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Ⅻ 帝都編 後編

第1章。それぞれの季節

第2章。砕氷

第1章。それぞれの季節



 丘の上の白亜の建物を、違う方向から見つめる、3人の女がいた。

1人はキョウショウ、もう1人はイルム。最後の1人は・・・・。


・・・・・・・・


キョウショウは、市場へ新王帝の情報を集めに行き、手ぶらで帰りの道すがら、

この建物を見上げていた。

ラティスの思いつきで、ノリで自分も参加しておこなったことが、

はからずも、帝都の風を変えつつあるのを、肌で感じるている。


新王帝の一派というのがあるとしたら、このまま沈黙を続ける事は

できないだろう。


創派の村から、サーニー・サーレスの兄弟もやってくる。

心やすい、幼なじみが来たら直接、帝宮に忍び込む必要がある。


サーニーが村に戻る時、市場でみつけた南方産のパタタという野菜を

持たせようか。硬く痩せた土地でも育ち収穫できるそうだ。

400年前にはなかったものだ。

私が失敗して命を落としても、何年かは生きる糧と考える時間を

得られるだろう。

そして、次に続く者が成功すればいいのだ。


一刻も早く新王帝とコンタクトをとらなければ。


・・・・・・・・


「あの学院については、『暗黒の妖精がなしたもの。』との

噂がながれています。」


と、窓から見える白亜の建物を見ながら、部下から報告を受ける

イルムであった。


「どうします、学院に探りをいれますか?」


「最優先課題ではない。新帝がなしたものでなければ、ほおって置きましょう。」


「は、わかりました。」


部下が下がる。言葉の端に軽蔑と殺意の色があるのを感じる。


『女を使って大公に近づき、大公を(たぶら)かしきれずに、いまだ小賢(こざか)しい動きをする

下級帝国民あがりの女狐・・・か。』


イルムは、裏でなんと自分が言われているのかを、よく知っている。


ノープル学院の入学式の公開武闘会で、3回生の最上位者を破り、伝説と言われた

3年間を過ごし、卒業生総代を務め、大公国の親衛隊に異例の抜擢をされ、

大公付き準騎士になった自分を待っていたのは、()としての務めだった。


この国での下級帝国民である事、女である事の限界を知り、どれだけ絶望したか。

心を殺し、血の涙を流して、レオヤヌスという男に寝物語で、

策を具申し、成功させ、今の妾モドキの位置を(つか)み取ったのだ。


「アマト君達か。」


イルムは思いだす、あの残念な容貌の少年の真っすぐな眼差しを。

彼は自分をまず、美しい顔仮面の女としてではなく、人として見てくれた。

軍略の才に気づいてくれた。久々の喜びだった。


そして、門の衛兵の件といい、今回の学院の件といい、あの坊やは・・・・。


今回の件が済んだら、不幸な再会をしてみたい気もする。


自分は、王国連合との戦が終わった後、口封じがされるだろうとも思う。

なぜなら自分は、レオヤヌスの人としての弱さを知った。

強くあり続けなければならないあの男にとって、秘密を知った自分は、

下級帝国民出身の自分は、文字通り、切り捨てなければならない女。


それに大公には、新しいお気に入りの娘が、出来たようだから。


それまで生き残るには、まず、あの偽物のテイシアをどうするかだが・・・・・。


・・・・・・・・

 

