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短編小説 私の知り合いの●●シリーズ

短編小説 家族のような存在

作者: 猫田蛍雪

 私の知り合いには、渋川という人物がいる。

 彼は数学者であるが、島の様々な仕事の管理を行う。


「この仕事は、後回しにしたほうがよいでしょう」

 渋川は、博士に助言する。

「うむ。ならば、この件はどうする? 」

 博士は、マル秘と書けた書類を手に取り、渋川にきく。

「そうですね。くまさんには、生きていてもらわないと・・・・・・ 」

「まずは、最近、移住してきた優秀な人材を排除しなければな」

「優秀な人材ですか・・・・・・ 。まあ、彼は真実を知りすぎていますからね」

 博士は、不気味な笑いをした後に、その書類に「実行」の印を押したのであった。


 私は、自分の部屋で、今後の人生について考え事をしていた。

 移住してからずっと、この島のブラックな現状を目の当たりにしてきた。

 私は、このような問題に関わるために移住してきたのではない。

 新しい土地で第二の人生をはじめたいと考えていたからである。

 このままでは、いろんな人が恐れている「裏の組織」という死神に殺されるかもしれない。

 ならば、この島から出ていくのも一つの案であると思うが、身の危険がなくなるわけではない。

 どうすればよいのか。

 そんなことを考えていると、ピンポーン、とインターフォンが鳴った。

「誰ですか? 」

「渋川です! 」

 声の主は、渋川らしい。

 私は、玄関へ行き扉を開けて、渋川を中に入れたのであった。


「どうしましたか? 」

「いや、君と私は近所であるから、少し話そうと思ってね」

 渋川は、頭をかきながら言った。

 渋川とは、近所であるのは真実であるが、このようなことを言うのは、はじめてのことであった。

「珍しいことを言いますね。何かありましたか? 」

「そうなんだ・・・・・・ 」

 渋川は、晴れない顔をしていった。

 この様子から良くない仕事の依頼であるのは明らかであった。

「実は、君はこの島の情報を知りすぎたと、博士が処分するように命じたのだよ」

 予想外の渋川の言葉に私は驚いた。

「ならば、私を殺しにきたのですか? 」

「いいや」

 渋川は、端的にそう言った。

 そして、私の両肩に手をあてて、言った。

「君は、家族のようなものだ! 」

 渋川の言葉に、うつむきながら言った。

「しかし、あなたは、博士から仕事を任命されたのでしょう」

「そうだ。だから、どうしたらよいか困っているのだ」

 渋川は、悲しそうな顔をしていた。

 彼は悪人であると思っていたが、どうやら、そうではないらしい。

「あなたには、くまさんと同様に親切にしていただいたのに、どうして? 」

「私にできる最後のことは、君に危険を知らせることである」

「私は、どうしたらよいのですか? 」

「明日、裏の組織から殺し屋が派遣されるらしい。だから、それまでに身を隠せ・・・・・・ 」

 私は、自分の身が危険になっても、家族のように考えてくれる渋川に対して、涙した。

 そして、渋川は、去った。


 それから、私は必要最小限の荷物をまとめて、この島から出る準備をしていた。

 役場の仕事で使ったノートをカバンに入れて、最後に港祭りの時の写真を眺めた。

 写真には、全島民が写っており、皆が笑っていた。

「(短い期間であったけども、いい思い出を、ありがとう)」

 私は心の中で、そのように一人つぶやいた。

 この「ありがとう」をお世話になった、皆に言えないことは、一番の悲しみであった。


 

 それから、誰にも気付かれないように、森の中を通った。

 気付かれないはずであったが、思わぬ人物に出くわした。

「おお、君か? 」

 私が驚いて、その人物をみると、大熊とネコバーであった。

「どうして、いらっしゃるのですか? 」

「ここは、キャンプ場への道でもあり、散歩道でもあるからだよ」

「そうなのですか・・・・・・ 」

 大熊の言葉になるほど、と思った。

「大熊さんたちはデートですか? 」

「いやね。お年寄りのお散歩よ」

 私の言葉に、ネコバーは、照れながら言った。

「それより、君がキャンプとは珍しいね。テントがないようだけども・・・・・・ 」

 大熊は、不審そうに私を見た。

「野宿のキャンプですよ」

「そうか・・・・・・ 」

 私と大熊は、黙り込んだ。

 そして、何かに気がついたネコバーが言った。

「もし何かに困っているならば、ネコばあさんに、悩みを相談しなさい」

 ネコバーは鋭い言葉を言った。

「あなたは、顔に出やすいのよ。今のあなたは、この島を出て行こうとしているみたいにみえるわ」

「そうなのか? 」

 大熊は、私の顔を見て、ことを察した。

「そうか。ならば、カフェに行こう! 」

 大熊は、私を元気づけるように言った。

「さあ、行きましょう。困った時こそ仲間で助け合うのよ! 」

 ネコバーはそう言い、私のカバンを持ってくれた。

 私たちは、大熊書籍の地下にあるカフェへ行くことにした。


 私は、カフェに着くなり、渋川に言われたことを言った。

 すべての話を聞き終えると、大熊は、言った。

「君は海賊岬で身を隠したほうが、安全かもしれないな」

「海賊さんたちは、受け入れてくれるでしょうかね」

 私は不安そうに言った。

「そうだな。それなりの金は必要になるが、我々がなんとかするから心配するな」

「そうですか、それよりも渋川さんはどうなるのでしょうか」

 私は、暗い顔をしながらきいた。

「心配するな、私たちの派閥も無能ではない。必ず助け出してみせるよ」

「本当ですか? 」

「ああ、我々にも裏の組織と繋がっている人間がいるからな」

 大熊はそう言い、お茶を入れているネコバーを見た。

「いやね。裏の組織ではなく、人脈が広いだけよ」

 ネコバーは笑いながら言った。

「お前の広い人脈はすべてきれいなものか? 」

「そうねえ。2割がブラックかしらね・・・・・・ 」

 ネコバーは悪そうな顔をした。

「話の内容の2割が、ブラックということだろう」

 大熊は、笑った。

「さすがね。名探偵くまさん」

 ネコバーも笑った。

 私もつられて笑ってしまった。

 そして、私たちは15分ほど、静かにお茶を飲んだ後に話し合いを再開した。

「前にネコバーに、君には秘密があると言っていたが、よかったら教えてくれないか」

 大熊は、私に静かにそう言った。

 私は、自分の秘密を言おうか、迷ったが、正直に話したのであった。

 そして、話を聞き終えると、大熊とネコバーは深く頭を下げた後に言った。

「数々の無礼をお許しください」

 大熊は、私に謝った。

「あなたのようなお方が、この島の現状を変えてくださいますわ」

 ネコバーは、貴族のような言葉づかいをした。

「いつも通りにしてくださいよ」

 私は、困ったように二人に言った。

 そして、その日の夜に、私は海賊に厳重に守られながら、海賊岬へ身を隠すことに成功した。


 今回はこれでおしまい。

 続きをお楽しみにしていてください。



 終わり

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