表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/239

CXⅩⅪ 星々の順行と逆行編 後編(4)

第1章。後夜祭(3)


第1章。後夜祭(3)



 早朝、イルムの執務室に、疲れた表情のルリが入ってくる。


「一応、おはようと挨拶した方が、いいのかな。」


「お好きなように。ところで、キョウショウの具合は、どんな感じだった?」


「意識が戻ったり、失ったりの、繰り返しで、完全にはエーテル切れから

回復していないわね。ラファイアさんが言ってた以上に、

普通の状態になるには、時間がかかるかも・・・。」


「後遺症がでなければいいんだけど。」


イルムが、友の容態を心配してつぶやく。


「それと、アストリアの件だけど、そろそろ現状を、家族に知らせないと。」


「今回、ただひとりの行方不明者ね。やはり個人的に知ってる人が対象だと、

規定どおりに行うのは、つらいはね。」


イルムに、今以上の精神的負担はかけられないと、ルリは口を開く。


「イルムその件は、わたしが(おこな)うわ。」


「ただその前に、リントから、捜索(そうさく)部隊の編制の申し出があっている。」


「それは、できない。あの場所に、まだ超上級妖精かその契約者がいる

可能性がある・・・。」


「新帝国的には、リントを失うわけにはいかないわ。

リントは本人が思っている以上に、旧双月教国からの避難民の新帝国への

融和(ゆうわ)への希望となっている。」


ルリは、ひとつの事実に思いいたり、イルムに確認する。


「しかしイルム、だとすると、少なくともふたりの超上級妖精と

その契約者がいないと、おかしいことになる。」


「そう、ルリ。少なくとも、ひとりの超上級妖精とその契約者は、

レウス公女一行と別行動をとっている。」


「つまり、その妖精か契約者は、レウス公女の完全な支配下にないと・・・。」


イルムが、新しい捜索(そうさく)隊を出させなかったのは、それに気付いたせいか、と

ルリは、友の鋭利(えいり)な頭脳に、改めて敬意を払う。


「それに、先ほど、クリル大公国駐在大使のオルト卿から、

緊急の書状が届いたわ。これを、最優先させなければならない。」


そう言って、イルムはルリに、その書状を手渡す。

新帝国副執政官は、サーッと、中身を確認する。


「もう、ここまで、クリル大公国は亀裂(きれつ)が入っているの!?

トリヤヌス公子殿下への拒否感が、これほどとはね。」


「クリルの將は、偉才(いさい)の集団。それが、このような後継者選定のような場合、

(いくさ)の時とは違う力の動きとなるわ。

平々凡々な後継者には、厳しい状況ね。」


イルムは、記憶の海から、個々の将軍たちを浮かび上がらせていたのだろう。

言葉の影に、嫌悪(けんお)(なつ)かしいという感情が、まとわりついている。


「しかし、レウス公女一行を、テムスに亡命させるとはね。

あのファウス妃が受け入れると思う?