 今日も、標的を捉えられなかったと、やや気落ちして宿に戻り、部屋に入った。

窓から、学院の建物が視線にはいる。


「一夜にして・・・。暗黒の妖精がなしたるものか。・・・」


 確かに1年すこし前帝都に来たときは、汚れまみれの建物だった。

あの日、学院の周りの障壁に気付き、偵察に行ったのだ。

障壁だけで、少なくとも3人の最上級妖精(契約者)が絡んでいた。

今の自分の任務に差し障りがあるとも思えないので、それ以上の探索は

断念したけれども。


 自分の最重要課題は、新王帝の暗殺だ。

前王帝の暗殺に成功した時から、私は、コウニン王国暗殺部の切り札とされ、

外注される値段が上がったらしい。それで私に実入りが増えるわけではない。

王族や貴族でなければ、働きが報われることはない。


世間一般では、このような汚れ仕事を行うのは、水の妖精契約者が適していると

思っているらしい。しかし、私は風の妖精と契約をなしている、それも最上級の。

それで、困った事はない。


目下の私の悩みは、テイシア=ゴルディールという人間が見つからない事である。

偽物らしきものはいた。ただあれが、指定された人物とは思えない。


とにかく、暗殺部の指示を仰がなくてはならない。

依頼主が暗殺の失敗より、暗殺依頼の事実の漏洩を、恐れているので、

人をやって連絡を取らなくてはならない。

この任務、長期戦になるかも知れぬ。


先日、父と母が病死したとの知らせがあった。

姉カイムの失敗で、連帯保証の掟で責任をとらされたのであろう・・・・・。



☆☆☆



 やばい。なぜか私の勘が激しく警告をならしている。

今日から、アマト義兄ィが学院の奉仕にいっている。

帰ってきてユウイ義姉に、


『学院の初奉仕はどうだった、アマトちゃん?』


と聞かれ、楽しそうに


『ノリアさんは、年上だからって威張ることもなく、キチンと教えてくれたし、

あとは、セプティさんと、一緒に掃除したかな。いろいろと話したよ。』


『セプティというのは通称で、本名はウィーギンティーというんだって。

彼女も近頃、母親を亡くしたらしく、それまでは、帝宮の住み込みで

母子で掃除人をしていたそうだよ。少しばかり遺産があるらしく、

学院を卒業するまでは、なんとかなるっていってた。』


と話していた。


迂闊だった。同世代の子なら、義兄ィの残念過ぎる容貌に、

朝の挨拶が終われば、寄ってもこないと思っていた。

けれども、一日で身の上話ができる程親しくなるとは。


分身を飛ばして、義兄ィをガードしていたラファイアが、


≪ラティスさん。まあ、職員がアマトさんに敵対する問題はないですね。

 容貌に対する蔑視は仕方ないですけど。

 しかし、セプティさんとは、相性が良さそうです。

 楽しく話していましたし。≫


≪そう、ラファイアお疲れ。≫


≪だそうよ、エリース。で、どうするの?≫


あの2人、わざと駄々洩れの精神感応で会話して!


