第十二話 全ての始まりは本当の戦い。それ即ち願い
本日2話目です!お願いします。
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「ーーーーーーーーー!!!!」
吠えた。俺じゃない。キングが。
身体の中にあるものも外にあるものも全て吹き飛ばすように。
叫びに危機を感じ取った動物たちが一斉に周囲から逃げていく。木々は震え上がり、逃げ場なく倒される瞬間を待つ。月だけが動じることなく、その様子をしげしげと眺めていた。
「...私の願いはとうに叶っていたのか.....?」吼えるのをやめて、暫くしてようやくキングが言語を発した。
「....そうだよ。あんたの願いは仲間を得る事だったんだろ?だったらとっくに叶っていたじゃないか。あんたの周りにはいつもあの三人がいたはずだ」
最初はただ大神を殺す為に隣にいただけだったのかもしれない。だが、いつしか大神関係無しに彼らはキングのもとに集まるようになった。それは誰のおかげでもなく、ただキングの人柄ゆえだ。
それなのに、キングは恐れた。大神を殺すという目的を達成してしまえば、彼らは離れてしまうのではないかと。そんな訳はないのに。会って数日の俺ですらそんな事わかるというのに。
だから、無意識のうちに彼は大神に対して手加減していたのだ。
手心を加えていた。自分の願いを壊さない為に。
テンタコルを除いた残りの二人はその事に気付いていたのだろうか。自分たちがいる事でキングが弱くなっていた事に。今、思えば、テンタコルと俺が戦った時、テンタコルが浮かない表情を浮かべていたのはその事に気づいていたからということもあったのだろう。このままチームを組んでいても、大神を殺す事はできない。だが、チームを離れればキングを再び孤独に追いやる事になる。そんなジレンマに苛まれ彼女は全力で俺と戦う事ができなかったのだ。
「それでは....私は....あの三人の願いを蔑ろにしていたのか.....」
死人のように真っ白なその肌を青く染め、懺悔するように呻く。そこに先ほどまでの威圧感は一切感じられなかった。
無意識だ。彼に罪などない、と俺から言えることではない。それは彼ら四人の問題だからだ。
だが、テンタコルとスナイプは能力を失い、リッパーに至っては死んでしまった。
彼らのチームは崩壊した。
その責任は俺にもその一端があった。
人間に戻る為に。大神を殺す為に。自分の願いの為に彼らを崩壊に追いやったのだ。
ならその責任を取るべきだ。
「....思い詰めているところ悪いけど、まだ勝負は終わってないぜ」
「勝負か....もうする必要がないだろう....」
「そうか?」
「殺すつもりのなかった私が戦う資格なんてないさ」
「なんで、そこで終わるんだよ?」
「どういう意味だ?」
「あんた、全力を出せば殺せずとも大神を倒せるんだろ?なら、今からだって倒しにいけばいいじゃないか」
「....もう、そんな気も起きんさ....能力を渡す。....後は任せたよ」
その無気力な言葉に頭のこめかみの辺りからブチリッと音が確かに聞こえた。
「....舐めてんじゃねぇぞ」
「何....?」
「舐めてんじゃねぇぞ!!!それで俺がはいそうですか、で、俺が了承すると思ってんのか!!!戦え!!!何で一人で勝手に諦めてんだよ!テンタコル達の願いを俺みたいなぽっと出の一般人に任せていいのかよ!あんたがあの三人の願いを邪魔してたんだろ!!だったら、あんたが叶えないでどうすんだ!!!」
我ながらバカなことをしている。キングの申し出を受け入れればそれで解決するというのに。受け入れるどころか実力的には遥かに上の相手を挑発するなんて、本当に何をしているのだろう。
だが後悔はない。意気消沈したままの彼から能力を貰って何になるというのだろう。
意思なき力に強さは宿らない。
俺が数少ない戦いの中で学んだ事だ。
だから、キングとは決着をつけなければならない。
例え、勝敗がどうなろうとも。
戦って意思を受け継ぐ。
思えば、彼らとの戦いは最初からそういう戦いだった。
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「ーーーーーーーー!!!!」
吼える。そうしなければ、悔恨と罪の念に内側から破られてしまうから。
すまない。本当にすまない。
私はなんてことを。孤独を恐れて私は彼らの願いを踏み躙った。
決して許されぬ罪状。
彼らの人生を浪費させ、無駄にした。
償いをすることすらおこがましい。
目の前は真っ暗だ。
この暗闇を打ち払う術を私は持たない。
脳裏に浮かぶのは三人の顔。
凛々しくも可憐なスナイプの横顔。
こんな俺を慕うかのようなリッパーの笑顔。
口を尖らせ礼を言うテンタコルの照れ顔。
彼らを失いたくなかった。
彼らの願いを叶える事を私はできなかった。
彼らの期待に応えるどころかその願いを利用して、私は私の願いを叶えていた。
無意識だ、などと言い訳になるはずがない。
気付かなかった、ではない。気づこうとしなかった。
認めたくなかったからだ。自分の醜さを。自分の浅ましさを。
無気力が身体を覆う。もう疲れた、このまま停止してしまおう....
だが、少年が問う。それでいいのか、と。
私はもう駄目だ。だから、彼に託そう。三人の願いを。
それでいいじゃないか。彼だって無駄な戦いを避けられる。
願ったり叶ったりなはずだ。
だから、私は応えた。後は任せた、と。
瞬間、真っ暗だった目の前は何か眩いものに照らされた。
それは圧倒的なまでの感情の波動。
人間にしか許されない心の強さ。
剥き出しの感情が私を覆う無気力を追い払う。
少年は言う。私に戦え、と。私が三人の願いを叶えろ、と。
だが、それでいいのか。私が願いを叶えろという事は彼は人間に戻る事ができなくなる事と同義だ。
私では大神を倒すことはできても殺す事はできない。それでは奴の眷属化を止めることはできない。
私は彼にそう聞こうとした。
が、止めた。
目の前の少年の目に迷いはない。
本気で私に願いを叶えろと言っている。
本気で私に大神を倒せと言っている。
何故だ。何故、そんな風に強くいられる。力の差は歴然だ。戦えば私が勝つ。それは絶対だ。
ついさっき彼我の差を見せつけたはずだ。
なのに、何故そんな目をしていられる。
どうして、そんな言葉を口にできる。
何故、勝ち目のない戦いを挑める。
それでは諦められないではないか。
折れるわけにはいかないではないか。
三人の願いを叶えるまで倒れる訳にはいかないではないか。
だから、応えた。静かに。だけど力強く。
「行くぞ、イワト。貴様を倒して私は今度こそ彼らの願いを叶える」
その言葉に少年は嬉しそうに笑った。
戦いが始まる。本当の戦いが。
互いの意思と意地をぶつける本当の戦いが。
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