ⅩⅢ アバウト学院編 前編
第1章。入学式の一日
第2章。約束
第1章。入学式の一日
アバウト学院の入学式は予定より1ヶ月遅れて、開催された。
代理理事長兼事務長のロンメルさんの働きが、実を結んだ結果だ。
僕とセプティさんと何人かの聴講生は、在校生が全くおらず、事務員の人手も
不足しているから、式を支える裏方に回る。代理理事長を含め事務員の人達も
大変気にしていたようだが、仕方ない。
そういう事ならと、エリースも裏方で頑張ると言い張っていたのだが、
代理理事長のロンメルさんから、
「君は、式に出てもらわないと困る。」
と、三拝九拝で頼まれ、渋々式に参列している。
建前的には、上級妖精契約者の入学者数・入学率の過多を競う
高等学院の昔からの下らぬ見栄という事だろうけど、
『こういう式には華は必要だ』という大人の事情が、見え隠れするのも
学院の再起動のためには、やむ得ないか。
義妹というフィルターを通しても、エリースは黙っていれば、相当の美少女だ。
そこだけ光があたっているように感じるのは、僕だけじゃないだろう。
式前に、ユウイ義姉と2人で白亜の講堂の前で話している姿は、
一幅の名画のようだった。
新入生席は、よく見ると、何年振りかの高等学院の開校で、
正規生では珍しい、年齢が上の方もいる。
ラティスさんは、勝手に【最高顧問】を名乗って、この式でも貴賓席を
占拠して、端然として参列している。
あそこまで、堂々としていると、逆におかしいと思う方が
おかしいんじゃないかと、思えてくる。
裏方として、手伝ってくれている、ラファイアさんが、
「ラティスさんがじゃまですよね、白光の一撃で追い払いましょうか。」
と言っていたが、流石にここで、リクリエーションされたら悲惨な事になるので、
全力で引き止めた。
この光景は、学院の美しさを一夜にして復活させた功績で、
皆さまが認めてくれているものと思いたい。
『触らぬ暗黒妖精に祟りなし。』ということじゃないですよね。
・・・・・・
粛々と進む式の中で、来賓席・父兄席に座る出席者は、
3つの違和感を感じていた。
1つ目は、当然の事、筆頭貴賓席にいる、暗黒の妖精ラティスの存在である。
一夜の奇跡で学院を蘇らせ、あわせて裏の紳士達を屈服させたことは、
帝都では知らぬ者のない事実として広まったので、当然ラティスは、
破壊と暴力の権化のような醜い存在と、人々には思われていた。
しかし、実際に貴賓席に佇む圧倒的な美しさの人外の存在を観た
人々の胸に去来したのは、
『私達の女王陛下。』
としての幻想。そしてそれが、王帝に対する不敬なものと気付いた時
参列した人々は、自らの感情に恐慌を起こした。
2つ目は、次席貴賓席にいる、双月教帝都支部の、ワザク枢機卿である。
双月教帝都支部は、双月教伝統派に属する。
伝統派の教書によると、虐殺者オフトレが、暗黒の妖精アピスを使役し
あのような破壊をもたらしたのは、神々への信仰心がなかったためと説く。
対して信仰心の厚かったノープルに神々が、白光の妖精ラファイスを遣わし、
討伐したのだと。
それは教義から常識へと姿を変え、一般の人々に流布し、
暗黒の妖精は、1000年もの間、大禁忌であった。
それが同じ舞台に、それも暗黒の妖精が上席に並んだのだ。
当初ワザク枢機卿は、怒りのあまり、席を蹴り帰ろうとした。
その時、彼の頭の中に、冷たく美しい声が響いた。
『逃げるの?』
[白光の妖精の干渉!]と彼と契約・同一化している妖精が、
非覚醒状態から目覚め一言だけ囁く。
ワザクは、天啓に打たれたように、暗黒の妖精の前に立つ事を決め、
その席につき、対面の暗黒の妖精を睨んでいる。
3つ目は、講師席に座る者達である。
魔力学の泰斗ハイヤーン老や魔力剣の名匠ジンバラ老をはじめとして、
6世の御代で追放されたもの、6世の御代を見限った者、
己の老化によって、その知識・技術の喪失を惜しむ者。
その分野では並ぶものなきと言われた者がキラ星の如く、
集結していたのである。
暗黒の妖精ラティスの挑戦、【報酬は名誉だけ】に、
受けて立った勇者達であった。
そこにはロンメルやキノリを悩ました、でも・しか・の教師の姿は一人も
見えず、学院の当初の顔ぶれを知っていた者は思った。
『良貨が悪貨を駆逐した。』
・・・・・・・・
式の方は、緊張感と異様さを保ちながら、滞りなく終わった。
先に鉄馬車で待っていたユウイ・キョウショウの元へ、アマト・ラファイア、
そしてラティスがやって来る。着くなりラティスがラファイアに、
「あんた、なに、双月教のおっさんに媚び売ってるのよ。」
と先制攻撃をかける。
