第十七話 全ての始まりは最終決戦、
サンバの時間だ。
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文芸部の面々とあった深夜。再び校舎を訪れた。昼間野球部が使っていたグラウンドに向かう。
まだ大神は来ていなかった。仕方ないので、地面に胡座をかく。
何となく、空を見上げる。今宵は満月だった。人狼になったからだろうか、人間の時よりも月明かりが心地良い。
探偵とは校門で別れた。探偵からは一言、健闘を祈る、それだけだった。きっと今もどこかで見ていてくれているだろう。まだ探偵と会って10日程なのに、何だかずっと知り合いのように感じる。
探偵は何者なのだろう。柳の下にでもいそうな見た目なのに、醸し出す雰囲気は閻魔大王のよう。人間嫌いなようでいて、意外に世話焼き。荒事は嫌いそうに見えて、その実ハンター達からも一目置かれている。何というかギャップの塊のような男である。だが彼がどういう人間であれ助けてくれた事は事実だ。何が目的にせよ俺に道を示してくれたのだ。
そうだ。人間に戻ったら彼にお礼を言おう。彼の事だから素直に受け入れるわけはないだろう。どうせ嫌味たらしく皮肉を言われるに決まっている。それを思うと笑いがこみ上げてくる。また一つこれからの楽しみが増えた。
日常に戻る。戻って生きていく。当たり前を当たり前に生きる。
そのためには....
「待ってたぜ、大神」振り向かずに背後に迫る足音に話しかける。
「....つまんね」大神の心底つまらなそうな声がかえってくる。「背後から噛み殺してやりたかったのによ」
振り返る。そこにいた。この世の悪が。この世全ての生命を否定する悪が。荒々しい獣の目、息を吐くたびに聞こえてくる不気味な唸り声。見る者を恐怖させる筋骨隆々とした身体に載っている狼の頭。10日程前であれば見ただけで身体が震えていた。だが今は違う。この10日で色々な物を得たのだから。恐怖で震える理由なんてない。
「そいつは良かったよ。少しでもお前が気分良くなったと思うと死にたくなる」
「ハッ!10日程度で言うようになったじゃねぇか。伊達にキングを殺してねぇってか」
「.....ああ、そうだよ」
「まさか、本当に勝つとはね。あれ、強かったろ?少なくとも俺よりは」
「自分よりも強いって認めるのかよ?」
少し意外だった。大神が自分よりも強い存在がいることを認めるとは。この世の全てのものは俺のものだとでも思ってそうな性格からして決して認めないものだと思っていた。
「そりゃそうさ。初めて会った時にめちゃくちゃにされたからな。だから、チームを組んで殺しにきた時はびっくりしたぜ」
あんなに弱くなるなんて。大神はそう言った。心底不思議そうな顔をしてなぁ、どうしてだと思う、下品な笑い声とともにとこちらに聞いてくる始末だ。
わからないだろうな。お前には。他人を食べ物としか思ってないやつには決してわからないだろう。キングは弱くなったのではない。その逆だということを大神が理解することは一生ないだろう。
だから言ってやった。
「お前には一生わからないよ、大神。絶対に」
「.........................そうかよ」
俺の言い方が癪に障ったのか大神の下品な笑みが不機嫌そうな形相へと変わっていく。満月の光に照らされたその形相は正しく映画に登場する狼男そのものだった。満月という格好のパワーアイテムがあるせいか以前見た時よりも更に凶悪に見える。だが全くと言っていいほど、心は静かだった。本当にこれから戦うのかと思う程に何も感じない。だがそれも戦闘が始まるまでの話だ。一度、戦闘が始まれば間違いなく、心は怒りと使命感で燃え上がることだろう。今は暖気中というだけだ。スポーツ選手がベストパフォーマンスを発揮するために入念な準備運動をするように。
眼前の元凶を睨み、拳を握る。不思議と以前よりも力が漲ってくる。キングから力を引き継いだからか。今なら倒壊してくるビルだって片手で受け止められる気がする。
「なあ、お前、最後に一つ聞いていいか?」
「...なんだよ?」
できれば今から戦う相手となんて話したくない。特にこいつとは。声を聞いただけで不快な気持ちが獲物に群がる蟻のように心を蝕んでくる。そしてそれは今回も同じ事だった。
「俺と一緒に生きる気はねぇか?」
「.......は?」
「だから、俺と一緒に生きる気はねぇかって聞いたんだよ。だってお前、あのキングに勝った上に同種じゃねぇか。そんな奴、もう二度と現れねぇよ。一緒に来い!来れば一生楽しく生きられるぜ」
話が耳に入ってこない。言葉はノイズとなり、右から左へと流れていく。
「あ、お前。まだ、人食った事なかったんだっけ?勿体ねぇな、うめぇぞぉ、特に若い女は。あの泣き叫ぶ顔を弄びながら端から食い散ちらかすのなんて、思わず脳も下半身もイっちまいそうになるぜ!!.........あ?」
勝手に身体が動いた。もう駄目だった。我慢の限界という奴だ。こいつの話なんてこんま数秒も聞きたくない。気がつくと俺は足に力を込め、奴の懐に飛び込んでいた。
「もう黙れ」
一撃を大神の腹に叩き込んだ。大神は突然の強襲を全く予想していなかったのか、不快な笑みを浮かべたまま目を見開いたまま後方へと吹っ飛んでいった。数十メートル先でやっと止まった大神がこちらを鬼の形相で睨みつけてくる。
「何しやがんだ!!テメェ、話し中じゃねぇか。俺は種の王だぞ、そんな真似許されるとでも思ってんのか!!」
種の王。以前にもこいつが吐いたセリフだ。そんなものに未だに拘りがあるらしい。こんな他人を見下ろすことしかできない種の何がそんなに良いというんだ。
「精々、猿山で粋がってろ、屑が。その山も今日で閉山だけどな」
強がりじゃない。今度こそ。勝つ。その確信が今の俺にはある。だって負ける訳ないじゃないか。相手はたった一人。何人もの思いが後押ししてくれる俺が負ける道理なんて何処にもない。
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