表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アヤカシ探偵物語  作者: イサシ
第3章 人狼事件
26/32

第十四話 全ての始まりは最期の言葉は言うまでもなく....

おはようございます!!馬!!人参!!これ即ち呂布なり。

27


 俺の吐き出した大量の空気がキングに直撃する。ほぼゼロ距離だ。流石の彼も一たまりもないだろう。

 事実、彼の巨体が確かにグラリ、と揺れ、先ほどまで絡め取った尻尾を引き剥がそうとしていた力が弱まった。

(そのまま、倒れろ!!)

 心の中で叫ぶ。

 だが、そんな思いは通じない。

 再び、キングの身体に力が宿る。

 そして、彼は俺の腹を貫通する腕の方の肩を外した。

 ゴキリ、と生々しい音が聞こえた。

 結果、彼を雁字搦めにしていた尻尾が解放される。

(負ける!!!!)

 彼は肩の骨が外れた腕をもう片方の腕で支えるように振り上げる。このまま俺を川に叩きつける気だ。

 負ける。敗北する。

 負けたとしても、今のキングなら大神を倒す事ができるだろう。

 俺との戦いで苦戦しているのは、あくまでも勝負だからだ。こちらに負けを認めさせようと真っ向勝負で挑んでくれているからだ。

 でも、そういう訳にはいかない。自分が始めた戦いだ。自分がケリをつけなければならない。

 俺を信じてくれた人たちのために俺自身で決着をつけなければならない。


 だから、切断した。胴を。横薙ぎに、自分の胴を。

 結果、キングの腕から解放された俺の上半身は宙を浮く。

 キングの顔が驚愕に染まる。流石に自傷行為は予想していなかったのだろう。

 キングが腕を振り上げていたので、丁度、上半身はキングの頭上にあった。

 彼と目があう。

 彼は静かに目をつぶった。

 息を吸い込む。さっきのでは駄目だ。一点集中して破壊力を。

 彼の肩に噛み付く。

 この距離なら絶対に外さない。

                ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 衝撃で後方数十メートルまで吹き飛ばされる。

 水しぶきと砂塵でキングの姿は見えない。

「ゴホッッッ!!」

 地面に勢いよく打ち付けられ呼吸が止まる。

 キングとの約束なら彼が倒れていなければ、この時点で俺の負けという事になる。

 いつの間にか再生していた両足で立ち上がり、状況を見守る。

(倒れていてくれ....)

 徐々に、水しぶきと砂塵が落ち着いていく。

 一秒がとても長く感じる。何もできない時間が惜しい。

 自分の心臓の音が煩い。

 煩い。

 煩い。

 苛立ちを抑える為に拳を強く握る。

 

 やがて、視界が晴れた。

 そして、心が曇った。


 キングは立っていた。その像のような両足で。堂々と。威風堂々と立っていた。


(負けた.....)


 心に水滴が落ちる。その水滴は黒く染まっていた。

 徐々に水滴は数を増やし、やがて俺の心に雨を降らせ、心を黒く染め上げる。

 黒色の水滴にはは喪失感という名前がつく。

 人間に戻る。大神を殺す。

 それを自身の手で叶えられなくなった。

 使命を失った。

 次に何をすればいいのかわからない。

 そんな感情を一まとめにした名前だ。


 思わず、その場で崩れ落ちる。

 だが....


