表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/239

Ⅺ 帝都編 中編

第1章。刻は動き出す

第2章。新帝国の胎動

第1章。(とき)は動き出す


 イルムから提供された帝都の家は、新しくはなかったが、

十分に手入れがしてあった。()()姿()に品がある。


庭には、優美な薄紫色の花をつけている木々があり、

管理者によれば、別の高い木々は、時期になれば枝々に

白い花をつけるそうだ。


石造りの家は、本来は、大公に従い帝都に来た護衛の騎士達の

臨時の宿だったこともあり、部屋数があり、

キョウショウ用の部屋も、客人用の部屋も用意できた。


 管理者に鍵を受け取りにいった際には、ユウイは管理者から市場ギルドへ

の紹介状を貰うなど、至れり尽くせりの対応で、

帯同したキョウショウは、


「クリル大公国のイルムとは、なかなかの人物ですね。」


と、将来の敵になるかものしれない人物の仕事ぶりに、

その能力の高さの片鱗に、ボードゲームの名人の次の指し手を

挑戦者が読むように、熟思していた。


・・・・・・・・


忙しい中、アマト達一行のなかで、一人だけ落ち込んでいた人物がいる。

アマトである。


門の衛兵に、なすすべもなく、叩き伏せられた事。

義姉ユウイの守護者でありたいと思っていたのに、逆に助けられてしまった事。


【ほんとくずだよな、僕は】力なき者の辛い現実だった。


さらに追い打ちをかけたのが、衛兵長に


『お前のような顔の男が、犯罪者でないはずがない』


と、言われたこと。心の傷を抉る出来事だった。

そう、ガルス時代の同級生であり、暗殺者として現れたロトルは

アマトの事を()()()()と呼んだ。


初等学校時代に、同級生達、エリースの友人のりリム・ロスリーも、

陰で自分をそう呼んでいっていたのを、アマトは知っていた。


そして、ガルスの街を通る時に、特に若い女性から、腐った果実をみるような

目でみられ、避けられていたのも、十二分に感じていた。


『調子に乗り過ぎたのかもしれない。』


3人の妖精や、家族であるユウイ・エリースは仕方ないとしても、

同行しているキョウショウや、公都で逢ったイルムなどに、

普通の容姿の人に対する扱いと同じ対応をされていたので、

感覚が麻痺していたのだ。


自分達がこれから行う事を考えると、気を付けないと。

鏡を見ながら、暗い覚悟をしたアマトだった。


☆☆☆



 同じ時刻に、鏡の前で、同じような事を呟いた、歴史上の男がいる。

男の名はアウレス4世(()()()()()())。


本来、彼がテムス大公になる可能性は、ゼロであった。

父アウレス3世の正室には、子供がなかった。

それで3世は、5人の側室を生涯娶ることになる。

男の義兄弟は4人で彼はその末っ子だった。


彼の母と3世の仲は、冷え切ったものであった。

3世が欲したのは、母の一族の武力。

それを目当てに当時、残念な容姿の行き遅れと言われていた母を、

側室に迎えたのだった。


父から、上の3人の兄のような愛情が感じられなかった彼は、

長ずるにあたり、まず領地・侯爵位を辞退した。

そして、伯爵位・子爵位も辞退して、男爵位さえ辞退しようとした。


その徹底ぶりは、貴族のわりには善人だった父や義理の兄達を

慌てさせるのに十分なものであり、

男爵位に留まる条件の代わりに、長兄か次兄に嫁がせる予定だった、

三国一の美姫と言われた、ファウスを彼に娶らせたのであった。


しかし運命は動く、テムス大公国は疫病の大流行でアウレス3世を含む

3人の後継者を失った。

それで仕方なく、上級貴族達の衆議で彼をアウレス4世として即位させた。


本当なら、クリル大公国のレオヤヌス大公と並ぶ英傑と言われそうなはずだが、

あの時のテムス大公国の貴族や騎士達は、ファウス妃を王帝に差し出さぬ4世を

誅するために、公都前に集まっていたのであり、

ファウス妃の活躍がなかったら、

4世は城の塀に吊るされただろう。


怠惰公と陰口を叩かれている彼は、今回の外交で成果があったことを、

美しい妻ファウスに褒めてもらいたく、それとなく話した。

それを才色兼備なファウスに、やんわりとたしなめられたのだ。


(彼女は、夫を軽くみているわけではない。

むしろ、王帝の非道に身をもってかばってくれたことに、

帝国全土を敵に回しても自分のために散ろうと、夫が覚悟をした事に、

あらためて、深い愛情を感じていた。)