からかわれているというのはわかっているけど、情報は事実。


よし、私も明日から、学院に行こう。義兄ィを取られるわけにはいかない。


確か無料奉仕募集の張り紙があったよね。


☆☆☆



 朝から、アマトが学院に行こうとしたら、ラティスとエリースが、私たちもと、

アマトの前を歩いている。

今日も、人々は道を譲る。1つだけ違うのは、彼らの眼差しが、《恐怖》から

《畏怖》に変わった事だろう。

1000年もの昔から、殺戮(さつりく)の妖精と言われ、忌避(きひ)された存在。

だが、その人外がなした(ぎょう)、それは、前に進もうという道標を、

希望の(ともしび)を、帝都の人々に与えたのだ。


エリースについても、ノープルからきた商人などが、(うわさ)を拡散していた。


⦅ひょっとしたら最上級妖精契約者?ただ、まじやべぇ奴!⦆と。


しかし帝都の風景は変わらず、昨日と同じ今日を写し出している。


・・・・・・・・


学院にはいった途端、3人はノリアにつかまった。


「しかし困ったよ、ラティスさん。理事長と副理事長が病気のため退職し、

理事の皆さんもなぜか()()()はわからないけど、辞任してしまって。」


「それは仕方ないとしても、教師の人達も、ほとんど辞めたいと、

言ってきている。」


「なんでよ?」


「表向きの理由はあなただ。

道徳上、忌避されている暗黒の妖精の手がはいった建物で、

教鞭(きょうべん)をとるなど、とんでもないと。」


「本音は?」


()()!だね」


「周りの辞任を知った、何人かの教師は、『2倍の報酬を払えば

居てやっても構わない。』とぬかしたよ。」


「それでなくても、ノープルとか他の学院で相手にされなかった方々だから、

それなりの倫理観しか持ち合わせがないといわけで・・・・。」


「なぜ、あんた達は辞めなかったのよ。」


「沈みゆく船から逃げ出さない船長の気分かな、気分だけは。」


「あんた達は正解よ。で、代わりの教師は?」


「あてがないんだ。開校も伸ばさなければならないかなと。ロンメル事務長、

いや、代理理事長は朝から走り回っている。」


「わかったわ。いい考えを教えてあげるわ。求人を出せばいいのよ。

それには、こう書くの、


【学院講師募集。報酬は名誉のみ。学院最高顧問ー暗黒の妖精ラティスー】


とね。特別に私の名を使わせてあげるわ。」


それを聞いたエリースが頭を抱え、アマトはいつもの事だと天井を(なが)めていた。


・・・・・・・・


 これといった代案もないので、それで講師の人材が集まるならと、、

早速ノリアはチラシを作らせる。

そして、アマトにチラシ()りを頼み、公示板や各ギルドの位置を示した地図を

渡たす。女性を行かせるにはヤバいところも結構あるらしい。

主なところを5日で済ませるよう、ノリアに頼まれる。


 チラシができ上った頃、鉄馬車が事務棟前に止まり、ラファイアが降りてくる。

周りを見渡し、他の人間がいないのを確認して、


「なんですか、ラティスさん。精神感応で≪鉄馬車で来い。≫と言ったきり、

感応を切って。」


「わるいわ、ラファイア。こういう事よ。」


2人の間で、閃光が(きら)めく。精神感応が行われたようだ。ラファイアが


「なんで、ヤバいところは私とアマトさんの担当なんですか。」


と、至極(しごく)まともな文句を口にする。それにラティスが、


「当然じゃないの、私は(はか)さと可憐(かれん)さの妖精。そんなところは育ちの悪いあんたが

適任じゃない。」


それを聞いてラファイアは、黙って鉄馬車の方に帰ろうとする。


「はは~ん。逃げるのラファイア。やはりあんたは、惰弱と軟弱の妖精ね。」


ピタッとラファイアの足が止まり、ラティスを振り返る。


「いいでしょう勝負です。勝負して負けたら私がヤバい所を受け持ちましょう。」


「なんで勝負するの、ラファイア?」


「コイントスで!」


()りないわね、いいわ、受けたわ。」


また、イカサマでとラティスはニヤリと笑う。