イルム、テムスへの書状には、どう()()()()()き!?」


「下手な事を書くと、せっかくのテムスとの友好関係が、断絶するわよ。」


イルムは、少しの間、(ちゅう)を仰ぎ、ルリの言葉に反応する。


「オルト卿は、基本、守備の將だから、打ち手に華々(はなばな)しさはないわ。

けど、テムスへの亡命・・。新帝国とテムス大公国との裏の外交関係を考えれば、

わたしたちにとっては、これ以上は考えられない、厳しい一手ね。」


「わたしの他に、テムス大公国駐在大使のズホール卿も、

書状を受け取っているらしいわ。」


「あの方も、外交官というより、基本()()。オルト卿の覚悟を感じれば、

レウス公女の亡命をなんとしても成功させるように、

協力されるだろうし・・・。」


「ズホール卿か。テムス大公国のアウレス大公へのその忠節、

帝国の將で知らぬ者はいない。

あのふたりが協調したのを知れば、その行為、帝国の將で

だれも無下(むげ)にはできないか。」


()えて言うけど、それでも、この策に、同意しないことはできないの?」


自分でも下らないと思う質問を、ルリはイルムに投げかけてみる。


「オルト卿も、この一手に、自分の命をかけているのでしょう・・・。

無論、クリルの將もこの過程をいずれ知る。新帝国とテムス大公国の

(かなえ)軽重(けいちょう)を問われているわ。」


「もし将来、クリル大公国との間に戦端がきられたとして、戦後の和平協定を、

早い段階で締結させるかと考えると、今回の件でオルト卿に協力していれば、

クリル大公国の()は、われわれに好意を持つはず。

交渉がやり(やす)くなるわ。」


「だから、ぜひとも、テムス大公国にも、レウス公女一行にも

今回の、オルト卿の一手、納得していただかないと・・・。」


もうひとつの気になる事を、ルリはあえて口にしてみる。


「けどファウス妃が、

〖伝説の火の妖精ルービスが自らの意思で動き出したら止めることはできない〗と、

密書で送ってきた事があったよね。」


「新帝国とテムス大公国の国境の(きわ)の、クールスの廃城の跡あたりで、

火の妖精ルービスと、水の妖精エメラルアの激突などという悪夢の具現化なんて、

冗談じゃないわよ。」


ルリの最悪に近い未来の予想に、イルムも答えを返すことができない。


「もうそろそろ、早朝のお茶会に、あの妖精さんが来ると思うから、

火と水の妖精の関係、いえ相性を、聞くしかないわね。」


・・・・・・・・


 ふたりの、結論の出ない話合いが続くなか、少し短い時間のあと、

空間の一か所から白金の光の粒が降り注ぎ出し、


「おはようございます。今朝も、雲一つない、絶好の香茶日和(こうちゃびより)ですね。」


と、満面笑みの妖精が、執務室のなかに現れる。

そして、その姿に、イルムもルリも口角(こうかく)をゆるめ、ルリは立ち上がり

香茶を()れる準備に取り掛かる。


「ちょうど、ラファイアさんに聞きたいことがあったの。」


「はいはい、何でもお聞きください。」


ルリが、何も言わず、香茶の方へ歩いて行ったのを確認し、

非常に陽気になる白光の妖精さん。


「イルムさん。(うわさ)をすれば()なんて思ってませんでした。

そのことわざは、三流妖精の、()()の妖精ラティスさんには

名実ともにふさわしいですが、わたしの場合、(うわさ)をすれば()と、

思って下さいよ。」


と、いつもにまして、饒舌(じょうぜつ)になっている。


「それじゃお聞きしたいんだけど、妖精界の魔力頂点の一角の妖精さん同士は、

仲がいいのかしら?」


「プッ、ハハハ・・・。」


「わたしとラティスさんの、いつもの関係を見ればわかるじゃないですか。

仲は非常にいいですよ、()()()の方からは。」


「・・・・・・・・。」


さすがに次の言葉が出ないイルムに、ルリが香茶を()れながら、助け舟をだす。


「で、ラファイアさん。ホントのとこどうなの?」


そのルリの何か言いたげな笑顔をみて、今度はラファイアの方が

笑顔が(こお)ってしまっている。


・・・・・・・・


「お互い不干渉というのが、正確なところですかね。」


白光の妖精は香茶を楽しみながら、今度はわりとまともに答えている。


「それは、妖精界での話でしょう。こちらではどうかな。

特に今日は、ルービスさんとエメラルアさんの関係を聞きたいの。」


「え、あのおふたりですか。ふたりとも手()早いですからね・・・。」


「だけど、この世界で爆発すると、他の妖精さんの迷惑になりますし。

けど、やっぱり、それを気にするような妖精(たま)じゃないですね。」


「聞くけど、ルービスさんは、わたしたちがクールスに到着間際、

きつい()()()の一撃を放たれたじゃないの。」


と、ルリが横から言葉を入れる。


「あれは、ラティスさんの日頃の()()()()の悪さの結果ですよ。」


記憶力が抜群にいいふたりには、このラファイアに対してラティスが、


『ルービスとは、アンタの方が、やらかしているじゃない。』


と、叫んだのをしっかり覚えているが、あえてそこには(さわ)らない。


「結局は、やってみなければ、わからない。と、言う事ね。」


ルリは、ラファイアに、香茶を注ぎながら、結論をまとめる。


「ラファイアさん。分身体の(いく)体かを、テムス方面に、

お願いするかもしれない。」


そのイルムの願いに ラファイアは、(なぞ)めいた微笑みを、ふたりに向けた。


・・・・・・・・


今、ルリもラファイアも、執務室から消えている。

ラファイアは、アマトのもとへ、

ルリは、アストリアの家へ向かう前に、身だしなみを整えるため、

帰宅したのであろう。


イルムは、誰にも知られていない心の仮面を、この場で(はず)す。

(最)上級妖精と契約し、ノープル学院へ、特待生として入学が決まった時から、

(かぶ)り続けている仮面を。


彼女は本当は、優しく、涙もろく、引っ込み思案の性格であり、

だけど生きるために、堅固(けんこ)な仮面を、(かぶ)りつづけねば、ならなかった。


『アストリア。』


年下の才媛の姿が、イルムの心に浮かぶ。


『ほんとうに、生きて戻って。』


イルムは、窓からタナリの街の方角を見つめる。

その目には薄く、涙が光っていた。






第131部分をお読みいただき、ありがとうございます。

今後、サブタイトルをどうするか、迷っています。

第70部分以降、星占いの単語から、引用してたんですが、

そろそろネタ切れです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