☆☆☆



 この日は、ユウイとキョウショウは戸籍所にいき、

身分の登録をしてくることになった。

白銀のパイザがあれば、無条件でこちらのいう通りに、登録されるだろうとは、

住宅の管理者の話である。

市場ギルドに登録するためには、身分の登録をしていた方がいい。

これは管理者の忠告である。


無論2人に、ラファイアの分身がこっそりガードしているのは、

言うまでもない。



 アマト・エリース・ラティス・ラファイアの本体とリーエは、

小高い丘の上にある、アバウト高等学院に試験の願書を貰いに向かう事にした。


しかし、出発前にひと悶着があった。リーエが常時顕現していたいと、エリースに

訴えたらしい。確かに、ノープルから帝都までの間、創派党の村の何日か以外は

よく顕現していたし、分からない事ではなかったが。


それにラファイアがのっかって、自分も白光の妖精の姿で常時いたいと、

アマトに言い出した。

本来の自分以外の姿に変化(へんげ)しているのは、面白くない。

これも分からなくはないが、


『慈悲と博愛の妖精ラファイスと比較されるとおもうけどな。』


とはアマトの内心の思いである。


2人への冷静な説得に、根気がつきたエリースが、

背中に緑電の背光を浮かび上がらせ、頬をピクつかせながら、


「リーエとラファイア。ちょっと外でお話をしようか。」


という最後通告を行う。2人とも互いの顔を見合わせ、即バンザイをした。


「すぐに、お手上げするなら、やらなきゃいいのに。」


これは、われ関せずとの態度だったラティスの、あくびをしながらの、

ひとり言である。


しかし、ラファイアも見かけによらず、ラティスに言わせれば見かけ通りの、

二枚舌使い、寝技使いの、百戦錬磨の策士。


夜、光折迷彩の一種《無影化の映像消去》を完全に使用することで、

妖精の姿での警戒行動(世間的には散歩)する権利を、いつの間にか

勝ち取っていた。


アマトに、ラファイアを説得するスキルもなかったが・・・。


・・・・・・・・


 帝都は、新興の公都ノープルに比べても道幅の広さ、建物の威光だけは

数段上だった。

しかし、道の轍は整地されず、端々にごみが散乱し、無人化した建物は

みるからにくたびれていた。

建物の石壁が崩れているのも、1軒や2軒ではなかった。


6世の狂気が生んだ()()()()()を写し出している。


それでも多くの人々がー数十年前の賑わいはないもののー、

日々の生活を営むべく、自分の街を闊歩していた。


 その悠久の歴史の中に佇む、赤い髪をたなびかせる燃えるような美少女と、

天空をも動かす美貌の人外は、周囲の目を引き付ける。


そして、通りの中央を、威風堂々と進む、王女様と女王様の行軍は、

人海を中央から2つに割っていく。

貴族の鉄馬車でさえ、圧倒的な背光に道を譲らざるを得なかった。


ラティスをみて、何かを感じた信仰深き人達は、道の傍らで、

慈悲と博愛の妖精ラファイスの五芒星を胸の前で描いて、

何事も起こらないことを祈った。


付き人として、ひたすら空気に徹した、アマトは


『ラファイアさんもこれを自分も味わいたいのだな。

もし時代が妖精の力を武力として求めない刻がきたら、

やはり、やらせてあげよう。』


『そう、帝国に千年以上ぶりに現れた、2人目の白光の妖精。

それは、もの凄いことになるだろうな。』


と思いをはせていた。


・・・・・・・・


「しかし多いですね。」


と、ラファイアがボソッと呟く。

アマトが『何が』と尋ねる前に、エリースが答える。


「殺気を放つ奴の数よ。」


「こっちに殺気を放って、反応をみて、その後気配も消える感じだけどね。」


「仕方ないわ、エリース。私の美しさは隠しきれないものだしね。」


「今後、帝都で、何人のもの女性が、嫉妬で眠れない日々を過ごすかと思うと、

非常に痛快だわ。やはり、美しさは罪ね。」


「寝言を昼間から言うな!」


ラファイアが、先に言われたと残念そうな顔で、指を鳴らしている。


「不確定要素として現れた暗黒の妖精が、自分達の任務に邪魔にならないか

探りにきたのでしょう。無視するには、暗黒の妖精の残虐非道の伝承は

非常に大きいというところですかね。」


ラファイアが気を取り直して、説明を付け加える。


「はぁ~、ラファイア、暗黒の妖精が残虐非道だって。白光の妖精もろくなもん

じゃないんじゃない。」


「なにをおっしゃいますか。白光の妖精は慈悲と博愛の象徴・・・・。」


「はいはい、2人とも、()()()()()()()()がしたいなら後にして、

学院についたわ。」


高い塀の向こうに仰々しい鉄の門が見えてきた。


☆☆☆


 中央の鉄の門は、錆びだらけで、きつく閉ざされていた。

その鉄柵の間から臨める建物は、歴史の重さを感じさせたが、

その窓を覆う透光水晶板はほとんどが割れており、

壁は汚れるがままだった。


広大な中央の庭は、かつては一面の芝生だったろうが、

今は、名もなき雑草に取って代わられていた。

庭の真ん中ににある、噴水は水がなくなって何年になるのだろう。

朽ちかけた木のベンチが、廃校じゃないのかと思わせる。


鉄の門を開けようと、エリースが紫色の魔法円を前方に構築する。

静謐の結界があると判断したらしい。


アマトが手で押してみる。ギ―と錆びた音が響き、内側に開いていく。


「なんてこと。結界も障壁も細密魔法陣も、いや鍵さえかかってないの?」


エリースが二の句を告げられずに、呆然と門を見直す。



使われていない衛兵の詰所を両手に見ながら、中へ進む。

エリースが索敵魔力を使用し先頭で進む、手前の建物の左側へ折れる。

さすがにその周辺は手入れがしてあり、建物の入口の所に

〔学院 入学試験受付所〕

との張り紙があった。


・・・・・・・・


「当学院の試験は、知っていると思うけど、中級妖精契約者以上の人に、

受験資格がある一般試験と、上級妖精契約者以上の人に受験資格がある

特待生試験。初級妖精契約者の人用の聴講生試験がある。」


「ここに見せてもらった希望書によると、アマト君は聴講生試験、

エリースさんは特待生試験になっているけど、間違いはないですね?」


「「はい。」」


職員のノリアに確認され、アマトとエリースは返事をする。


「では、特待生試験をまず説明しましょう。

日程的には、明日と3日後に試験は行われる。試験は実技だけです。

受験料さえ払ってもらえれば、両方受けられます。」


「むろん、2日後に行われる、一般試験の補欠合格の受験も併願は可能です。」


「特待生の試験は、明日が一枠空いているので、明日はどうですか?

