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アヤカシ探偵物語  作者: イサシ
第3章 人狼事件
20/32

第八話 全ての始まりは感情の高鳴りを知らせる

お疲れ様です!!!獅子VS鷹、両者ノーガード戦法で笑うしかない。

11


「楽しそうなことしてんじゃねぇか、兄弟」血に染まった獣の口が歪む。「俺も混ぜろよ」


 自分以外の全てを否定するかのような獣の吐息の混じる残忍な声。

 むせかえるような血と獣の混じった匂い。

 何よりもその場にいる全てのものを恐怖させる圧倒的なまでの殺気。

 忘れるはずがない。大神だ。


「大神!!」飛びかかろうとした瞬間、背後からブチブチッという音が聞こえ、踏みとどまる。振り返るとスナイプが先ほどまで縛り上げていた尻尾を無理やり引きちぎっていた。

「ッツツ!!??」

 引きちぎられた痛みに動きが鈍る。その隙にスナイプがこちらに突っ込んでくる。やられると身構えたが彼女の向かった方向は俺の方ではなく、大神の方だった。横顔しか見えなかったが彼女の表情は何故だか笑っているように見えた。


「大神ぃぃいぃいいいい!!!」スナイプが叫び、大神に向けてナイフで切りつける。それを平然と手に持っていた物で防ぐ。

「ん?なんだ、お前か。悪いな、仲間殺っちまったわ」

 何の悪びれもなしに言った大神は手に持っていた物をそのままこちらへと放り捨てる。思わず、そちらを見やりすぐに後悔した。

「なっ!!??」

 人間の首だった。それを盾にして、奴はスナイプの攻撃を防いだのだ。

(いや、待てよ、今の顔、見覚えがあるぞ)

 そうだ。大神は仲間と言っていた。つまり、スナイプの仲間の一人があの首だ。慌てて、もう一度、首を見る。

「リッパー....!?」

 間違いない。この顔はハンターの一人のホスト風で、リッパーと呼ばれていた男だ。ナイフで身体中を刺されたからはっきりと覚えている。


「そいつが喧嘩売ってきたからよう、殺っちまたわ」

 ゴメン、ゴメン、とまるで借りていたノートを汚してしまったかのような態度で謝る大神。そこに申し訳なさなど欠片も存在していなかった。

「大神ぃぃぃいいいいい!!!」

「おっと」


 リッパーが殺された怒りからかスナイプの攻撃の苛烈さが増す。片手にナイフ、反対の手には拳銃と次々と大神へと切りつけ、撃ち込んでいく。

「怒るなって、謝っただろ?」

それを平然と受け止め、大神は軽く息を吐く。それだけでスナイプの身体が後方へと吹き飛んだ。


「怒ってない....」直ぐに態勢を整えたスナイプが呟く。

「は?じゃあ、何で攻撃してくんだよ?」

 あくまで見下ろした態度の大神をスナイプは一瞥し、心底、嬉しそうに笑った。

「....お前を、....お前を殺して私は感情を得る」


 一言。その一言だけ言って、スナイプは攻撃を再開する。俺はそれをただ見ていることしかできなかった。

彼女の過去に何があったのかはわからない。大神を殺すことでスナイプが感情を得ることができるという因果関係が全く理解できない。だが、あの笑顔は紛れもなく喜びからくるものだ。仲間が殺された状況ではあまりに不釣り合いな笑顔に恐怖を感じる。

 彼女が大神を狙う理由はなんなのか。大神を見た途端、彼女は冷徹な軍人から狂戦士へと変貌した。最早、遠距離も近距離もない、ただひたすらに大神めがけて自分の持てる武力を全て闇雲にぶつけているだけだ。

そんなものが続くわけがない。

「もういいか?」先ほどまで攻撃を避けていた大神が動きを止める。そのため、スナイプが突き立てたナイフが大神の腹を貫通した。

「死ねぇぇぇぇえええええ!!!!!」スナイプが叫び、拳銃で大神の頭を撃つ。

「いや、死ぬのお前だから」だが、大神はそれを歯で受け止めた。「悪い腕はもらってくぜ?」


 スナイプの両腕がなくなった。少なくともこちらからはそういう風にしかみえなかった。

「ガッッッッ!!!!!!」遅れて、スナイプの悲鳴が聞こえてくる。

「これすごい能力だよな、さっきの男が使ってたんだけどさ。風を操れるんだと」

大神は両腕から噴水のように血を吹き出すスナイプを前に、自慢げに他人から奪った能力を解説する。まるで他人が苦痛で顔を歪めるのなど当たり前のようだ。

「なあ、もっと試していいよな」

苦しむスナイプを見下ろし、大神は手のひらを彼女に向ける。

「ギャァァアアア!!!」途端にスナイプの身体のあちこちに切られたような傷が浮かんでいく。傷の上に傷を上乗せされたスナイプは地面に倒れ伏し、ひたすらに悲鳴をあげる。

