第十九話 全ての始まりは最終決戦、とはいえ、これで終わりじゃない
本日は2話です!!
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「大神を殺す方法を教えよう」
大神との決戦前日、二人で酒を酌み交わしている中、探偵は唐突にそんな話を切り出してきた。
今思えばそれまで、どうしてそんな大事な事を俺は知らずにいれたのか不思議でならない。ただ大神を殺すには奴の血が必要だという事を聞かされていただけだったというのに。これも探偵の会話の技術の賜物かそれとも俺が間抜けなだけなのか定かではないがどちらにせよこの最終盤において敵の殺し方を知らないというのは何とも笑えない話であった。
「大神を殺すには奴自身の血が必要なんだろ?」
「ああ。だが、血を持っているだけで奴を殺せる訳じゃない。奴の体内にその血を循環させなければならないんだ」
「循環って、そんなのどうすればいいんだよ?」
「簡単だよ。奴の心臓を奪い取って、君の血を奴に浴びせろ。君の血は人間と人狼の混血だ。そんなものを純正の人狼である奴に流せば、身体が拒絶反応を起こしてお陀仏って訳さ」
探偵は簡単そうに言うが、相手は大神だ。そもそも奴から心臓を奪い取ることすら困難を極めるはずだ。いくらキングの方が強いとは言っても、それで大神が弱いという事には全くならない。寧ろあのキングに100年以上追いかけ回されてなお生きている事に戦慄すらおぼえる。
「....まあ、あれだ。まずは動きを止める事を考えなさい。互いに不死身同士なんだ。どうやったら動きを止められるかなんてのは僕より君の方が余程詳しいだろ?」
「...まぁ、そう言われればその通りだけど....」
不死身の身体。死なない身体であり死ねない身体。どちらも同じ意味だろうと思われるかもしれないがニュアンスは全く異なる。何があっても死ねないというのは解放されないと言う事だ。
どんなに辛くて苦しくても。決して死ぬ事はできない生き地獄を味わう羽目になる。かつて始皇帝は不死の身体を求めたという。彼はその事を分かっていたのだろうか。
不死身の身体を持つという意味を。
永遠の命を持つという意味を。
わかるまい。実際に持たなければわかるはずがない。自分の身体がボロボロの肉片になった状態からビデオの巻き戻しのように元に戻っていく光景なんて見てみなければ想像もつかないだろう。
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「どうしてだよ、どうして、俺がこんな目にぃぃぃいぃぃぃぃいい!!!!!!」
大神は泣いていた。その凶悪な目からボロボロと涙を流して。先ほどまでのニヤついた表情やこちらを見下ろす冷たい表情は面影すらなく、今目の前にいるのはただの哀れな動物だった。
「どうして!?どうしてお前は俺をこんな目に合わす?可哀想だとは思わないのかよ!?これが人間のする事かよ!!なぁ、何とか言えよ!!」
何を言っているんだろう、こいつは。どうしてこうも自分の事を棚上げして物を言えるんだ。大神の言葉に苛立ちを覚えながら、倒れる大神の元へと歩いていく。大神は身体はとうに身体は再生しているはずなのにその場から動こうとしない。何度でも言うが傷が癒えるのはあくまでも身体のみ。決して心に負った傷が癒えるわけではない。
だから大神は動けないのだ。眷属である俺に圧倒的な力を見せつけられ心を粉々に砕かれたから。
「なぁ、なんか言えよ!黙ってんじゃねぇよ!何でお前が悠々と歩いてんだ!逆だろ、立場が!」
惨めに種の王を名乗る者は叫ぶ。顔を地につけそれは泣く。自身の欲望に呑まれた者の醜態。ゆっくり、俺は歩く。できるだけ長くハンター達がこの存在の醜態を見る事ができるように。だけど、どんなにゆっくり歩いても精々数十メートルの距離だったからすぐに終わりはやってきた。倒れる奴の目の前でしゃがみ奴と目線を合わせる。
「大神。俺がお前を殺す」
「やめろ!!やめろ!!やめろ!!」
「そう言ってお前に命乞いをしてきた奴をお前はどうした?」
「知るか!そんなの!!覚えてられるかよ!俺をあんなのと一緒にすんな!」
「.... そうかよ」
それで話は終わりだった。話す事なんてもっとたくさんあるはずだったのに。俺は自分の右腕に切り傷を作り、そこから流血させると、そのままうつ伏せになる奴の頭を左腕持ち上げ無理やり、胸が見えるように起き上がらせる。
そして、奴の心臓めがけて真っすぐ拳を突き立てた。ブチブチッと嫌な感触と音の後、心臓毎身体を胸から背に突き破る。
大神が口から血を吐く。その口からはもう先ほどまでの泣き声混じりの言葉が漏れる事がなくなっていた。
心臓はひどく暖かくその持ち主の生を証明していた。今から俺は一つの命を終わらせる。
この後に及んで大神に対してそんな葛藤が生まれるとは思いもよらなかった。
これ以上その心臓を掴んでいると、迷いが出ると思ったんでそのまま心臓を握り潰した。
傷をつけておいた腕から血が流れ大神の身体へと流れていく。それを新しく再生した心臓が大神の血だと誤認して身体全体に血を巡らせていく。
「うぉぉぉおおおお!!!!」
突如、大神が叫び出す。苦しそうに身体を痙攣させ、痛い、痛い、と呻く。
奴の身体に拳を突き立てているので、俺はその様子を近くで見ているしかなかった。
顔が惨めに歪んでいく。
目はこれから訪れる死を恐れて涙が溢れる。
口は半開きとなり涎がたれる。
これが死にゆく生物の末路か。
初めて見た。
そして、大神は動かなくなった。
終わったのだ。終わらせたのだ。
俺が。大神を。終わらせたのだ。
ゆっくりと身体から腕を引き抜く。支えを失った大神の身体が人形のように崩れる。
暫くの間それを眺める。
別に大神に同情しているわけではない。因果応報というものだからだ。
ただ困惑していた。自分が直接、一つの命を終わらせた事に。
そしてそれが大神という全ての元凶だというにも関わらず葛藤を生んだ自分の心に。
「お疲れ様」
「大丈夫か?岩戸くん!?」
「....」
戦闘を終わった事を察して探偵と泉さんが校舎から降りてきた。血だまりの中でぼうっとしている俺に何かを察したのか刑事の泉さんが慌ててこちらに駆け寄ってくる。
「.....終わったのか?」
「終わったよ。これで君は元に戻れる」
「.....そうか」
嬉しいはずなのに、素直に喜べない自分が確かにいた。生物を殺すという初めての体験をしたからだろうか。キングの時は殺すという自覚がなかった。
心はどこか億劫で現実が虚構に思える。意識はどこかボンヤリとして、目の前は幻想のように揺らめく。誰かが俺の名前を呼ぶ気がした。それを何となく受け止める。
起きれば俺は元に戻っているのだろうか。あの日常に戻れるのだろうか。それを俺は素直に喜べるのだろうか。そんな思いを胸に意識を手放した。
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