第十三話全ての始まりは人間、だからこそ
おはようございます!!最近のマイブームはニーアオートマタ
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「ーーーーーー!!!」
「ーーーーーー!!!」
互いの咆哮に地が震える。月は怯えるようにして雲にその姿を隠した。光源は星のみ。暗闇の中、必殺の一撃を受け続ける。
実力差が気合いで埋まる訳ではない。俺にキングの攻撃をいなす術はなかった。
拳が腹を貫通する。
内臓を掴まれ、それを軸に振り回される。
倒れたところを足で踏みつぶされる。
フルスイングされた十字架にゴルフボールのように飛ばされる。
森を抜け、川に漂着する。
落ち着く間もなく、頭を押さえつけられ窒息する。
再生する。
それでも、再生する。
無限の死。無限の生。輪廻の中、ひたすらに蹂躙を受ける。
「ゴホッ!!!」
掴まれていた頭が解放され、川から頭を出す。それを待っていたかのようにキングは俺の頭を蹴りつける。
川を10m以上転がり、漸く止まる。全身に鈍い痛みがズキズキと走る。
「悪いが、貴様が負けを認めるまで加減は無しだ」
もう、自分を誤魔化すのはご免だ。自分に言い聞かせるようにキングが言った。こちらを見下ろす彼の目にははっきりとした闘争心が伺えた。迷いのない炎が瞳の奥に見えるようだ。
「...こっちだってご免だよ。やる気のない奴と戦うのは」
ボロボロの身体を再生させ、軽口を叩く。少しでも明るく振舞わないとこのまま崩れ落ちたい欲求に負けてしまいそうだったからだ。大神の血は確かに肉体を再生させる。どんな怪我でもたちまち直してしまう。だが肉体というハードが治ったとしても、精神的なダメージが癒える訳ではない。
物理的な痛み。自身の身体が崩れていく絶望。実力差による諦念。
それらが重ね合わさって俺の心を押しつぶしてくる。
「まだやるか?」
十字架を構えるキングを見据えながら、潰れそうな心を鼓舞して、戦闘態勢を整える。
また、殴られ、潰され、粉々にされるだろう。
だが、戦いを止めるつもりは一切ない。
何故なら、望みがあるからだ。勝つ望みが。
なら、諦める訳にはいかない。
道があるのに歩みを止める訳にはいかない。
それが様々な人の意思を背負った義務であり、使命だからだ。
ここで何もしなかったら彼らにあわす顔がない。
「当然」
雄叫びを上げ再び突撃を開始する。わずかな望みを求めて。
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何故、この少年は諦めない。戦闘を再開して1時間経過した。もう1000回は殺したはずだ。それなのに、少年は諦めるどころかますます攻勢を強めていく。今まで大神以外にも散々、再生能力を持つ『呪い』と戦ってきた。大抵の奴らは途中で諦め、自死を選ぶか命乞いをしてきた。肉体が再生するとて、精神はすり減っていく。それは大神の血を持つ少年とて例外ではないはずだ。
それなのに何故、折れない。彼の辞書に諦めるという言葉は載ってないのか。だとしたら、どうすればこの勝負を終わらせる事ができる。この勝負はどちらかが負けを認めるまで続けるという約束のはずだ。要は我慢強い方が勝つ。彼を諦めさせるにはどうすればいい。正直言って見当もつかない。
このまま実力差を見せつけてやれば諦めるだろうか。答えはノーだ。
今更、彼が実力差だけで諦めるとは思えない。彼は格上とばかり戦ってきたのだから、今更力を見せつけたところで無駄だろう。
こちらが悩んでいると少年は尻尾を槍のように変形させ、こちらへと穿つ。
それを片手で受け止めて、そのまま掴み、投げ飛ばす。
さっきから尻尾での攻撃ばかりだ。様々な形となり、攻撃手段を変えてくるので中々に厄介だった。
だが、受け止められない訳ではない。
故に戦況は揺るがない。
このまま戦っていればいつか諦めるだろうか。いつ終わるとも知らない戦闘を続ける。
5時間が経過した。彼はまだその膝を地につけない。しっかりとその足で大地を踏みしめ猛然と立ち向かってくる。何回殺した?とうに数えるのは止めた。何通りもの手を何通りもの方法で封じ込めた。その度に彼の目の炎は燃え盛っていく。
おかしい。本当についこの間まで一般人だったのだろうか。ただの一般人がこれだけの苦痛を耐えられる訳がない。だが事実として、今、目の前の少年は獣のようにこちらに迫ってくる。
今まで感じた事がない感情が飛来する。それを振り払うように十字架を振り回す。だが、当たらない。少年は屈むようにしてそれを避けると地を這うようにしてこちらの懐に潜り込んだ。
「貰ったぁああ!!!」
私の鳩尾に鈍い痛みが走る。見ると彼の拳がめり込んでいた。
「グッッッッ!!??」
久々だ。相手の攻撃を受けるのは。だがそれに驚いている訳にはいかない。漸く攻撃が当たった事に気分良くした少年は更にこちらに攻撃を仕掛けてくる。慌てて足を振り下ろし、衝撃で少年を退かせる。
「やっと当たった」
「....効かん」
事実だ。大神の血ほどではないにせよ私の身体は通常の人間や「呪い」よりずっと頑丈だ。鳩尾一発貰ったくらいでどうということはない。しかし....