「いい声だ。もう飽きたけど」倒れたスナイプの頭目掛けて、踏み潰そうと、足を上げる。


「あ?何してんのお前?」

 だが、スナイプが潰されることはなかった。俺がスナイプを伸ばした尻尾で抱え上げ、移動させることで、それを避けたからだ。


「....やめろよ」

「は?」

「やめろって言ってんだよ!!」

 一体、目の前にいる生物はなんなのか。悪意を撒き散らし、自分以外のすべてを否定し、それを心の底から愉しむ。そんなものが生き物と呼べるのか。破壊しか生み出さない生物を生物と呼べるのか。否、そんなものは災害と一緒だ。同じ感情しか持たないなら感情がないのと同じじゃないか。

「....お前、同種の癖に俺に指図すんのか?」大神の顔が不愉快そうに歪む。「意味わかってんのか?」

「...知ってるよ、種の王様。でも、関係ないよ...」

「...あ?」

 あの日、人間であった俺を殺した目が向けられる。

 身体が震える。

 心は今にも潰れてなくなりそうだ。

 意識を保つのすら怪しいと感じてしまう。

 でも、言わなければならない。ここで怯えて、声も出せないようなら俺がこいつに今後、勝てる可能性などゼロだ。


「関係ないって言ったんだよ!!!!精々猿山で粋がってろこのクズが!!!!!」


 強がりだ。今は。だが、これはいつか俺が目の前の獣に勝つために必要な試練だ。人間であった頃の俺ですらただの妄言だったとはいえ、啖呵を切れたのに力を得た今言えないなんてのは論外だ。探偵やテンタコルに申し訳がたたない。

 一方、大神はポカン、とした表情を浮かべてこちらを不思議そうに眺めた後、何やら嬉しそうな表情を浮かべる。

「その声....お前、この間のガキか....?」

「...ああ、そうだよ。この間、お前に殺されたガキだ」

「何で、生きてんだ....?...いや、そうか...そういうことか。お前、眷属になっちまったのか!?」

 そいつは、驚きだ、と口を大きく開けて大神が笑う。ひたすらに下品だ。

「そうか、俺の血に適合できるやつがいるなんて、思いもしなかったぜ!?いいじゃねぇか、お前、最高だ!」

 最高?最高だって?一体何が?こんな自分以外の生物を否定しなければいけないような化け物になってしまったことが、か?

 ふざけるな。


「何が...何が最高だよ!!!どうして、お前はこんな化け物になって平然としていられるんだ!!!なんで、他人から奪うだけ奪って平然としていられるんだよ!!!」

 倒れて伏しているスナイプがチラリとこちらを見た気がしたが、気にする余裕はない。大神が無言でこちらを睨んでいたからだ。喧しいくらいおしゃべりな口は閉じたまま、今まで以上に殺意の籠った目だけが一言だけ告げていた。


 死ね。

 目が語るのはその一言のみ。

 それだけで十分だった。


幕間


 私は機械だ。感情はない。

 だからこそ、あの出会いは衝撃的だった。

 私に感情を与えてくれたのはあの男だった。

 あの殺意と狂気に満ちた圧倒的な感情。それをぶつけたれた衝撃を私は忘れられない。

 もうこんな日は二度と来ない。そう確信していたのだ。


 だが、その確信はこの日あっさりと叩きのめされる。


「関係ないって言ったんだよ!!!!精々猿山で粋がってろこのクズが!!!!!」


「何....何が最高だよ!!!どうして、お前はこんな化け物になって平然としていられるんだ!!!なんで、他人から奪うだけ奪って平然としていられるんだよ!!!」

 

 私に感情を与えてくれた男に啖呵を切った化け物は普通のどこにでもいる人間だった。足はガクガクと震え、声も虚勢を張っているというのが見え見えだ。

 だが、それでもそれはどうしようもなく美しいと感じた。

 怒りに歪んだ獣の顔。

 奴と同じ表情。だが、違う。

 自分の為に怒るのではなく、他の誰かの為に怒る。

 同じ感情でもそれは全くの別物だ。

 こんなにも暖かいものだったなんて。

 殺すことしかできない私には少し、難しい。怒る事すらままならない。

 けれど、彼みたいに私も他人の為に怒れる人間になりたい。

 今度は私が誰かの為に....

