第二十話 全ての始まりは終わりを告げ、始まりの鐘を鳴らす
こんにちわ!!3章最終話でございます。
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結論から言おう。俺は人間に戻る事ができた。それはとても喜ばしい事で日常に戻れる事は心の底から嬉しかった。ハンター達の願いを叶え同時に人間に戻る事ができた。事実だけで言えば100点満点の成果と言えるだろう。だけど僕の気持ちは一向に晴れなかった。理由はわかっていた。
「ある意味呪いだろうね」探偵は言った。「大神の血は死して尚人を呪うか....」
大神は他の『呪い』から能力を奪い取る事ができた。その内の一つにいたのだろう。自分を殺した者に対してなんらかの呪いをかける能力が。それを俺は見事に食らってしまったというわけだ。
だってそうじゃないか。そうでなければ、全ての元凶である大神に対して殺した事への罪悪感なんて生まれるはずがないのだから。
「これも大神の能力ってわけか....」
大神を殺した次の日俺は探偵の書斎で彼の奥さんである梓さんの出してくれたお茶をすすりながら今後について探偵と話していた。今後というのはもちろんこれからの生活についてだ。人間に戻ったとはいえ、大神の眷属だった以上、また何が起こるかなんてわかったものではない以上、専門家である探偵と今後の相談をしていたのであった。
「.....まぁ、それもあるだろうが......どうだろうねぇ」
僕が大神を殺した事について罪悪感を感じている事についての僕の考えを話してみたが、探偵はどうも煮え切らない様子だった。
「何だよ、はっきり言えよ。今更何言われたってショックで立ち直れなくなるなんて事はないよ」
「....君がそう言うならはっきり言うがね....君、大神に無意識の内に同族意識持ってしまっていたんだよ」
「.......は?」
余りの答えに思わず次の言葉を言葉を口にする事ができない。ありえないという言葉が脳裏に焼き付き、紋のように刻み込まれた。
「それはないだろ?あいつを同族だと思っていた?ふざけんな!あんな化け物と一緒にすんな!」
「いいや、あるよ。君は能力を使いすぎた。身体の方は僕らでどうにかする事ができたが、流石に心は僕らではどうすることもできなかったんだよ。『呪い』を使いすぎた人間がどうなるかはもう話したよね?」
「....『呪い』になる....」
「そういうことだ。君は無意識の内に『呪い』に限りなく近づいていたんだよ、身体じゃなく、心がね。『呪い』になるという事は身体への変化だけじゃない。精神にも影響を及ぼす。まぁ、大体、大神のように利己的な快楽主義者になる事が多いけどね。君はそこまではいかなかったようだけど、大神と戦った時、君、最初は怒りで我を忘れていただろ?思うにあれも『呪い』化の一貫だったようだね。保険を打っておいてよかったよ、本当に」
探偵の言う保険とは俺が大神にマウントを取られて嬲られていた時に聞こえてきた声の事だろう。あれがなければ間違いなく俺はあのまま終わっていた。
「『呪い』に近づいた君は『呪い』そのもの、しかも種の王である大神を殺した。つまり、同族殺しと王殺しの二重の鎖に縛られる事になった。それが余りに強すぎるせいで『呪い』から解放されたにも関わわず、罪悪感を感じている原因さ」
「.....俺はどうすればいいんだ?」
無意識。それは自分で対処するには余りにどうしようもないものだ。人間は言葉をコントロールする事ができる。それは言葉はあくまでも口から発するものだからだ。考えた事をいくつかの段階を踏んで出力するからその間に踏みとどまる事ができる。だが、考える事、思う事を止める事は不可能だ。段階の一番最初である以上、それはどうしたって止める事はできない。
「....定期的に来なさい。メンタルケアは不慣れだが致し方ない」
「日常生活に支障は?」
「誰かに危害が及ぶ事はないよ」
「...誰かにって事は、俺には何かあるのか?」
「後遺症が出る可能性がある」
「後遺症?どういうのだよ?」
「それは出てみないと何とも、精神的なものかもしれないし、肉体的なものかもしれない。どちらにせよ何らかの形で、大神は君を呪い続けるだろう」
俺は大神を殺しハンター達の願いを叶え、人間に戻れる事もできた。ど素人の俺が歴戦のハンターと戦いそして全ての元凶を打倒した。奇跡だ。本来ならこの世にあってはならない所業だ。きっと世界は俺にその代償を求めてきたのだろう。奇跡に見合う代償を、貸したものに見合う代価を頂戴しにきたんだ。
「まぁ、一先ずは問題ない。君は日常に戻りなさい」不安に駆られるのを察したのか探偵が話題を変えてくれる。「待ってくれている人がいるんだろう?」
「...そうだな。夏休みも終わりだけど、最後くらいは行っとかないと」
「そうそう。愛しの空ちゃんが寂しがってるぜ」
「な、何であいつの名前知ってんだよ!」
「僕は探偵だぜ。君の周りなんてとっくにリサーチ済みさ」
「恐ろしいやつ」
探偵の家を出た。いつ出るともわからない後遺症はあるものの何も気にせず、真昼間に外を歩けるのは10日ぶりなので、何とも開放的な気分になる。ジメッとした暑さに突き刺すような日差し。人をノイローゼにでも追い込んで地球を侵略しようとしているのではないかと疑いたくなるようなセミの声。夏休みだからと半袖半ズボンで走り回る小学生達。微かに聞こえてくる風鈴の音。
それらを学校へと向かいながら、一身に受け、ふと気付いた。
「すごい久々な感じだ」
この10日間、そういったものに意識を向けている余裕なんて全くなかった。日常から非日常に晒され俺は気がつけば当然、当たり前という感覚を失っていたんだ。何が普通で何が普通じゃないのか、その区別がつかなくなっていたのだ。心だけは人間でいたつもりだったのに、探偵の言った通り気がつけば俺は『呪い』に毒されていたというわけだ。
こうして完全ではないとはいえ人間に戻れる事ができたからいいもののあのまま人狼の姿でいればきっと心まで『呪い』と化していたのかもしれない。
結局、誰もが大神になる可能性を秘めているとういうことだ。どんなに他者を慮ったところで生きていく以上、どうしたって自分を優先しなければならない時なんていくらでもある。大神はそれが度が過ぎたというだけの話だ。何かの拍子で誰もがそのラインを超える可能性を秘めている。その可能性を限りなくなくすために人は人であろうとしなければならないのだ。
学校に到着し、部室のある特別棟へと向かう。いつも聞こえてくる野球部の掛け声が聞こえてこないと思い、ふとグラウンドに目をやったら、そこには隕石でも落ちたかのようなクレーターが見事に出来上がっていた。俺が昨日大神との戦いの最中に作ったものだ。そんな事を俺はもう二度と可能にする事はできないだろう。日常に戻るのだから。
特別棟に入り、部室を目指す。相変わらず人の気配がしない。部室の前まで人に会う事はなかった。
昨日もきたはずの部室は何だか違って見えた。部室から声が聞こえる。きっとまた引きこもりの乾が空をからかっているのだろう。
その騒ぎを聞き、頬をほころばせる。
ドアに手を掛け、横に引く。彼らに最初に会って言う言葉は決めていた。
「ただいま」
非日常から日常へ。俺はこうして戻る事ができた。
<了>
読んで頂きありがとうございました!勝手ではありますがこの作品はここで完結とさせて頂きます。もっと書きたい事はあったのですが、都合によりこれ以上続けても書ききれないと判断したためです。読んで頂いた方々、本当にありがとうございました!!