「だろうな。なら、何度でも当ててやるよ。あんたが倒れるまで」
一発当たった。その事実が彼の心を支える。
一発でも当たるべきではなかったのだ。当たってしまったら少年が止まることは二度となくなるから。
何度でも言うが戦況は圧倒的にこちらが有利だ。実力が埋まった訳ではないのだから。
だがそんなものは関係ない。
少年は止まらない。ただひたすらに勝利を求めて、突き進む。
その姿に初めての感情が浮かぶ。倒しても倒しても立ち上がる。いつまで続くのかこの戦いは。
焦りと恐怖。心臓に汗をかくのを感じる。
....なぜ、私が焦る。なぜ、私が追い詰められたかのように焦らなければならない。
少年の拳が顔面に直撃する。ズキリ、と痛みが走る。
何をしている。焦って攻撃が大ぶりになっているぞ。
どうすればいい。どうすればいいのだ。
どうすれば止まってくれる。
どうすれば諦めてくれる。
どうすれば....私はあの三人の願いを叶えられる?
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朝になった。朝焼けが身体を橙色に染める。
つい、一時間ほど前からこちらの攻撃が当たるようになった。こちらが一撃当てる度に俺の身体は滅茶苦茶にされる。慣れた訳ではない。その度に痛みと恐怖で身体が縛り付けられる。
突き動かすのは勝利への可能性。攻撃が当たったという僅かな勝機。
無限とも思えるようなトライ&エラーを繰り返し手に入れた大海から手紙を入れた小瓶を見つけるような勝機。それだけが身体を突き動かす。
「....お前は何故諦めない?」キングが動きを止め、その死んだ目を向ける。その目にははっきりと焦燥の色が浮かんでいた。
「そこまでしてお前が戦う理由は何だ?」
戦う理由。もう何度だって心の中で唱えた。人間に戻るため。自分に託してくれた人のため。
それを口にしようとする。
だが、今のキングにそれを言うのは無粋な気がした。
何故なら、それは彼も同じ思いだからだ。
仲間の三人のため。彼らの願いのため。
彼は折れた心を再び繋いだ。
だったら、何と答えればいい。
探偵の言葉が胸に刺さる。
『怪物である彼は誰よりも人間だった。孤独を恐れ、仲間を求め、気にする必要のない事まで心配し、他の誰よりも他人を気遣う。どうしようもなく彼は人間なんだよ』
「....人間だからだよ」
思うままにその答えを口にする。
一人の人間として。姿形が変わったとしても俺は人間だと宣言するように。
「人間だから痛みと恐怖を抑えてつけて戦えるんだ。....人間だから誰かの為に戦えるんだ」
人間は孤独を恐れ仲間を求める。それを一人では生きられない軟弱者と笑う者もいるだろう。
間違いではない。一人で何でもできればそれが一番楽で効率的だからだ。
だが、それができるのはほんの一握りで大抵の者は誰かに縋って生きていくしかない。
俺はそんな大多数の中の一人だ。誰かに支えてもらい、誰かのためにと自分に言い訳しないと戦うこともできない。
でも、それでいい。俺はそれがいいのだ。どうしようもなく無様で情けなくて弱っちくても。
誰かが俺を見ていてくれるのだから。誰かが俺に願いを託してくれているのだから。
それだけでいい。それだけで十分だ。戦うにはそれだけで十分なんだ。
「あんただってそうだろ?」俺は聞く。目の前の巨人に向けて。
目の前の巨人は気づいているのだろうか。自分が一番人間であるということに。彼の戦う理由はどうしようもなく人間臭いものだという事に。
巨人は目を見開き、鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情を浮かべた後、笑った。
その表情は実に穏やかだった。戦闘中だということすら忘れそうな程に。
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人間。彼は確かにそう言った。こんな化け物を人間だと。
