼んだモクシ教皇は、教会の入り口階段の上から、

十重二重(とえはたえ)に囲んだ信徒や旅人に、柔和な笑顔で対応していた。

時折、その半円形の輪のなかから、笑いが起こる。


『アマト君。これが、双月教の教皇であれば、自分の権威を守るために、

日頃の姿を民衆の前に(さら)すことなどなかったわ。

たとえ、外出する際も、複雑な細工が(ほどこ)してある金箔(きんぱく)(おお)われた

鉄馬車に搭乗(とうじょう)し、50人近い騎士たちの護衛が付き従い、

さらに先触れの騎士が、道々から人々を、追い払っていたのよ。

ほんと、【何様のつもり】と言えるわよね!?』


と、カシノから聞いた話を思い出しながら、アマトは、

モクシ教皇を囲む人々の輪の外で、騎士姿のラファイアと共に

教皇猊下(げいか)の話の区切りがつくのを、待っていた。



・・・・・・・・



「おう、アマト君来たか。」


モクシ教皇のよくとおる声が、囲んでいる人々の頭の上を超え、

アマトの耳に到達する。


アマトの名を聞いた人々、そのなかで皇都に住む人々は、なかば畏怖(いふ)とともに、

皇都外から来た人々は、なかば恐怖とともに、道を開け、

アマトと護衛の騎士を教会の入口へ通過させる。

モクシ教皇の、人々へのお礼とお()びの言葉が語られるなか、

アマトたちは教会の中へ(いざな)われる。



・・・・・・・・



教会の応接室へ向かう途中、アマトはモクシ教皇に呼び出された理由を

(たず)ねるが、モクシ教皇は、


「今日は、活版(かっぱん)印刷機の試作品と、購入した木版印刷機の、

披露目(ひろめ)のつもりで呼ぶ予定だったんじゃが、

どうしてもアマト君に、お会いしたいという人間がおってのう・・・。」


と、いつもに比べて、歯切れが悪い。


「ははは、モクシさんの紹介でも、その方々が()()()をされたら

許しませんからね。

ほんとこの前は、エリースさんの怒りで、大変でしたから・・・。

リーエさんも、一切(いっさい)、自分の契約者のエリースさんを、

止めてくれないし・・・。」


と、モクシ教皇の話に、ラファイアが乱入し、

アマトに対して、風の超上級妖精リーエの態度に対する愚痴(ぐち)まで言っている。

いや、()()妖精のことだから、アマトに愚痴(ぐち)を言うために、

話に乱入したのが、正直なとこかもしれない。


そんなやりとりをしているうちに、見慣れた扉の前に三人は、到着している。

モクシ教皇が扉を開けると、アマトの目に、リント將・カシノ教導士と

4人の女性の騎士が、椅子から一斉に立ち上がった姿が目に飛び込んでくる。

最初に目が合ったリントに、アマトは軽く会釈(えしゃく)し、自分の方から、


「リントさん、もうお怪我のほうは、大丈夫なんですか!?」


と、声をかける。



第2章。双月教国からの使者(2)