何か予定がありますか?」


「いえ、お願いします。」


と、エリースが即答する。


「アマト君の方だが、聴講生は昼から夜にかけて、学院の事務、

正直に言えば掃除になると思うが、それをしてもらう事になるが、

それは了承してるね。」


「はい。」


「現在の当学院では、卒業後、従軍の義務はないが、

逆に軍隊への入隊を斡旋もできない、

その事も納得してるね。」


「はい、わかってます。」


・・・・・・➸


「ゴホン。」


急にノリアが、ラティスの方も見て咳ばらいをし、再びアマトに話出す。


「失礼した。アマト君、おめでとう。仮合格だ。5日後から、当学院で

仕事を手伝ってもらう。それで本合格となる。」


え、それ何なの?と思うが、アマトは、


「お願いします。」


と、とりあえず頭を下げる。


「セプティ、必要書類を持ってきてくれないか。」


少し残念な容貌だが、性格のよさそうな少女が書類の束を持って応接室に

入ってくる。


「アマト君、こちらはセプティ。君と同じ本年度の聴講生試験仮合格者だ。

今週から手伝ってもらっている。」


「アマトさん、セプティです。本年度の聴講生は私1人しか、いなかったので、

嬉しいです。よろしくお願いします。」


「こ、こちらこそ。」


お約束どおり、アマトは言葉を嚙む。

それまで、黙ってた、ラティスが不思議そうに尋ねる。


「私は、暗黒の妖精、ラティス。アマトと妖精契約を成したるもの。

ノリアさんて、言ったっけ。私の事を聞かなくて大丈夫なの?」


「先ほど、悪戯をされましたね。それで判断させていただきました。

内情を申しますと、今、当学院は、極めて人気がなくて、

来るものは拒まずですから、大丈夫です。」


「・・・・・・・・」


「もし、お願いがあるとすると、帝国では、超上級妖精の契約者がいない今、

妖精さんから、直接話を聞く機会がどの学院もありません。」


「どうです、ラティスさん、当学院で臨時講師をなさいませんか?」



第2章。(ノウム)帝国(インぺリウム)の胎動



「義兄ィよかったね。おめでとう。」


満面の笑みでエリースが喜ぶ、これで何度目だろうか。義兄の魂を削るような

苦悩をまじかで見てきた、エリースにとって本当に嬉しいことだった。

目が潤んでいる、気を抜いたら涙が流れそうだ。

学院にくるまでに、いろんな事を考えていたのだ。


『超上級妖精契約者の自分が不合格になるというのはまずありえない。

けど義兄は・・・・・。』


リーエとラファイアに爆発したのも、そのせいもあるかもしれない。

一刻も早く、義姉に伝えたい。ただ精神感応で、キョウショウを通して

話を伝える気にはなれなかった。自分の口で伝えたかった。


一方、アマトは、複雑な気持ちだった。無論嬉しくないと言えば

嘘になる。定員割れの全員合格というのはひっかかるが。

それ以上に、この数ヶ月で、ガルスの街しか知らなかった坊やが、

小さくても外の世界をみて、いろんなものを経験したのだ。

自分に降ってわいた幸せを、喜んでいいのか?