「違うでしょう、ラティスさん。せっかくのエリースさんの晴れ舞台を、
台無しにしたくないと思って、錨を打ち込んだだけじゃないですか。」
「ラティスさんが、席を立つというなら、力ずくで抑えてもいいんですが。
あのおっさんには、白光の一撃を放つわけにはいきませんから。」
「あのおっさんが、席を立とうとしたら、わたしが圧迫障壁で
押さえつけてやったのに、よけいな事をして・・・。」
「ラティスさんの魔力の使い方は、結構いい加減じゃないですか。
あのおっさんが相手だと、押し花状態にしてしまうんじゃないですか。」
「それは受け手の問題じゃないの、ラファイア!」
「・・・・・・・・。」
アマトは下手に触ると、収拾がつかなくなると思い黙っている。
キョウショウは、やれやれ、という顔をしている。
ユウイは顔の表情からは、心が読み取れないが、ひょっとしたら、
何も考えていないのかもしれない。
遅れてエリースが、セプティを連れてやって来る。この1ヶ月で本当に
仲が良くなり、今はどこへ行くにもエリースの方が、セプティを
引きまわしているくらいである。
「セプティ、こちらが、私の義姉のユウイと親戚のキョウショウ」
「ユウイ義姉ェ、キョウショウ。こちらが、いつも話しているセプティ。」
「こんにちわ、セプティさん、エリースから色々聞いているわ、仲良くしてくれて
ありがとう。」
ユウイの神秘的な容貌に見とれていたセプティ、ハッとして慌てて挨拶する。
「いえ、こちらこそ、エリースさんには、色々とお世話になってます。」
「よろしくね、セプティさん。」
キョウショウはあわせて、軽く会釈をする。
エリースとセプティが来たことで、一時停戦状態になっている2人に、
セプティが声をかける。
「なんか、おふたりはいつも仲が良さそうで、うらやましいです。」
「どこが?」
「どこがです?」
2人は同時に、セプティをなかば睨みつけるように、聞き返す。
「そのタイミングとか、切っても切れない絆を感じます。」
「「・・・・・・・・」」
「エリースさんと別れたら、いつも一人の私には、ほんとうらやましいです。」
セプティの思わぬ指摘に固まっている妖精2人を華麗にスルーして、
ユウイがセプティに尋ねる。
「セプティさん、せっかくだから、一緒に鉄馬車に乗って帰らない。
色々とお話したいし、自宅までお送りするから。」
「ユウイさん、ありがとうございます。ただ今日は早く終わったので、
〖建物・土地ギルド〗に行きたいと、思ってまして。」
「セプティ、それって?」
「エリースさんにも言ってなかったけど、借りている家が、先の大乱で
被災してしまって、どうにか立っていたんだけど、おととい一部崩れて、
大家さんから、危ないから取り壊したいと言われたの。」
「で、今月中に引越して欲しいと。」
「だめよ、セプティ。そんなところは若い子が一人でいったら、足元見られるわ。
ここには、怖いお姉さんもいる事だし、私達も一緒に行ってあげる。」
と、何気にラティスを振り返る、エリースであった。
・・・・・・・
建物・土地ギルド、けばけばしい看板と歴史ある建物。
『チラシの貼付をお願いしにきた時、尊大な態度をとられたよな、
やはり、お金持ちじゃないと、歓迎されないところだよな。』
アマトは鉄馬車から降りる事を、ほんの少し躊躇する。
何かを感じたのか、ラティスがアマトを引き留めながら言う。
「エリース・セプティ先に行って。アマト、あんたは留守番ね。」
3人が出て行ったあとで、ラファイアが含み笑いをしながら、言い放つ。
「アマトさん。面白い事が起こりますよ。私もラティスさんもアマトさんを
コケにする奴らには相応の対応をしますから。」
セプティの後ろから、ギルドに入るエリースとラティス。
超絶の美貌を持つ人外をみた時、受付の女性たちは固まってしまい、
左奥の方の男はイスから転げ落ちた。圧倒的な強者の威圧。
それまで、がやついていた室内は、水を打ったように
静まり返り、物音ひとつしない。
エリースは、初めてラティスと邂逅した時の事を、思い出していた。
今ならわかる、家が炎に囲まれていたあの時、扉の外に顕現した荒れ狂う力は、
あれでも、相当に加減されたものだった。
今、一切の仮面を捨て、《私はある》との存在と化したラティス。
恐らく、ここにいる人達は、吐く息の一つでさえラティスの気に障れば、
即どうなるか、底知れぬ冥い恐怖に沈み込んでいるだろう。
彼らには不幸なことに、ここに来る前、必要な書類を取りにセプティが
一端借家へ取りに帰った時、鉄馬車の中でラファイアが、
「エリースさん。『氷風とお日様』の童話を知っていますか?