「立て、少年。貴様の勝ちだ」

「え?」


 気がつくと、キングが目の前に立っていた。

「何を惚けている」

「いや、え?勝ちって....だって....」

 キングはまだその膝をついていない。反対に俺は膝をつくどころか胴から下は一度なくなった身だ。

 負けだろう、完全に。言い訳の仕様もなく。


「片腕無しで大神と戦えというのか、貴様は」

「え?」

 目の前のキングを仰ぎ見る。

 彼の左腕がなくなっていた。綺麗さっぱりというには、その断片は歪で、無理やり引き剥がされたかのような印象を与えた。

「全く、いくら不死身の身体とはいえ、自分から胴を切るとは...大神でもやらないぞ」

「いや、咄嗟の事だったから...」

 自分でも何であんな事をしたのか覚えていない。ただ、このままでは負ける。その思いが脳裏に巡った事だけは覚えていた。


「....まぁ、それは良い。貴様があの一瞬、私を上回り、そして、勝った。その事実は変わらないのだからな」

「ああ....」

 勝利。何千もの死と生を繰り返した末の。

 果てのなかったはずの戦いの果てを自分自身の手で作り上げた。

 現実だ。紛れもなく現実だ。

 それなのに喜びも達成感もない。

 もっと喜ぶものだと思っていた。きっと勝利の雄叫びをあげるものだと思っていた。

 何か引っ掛る。何かを見落としている。そんな胸騒ぎがした。

 心を染めた喪失感はなくなったが、依然心はその色を黒に保っていた。


「?....どうした?」

そんな俺の様子を見て、キングが心配してくれる。

「いや....何でもないよ」

 そうだ、俺は勝ったのだ。それなのに気遣われてどうする。

「ちょっと、驚いているだけさ」

「そうか...それならばいいが...」


 俺が立ち上がると、キングは懐からフラスコを取り出し、そのなくなった腕から血を採り始める。


「俺が言うのもあれだけど、それ痛くないのか?」

「痛覚は遮断してある。私は『呪い』だぞ?それくらい訳ないさ」

「そういうもんか」


 フランケンシュタイン博士の生み出した怪物。彼はそのモデルなのだ。ならそれくらいできて当然という事だろうか。俺は一人納得し、そして、気づいた。

 怪物。つまり、「呪い」。 

 どんなに心や在り方が人間であっても、身体までは変わらない。「呪い」は「呪い」のままだ。

 そして、俺はこれから彼からその能力を貰う。

 「呪い」そのものの彼から。

 そしたら、どうなる。テンタコルやスナイプはあくまでも「呪い」を刻まれて、その能力を行使していた。

だから、俺が彼女たちから能力を貰うと、「呪い」が身体から消えるという症状だけで済んだ。

 しかし、キングはその「呪い」そのものだ。そんな彼から「呪い」を取り去れば彼はどうなる。

 消えてしまうのではないか?


「ちょ、ちょっと待ってくれ、キング!!」

「どうした?まだ何かあるのか?」

「あんた、『呪い』なんだろ?なら俺が能力を貰ったら、どうなるんだ?」

「消えるだろうな」

 彼は当然のように言う。何を今更というように。

「な!わかってたのかよ!なら、どうして...」

 どうして、その後を継げない。わかっていたから。彼が戦った理由などわかったことだからだ。

「もう十分、私は生きたよ。まぁ、そう思えるようになったのは貴様が気が付かせてくれたからだが」

 違う。それを教えてくれたのはテンタコルだ。俺は彼女の気持ちを伝えただけ。 

 感謝される筋合いなどない。


「それに貴様になら任せられる。だから俺は最後にああいう勝負をしたんだ。貴様と対等になれるようにな」

「...対等なんかじゃないよ。少なくとも俺は死ぬ可能性があるのに、自らその道を行くなんてできない」


 俺が戦いを挑めるのはあくまでも大神の血ありきだ。そうでなければ一般人の俺があんな無茶な戦いをできるわけがない。貰った力で粋がっているだけなのだ、所詮、俺は。


「....それは違う。普通の人間はいくら不死身でも自ら戦場に立とうとは思わん。戦場に立つ。それだけで貴様の価値は十分だ」

「...そう言って貰えると嬉しいけど」


 気休めだとしても、今まで戦った中で最強の相手からそう言って貰えるのは本当に嬉しかった。

 だが、それと同時に酷く複雑な感情が飛来する。

 今から俺は目の前の男を殺す。

 先ほどまで殺しあっていったというのに、その事実がどうしようもなく、身体を鈍くさせる。


「終わったようだね、キング、岩戸くん」

 

 声がする方を見るといつの間にか、探偵が河原に立っていた。そして、その横にはテンタコルとスナイプの姿もあった。


「来てたのか」

「...まぁね」

 テンタコルが気だるげに応える。昼間と同じドクロマークのTシャツを着ていた。

 彼女はわかっていたのだろう。俺がキングから能力を貰えば彼が死ぬ事を。

 わかったうえで、彼女は俺にキングを止めてくれと言ったのだ。


 彼女は包帯だらけのスナイプを背中におんぶし、ゆっくりとキングの元へと歩いていく。


「テンタコル...スナイプ...済まなかったな。私は...」

「ストップ、ストップよ。キング。謝るのはなし。私だってわかっていて黙ってたんだから」

「だが...それでも...」

「だがでも、それでもじゃないわよ。最期なんだから、全部水に流しましょ」

 その言葉にスナイプもコクリ、と頷く。

「...そうか...ありがとう」

「こちらこそ」

 