 「ありがとう、完治したわ。身体の傷にしても、心の傷にしても、

騎士にとっては勲章(くんしょう)のようなものだからね。

けど、わたしより、アマト君のほうが・・・。」


リントの口から発せられた、()()()という言葉に、三人の女性騎士は、

反射的に、右手を剣の(つか)に手をかけ、無自覚の殺気を、アマトに放つ。


しかし三人とも、()()()凍てついたように、瞬時に動きが止まる・・・。

その一瞬(いっしゅん)のあとに、


「やめないか!!われらの目的を忘れたのか。」


と、アマトから向かって一番右手の騎士が声を発し、すぐに自ら腰から剣を外し、


「リント殿、わたしの剣をお預かりして、いただけないだろうか。」


と、リントの目の前に、剣を差し出した。



・・・・・・・・



 ()()()さんの、圧倒的な魔力支配から解放されてすぐ、

残りの三人の騎士も、(うつむ)きながら、リントに剣を預ける。

教皇猊下(げいか)が席につくのを待って、椅子に座ったアマトに、

先ほど、さんにんの騎士を叱咤(しった)した騎士が、頭を下げ口を開く。


「アマトさま、本当にすいません。どうしても許さないというのでありましたら、

わたしの首ひとつで、怒りをおさめていただきたいと思います。」


その女性騎士の態度に、モクシ教皇、カシノ教導士、リント將は、

何かを言いたげに、アマトを見つめている。


その視線を受け、少し考えをまとめて、アマトは、美麗(びれい)な女性騎士に話し出す。


「双月教国の方が、ぼくを家族の(かたき)、友の(かたき)と思っているのは、

よく理解しています。」


「ただ、ぼくも、数多くの人たちのために、新帝国のために、

命をくれてやるわけにはいけないと、ご理解いただきたい。」


「そのうえでお話を、お(うかが)いしたいと思います。」


猊下(げいか)。これで、よろしいですね!?」


その返答に、アマトのまわりの新帝国の人々は、満足したような眼差(まなざ)しを

アマトに向けた。



・・・・・・・・



「では、ナナリス殿。お話を、始めていただこうかの。」


モクシ教皇が、この会談のはじまりの口火を切る。

それに対し、ナナリスと呼ばれた女性の騎士は、モクシ教皇に一礼をおこない、

そのあとアマトに、お願いを語りだす。


「アマトさま。わたしの名は、ナナリスと申します。

双月教国の白光の騎士団に帰属していたもの。

わたしの右手から、スーシル。そして、エリミーにエルミー。

みてのとおり、ふたりは姉妹です。

三人も、わたし同様、白光の騎士団に帰属していました。」


「白光の騎士団は、教皇猊下(げいか)と最上級司祭を警護する、騎士団よ。」


リントが小声で、アマトにささやく。

アマトは軽くうなずき、あらためてナナリスに向き合う。


「今、双月教国国境に、ラスカ王国を中心に3ヶ国の軍隊が集結しつつあります。

教国は、辺境守備隊のシュウレイ將が帰都、軍を掌握(しょうあく)して、

これに向かおうとしているのですが、まだムランを出発する前から、

離脱者が相次ぎ、侵略軍の5分の1の騎士・兵士を集めれればという

状態です。」


「双月教国は、武国やコウニン王国との秘密の同盟関係が、あったのでは?」


と、カシノが口をはさむ。

これは、自分の祖国の立ち位置を知りたいという衝動が、

カシノを突き動かしたものかもしれない。


「カシノさま。武国は今、兄弟同士がにらみあっている状態で動けず、

コウニン王国は、傭兵(ようへい)を用意するための金なら用立てできるとの

返事なら届いております。」


「では、暗黒の妖精のラティスさんに、加勢を頼みたいとのことかの。」


モクシ教皇が、アマトの心を(おもんぱか)って、代わりに問いかける。


猊下(げいか)、わたしどもも、恥を知っております。シュウレイ將が依願されたのは、

この戦の結果、おそらく発生する避難民の受け入れのお願いです。」


「国境を接している他の国は、戦火の飛び火を()けるため、

避難民の通過も認めますまい。」


「しかし、伝説の妖精さまが表に出てくるのであれば、新帝国に限っては、

それ以上は、彼らも兵を進めないと思います。」


「イルム執政官殿に、シュウレイ將からの書状を渡すまえに、

まず契約者であるアマトさまに、お願いにと(うかが)った次第です。」


と、ナナリスだけではなく、あとの三人の騎士も、深々と頭を下げる。

その対応に困るアマトに、ラファイアが代わりに、

双月教国の騎士たちに答える。


「ナナリスさま、あなたは、勘違いをなさっていますよ。

誇り高い伝説の妖精であるラティスさんは、たとえアマトさんの

命をかけた頼みでさえ、自分の心が動かなければ、

一歩たりとも、足を動かすことはありません。」


「それに、アマトさん自体は、なんの魔力も使えませんし。」


そのラファイアの言葉に、驚いて顔を上げるナナリス。

そして、モクシ教皇をはじめ、カシノ、リントの表情をみて、

それが、事実であることを感じ、ナナリスは愕然(がくぜん)とし天を(あお)いだ。






第136部分をお読みいただき、ありがとうございます。

また複数の方が、最初から最後までお読みいただいたようで、

お礼申し上げます。

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