彼の言う人間が何を定義しているのか私にはわからない。彼の言葉を推測するに誰かの為に戦える者が人間だということだろうか。
私はどうだろうか。私は誰かの為に戦えていただろうか。
自分ではわからない。私は自分を信じる事ができない。つい先ほど、目の前の少年に自分の本心を気付かされたほどに私は私の心に対して鈍い。
なら、目の前の少年を信じるのはどうか。
誰よりも人間らしい彼が言う言葉なら信じて良いのではないか。
奮い立つ。私は人間だ。化け物ではない。少なくとも今はあの三人の願いの為に戦っているのだから。
「けりをつけよう。次、膝をついた方が負けだ」
これ以上私たちの間で戦いを続けるのは無駄だ。どちらも譲るつもりはないのだから。だから私は提案した。私が不利になる条件を。だが、これは先ほどまでの自分に失望した為の諦念からくるものではない。今、目の前にいる少年への希望からきた提案だ。私が仮に敗れたとしても、彼になら任せられる。
あの三人の願いを。きっと叶えてくれる。そう信じたから。
「いいのかよ?」少年は不審な目を向ける。また、私が勝手に諦めたとでも思ったのだろう。
「....ああ。だが、安心しろ。私は負けるつもりはない。貴様を倒して俺が三人の願いを叶える事に変更はない」
「...わかったよ」少年は私の言葉に破顔すると、四つ足で構える。まるで狼のように。「後悔すんなよ」
「するものか」それに次いで私も自分の背丈よりも大きい十字架を剣のように構える。まるで化け物ように。
戦闘再開までの数秒。世界は驚くほど静かだ。川のせせらぎだけが空間を支配する。
足に当たる流れる水が心地よい。登ってくる太陽の光が身体の疲れを癒す。
次が最後の衝突となる。それなのに心は穏やかでどこか心地良さすら感じる。
「どちらが勝っても恨みこっなしだ」
「もちろん」
先に動いたのは少年だった。四つ足で猛スピードでこちらに突っ込んできた。それを片手で持った十字架にて応戦する。拳と十字架の衝突。
少年はこちらの十字架を縫うようにしてすれすれに避けると、こちらの懐に飛び込んでくる。
これまでの戦闘でこちらの動きは読まれていた。だから、少年がこちらの攻撃から避けるのはわかっていた。懐に飛び込んでくるのは想定済みだ。
だから蹴り上げた。少年を。当然のように。
少年は飛ぶ。私によって飛ばされる。
そのはずだった。
彼は私の足を軸に体操選手のように飛び上がると、その足を踵落としのように私の頭に振り上げる。
それを片手で受け止める。予想外の動きではあったが対応できないわけではない。
少年の足を潰す。
呻くような少年の声が聞こえる。
痛いだろう。一般人が耐えられる訳がない。
なのに少年は止まらない。
止まるどころか、もう片方の足で私の顎を蹴り上げた。
だが、それくらいで私の意識が刈り取られる事はない。
ひるまず宙に浮いてる彼の腹を十字架を持ってない拳で貫く。
「ガァァッッッ!!!」
少年はたまらず叫ぶ。これで終わる。後はこのまま少年を地面におろせばいいだけだ。それで終わる。この戦いも。そして始めるのだ。私の戦いを。三人の願いを叶える為に。
しかし、下ろせない。身体が動かないのだ。何かに絡みつかれたかのように。
自分の身体を見る。
絡みついていた尻尾が。少年の尻尾が。雁字搦めに。
「いつの間に...」
「俺が突っ込んだ時だよ」
最初から少年は狙っていたのか。この状況を。
私が彼の腹を貫くのを。そのタイミングでこちらの動きを完全に止めるのを。
狙っていたのか。
拳が腹から抜けない。少年の再生する身体と尻尾が私の身体の動きを鈍くさせる。
少年は思いっきり空気を吸い込む。この距離で衝撃波を食らえば私は倒れる。
何とかして、尻尾を振りほどこうとする。
「ーーーーーー!!!!」
「ーーーーーー!!!!」
互いに叫ぶ。お互いの勝利のために。
だが、振りほどけない。衝撃波が私の身体を直撃した。
読んで頂きありがとうございました!!




