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アヤカシ探偵物語  作者: イサシ
第3章 人狼事件
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第十八話 全ての始まりは最終決戦、圧倒、圧倒、それつまり落とし穴、

あけましておめでとうございます!!今年もよろしくお願いします!!

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「何だ.....これ?」

「まぁ、予想通りかな」

 校庭で繰り広げらえる戦いを屋上で見る。戦うのは二体の人間。いや、人間というには余りに異形な形をしているが。頭が狼な彼らは人知を超越した速度で戦闘を続ける。だが、時折、動きが止まるので、戦闘の経過を見ることはできた。

 結論は圧倒的。元はただの高校生であるはずの岩戸君が全ての元凶である大神を叩きのめしていた。


「予想通りってどういう事だ?」

「泉くんはわからないだろうけど、まあ必然といえば、必然だよね」

「必然?」

「ああ、だってキングの力を受け継いでいるんだ。戦闘に至っては引けをとる訳ないさ」

「キングってあの大男だろ。いくら力を受け継いでいるからって、そんなすぐに使いこなせるものなのか?」

「普通は無理だよ....でも岩戸君は力を使い過ぎた。呪いに染まり過ぎた。だから、呪いであるキングの力を簡単に使いこなせてるんだよ」

「それって不味いんじゃないか?最悪、戻れなくなるんじゃないか?」

 『呪い』を使い過ぎた事で『呪い』そのものになってしまった者も仕事の都合上、何人か見てきた。身体の大きさは人間そのままでドブネズミへと姿を変えた者、魂を家に取られ、人形に成り果てた者、雪そのものとなってしまった者、彼らは皆、身体に宿る、或いは宿らされた『呪い』の力に取り憑かれ、人間である事をやめてしまった者たちだった。このままでは岩戸君もそうなってしまうのではないか。一抹の不安が襲う。


「....そんな事にはさせないさ」

 

 だが探偵はいつになく神妙な表情でそう言った。彼がこの顔をしている時、大抵はどうにかなる。だから、私は一言、そうか、と言い、目の前の戦闘を見る事に集中する。

 

 大神の頭が吹き飛んだ端から再生していく。それは余りに非現実的で本当にこの世で起きているものだとは思えない。それでも何処からか漂ってくる鉄の匂いからこれが紛れもない現実だという事を思い知らされる。

 私は人間だ。だからあの戦闘に割って入る事はできない。その事に歯痒さを覚える。私は刑事だ。本来なら一般人である岩戸君を守らなければならない立場である。それなのに現実はどうか。刑事である私はただの傍観者で、一般人の岩戸君は最前線に立たされている。その事に非道い罪悪感を覚える。


「....なぁ、探偵」

「....何だい?」

「どうして現実ってのは理不尽なんだろうな....」

「.....現実だからだよ。なるようにしかならないさ....」


 私の質問の意図を知ってか知らずか探偵は気だるげにそう答えると懐からお札を数枚取り出し、校庭へと放り投げた。

「何をしたんだ?」

「保険だよ」

 そう言うと、探偵は再び眼下の戦いに目を向ける。説明する気はないようだ。いつもの事である。私は小さくため息をついて、眼下の戦いに集中した。


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「糞が!!!」

 大神が叫び、拳を振り上げる。それを尻尾で振り下ろす前に受け止める。そして、その勢いで空いた懐に蹴りを入れる。ダンプカー並みの衝撃を受けた大神が後方へと吹き飛んでいくがそれを逃さないように、尻尾で足を掴み、地面に叩きつける。

「ガハッ!!?」

 苦しげに息を吐いて倒れる大神の上に馬乗りになって狼の頭を殴りつける。大神は何が起こっているか未だわからない驚愕の表情を浮かべながら、殴られる顔を両腕でガードしている。それを隙間もなく上から殴り続ける。


 不死身の身体になりわかった事がある。この身体にとって一番の苦しみは継続。死なない程度の攻撃をひたすら受け続ける事。この一点に尽きる。常人であるなら耐えられず気絶してしまうような攻撃も身体の強靭さ故に脳が痛みを遮断してくれず、気絶することができない。それどころか再び目覚めさせられ生き地獄を味わう羽目になる。


「痛いか、大神!!」苦しそうなうめき声をあげる大神に怒鳴る。「これが今までお前がやってきたことだ!」

 自分が気持ち良くなる事だけを考え、他人を否定し、全てが自分であるかのように蹂躙する。それが大神という一匹の人狼の有り様だ。そんな奴を今、俺はマウントを取って殴りつけている。奴が今までやってきた事を味わらせてやっているのだ。奴がやってきた事を思うと脳が熱くなる。ハンターたちの悲願が目の前の奴を殺せと叫ぶ。


 殺せ、殺せ、コロせ、殺せ!!ころせ殺せ殺セころせコロせ殺せ!!!


