CⅩ 星々の格式と置換編 後編(3)
第1章。街路にて(3)
第2章。そして【聖ラファイスの禁呪】の話をとおして
第1章。街路にて(3)
「なかなかアマト君が来ないと、心配して来てみたら・・・。
ほんと、ラファイアさん、街路の真ん中で何してるんですか!?」
教会に向かいながら、カシノは、なぜか満面笑みのラファイアに、
音響障壁を確認しつつ、声を荒げる。
ラファイアの横で、契約者のアマトが、ひたすらに小さくなっている。
「ほぇ~。わたしですか?わたしは何もしていませんよ、カシノさん。
ほんとうに、私は、平穏と救済の妖精さんですから・・・。」
今回は、本当に関係ありませんよと、この白光の妖精は胸をはる。
その言葉に、リア(ラファイス)が無反応なのを見取ってアマトは、
『あれは、どう見てもラファイスさんを、挑発してたよね。』と、
さらに小さくなる。
一方、カシノは、『またいつものことね。』と、ラファイアのその返答を、
はなっから信用していない。
「聞きましたよ、ラファイアさん。ミカルの方に行かれたときは、
ずいぶんご活躍だったらしいですね。なんでも姐さんの尊号を、
レリウス大公から授与されたみたいで、大公本人がそう語って
いらっしゃいましたよ。」
「それに、白光の妖精であることも、自らバラされたんですってね。」
そのカシノの言葉のまえまでは、まだ怒りを滾らせていた
リア(ラファイス)だったが、
怒りの炎は急速に衰え、かわいそうな妖精をみる目つきにかわってしまう。
「ラファイア、自らバラしたのか。救いようのないアホだとは思ってはいたが、
そこまで愚か妖精だったとはな。」
その、ラファイス(リア)の言葉に、ラファイアはビクともしない。
「何を言っているんですか、わたしが気高い白光の妖精であることを
明かした結果、新帝国とミカルの間に、不戦協定が結ばれるんですよ。」
「両国の和平の礎に寄与したんじゃないですか。」
どうしてか、その【和平の礎】の言葉は軽く、かつ嘘っぽい。
「はあ~。ラファイア、いつから宗旨替えしたんだ?」
「おまえ、某白光の妖精といえば、大騒動とケンカ上等の妖精だろうが!」
リア(ラファイス)は、あきれかえって、こいつ大丈夫かと探りをいれてみる。
『こちらの世界で、何か悪いものと係わり過ぎたか?』と思いはしたが、
暗黒の妖精ラティスの、<私がラティス様よ、なんか文句ある!>と、
言わんばかりの顔の記憶に思い至り、
『なるほどな。』と、妙に納得をしてしまう。
「リアさん。御自身のことを、そこまで卑下なさることはないと思いますよ。」
このラファイアの言葉に、リア(ラファイス)は、
『いやまてよ、こっちのラファイアの方が、こいつの本質かもな。』
と思い直し、ラファイアに、その本性を突いた言葉を贈り返す。
「どの口がそれを言う!」
その言葉には、何も答えず、にこにこ微笑んでいるラファイア。
そういう、賑やかなやり取りのなか、カシノはアマトにある想いを抱いていた。
『伝説級の妖精と契約したという事は、燃爆石の敷き詰められた道を、
松明をかざして、歩いていくようなものね。
アマト君、本当に同情するわ。』と。
第2章。そして【聖ラファイスの禁呪】の話をとおして
モクシ教皇の応接室。教皇猊下の対面の椅子に、アマトが座っている。
その斜め後ろに、なぜか、ふたりの白光の妖精が静かに佇んでいる。
神々しい背光と舞い踊る五色の光の粒が、
ふたりの妖精を彩っている。
先程から、モクシ教皇の感情は、すぐにでも、まさに神々の御使いとも思える
その姿の足元に拝跪の姿勢をとり、その栄光に浴したいとの欲望に苛まれる。
だが、日頃のラファイアの姿を知っていることで、辛うじて理性がそれを止める。
左に座るカシノも同じ心持ちなのだろう、椅子の肘掛をギュッと握りしめている。
「アマト君の話はわかった。禁書館のほうは急がないので、
イルム殿の話を優先してもらって、結構です。」
モクシ教皇はその話を終え、改めてラファイス(リア)に向き合う。
「では、ラファイスさま、お話をお聞きしようか。」
ラファイスの方から、自分の方は後でいいが、アマトとラファイアに同席を
求めてきて、ふたりはラファイスの言葉に同意をしている。
「詫びたいことがひとつと、聞きたい事がひとつ。」
