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CXⅣ 星々の順行と逆行編 前編(2)

第1章。月あかり舞う浴室にて(2)

第1章。月あかり舞う浴室にて(2)



 「それ以上に、ラティスさんラファイアさん。とくにラティスさんが、

契約者のアマト君が、美女に言い寄られて、鼻の下をのばしている状況を

許すと思う。」


イルムの言葉に、ルリもキョウショウも、考え込んでしまう。


『たしかに、

{そんな不細工に、言い寄られていい気になってるわけ。

アマト!アンタは、わたしの賛美(さんび)者でさえあればいいのよ。}

とでも、言うには違いないわね。』


と、ふたりの脳裏(のうり)に、暗黒の妖精が()えている様子が細部まで浮かぶ。


「ま、いろいろ言っても、ラティスさんの存在を、国の内外に公言したことが、

新帝国を成立、維持させ続けているからね。」


キョウショウの言葉に、ふたりも同意する。


「ラティスさん自体が、最終兵器(とんでもないもの)と同義語だから。」


「しかし、暗殺もダメ、美人にもなびかなければ、いよいよ第3の工作に

移行すると思うけど、利用できる種も新帝国内で、もう芽吹(めぶ)いているわ。」


芽吹(めぶ)いている!?ルリ、イルムとふたりだけでわかる符牒(ふちょう)