彼はそれを自答する。


2人の妖精達は笑顔を浮かべながらも、アマトとエリースに悟らせることもなく

精神感応で会話をしていた。


≪ラティスさん、あの学院職員に殺気の矢を飛ばしましたね?≫


≪ラファイア、あいつ即自分の【死】を覚悟したわ。

 よほど多くの死を見てきたか、

 日々、自分の【生】を内観しているのかは、わからないけど。≫


≪アマトさんの働く先の先輩としては、合格ですか?≫


≪私の⦅死の接吻⦆を、刃でなく、()()()()()()()()()()なんて、返してきたのよ、私の負け負け。≫


爽快感いっぱいの精神感応を、ラファイアに返すラティス。


≪え、ラティスさんが、負けを認めるとは。≫


ラファイアの精神感応も、アマトへのラファイアなりの思いがあり、

多幸感に満ちている。


≪私は寛容と自省の妖精なのよ、ラファイア。≫


≪けど、あとのことは、わかっているわね。≫


≪はい。学内でアマトさんに、ちょっかいを出す不心得者がいたら、

 不幸な未来を体感してもらいましょう。≫


先程とは一転、2人の妖精の精神感応は、彼ら本来の、『残酷』『酷薄』の

色彩を帯びる。


2人の妖精は知っている。人間の組織は完成した時点で腐敗が始まること。

皮肉なことに、組織の腐敗を早める因子を持つ人間ほど、

組織の傘にはいり、いい思いをしたがること。

そしてその存在は、有為の人間を腐らせていく。


☆☆☆



 翌日、エリースは、特待生試験のため、闘技場に立っていた。

身体は適度に熱を持ち、心は涼しく晴れ渡っている。

これからの試験の心配より、きのうの事を思い出していた。


 きのう、家に帰るなり、アマトを押しのけて、ユウイのもとに飛び込み

義兄の合格を話したのだ。ユウイの喜びも大きいものだった。

3人の妖精やキョウショウがいるにも関わらず、人目も気にせず

2人でアマトに抱きついた。


 何度も『おめでとう』と、ありふれた言葉を連発したように記憶している。

ユウイ義姉ェの、喜びに満ち満ちた満面の笑みとか、ここ数年なかったし、

たぶん、ユウイ義姉ェからみたら、自分もそうだったと思う。


今日なら、伝説の火の妖精ルービス、水の妖精エメラルアの

2人の妖精(契約者)を同時に相手をしても勝てるかもしれないと、

自惚れてみる。自分の心持ちに、失笑した時、


「受験番号8番。試験を始める。」


と、試験官から声がかかる。


・・・・・・・・


「あの8番の娘は何なんです。」


その日の終わり、試験官の一人が、他の試験官に話しかけていた。


「威力・正確さにおいて、おそらく現在の大公国3軍の中でも並ぶものない

緑電豪流でした。」


「それも、あの娘は、間違いなく手加減をしていましたね。」


「それより、あの真空刃迅の見込み射撃の凄さです。すぐに軍の教官をさせたい

くらいの練度でした。」


3人目の試験官も興奮して話に加わる。


「帝国本領に、孝子いや天子が(あら)われたという事かもしれません。」


主任の試験官が締めくくる。他の試験官も肯く。


数年ぶりの入学試験で、受験者のあまりのレベルの低さに

試験官達は(なげ)いていたのだ。

現在、アバウト高等学院の人気は、地に落ちたも同然で、

少しでも、目鼻のきく若者は、

ノープル学院など他の大公国の学院を受験していた。

受験時期が、3大公国の学院とずれた事で、おこぼれを(ひろ)えるかもしれない、

と、情けない事まで考えていた、アバウト学院関係者達であった。


☆☆☆



 試験日の翌日は、当然の如く合格証を受け取り、入学資料を持ち帰った

エリースとアマトを囲んでの、お祝いだった。


ユウイ・キョウショウ・日頃は飲食をしない2人の妖精も

果実酒・麦酒で、アマト・エリースは果実を(しぼ)った飲み物で、夜まで

ワイワイ(さわ)ぎ、蜃気楼体のリーエも雰囲気を楽しんだ。