交渉事は、ラティスさんのような強面の妖精が行くより、
私が迷彩を解いて、慈悲と博愛の妖精としてついて行った方が
いいと思うんですがね?」
「そうでしょう、ラティスさん。」
と、煽ったものだから、ラティスは、【ラティス様】全開状態なのだ。
それに加えアマト義兄ィがいない。アマト義兄ィがいなければ、
ラティスもラファイアも、誰に対しても、情け容赦ない。
・・・・・・・・
「あのう~?」
おずおずとセプティが声をかける。窓口の女性2人は、目を泳がせ、
ピクンと体を震わせ、そのままカウンターに突っ伏す。
「あのう~?」
仕方なく、セプティは右奥の男に声をかける。
「ひぇ~~~。」
男は、立ち上がり、叫びながら窓の方に走り出し、透光水晶板に
頭から激突する。
そこにいる全員の自我が崩壊する臨界点を迎えようとした時、
「すいません、何かありました?」
と、ドアを開け、心配そうにアマトがギルドにはいってきた。
・・・・・・
今の帝都の状況では、売り家・売り土地・貸家は多くても、貸し部屋というのは
皆無に近かった。あったとしても3年分の家賃の前払いが必要とか・・・。
無論女性の一人暮らしには、極めて穏当ではない地区には、それなりの
物件はあったが。
周りのボックス席にいた者達の、『一刻も早く出て行かせてくれ』という
祈りにも似た想いに答えるべく、ギルドのマスター職位の人が蒼白な顔で、
ラティスの一言ごとに、
「ひぃ~。」とか「はい~。」とか「はは~は~。」とか言いながら
何とか単語をつなげたのを見れば、本当にないのであろう。
「嘘だったら、今後毎日、今日出さなかった来客用の香茶を飲みに来るわよ。」
の言葉で、マスター職位の人は、頭から火花を飛ばしてその場に
崩れ落ちた。
☆☆☆
「何なの、あの態度は。」
怒り心頭のラティスが鉄馬車の中で、吠えている。
「せっかく、おしとやかに、話をしてやろうと思ったのに。」
おしとやかに・・・?アマトはエリースを見る。
エリースはすぐ視線を外す。
「ラティスさんが黙っていたら、そりゃ怖いでしょう。」
なぜか、全身でうれしそうに、ラファイアが話にのる。
「ラファイア!あんたね・・・。」
セプティもいるので、さすがにリクリエーションまでには発展しない。
「ところでどうするの?セプティ。」
エリースが心配そうに尋ねる。
「せっかく、学院に入ったのに残念だけど、辞めて働こうかな。
知り合いのおばさんに、先月帝都に引っ越してきた織物をする人が、
出来れば、住み込みで働ける人を捜していると聞いたので・・・。」
「それって、青い染料を使う人の事?」
ユウイが尋ねる。
「はい。ユウイさんその方をご存じですか?ガルスという街の出身で、
本人も神秘的な美しさの新進気鋭の職人さんという事です。」
第2章。約束
「神秘的な美しさ!?」
ユウイ義姉ェの、小声の独り言。 セプティの言葉が、ユウイ義姉ェの
褒められて嬉しいツボに直撃したらしい。
さっきから、満面の笑みで体をくねらせている。
『これはダメだわ。義妹の私からみても、大天然のとろがあるからなぁ、
ユウイ義姉ェは。しばらくは、こっちの世界には戻ってこないか。
私が言うしかないわね。』
「セプティ。それユウイ義姉ェの事。ガルスの街では、青色使いの魔術師と
言われていたし、神秘的な美しさというなら、まず間違いない。」
「え、そうだったんですね。
けどユウイさんも、誰でもいいというわけじゃないでしょうから。」
「どんな人がご希望ですか、ユウイさん?」
「ごめん、セプティ。義姉ェは、今、心の旅に出ているみたい。
もうしばらくしたら、戻ってくると思うけど。」
「芸術家さんは、そういうものでしょうから。」
妙に好意的な見方をするセプティだったが、当のユウイは、
結局、自宅に着くまで、心の旅から帰ってこなかった。
・・・・・・
「ごめんなさいね、考え事をしちゃって。」
「いえ、私も、織物をする人がユウイさんということで驚いてます。」
ここは、自宅の応接室兼食堂、全員がイスに座って話を聞いている。
「ここは、元ノープルの騎士さんの宿泊所だし、部屋は狭いけど、あと何室も