「ただし、コインはアマトさんのもので、(はじ)き手もアマトさんで。」


「なんで、アマトなのよ、ラファイア?」


「では、なんでアマトさんじゃダメなんですか。ひょっとしてイカサマが

使えないからですか?」


「私はイカサマなんて、使ったことはないわ。」


「なら構いませんね、ラティスさん。」


してやったりとという表情でラファイアが微笑む。


・・・・・・・・


激しい風が吹いてるなか、異様な緊張感を漂わせる、2人の妖精の間に

アマトは弾き手(ジャジメン)として立っている。


「ラファイア、この激しい風の影響を読み切れて?」


さっそく、言葉のジャブが、ラティスからラファイアに放たれる。


ラファイアは軽い笑顔で、その言葉をスウェイする。


「こういう事は、正しいほうが勝つんですよ、ラティスさん。」


負けずに言葉のフックを放つラファイア。


言葉のやり取りだけで、千日手モードになりそうだったので、

この場を収拾すべく、アマトは、まずラファイアに声をかける。


「じゃ、ラファイアさんはどちらにするの?」


「私は、清く正しく、表で。」


「ラティスさんは裏でいいんだね。」


ラティスが苦い顔で肯く。


「じゃ、トスするよ。」


アマトのトスしたコインが高々と上がる。


結果は・・・・・・。



「アマトさん~。」


ラファイアの情けない声が、校舎に響く。


「やっぱり日頃の行いの違いよ、わかったラファイア。」


「神々は、ダイスには介入しないかもいれないけど、

コインには介入するものよ。」


ラティスの、高笑いが、青い空に消えていった。



第2章。砕氷



 アマトは、ラファイアに鉄馬車の御者を任せて、初日の午後と2日目は

飛び込みでギルドに(おもむ)き、掲示をお願いしていく。


だいたい最初のコンタクトでは、


「帰れ。帰れ。お前のような奴の来るところじゃない。」


と、肩を小突かれ、それでもとお願いし、職員が仕方なくチラシの文面を(のぞ)き、


⦅学院最高顧問ー暗黒の妖精ラティスー⦆の文字を見つけ、慌てて上司にお(うかが)い、


快く?貼付を許してくれ、一杯の香茶がでてくる、という流れだった。


 3日目と4日目の午前中は、やや危ない地区の公示板でなんとかなったが、

問題は午後の地区からだった。


 アマトが、穴の開いた公示板にチラシを貼っていた時、顔面に側方から

衝撃を受け、右側へ吹っ飛ぶ。

不思議と痛みがない、ラファイアの防御障壁。


そのアマトより、頭4つ程背が高く、肩幅の広い男は横柄に口を開く。


「おい、そこの腐れ。誰の許しを得て、チラシを()っている。」


アマトは、何とか立ち上がり、


「帝国本府ですけど。」


言うか言わないか内に、腹部に右拳が叩きつけられ、再びアマトは地面を舐める。


いつの間にか、得物(えもの)を持った10人程の人間に、鉄馬車は取り囲まれていた。


「こいつら間抜けか。こんな高級な鉄馬車で護衛もつけず、

ここに乗り入れるなんて。」


下卑(げひ)た笑いが起こる。


その笑いのなかで、静かに鉄馬車の扉が開く。

黒緑の髪の美しい人外が降りてくる。


『え、ラティスさん??』


アマトは混乱しつつも立ち上がる。


「私はラティス。暗黒の妖精。契約者たるアマトに手を出した者を、

私は許さない!」


無機質な声で、能面の表情の人外が語る。


空間を氷結させるような、圧倒的な力の傾斜。

その凍てついた空気と、自らと同化する妖精の『逃げろ!』の激しい警告に、

そこにいたもの達は、全力で、前後を考えず、逃亡しようとする。

だが動けない。それぞれに、()()()3重の魔法円ー結界呪縛ーが嵌められている。


無表情にラティスはリーダー格の男に歩いていく、乾いた微笑。

軽く頭に手をのせ、()()の魔法円を顕現(けんげん)させる。


「お前は今から、体の内から焼かれるの。人間として最高の苦痛に

(ひた)らせてあげる。」


「ルーン!」