やめてくれないか。それでなくても、このところ皇都に不在だったのよ。」


キョウショウは両手で湯面を打ち、ふたりに湯しぶきをとばす。


「すまない、キョウショウ。」


ルリは、素直にキョウショウに頭を下げる。


「ゴメン、悪かったわ。」


イルムも友を不快にしたことに、心からキョウショウに()びる。


「わかってくれたらいいわ。それで第3の工作とは、・・・。」


イルムは、機嫌を直したキョウショウに説明を始める。


「簡単に言い切ってしまえば、(うわさ)よ。」


(うわさ)?」


「ある国で、何か華々(はなばな)しい事が成就したとする、国王自らが命じて

それを()したら、有力貴族に。国王以外がそれを()したら民衆に、

情報工作をしかけるの。これが基本ね。」


「たとえば、ある将軍が功績をあげたとするわね。

すると、しばらくすると・・・、

『将軍が王になってくだされば。』とか、『将軍が王位を狙っている。』とかいう

話が、()き出るように(ささや)かれることになるわ。

そして、統治者たちと民衆と功労者を、互いに離反させる・・・。」


「・・・・・・・・。」


「アマト君とラティスさんの場合は、恐怖と忌避(きひ)猜疑(さいぎ)心を(あお)る言葉かな。」


そこでイルムは、ひと息入れ、再度キョウショウに話し出す。<


「だけど、ラティスさんの場合は<夜のラティス様>としてのご活躍で、

帝都の治安を回復させたことによって、新帝国民が恐怖じゃなく畏怖(いふ)として、

受け入れられているからね、

なにより荒れ野を緑野にできるような湖を造っているし、

お年寄りたちからは、『わたしの女王陛下!』の扱いだしし・・・。」


「アマト君は、今回、教皇猊下(げいか)の禁書館の、おそらく副館長さんだから・・・、

パッとみには、新双月教が彼を受け入れてるし、

反逆者にとは無理があるわ・・・。」


「極論で言えば、セプティ皇帝の婿(むこ)さんになってくれれば、

新帝国とすれば、万々歳。ま、エリースが同意するとは思えないけど・・・。」


イルムの最後の方の冗談にも、ふたりの表情は、ピクリとも動かない。


「だったら、もう防げてるんじゃないの?」


キョウショウが、冗談を無視して、当然の質問をイルムにとばす。


「けど、やっぱり問題になりそうな火種があるのよね。」


「双月教の二光(にこう)派。狂信的なところがあって、反暗黒の妖精っていうのが、

その教義の根底のひとつにあるのよ。それが今回の双月教国の混乱で、

新帝国に避難してきているの。」


「ああ、あいつらか。」


キョウショウは、微妙(びみょう)な顔でイルムに答える。

彼らは姿形や言葉から、独特の雰囲気を(ただよ)わせている。

キョウショウの警戒の琴線(きんせん)にふれ、すでに(さぐ)りを命じているのであろう。


「さすが、キョウショウ。もう知っていたのね。」


イルムは納得して、キョウショウの方を見る。

平時における創派の將としての能力も、

改めて感じている。


「かれらは、暗黒の妖精のような最終兵器がいれば、

他国への侵略の欲望の導火線となる。

それは、戦乱のもとになると主張するわ・・・。」


「ひいては、そのための徴兵などにより、

【あなたの家族に死者がでるぞ!】ともね。」


「だから、暗黒の妖精とその契約者を追放しろと触れ回っている・・・。」


とルリが、無機質な声色で口をはさむ。


「なるほど、教都が陥落(かんらく)した戦乱も、自分たちの都合のいいように

利用しているというわけね。」


「けど、最終兵器たるラティスさんを離脱させたら、帝国本領の時代から

7分の1に領土を減らした新帝国など、簡単にふっとんでしまうわ。

彼らは、何をもって、力の均衡(きんこう)を保とうというの?」


キョウショウが当然の疑問を口にする。

それに対して、平和を裏面からみていたルリが、吐き捨てるように

言葉を投げる。


「神々の御照覧(ごしょうらん)のもと、他国民の()()()()()を信頼して、

それを条約によって担保し、永遠の平和を到来させるそうよ。」


キョウショウが唖然(あぜん)として、ルリの言葉に対して、ある否定的な未来を示す。


「それこそ、その国に侵略を望む王が一人(ひとり)現れたら、ひとたまりもないわよ。」


()()()()()()()()条約など、紙切れだろうし。」


イルムも、ふたりの思いに同調して、自分の考えを言葉にのせる。


「紙切れより悪いわ。少しでも抵抗したら、条約違反だといって苛烈(かれつ)な手段を

使用する根拠となるからね。どうせ、その状態で結んだ条約の内容など、

新帝国民にとって、悪夢以外のなにものでもないわ。」


「そして、焼かれ、奪われ、殺され、犯され、

そのあとは事実上、隷属(れいぞく)させられるわよね・・・。」


「けど、それが分からないとは思えない。なぜ、そんな考えを・・・。」


「キョウショウ。そんなこと言い出す奴らなんて、中身もないくせに、

自分に対する増上慢(ぞうじょうまん)が、極限まで(みにく)く肥大化しているの。」


「自分は正しい、だから(あが)めまつれよっていう風な・・・。」


「だれも、そんな奴らを、()()()()とは、呼ばないわ。

それが、彼らの怒りに火をつけるわけね。」


ルリは、いつもの彼女にはみられない、辛辣(しんらつ)な言葉で

自分の思いを吐き出す。

ひょっとしたら、ルリは過去に似たような組織に、

いや二光派そのものに、潜入したことがあるのかもしれない。


「そう、そういう人間は、本音のところでは、平和という単語など、

どうでもいいと思っているわね。

そのことを口にする()()()()()()を、求めているだけ。

ラティスさんのアマト君に求める賛美(さんび)など、それに比べると玩具(おもちゃ)のようなもの。」


「彼らの求める、()()()()()()のためなら、結果、(しかばね)累々(るいるい)と重なっても、

全く気にしないわね。」


「『わたしは悪くない。正しいことをしただけだ。』なんて言ってね。」


イルムの言葉も、いつもの彼女の言葉と違う、嫌悪(けんお)の色が見え隠れする。


屋根のない浴室に、水滴が落ちてくる。その音が聞こえるほどの沈黙に

三人は(しず)み込んでいく・・・・。



・・・・・・・



しばらくして、やっとイルムが口を開く。


「あいつらは、アマト君個人の心と家族を(ねら)って攻撃してくると思うわ。」


「それを、多数の国家が影から支援するか・・・。」


「アマト君の心を壊し、新帝国から去らせるために。」


「『ぼくがいなければ・・・。』アマト君なら、簡単に言いそうね。」


「そう、だから、わたしは体を張って、アマト君を寝室に誘っているわ。」


「ん、それは、アマト君をからかって楽しんでいる、あなたの趣味でしょうが。」


先ほどとは違って、三人の軽い笑い声が浴室に(ひびい)いてゆく・・・。










第114部分をお読みいただきありがとうございます。

あわせて、ブックマークをされた方、本当にありがとうございます。

大人の美女3人の、露天風呂のシーンですので、

艶っぽい事を書ければいいんですが・・・。

一線を越えてしまうと、どんどんそちらの方向へ行きそうで、

踏み止どめています。

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