「まずは、詫びたい事だが、ノエルのために居宅を用意してもらったのに、
ノエルがアマトのところの家宅に、ずっといたいそうだ。
エリースやセプティ、日によってはイルムとかルリとかが加わって
楽しく夜語りをしている・・・。」
「それが楽しすぎて、動きたくないそうだ。ユウイもいつまでもどうぞと、
言っているしね。」
モクシ教皇は、相好を崩し、ラファイスに答える。
「居宅のことは、私どもの方からお頼みしたこと。
いつでもお好きな時に、ご利用していたただければいいかと。
それで、お聞きになりたい事とは?」
ここで、ラファイアが余計なひと言を・・・。
「黙って聞いていたんですが、モクシさんもカシノさんも、言葉遣いがわたしと
違い過ぎませんか。確かに、ラファイスさんも白光の妖精ですけど、
所詮はラファイスさんですから。」
空間が、火がついたように騒めくのを感じ、アマトはラファイアに目で頼む、
余計な事を言わないでくれと・・・。
だがそれを、ラファイスの方が感じ取り、微笑してアマトに答える。
「かまわないわ、アマト。所詮ラファイアはラファイアだから。」
ふたりの妖精の間の緊張は継続しているなか、
モクシ教皇はあらためてラファイスに、柔らかい言葉をかける。
「では、あらためて、お話をしましょう。ラファイスさん、何をお聞きに
なりたいんですか?」
ラファイスは、地の底からのぞくような冷たい目を、モクシ教皇に向け、
言の葉を、口から放つ。
「【ラファイスの禁呪】とは、なんなんだ?わたしとノープルを、
その宗教の拡大に使用した双月教の教皇でもあったモクシなら、
知っているだろう。」
モクシ教皇は、それに対して何かを考えていたが、やがて重い口を開く。
「【ラファイスの禁呪】 それは多数の上級妖精契約者の同時の攻撃を防ぎ、
かつ複数の対象を攻撃する複数の魔力を、同時に発動させる
まさに夢そのもの詠唱。」
「その詠唱は、火の妖精の契約者が、別種の魔力ー例えば水の妖精の魔力さえーも
使う事ができると・・・。」
「しかし、その強大過ぎる魔力は同時に契約者の持つエーテル以上のエーテルを
必要とするため、当然に命の代償を要求する・・・。」
そこで、モクシ教皇は、いったん口を閉ざす。
「そこに、わたしの名の介在する余地はないと思うが・・・。」
ラファイスが冷たく口をはさみ、白金の光粒が狭くはない応接室の空間に舞う。
「そのとおりですね・・・。
そう、あなた方妖精と、初めて契約を結ばれた大賢者マリーンは、
魔力を振るわれるのに、詠唱を使用なされたと言われています。」
「だから400年程前まで、妖精さんが持つ魔力の強さ、人間の持つエーテル量、
その相性で魔力の規模が上下すると考えられていました。
そしてその鍵が、詠唱にあると、その時の人間は考えたわけです。」
「その考えが否定されたあとも、【ラファイスの禁呪】だけは、
人々に畏敬をもって、語り続けられました。」
「人間にとって魔力の大きさへの渇望と、その詠唱が、聖ラファイス様から
聖ノープル様に伝えられ、聖ノープル様から皆に拡散されたと、
信じられているのが、表の理由です。」
「無論、双月教が影響力を拡大するため、あなたと聖ノープル様に関する全てを
を聖偶像化してきたのも、理由の一因ではあると思います。」
「しかし私は、【ラファイスの禁呪】は、虐げられた立場の弱き人間にとって、
聖ノープル様とあなたをとおして、〖神々が与えてくれる最後の希望〗と、
みていたのだと、思います。」
ラファイスは、モクシ教皇の話の間、閉じていた目を開き、そして語る。
「そうなのか・・・、迷惑なものだ。」
モクシ教皇は、微笑を浮かべながら、言葉を続ける・・・。
「あなたにとっては、そうでしょう。しかし、聖ノープル様は、
後世の人間にとって、そういう御方になっていらっしゃるということです。」
「フッ、あいつにとっても、迷惑きわまらないことだろうな。」
その声色に、嬉しさの色どりがあるのを、そこにいる全員が感じていた。
第110部分をお読みいただき、ありがとうございます。
この部分で、ノープルに対する後世の人々の心象の一端を
書いています。
作者の予定にない章になりました。作者の場合書き進めて行くうちに、
違う物語りに変化することが、結構あります。
個性だと開き直りたいですが・・・。