空いてるし、お引っ越し?みんなで手伝うわ。」
「あの~、試用期間とか?」
「不器用なアマトちゃんを、学院の試験に落ちたら手伝いをさせようと
思ってたぐらいだから、そんなに難しいものではないわ。」
「私も、先々週からはじめたばかりで、まだあんまりお給金はだせないけど。」
「それに、部屋代はいらないし、しばらくは食事代がお給金と思ってくれたら
うれしいな。」
「わかりました、お世話になります。」
「ただ、私からは1つだけ条件があるわ。」
「なんでしょう?」
「学院は、卒業すること。これは約束して。」
「え?それじゃあんまりにも・・・・。」
「学院で習う事、織物には関係ないと思えるかもしれないけど、
いろんな事に役立つと思うの、最初は休みの日に私が織るのを
みてくれるだけでいいし。」
セプティは、あまりの条件の破格さに、周りを見渡す。
イスに座っているみんなの視線が優しい。
「セプティ。あんたはこのラティス様と縁がつながったのよ、
諦めて明日引越してきなさい。アマトに手伝わさせるから。」
セプティは俯き、肩を震わせていた。
☆☆☆
「一緒に住むなら、私たちの秘密も話したほうがいいんじゃないですか。」
ラファイアが、珍しくまともな提案を皆に投げかける。
セプティが不安げに周りを見渡す。
友人の不安に気付いたエリースがニッコリと笑い、
「まず、私からねセプティ。」
「リーエ。」
言ったと同時に、エリースの体が淡く緑に光りだす。
「エ・リー・ス!?」
セプティが、我を忘れてエリースに声をかける。
緑色の髪・青白い瞳・純白の肌・超絶な美貌の妖精が蜃気楼のように、
エリースの後背に現れるが、
すぐにエリースの背中の影に小さくなって隠れようとする。
「こら、リーエ、隠れない。」
リーエは、渋々セプティに全身を晒す。
「風のエレメントの妖精・・さん?!」
「そう、リーエというんだ。超上級妖精。私、超上級妖精契約者なんだ。」
「リーエさん、初めましてでいいのかな。とにかくよろしく」
リーエは、真っ赤になって、それでも頷く。
「セプティ、ごめん。リーエは誰とも話そうとしないんだ、
私としか精神感応もしたがらないし。
超恥ずかしがり屋さんと思って、
やさしくして。」
・・・・・・・・
「次は、私かな。」
「キョウショウさん?!」
「まず私は、ユウイさんの親戚ではない。」
「セプティ、創派党って知っている?」
「400年前、平等主義の旗を掲げて、帝国と王国の連合軍と戦った
誇り高い人達。」
「誇り高いと言ってくれるの。では失われた創派の伝説は?」
「聞いたことがあります。」
「それは伝説ではないの、私はその子孫。簡単に言うと、戦いに敗れたのち、
私達の祖先は、黒い森の中に結界をはり、外界との関りを断って、
400年の間引きこもっていた。」
「ただ人の数も増え、結界の効力も限界に来ていた時に、アマト君達一行が
私達の村に来訪した。アマト君達との邂逅で、私達は村の存在を
帝国に認めさせるべき時が到来した、との考えにいたったの。」
「今、帝国では先帝の遺言をめぐって、大公国間の暗闘が繰り広げられている。」
「たとえ、遺言書が指定した人物が、王帝になろうとも所詮は操り人形、
人形ならなおの事、自分の直属の親衛隊は欲しいでしょう。」
「私たちは、新王帝に武力を進呈する代わりに、創派を認めさせたい。」
「ありがたい事に、アマト君達も協力してくれると言ってくれているしね。」
「キョウショウさん。一刻も早く陛下にお会いできたらいいですよね。」
真剣な顔になるセプティ。
・・・・・・
セプティに、ラティスが話しかける。
「セプティ、これで終わりだから。」
「ラティスさん、何いっているんですか、私が残っているじゃないですか。」
「ラファイア、無理しなくてもいいのよ。」
「夜、光折迷彩を解いている時、鉢合わせしたら、セプティさんが
ビックリするんじゃないですか?」
「めんどくさいわね。なら、パッパッと終わらせて。」
「セプティさん、最後は私です。私もラティスさんのように、
実体化した妖精なんです。」