連鎖するように同じ単語が脳髄に叩き込まれ焼きついていく。身体が止まらない。一方的な私刑を続ける。


「大神、大神!!大神ィィィィッィィ!!!」

「なあ、もういいか?」

 背後からの声に一瞬動きが止まる。そして、コンマ0.何秒かの間、意識がブラックアウトした。


 目を覚ますとその0.何秒かの間に俺と大神は丁度先ほどとは正反対の位置取りとなっていた。


「人形とはいえ俺を散々な目に合わせてくれやがって、千倍返しの刑だ」

 そう大神が言った瞬間、手の小指付近に鋭い痛みが走る。見ると小指が欠けていた。恐らくリッパーが使っていた能力だ。

「端から順に俺が飽きるまで刻んでやるよ」


 今度は薬指が切断された。たまらず叫ぶが、大神がこちらの顔面を殴りつてくるので、叫ぶことすら許されない。大神は俺の身体をリッパーの能力で端から刻みつつ、こちらの顔面を殴りながら楽しそうに罵倒してくる。

「なぁ、お前、俺が正々堂々決闘なんてすると思った?お、その顔は思ってたって顔だな、ギャハハハ!!馬鹿だな、ホント。全部フェイクだよ、フェイク。お前なんかいるかよ、ゴミが。人狼で俺にたてつく奴なんて一人たりともいらねぇんだよ!!何せ、種の王だからな!お前のいう猿山のだけど、最高の気分だぜ、テッペンは、」


 最初から偽物だったんだ。今日、最初に会った時から奴は能力で偽物を本物のように仕立て上げて、こちらを欺いていた。偽物の姿を持たすのに恐らく時間制限があったのだろう。奴はわざと俺が怒るようなことを言って、戦闘の開始を早め時間を短縮した。そして、こちらの戦闘能力を分析して、頃合いをみてタネを明かす事でこちらの隙を突き、圧倒的優勢な状況で戦いを始められるようにしたのだ。


「いや、しかし、お前、強いよ。万全の状態で戦わなくて良かったよ、ホント。あのハンター共を倒してきた事だけはある。でもなぁ、良く考えろよ。俺がお前らの土俵に立ってやる理由なんてどこにもねぇんだよ。お前らは決闘だか何だか知らねぇが、まどろっこしいのに縛られちゃって、可哀想で仕方ねぇよ、全く。あいつらもルール無用でこいつから血を奪っちゃえば、チーム解散なんてする必要なかったのにな....って、話聞いてるか、おい、」


 端から刻まれる痛みと顔面の痛みにより思考がまとまらない。不死身の身体の苦しめ方を知っている戦い方だ。俺が大神にしたことよりも数倍えげつない。ノコギリで削られるような鋭い痛みとジワジワと身体全体に広がるような痛みが平行して襲いかかってくるせいで何か考えようとしてもすぐにリセットされ、また思考を最初からスタートさせなければならない。

 この拷問はいつまで続くのだろう。全くわからない。何せ不死身なのだから。お互いに死ねない以上、どちらかが諦めない限りはこの戦闘は終わらない。


 徐々に思考できる言語が減っていく。言葉が思い出せない。思いだそうとしても際限なくやってくる痛みに阻害され、どうすることもできない。

 これまで戦ってきた相手は激しい攻撃をしてくるにせよ、途切れのない程の攻撃をしてくる事はなかったから、何とか対策を立てることはできた。

 だが今回は別だ。相手は自分と同じ不死身の身体を持つ性質同士。それ故に互いの身体の弱点も知り尽くしている状態だ。こちらが対策を立てられないように上手く痛めつけられていく。このままでは何もできない。じきに思考することすらままならない廃人と化すだろう。


 そもそもどうしてこんな状態になってしまったんだ。大神の言葉が正しければ最初に怒りに任せて殴りかかったところから既に罠に嵌められていた事になる。ならばどうして、怒りに身を任せてしまったのか。考えられるのは一つ。ハンター達から受け継いだ能力と大神の血が反応したのだ。それでは駄目だというのに。


 大神を打倒するには他人の為に事を成そうとするのではなく、自己の願いを叶えようとする思いの強さが必要だ。それなのに俺は『呪い』と血に負け、まんまと大神の罠にはまってしまった。余りの情けなさに)思わず目から涙が溢れる。それを見た大神が心の底から嬉しそうに笑った。


(くそ...もう一度だけでいい....チャンスを....)