その中で、非常に陽気になったラティスが、急に言い出した。


「とにかく、アマトとエリースが通うところが、廃墟としか見えないのは、

面白くないんじゃない。」


「で、修復と復興の妖精、ラティス様は考えたわけだ。」


「まず、リーエ、あんた、絨毯(じゅうたん)電撃で校庭の雑草を焼き払う。

次に緑電奔流(ほんりゅう)で校舎に(から)まるツタとかもね。」


リーエが了解ポーズをとる。


「焼き払ったあとの校庭は、私が(ごく)圧力で、土を硬化させて、

黒い陶器(とうき)みたいにするわ。」


「キョウショウも協力して、あんたは、校舎・校塀に高水圧の瀑布(ばくふ)を使用して、

汚れをそぎ落とす。無論私が、地面上に魔法陣を敷いて汚れとか汚水は処理

するから。」


「わかりました。私もラファイアさん・ラティスさんに最上級妖精契約者に、

格上げしてもらいましたから、その力の確認をしたいと思ってました。」


「で、それだけでいいんですか?」


「あと、学院の地下の水脈が分かるなら、それを見つけて。」


「ラファイアあんたが、この大掃除のキモよ。まず学院の敷地全面に光折迷彩を

かけて、外から見えなくする。次に鉄門の(さび)なんかは、光浴融解で落として。」


「そして、キョウショウが見つけた水脈まで光撃融解で穴を穿つ。穴の周りは私が

固めるから。そして陶器みたいになっている黒い校庭は、

超細密融撃で水が染み込むようにして。」


「いいですけど、ラティスさん私の融解魔力知りすぎていません?」


「細かい事は気にしないの。」


「あ、忘れていた、作業中は私も学院全体に圧力障壁を張るから、

リーエも音響障壁をお願い。」


「アマトは、その間ベンチの修理。エリースは校内のゴミを、風力瀑布で、

外に(はじ)き飛ばす。私の魔法陣はそのままにしとくから。」


「あさって、やるわよ。」


右拳を高々と上げ宣言する、ラティス様であった。


・・・・・・・


次の日、ラティスはアマトを従えて、学院に乗り込み、

理事会を開催中の、会議室のドアを勢いよく開けた。


「君は何かね。出ていきたまえ!」


一番手前の理事が、アマトを見て言う。ラティスの方は無意識のうちに、

見ていない。


当然の言葉に、アマトは押し黙る。


「だそうよ。」


ラティスは、入ってきたドアの方を振り返る。


アマトは、フワッと宙に浮き、ラティスの首の動きに合わせて、ドアから外へ

吹き飛ばされる。ドアがバタンとしまり、外からは開かなくなる。

その場の空気が急激に(こお)り始める。


室内にいた理事達は、アマトがその場にいなくなった事で、悪夢の契約書に

サインしたようなものだったが、彼らはそれに気付かない。


『私は暗黒の妖精、ラティス。』


『学院を掃除してやるから、明日はみんな、休みなさい。言っとくけど、

私のやる気に、否なんて言えば。1000年前のアピスが、(あば)れた程度では、

すまないからね。』


と、本人に言わせれば、極めて友好的な語り口で、学院の理事達に

精神波で命令した。


初めて精神波を浴びせられた者は、頭を抱えて、机の上に突っ伏している。

己の魔力に自信があるものは、敵対しようと試みる。

普段は非覚醒状態の妖精達が、契約者に警告する。


【この妖精には、逆らうな。】


理事達が氷像と化したなか、自意識が肥大していた学院長と、腰ぎんちゃくの

副学院長は、己の妖精の警告を振り切り、口を開く、


胡散臭(うさんくさ)い奴め、直ぐに出て行け!」


「理事長様のいう通り。ここをどこだとおもっている!」


2人は、組織内の肩書を万能の切り札だと信じ込んでいた。


ラティスは、天の御使いに匹敵するやさしい微笑を2人に向ける。、


「私は、この学院の理事長。きさま・・・は、は、は、は・・・・・」


「へ、・・・は、は、は、は、・・・・・・」


