CXⅧ 星々の順行と逆行編 前編(6)
第1章。同じ夜に(3)ー②
第2章。同じ夜に(3)ー③
第1章。同じ夜に(3)ー②
『これが、純橙色の炎だったら・・。おしいな!』
クレーは、高速移動をおこない、少年と無言で相対する。
それには関係なく、前に向けた少年の右手と左手から、連続して爆球が襲い来る。
最上級妖精契約者は結界の盾を構築、その爆球を軽く弾き飛ばし続ける。
『上級妖精との契約だったら、対外工作部南局員として、
しばしの余命を、つかめたろうに!』
感情のない意志で、そのようなことを考えながらも、クレーは止めを刺すべく、
眼前に橙色の火球を構築し、それにエーテルを放り込み、
黄色の火球に変えていく。
≪「くるな~!」≫ ≪「くるな~~!」≫ ≪「くるな~~!!」≫
少年の金切りの悲鳴が、音声と精神波で、森の中に響いていく。
同時に、連続で放たれて続ける爆球は、エーテル切れを起こしてるのか、
急激に弱々しくなり、クレーに到達することなく、中途で消えてしまう。
そして、少年を囲んでいた兵士たちは、火の最上級妖精契約者の一撃に、
巻き込まれるのを避けるため、囲みを解き、後方へ移動していく。
『もういいか。これで終わりだ!』
クレーの手から、凄まじい黄色の火球が、少年と少女に放たれた。
・・・・・・・・
みっつの激しい黄色の火柱が、クレーの瞳に写っている。
『なにか、おかしい!?』
さっきまで余裕を保持していた、キマとセルも全力で臨戦態勢をとっている。
次の瞬間、みっつの火柱が、青色の激しい炎の柱へと変わり消え去る。
・・・静謐がそこに流れる。そして・・・
≪・・ふふふふ・・・≫
≪ウーヌス・ドゥオ・トレース・・・・・・ノウェム・デケム。
これは時空ふり、ゆら ゆら と 揺られ !!
ゆられ 時空ふり、ふら ふら と 凍り !!≫
クレーの脳髄に、聞いた事もない詠唱が、涼しい鈴の音の如く木霊する。
『う、動けぬ!?』
そこにいるすべての者の立つ地面に、魔法陣が構築されているのを、
クレーは知覚する。
さらに、自分の肉体が、自分の意思を一切拒否している事に、愕然とする。
周りを囲んでいた兵士たちは、一瞬の間に、青色いや、青白色の松明と化し、
煙になるまで完全に燃焼させられ、霧散してゆく。
深淵を覘くような、張りつめた緊張感のなか、クレーの心に、ある単語が浮かぶ。
『火のエレメントの超上級妖精!!!』
クレーの背筋に、初めて殺されるかと思った時の、数百倍はするかという
強烈な寒気が背筋を走る。
軍事書は言う、
〖敵の中に、超上級妖精契約者がいるなら、戦わずして逃げよ。〗
今や、残るは、最上級妖精契約者のさんにんの工作者のみ。
クレーは、極限の恐怖のなか、早き死を覚悟する。
『キマ、セル、すまない。わたしのウィティアだ。』
視界の端に、ふたりの姿を捜す。
すでに、超上級妖精の魔力に飲み込まれたのかふたりは、悩みもない苦しみもない
幸せの国に入ったらしく、目が泳ぎ、そして人形のような微笑が浮かんでいた。
次の刹那、強大なエーテルの爆発が起こり、その中央に、
燃えるような赤い髪、純白の肌、圧倒的な力、深緋色の目、
超絶の美貌を持つ妖精が、顕現する。
妖精は、寒々とした微笑を浮かべ、クレーを凝視する。
≪ほ~う、おまえ。今だ、己を保っているのか!?
そのふたりは、我が魔力の渦に落ち、もうすでに記憶を記録に、
書き換えたのにな。
おまけで、何重にも張り巡らされた心の呪縛も、解消してやった。≫
超上級妖精の精神波が、容赦なく、クレーの心を叩く。
『われわれは、最上級妖精契約者として、魔力の研鑽に励んできたはず。
超上級妖精の魔力とは、ここまでも違うのか!?』
この如何ともしがたい現実に、クレーの心は、血の涙を流している。
≪おまえも、あらゆるしがらみから、自由になったらどうだ!?≫
揶揄するような精神波が、クレーを嘲笑する。
クレーは、あたかも、木材が鋭利な刃物で削られていくように、
自分の存在が、自分自身から削ぎ落されるのを、恐怖とともに実感させられる。
≪・・。さ 最後に、ご ご尊名を・・お聞きしたい・・・。≫
≪ほほう・・それを望むか。面白い、おまえのその願い、聞きとどけてやろう。
わが名は、アルマ 。 狂爛の妖精と呼ばれるもの。≫
その直後、クレーの人格は、この世界から消滅した。
第2章。同じ夜に(3)ー③
ふたつの月が、舞台を照らす灯のように、天空・大地を照らしている。
大地に浮ぶ、超上級妖精アルマの背後に、元コウニン王国の最上級妖精契約者、
クレー・キマ・セルは、静かに傅いている。
目の前にいる、自分の契約者に対するアルマの眼差しは、とてつもなく温かい。
≪わたしの契約者よ。あなたは、親から見捨てられたうえに、
あの孤児院の中でも、そしてその同じ孤児からも、虐待・無視・暴力、
食べ物の強奪などを受け、あなたは心を閉ざし、声を失ってしまった。≫
アルマの蜃気楼体から、青色や白色の光の粒が、やさしく少女に降り注ぐ。
≪わたしの契約者よ。この世界の神々があなたに押し付けた、
忌み嫌われし者としての時間は、このアルマが破壊した。
今やもう、あなたを苛めるものは、
この世界には、両手の指の数ほどもいない。≫
≪もし、あなたが復讐の鬼として生きたいのなら、
わたしは、この国を7日7晩、劫火の炎に、包んであげる。≫
「あ~あ~あ~。」
少女は、駄々っ子のように、いやいやと体を震わせる。
≪そうか、優しいのですね。だが、それは、声に出して言って欲しい。
そう、わたしとの契約は、あなたに、再び【声】を、贈っている。≫
その精神波に驚く少女。しかし何かを決意して、恐る恐る口を開く。
「・・・わ・・・た・・・し・・・は・・・、・・・リ・・・ア・・・ン・・・。」
自分の口から出た音に驚いて、リアンは自分の契約妖精を見つめる。
『わたしが契約した妖精さんは、癒しの微笑みを浮かべ、
次の言葉を待っている。』
リアンはアルマの心を読み解き、アルマをしっかりと見据えて、
次の歩みを踏み出した。
「・・ア・・ル・・マ・・。
・・そ・・れ・・は・・、・・や・・め・・て・・。」
第118部分をお読みいただき、ありがとうございます。
この章のなかに、狂爛という単語を使ってますが、作者の造語です。
狂気+爛熟の重なりあった意味とでも思っていただければ、嬉しいです。
他に、金切りの悲鳴も造語?です。
加えて、単語にラテン語、いやラテン語らしきものを、たまに使っています。
この作品世界を異世界風にするための、作者の小芝居と思っていただければ・・・。