「妖精さん?!」
「そう、白光の妖精・・・・・・。」
光折迷彩が消え、白金の瞳・白金の髪・大理石色の肌、白金の背光。
超絶美貌の妖精が、優しい笑顔でそこに現れる。
「ラ、ラファイス様!!!」
セプティはそう叫ぶと、イスから飛び降り、胸の前で五芒星を描き
祈りの姿勢を、ラファイアの前でとる。
その姿を何故か美しいと見とれるアマトだった。
☆☆☆
きのうはやってしまった。エリースさんに、
「ラファイアさん、気を悪くしないかな?」
と、聞いたら、即答された。
「セプティ、ラファイアはそのくらいで凹むタマじゃないよ。
あの優美な外見に騙されちゃいけないわ、
あいつは、ブタのようにタフな心を持っている妖精よ。
ただし本当にいいやつだけどね。」
ラティスさんが、壁画や絵画や挿絵が描く1000年前の暗黒の妖精アピスと
全く別物だったのに対し、ラファイアさんは、だれもが思い描く白光の妖精
聖ラファイスそのものだった・・・。
・・・・・・・・
けど、なんという運命の歯車の動きだろう、借家を追い出され、
路頭に迷うかもしれないと悩みこんでいたのに、エリースさんと周りの人?達は、
それをするのが、ごく自然のように、私を向かえ入れてくれた。
未来を与えてくれた。
感謝しかない。
人はそれぞれに宿命を持つものかもしれない。
正直羨ましいなと思う美貌を持つ、エリースさんは
超上級妖精リーエさんと妖精契約をしている。
超上級妖精契約者、重い響きだ。
その契約者が天寿を全うすることはまずない。
戦場では、王や王帝並みの標的にされるが防ぐ盾はない。
平時は、敵対国からだけでなく友好国からも、賞金首にされる事が多い。
暗殺者が差し向けられるのは日常の事だ。他国または自国の他派閥からも
当たり前のように、反間・離間の策がとられ、死亡の最も大きい原因は、
味方から疑われての誅殺という。
そこには、平穏な一生を過ごすという要素はかけらもない。
平穏な一生と言えば、創派党の先鋒として帝都に乗り込んできている
キョウショウさんにも、ゆかりのない言葉だろう。
自分の失敗が一族の衰亡を呼び込むのだ。
肩に背負っているものが大きすぎる。
そして自分の死を、すぐ隣にいるものとして、受け入れている。
本当に信じられない。
なんか、母に死なれて、未来はボッチで生きていって、最後は働けず、
貯えも使い果たして、どこかで野垂れ死にするんじゃと思っていた自分が、
ばかすぎる。
その2人よりも辛い宿命を背負ったのがアマトさんだ。
私より残念な容貌⦅アマトさんごめんなさい⦆のエリースのお兄さんとは、
不思議な事に、初対面の時から普通に話せた。
私と同じようにエーテル量が皆無のアマトさんは、私も使ったマリーンの大呪を
使用しても、契約に失敗したと言っていた。
しかし、信じられない事に、今2人の妖精と契約をしている。
暗黒の妖精と白光の妖精、1000年ぶりに同時に現れた、全く対照的で
至極の位置にある妖精。枠下契約者の私でもわかる、この2人の妖精からは
超上級妖精のリーエさんを凌駕する圧が感じられる。
アマトさんは儀仗隊に入る事ができなければ、ユウイさんの手伝いだと
笑っていたけど、悲しい冗談だ。
あの2人の妖精と契約したアマトさんに、神々が平穏な人生を用意してるとは、
考えられない。
それをアマトさんは分かっているだろうか?
眠りにつけなくて色々な事を考えてしまった。
明日は初めて学校に通えるので興奮してるんだろう。
なんか見知らぬ天井が暖かいな・・・。
第13部分をお読みいただき、ありがとうございます。
(作者からのお願い)
本作品も、令和3年12月末で、100部分まですすんでいます。
当初から勢いだけで、書き進んでいきましたが、だんだんそのエネルギーも
摩耗してきています。
こういう状態ですので、ブックマークをいただけると、励みになります。
作品を続ける、新たなエネルギーとなりますので、
本小説を、今後ものぞきにきてもいいよというのであれば
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