ラティスのやさしい笑みに、魅入られた2人は、悩みもない苦しみもない

幸せの国に入ったらしく、目が泳ぎ、口からはよだれが流れ出した。


『紳士・淑女のみなさん、同意するんでしょう。(うなず)く事ぐらいはできるわね。』


悩みも苦しみもある世界に残れた理事達は、万が一にも誤解されないように、

激しく首を縦に振る。


『あ、親愛なる皆様、私はあと3年間はここにくるから、これからもよろしく。』


心の底まで()てつかせる存在の言葉に、理事達は職を続ける事を放棄した。


・・・・・・・・


会議室のドアが勢いよく開く。満面の笑みでラティスが出てくる。


「アマトお待たせ。大掃除の許可をいただいたわよ。

なんせタダでやるんだからね。」


と同時に、ラファイアにも、精神感応で伝える。


『まず8人程、(くさ)れを消毒し、組織を正常化したわ。』


☆☆☆



 その日、朝靄が晴れていくなか、朝日に輝くある建物が、帝都の人々を

驚愕(きょうがく)(おとしい)れた。


その建物は、昨日までは、衰退していく帝国本領の象徴だったのだ。

丘の上で、ツタと汚れに(おお)われ、みすぼらしい外見を(さら)していた。


しかし、今朝は違った。白亜(はくあ)荘厳(そうごん)な建物が、新築時の出で立ちで、

宮殿のテラスに姿をみせた女王のごとく、人々を睥睨(へいげい)していた。


先の大戦で割れていた、透明水晶板は透明金剛石板に()えられたらしく、

朝の光を七色に()ね返している。


人々は誰とはなく、引き付けられるように、学院の正門へ急いだ。


きのうまで、汚れとツタと落書きで、おぞましかった、学院の塀は、

やや低くなったものの、高さが揃えられ、王帝の巡幸を待つように

燦々(さんさん)耀(かがや)くものに、変わっていた。


(さび)だらけだった学院の門が、今日は黒々と光っている。

そして門から見える校庭は、背の高い草が生い茂っていたはずだか、

黒光りするタイル状のものが、敷き詰められ広がっていた。


もう何年も、水がなかった噴水は、こんこんと清い水が湧き出し、流れだし、

その後黒いタイル状の地面に染み込んでいく。


歴史に詳しい者は、王国のシーミア侯爵がなしたという、幻の(テネブラエ)一夜城(カステッルム)

この建物に重ねていた。


信仰の深き者は、大地震の後、唯一崩壊せず毅然(きぜん)と立っていた、

伝説のラファイス=ノープル歌劇場をこの建物に重ねていた。


 誰もが真実を求めた。


午後になって、人々の間に《うわさ》が流れ出し、さざめきだす。


『あれは暗黒の妖精が成した事だと。』


少数の人々は、なぜ白光の妖精でないのかと、不条理に震えた。


一部の人々は、殺戮(さつりく)の妖精と言われる暗黒の妖精が何かしたとしても、

6世やウィルス侯爵一族に比べればましだろうと、無関心を(よそ)った。


多くの人々は、我々は時流を変えるため、破壊の妖精でもある、

暗黒の妖精の降臨を望んでいたんだと、自分の心の内に気づいた。


この日生まれた小さな流れはやがて、奔流と化していく。


そうこの日は、(ノウム)帝国(インぺリウム)建国の起点となったのだ。


















第11部分をお読みいただき、ありがとうございます。



(作者からのお願い)


本作品も、令和3年12月末で、100部分まですすんでいます。

当初から勢いだけで、書き進んでいきましたが、だんだんそのエネルギーも

摩耗してきています。

こういう状態ですので、ブックマークをいただけると、励みになります。


作品を続ける、新たなエネルギーとなりますので、

本小説を、今後ものぞきにきてもいいよというのであれば

ブックマークの登録、よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