 土壇場で起死回生の一手を思いつく。そんな都合の良い事が起こるはずがない。そんなのはフィクションだけの話だ。ここはまぎれもない現実で、奇跡なんてものは起こり得ない。起こるのは過程に準じた結果のみ。

これまでの行動に基づいた明確な結果のみが現実のものとなる。


『何も考えるな、全力で地面を叩け』


 だから、探偵の声がはっきりと聞こえてきたとしてもそれはきっと必然だったのだろう。この10日間で得た人間関係がもたらした結果に違いない。


 痛みで何も考えられない脳を使わずほぼ反射的に再生したての拳を握りしめ、全力で地に叩きつけた。キングの力を得た以上、その破壊力は隕石に匹敵する。たった一撃でグラウンドが俺たちを中心にひび割れて崩れていく。


「うおっ!!」

 大神が間抜けな声をあげて、一瞬動きが鈍る。その隙を見逃さず馬乗りになられた状態から這い出て、大神から離れる。グラウンドにはクレーターができていて、当分の間使い物になりそうもなかった。クレーターの中心に数枚のお札の切れ端を見つけた。全てを察し、探偵がいるはずの屋上に思わず目をやる。そこに彼はいなかったが、彼が助けてくれた事は間違いなかった。


 もう何度も助けられているが、戦いにおいて手を貸してくれるのは初めての事だ。相手が大神の上に、奴も汚い手を使ったからだろうか。どちらにせよ探偵のおかげで窮地を脱する事ができた。今は大神に集中しなければならない。


「おいおい、お前ズルしただろ。あの幽霊みたいな奴にアドバイスでももらったか?」

 目敏く、お札の切れ端に気がついた大神が悪態をつく。事実だがそれを肯定することはしない。下手に言い合いになって、また血と『呪い』が高まってしまうのを恐れたからだ。


「黙りかよ、汚い奴だなぁ、お前は」


 どうとでもと言え、と思いながら奴の動きをつぶさに観察する。力ではこちらが上回っているのだから、奴の動きを注視していればいくらでも対応できる。


 もう間違えない。人間のまま化け物を倒す。怒りに任せて叩き潰すのでは人間とは言えないのだから。


 大神が動いた。奴は右手をこちらにかざそうと手を上げようとした。それに瞬時に反応し、地を蹴り、大神の右手を押さえつけそのままへし折った。


「グガァァァ!」カラスの断末魔のような声で大神が呻く。だが、それも一瞬ですぐに大神は口を大きく開ける。奴の口の奥に炎が見えた。すさかずその大口に拳を叩き込む。凄まじい音ともに大神の頭が爆発する。肉の焼けた匂いが漂う。こちらの腕も吹っ飛んだがすぐに再生した。当然、爆散した大神の頭もすぐに再生していた。


 目が合う。獰猛かつ自身の思い通りにいかない者への憤りをこれでもかと詰め込んだ凶悪な目つき。つい先ほどまで自分もこの目をしていたのだろうか。

 だとしたら納得だ。こんな目をしている奴が勝てる訳がない。こんな目をした奴がどうして自分の事を人間だと言えるだろうか。

 互いの拳が交差し両者の頬を捉える。更に反対の腕でまた逆の頬を殴る。ひたすらにそれを繰り返す。


「死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!!」

「やってみろよ!!」


 以前は奴のパワーに押された為に尻尾を地面に突き立てて、吹っ飛ばされないようにしていた。

 だが今は違う。押してるのはこちらの方だ。こちらの拳が届く度に大神が少しずつ後方に下がっていく。

 大神の顔に焦りの表情が浮かぶ。今まで力負けした事なんてキングぐらいのものだったのだろう。

 同じ種である人狼に押されている事が彼に果てしない屈辱を与えているのを感じ取る。


「クソクソクソクソクソォォォオ!!!どうしてだよ!!!!どうしてテメェなんかに俺が!!!!」

 

 均衡が崩れ、力負けした大神が後方へと吹き飛んでいく。それを急いで追わずにゆっくりと倒れる大神に近づいていく。

「そんな目で見てんじゃねぇ、見てんじゃんねぇよ!!!お前如きが、お前みたいなもどきが俺様をみおろしてんじゃねぇぞ!!!!」

「じゃあ、俺じゃなければいいんだな?」


 立ち上がりこちらに殴りかかってくる大神の拳を片手で受け止める。そして反対の拳を握り締める。

「これはテンタコルの分」

 彼女の感じた絶望。幸せを燃やされ、汚された彼女の血塗られた激情。

「これはスナイプの分」

 感情を得る為に殺そうとした彼女の底の見えない思い。

「....これがキングの分」

 三人の願いを踏み躙ってしまった事による彼の贖罪。


 三人の様々な願いと思いをその元凶である大神に叩き込む。だがこれで終わりじゃない。まだ一番大切な分が残っている。

 俺はどうしてこんな姿になった?どうしてこんな事をしている?誰が俺をこんな状況に叩き込んだ?

 全て、全て、目の前のこいつのせいじゃないか。

「これが俺の分だぁぁああああ!!!!!」

 決して怒りに任せるのでなく、心を奮い立たせるために叫ぶ。あくまでも思考はクリアに。

 全ての元凶を殴り飛ばした。



 




読んで頂きありがとうございました!!

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