男の全身から、炎が噴き出す。



「・・・・・・・・・!・・・・・・・・!!」



空気を(つんざ)くその悲鳴は、もはや言葉にならない。


人間の形をしたものが、融解を始める。ポタポタと落ちる(かたまり)は、地面に落ちる前に

蒸発していく。

肉塊が消え失せたのち、ラティスは周りを見渡し、全員のー結界呪縛ーを

解除する。


そして、へなへなと崩れ落ちた全員に、優しく微笑みながら声をかける。


「ひとり、ふたり、・・・・・・11人か、これだけじゃ足りないわ。

お前たちの組織のみんなと遊びたいだけど、案内してくれるわね。」


・・・・・・・・


「アマトさん、急いで次に行かないと、日が暮れますよ。」


ラファイアの間の抜けた声に、アマトは現実に引き戻される。

ふと見ると、先ほど融解したはずの男は道端で、ゴロリと寝ている。


「今のが幻覚?ラファイアさんの魔力!!」


「本当に同じ事も出来ますけどね。けど今日の事も、人間の五感と

同化している妖精の感覚に、()()()()()()()、刷り込みました。」


「もう2度と私たちの前では、何もできないはずです。」


「これと、同じ事を、あと何回かするでしょう。すると、ラティスさんの名声は、

裏の世界にも、(とどろ)くんじゃないですか。」


と、ラファイアは、いたずらっぽい表情で笑って見せた。


☆☆☆


 帰宅が遅くなっているアマトとラファイアを待って、

ユウイとキョウショウとラティスは、お茶をしている。

エリースは、『今日は、作り笑いをし過ぎて疲れた。』といって、

先に休んでいる。


ラファイアが帰ってこないと、光折迷彩を(まと)って夜の警戒行動(お散歩)に

出れないリーエは、入口の扉の側で一人待っているようで、姿が見えない。



「ラティスさん、前から気になっていたんだが、伝説の白光の妖精ラファイスと

ラファイアさんは、人間で言うと、ラファイスの近しいものというような事に

なるのか?」


「ラティス、私も知りたいな。ただ妖精さん達は、自分達の事を語るのは

禁忌に触れるので話せないという(おきて)のようなものも知っているから、

無理には聞かないけれど。」


「別にいいわ。キョウショウにユウイ。そのくらいなら禁忌にあたらないから。

まず、ラファイアはラファイスの近しい妖精(もの)ではないわ。」


「そう、2人ともパチモンて言葉知っている?」


「すまない、わからない。」


ユウイも首を振る。


「だったら、バッタモンは?」


「その言葉も知らない。」


とキョウショウは即答するが、ユウイは首を傾げながら、


「本物に似せたけど、似せ切らなかった偽物と、いうところかしら?」


「そう正解。」


「私達妖精が、こちらの世界では、人間を通してエーテルを得ているのは

知っているわね。」


「それに必要なのは?」


「妖精契約。」


「そうよ、キョウショウ。けどそれにはお互いに選び、

選ばれないといけないわ。」


「しかし、心のねじ曲がっているラファイアは、契約に何十回も失敗したの。」


「そして、ない知恵を(しぼ)って、乾坤一擲(けんこんいってき)の妙案にいきついたのよ。」


「自分は白光の妖精。だったらラファイスに似た名前を名乗れば、

間抜けな人間なら名前に騙されて契約してくれるかもしれないと。」


「それからは、あいつはラファイアを名乗りだしたわ。」


「やはり浅知恵ね。妖精の中でさえコミュニケーションがとれなくて、

ボッチになっている奴に、人間との契約はできなかったわ。」


「だから、妖精界の禁忌を犯して、アマトと契約した事に、本気で怒れないの。」


「そうだったんですか。」


「そうだったの。」


キョウショウもユウイも、複雑な顔で肯く。


「だから、知らないふりをしてあげて。()()()()()()()なんだから。」


「ここまで話したから教えてあげるけど、ラファイアの本名は

メンダシウム=オクティンゲンティーと言うのよ。」


・・・・・・・・

 