 テンタコルが無邪気に笑う。その笑顔には何の邪気もなく、心の底から出てきたもののように見えた。


「イワト、血液だ。飲んでくれ」

 ポイ、と血液の入ったフラスコをキングがこちらに投げてくる。それを両手で受け止める。中には赤黒い液体が入っていた。まだ温かい。紛れもなく生物の証。生の証明。それを肌で感じ取る。


「探偵。後の事は頼んだぞ」

 俺の後ろで沈黙を守っていた探偵にキングは目線を向ける。それに対して探偵は不敵に笑い返す。

「僕が特別することなんてないさ。君の意思は岩戸くんが受け継いでくれるよ」

「....そうだな。そうに違いない」

「.....」


 その期待に対し、無言で応える。言葉で言わずとも伝わる。キングの思いも、自分の思いも、全部伝わる。

 そんな俺を見てキングも静かに頷くと、ゆっくりとその場に座る。


「さて、余り時間がたつと未練が増える。さっさとその血液を飲んでくれ」

 

 キングがそう促す。

 フラスコを握る拳に力が入る。

 今から俺はこれを飲み、能力を貰う。そして、命も。

 散々、殺しあった癖に。

 だが、ここで躊躇するのは違う。グチグチと言い訳するのなんてもっての他だ。

 みんなが俺を見ていてくれている。

 スナイプも、テンタコルも、キングも、探偵も。

 俺に託してくれた人たちが俺を見ている。

 なら、その期待に応える。何度もそう決めたじゃないか。


「...じゃあ、キング。始めるぞ」覚悟を決める。

「ああ...」


 フラスコの蓋を開ける。

 血の匂いがする。

 思わず、腹が鳴る。

 長時間の戦闘でエネルギーはすっからかんだ。

 薬で人間に戻る事で抑えてきた食人衝動が目覚めかけている。

 早く、飲みたい。早く、飲まねば。早く....

 .....違うだろ。

 そうじゃないだろ。

 そんな本能でキングの命を奪うのではない。それじゃ大神と同じだ。

 化物と同じだ。

 意志をもってこの血を飲む。人間としてこの能力を貰う。

 そうでなければいけないのだ。

 フラスコを傾ける。それに合わせて血液が俺の口へと流れ込む。

 瞬間、脳裏に様々な光景が浮かび上がる。

 

 自らが造り上げてしまった異形に恐れおののく白衣の男。

 怒りの余り、暴虐をふるう怪物。

 絶望の中、孤独に極寒を歩く巨人。

 無限の再生を繰り返す人狼。

 暖かい三人との会話。


 全て、キングの記憶だった。300年もの月日が脳髄に叩き込まれていく。

 涙が頬を伝う。

 この涙は罪悪感や同情なんかじゃない。

 彼の壮大な人生への敬意だ。

 その敬意でもって、フラスコの中身を飲み干した。

 ゆっくりと、キングの方を見る。


「....泣いてくれるか、俺のために」

 キングの身体が端から徐々に消えていく。消えていった身体は塵となって朝日に照らされて、どこか神秘的な光景を醸し出していた。


 テンタコルが嗚咽する。スナイプはどこかぼんやりとした表情でそれを見つめる。

 スナイプは悲しくないわけじゃない。きっと泣き方がわからないだけなのだ。

「...あたり前でしょうが。リッパーだって、きっと....」

「ああ、一足先に再開するとするよ....互いに地獄行きだからな」

「ええ...私たちも....そのうち会いにいくわ」

「.......」

「なるべく遅く来る事を願うよ」


 身体が消えていく。それなのにキングの表情はどこまでも穏やかで、まるで娘や孫に囲まれるご老人のようだった。

「....気づくのが遅すぎた...私はこんなにも....」

 それが彼の最期の言葉だった。 

 続く言葉を語るのは無粋というものだろう。

 そんなの言うまでもないのだから。

 



 


 

 



 

 


読んでいただきありがとうございました!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