 薄れてゆく意識の中で私は静かに願った。



12

 互いの拳が衝突した。当然、力負けした俺が後方へと吹き飛ばされる。骨が砕けた。だが、それに構わず態勢を整える。

 どうせ、傷は回復する。痛みは感じるがアドレナリンがそれを吹き飛ばす。

「お前さ、やっぱうぜぇよ。眷属になったくらいで調子に乗んな、このカス」

「そっちこそ、いつまでも天下にいられるって思うなよ」

 尻尾を枝のように文節し、大神へと突き立てる。それを大神は手を翳しただけで、吹き飛ばす。

「そんな、攻撃効くかよ!!」

 手をこちらにかざす。それを察知し、すぐにその場から離れる。瞬間、スナイプが切り裂かれたように地面がえぐれる。その場にいればボロボロにされていたことだろう。

 だがそれで終わりの訳がなかった。こちらが避ける方向を予測していたのか、その場で大神が拳を構えていた。

「死ね!」

「クソッ!?』

 避けきれないので止むを得ず、両腕で顔を守る。衝撃と痛みが身体を貫き、後方へと吹き飛ばされる。大神はさらに追撃を仕掛ける為、後方に飛ばされた俺に追いつき、地面へと押し倒す。

 マウントを取られた形になり、顔面を殴打される。何とか腕でかばうが庇いきれない。次々と拳が顔面に直撃する。


「オラオラ!!どうしたよ、さっきまでの威勢はよ!?あ?黙ってんじゃねぇぞ!!!根暗か、テメェは!!」

 

 まだ、勝てないという事はわかっていた。

 今、戦いを挑んだところでどうにもならない。

 そんな事はわかっていた。

 でも、あの場で何もしなかったら、スナイプは死んでいた。

 だから、後悔はない。

 今日、死ぬかもしれない。

 だけど、それは自分の選択だ。あの日、突然の死に襲われた時とは違う。自分の意思を貫いた結果だ。

 覚悟はできている。

 もちろん、死ぬ覚悟ではない。

 大神と戦うという覚悟だ。


 顔面に迫る拳を受け止める。来る場所が分かればいくら力で負けていても受け止めるくらいはできる。そのまま、大神の腕まで掴み、そのまま握り潰す。

「痛ってぇぇぇええええじゃねぇか!!!!」大神が堪らず悲鳴をあげる。その隙に尻尾で俺に馬乗りになっている大神を吹き飛ばし、すぐさま、息を吸い込み、思いっきり吐き出す。それを見た大神も同じように息を吐き出し、相殺される。


 衝突してから初めて距離が開く。互いが互いの血で赤く染まる。だが、既にどちらにも傷はない。自分が人間でなくなっていることを再認識する。でも今はそれでいい。

 だってそうでないと、目の前の化け物と戦えないのだから。

 

「....テメェ、随分、俺の能力を使いこなしてくれてやがんじゃねぇか」

「....まだまだ、こんなもんじゃないぜ」

「ヒャハハハ!!!言ってくれんじゃねぇか。いいぜ、気が変わった。久しぶりだ、タイマンで俺と殴りあえるのなんざ、あのデカブツぐらいだったからな。もっと愉しませろ!!!」


 大神がこちらに突っ込んでくる。それに応じるようにして、俺も突っ込んでいく。

 そして、二度目の衝突。今度は吹き飛ばされないように尻尾を地面に突き立てる。

 その場に踏みとどまり、バキバキに折れた拍子から再生していく両腕で大神と殴りあう。


 ヒャハハハハハ!!!!!と大神は心底、愉しそうに笑う。こちらの拳が顔面にめり込んだとしてもそれは変わらない。それどころかますます笑い声は大きくなり、拳の応酬は加速していく。

「笑ってんじゃねぇ!!!!!」

「笑うに決まってるだろ!!!!」

 

 時間にしたら5秒にも満たない時間で、互いの身体は100を超える再生と破壊を繰り返す。

 怒りと愉悦、同じ力を振るいながら俺と大神の持つ感情は全く別のものだ。どちらが力を与えてくれるのかは俺にはわからないが、少なくとも俺が奴のようにこの状況を愉しむことは未来永劫ないだろう。

 

 愉しめるわけがない。

 こんな、痛くて、苦しくて、今にも身体がバラバラになりそうな状態を愉しめるわけがない。

 俺が今、戦えているのは単に怒り故だ。

 自分を化け物に変えたきっかけをつくった怒り。他人を否定することに何も感じない奴への怒り。

 それが俺を突き動かしている。

 こいつにだけは負けるわけにはいかない。

 意識が遠のいていく。

 それでも身体は止まらない。

 気力だけが身体を動かす。

 終わりなどないかのようにぶつかりあう。

 

 しかし、お互いの拳が3度目の衝突をするかと思われたその瞬間、

 「そこまでだ」

 殴り合いは一人の巨人によって止められた。



 





読んで頂きありがとうございました!!!

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