 今日もアマトとラファイアで、公示板にチラシを()りに、鉄馬車で出かける。

昨日は、取り扱い説明書があるかのように、あの後6回、アマトは公示板の前で

(なぐ)られた。それも正確に2回ずつ。

だからラファイアもシナリオがあるように、

ラティスの姿をしたラファイアの分身を、アマトが(なぐ)られた後、登場させる。


そして、鉄馬車の周りを取り囲んでいたもの達は、極められた恐怖の

上書き保存を、全身全霊に(ほどこ)される事になった。


 最終日もまた(なぐ)られるんだなと思いながら、最初の公示板に向かう。

はたしてそこには20人近い男達が待ち受けていた。


今日は、昨日と違い、まずラティス(ラファイアの分身)が静かに、

鉄馬車の扉を開け、大地に立つ。

ラティスが男たちを睥睨(へいげい)した瞬間、


「「「ラティス()、お疲れ様です。」」」


男達は、最高の敬礼をラティスに行い、微動だにしない。

気味は悪いが、アマトも鉄馬車を降り、公示板へ向かうと、


「従者の方様、こちらでございます。」


と、丁寧(ていねい)に案内される。

そこには、組織(オルガ二ズモス)紋章(エンブリマ)が入った、立派な掲示板が設置されており、板の回りは

掃き清められていた。


今日は、お約束のように、どこに行っても、そのような対応だった。

さすがにアマトも、


「ラファイアさん。分身さんにラティスさんの姿を(よそお)わせるのは止めようか?」


と提案する。ラファイアは、(ほが)らかに笑いながら、


「邪魔がなくなっていいんじゃないですか。帝都といっても広いようで

狭いですね。やはり昨夜のうちに、噂が拡散しましたね。」


「噂って?」


「たぶん、『1000年ぶりに現れた、殺戮(さつりく)の暗黒の妖精、アピス級の

超巨大暴風雨にて、帝都に上陸。』てなところですかね。」


「・・・・・・・・」


もはや、語る言葉もないアマトだった。

知ってか知らずかラファイアは、言葉を続ける。


「これで、ラティスさんの名声は激上するはずです。

素晴らしい事じゃないですか。」


「言っときますけどアマトさん。これはコイントスで負けたから

やってるんじゃないですよ。」


「フ、フ、フ。私は、そんなに心の狭い妖精ではないですから。」


と、巧みに手綱(たづな)(さば)く、ラファイアだった。


☆☆☆


 『まいったな。』


 アマト義兄ィにちょっかい?をだしてきた子と、全面対決するつもりで、

意気込んで学院に乗り込み、さらに運よくチラシ貼りの仕事を

一緒にする事になり、いい機会だ正体を見極めてやると、思っていたんだけど、

セプティは本当にいい子だった。


 私に初等学校の1年生の時から仲の良かった、リリムやロスリーという

友人がいたけど、アマト義兄ィが、たぶん妖精契約ができないかもしれないと

言われだした頃から、あからさまに距離をとられ、アマト義兄ィが禁忌である

暗黒の妖精ラティスと妖精契約をしたら、完全に避けられてしまった。


 今ならわかる。友人と思ったのは自分ばかりで、あの2人からしてみたら

単に、側に長くいた知り合いに過ぎなかっただけだということを。


 セプティは、義兄ィが、道徳上の禁忌である暗黒妖精と妖精契約をしている

のを知っていて、親しく話していたのであり、なによりこの状況を面白がって、

学院の理事用の鉄馬車を勝手に持ち出してきてまで、チラシ貼りにつきあった

ラティス本人とも、普通にというか、目を白黒させながらも、

会話をしていた。


「私、初等学校にいけなかったし、だから何を話しかけられてもいいように、

(ひま)なときは、王宮の図書部屋にはいって本を読んでました。」


「ただ、こんな顔でしょう。エリースさんと初めてお会いした時は、

こんな才色兼備な人が、挨拶だけではなく、私に話しかけてくれたらなと

思いました。」


「ほんと、エリースさんの方から話かけてきてもらって、うれしかったです。

今まで、同年代の人が側にいなかったので、

可笑(おか)しい事を言うかもしれませんけど、

これからも、話してくれれば嬉しいです。」


と、頬を染めながら話すセプティ。


決めた友達にしよう。

認めたくなかったが、ラファイアもこの子に好意を示していた。

誇り高い2人の妖精さえ、認めていたんだ。

下らない意地を張るのはやめよう。


セプティなら、私が超上級妖精契約してると知っても、


『そうなんですね。』


と軽く流してくれる気がする。



☆☆☆



「ふう~。」


 若い頃普通にできた事が、難儀(なんぎ)してしまう。年は取りたくないものだ。

ただ、私も学者の端くれ、遠くから眺めているんではなく、近くで見なければ

と思い、10年ぶりに学院にむかっているのだが、この坂道はつらい。


他にも見に行く人は多く、登下校時のように、道が混んでいる。

やっと学院の門に着く。圧巻だった。

無論、建物自体は遠くから見えていたし、学院の(へい)は見ながら

登ってきたんだから、予想はしていたんだが。


芝生ではなくなったが、校庭はタイル状のものが()()められていて、

黒光りをしており、噴水は清流を湧き出させている。

その窓は、七色に光を反射して、

何より、新築時に劣らぬ白亜の殿堂は・・・・・。


これを、人間から忌み嫌われる暗黒の妖精が、帝都の人々のためなしたのか。

熱い涙が(あふ)れてくる、


「やはり年はとりたくないな。」


「ばあさん、そっちへ行くのはもうちょっと待ってくれんか。

わしは、帝国への最後の御奉公をせねばならん。」


魔力学の泰斗(たいと)、ハイヤーン老は、気付けば、学院の受付で質問していた。


「講師の募集はまだしてるかの?」


























第12部分をお読みいただき、ありがとうございます。



(作者からのお願い)


本作品も、令和3年12月末で、100部分まですすんでいます。

当初から勢いだけで、書き進んでいきましたが、だんだんそのエネルギーも

摩耗してきています。

こういう状態ですので、ブックマークをいただけると、励みになります。


作品を続ける、新たなエネルギーとなりますので、

本小説を、今後ものぞきにきてもいいよというのであれば

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