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アヤカシ探偵物語  作者: イサシ
第3章 人狼事件
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第七話 全ての始まりは変幻自在、更には驚天動地

本日は2話連続です!ワールドトリガー待っておりましたとも!!

幕間


 私はロボットだ。そう親からは教えられた。親といっても実の親ではない。内戦で親を失った私を拾った盗賊グループの一人が私の親代わりだった。彼は拾った私に戦う術を教えた。兵士として国に売るために。兵士に意志は必要無い。

 だから、私はロボットだ。命令に忠実で従順な賢いロボットなのだ。

 だから、私は泣かない。笑わない。怒らない。

 感情を表に出すことは兵士失格だからだ。

 だが、どんなに私がそう思っていたとしても、身体までロボットになるわけではない。人間の身体というのは弱いもので、目を切りつけられれば敵を狙う視界を失い、腕を捥がれれば、敵を殺すための銃を持てなくなる。

 内戦に一国の兵士として参加した私は数えることを忘れるくらいに人を殺した後、何発もの銃弾を浴び、瀕死の重傷を負った。

 私は死ぬ。

 だが、そうはならなかった。私はどうやら兵士として相当優秀だったらしい。私という戦力を失うことを恐れた国は私に『呪い』を刻んだ。

 

 その結果、私は生き延び、再び、人を殺し続けた。

 この頃だ。私の周りに人間でないものがうろつき始めたのは。

 人を殺すのに邪魔だったので、これも殺した。


 そんな歳月が百年続いた。私は死ななかった。否、死ねなかった。敵の銃弾なぞ、『呪い』を刻まれてから当たった記憶がない。百年経っても姿形が変わらない私は周囲から不気味がられ、やがて国からも追われた。


 一人になった。

 何をすればいいのかわからない。生まれてからずっと命令のまま生きてきた私に自主性などなく、身動きがとれなくなった。

 身体は万全に動く。だが、心は一向に動かない。

 揺れない。

 振れない。

 震えない。

 感情の出し方はとうに忘れた。

 

 意味もなく百年歩いた。


 だが、百一年目、私のダイヤモンドよりも硬い凝り固まった心はマグマのような熱い出会いによってドロドロに溶かされた。


「あ、なんだ、お前?」

 男は笑う。獣のような口をニタリと歪めて。

 男は立つ。自ら作り出した血の池の中心に。

 男は食べる。人であったものを。


 なんだ、これは。こいつは何者だ。こんなものは見たことない。風体から人狼であることはわかる。今まで何匹も殺してきた。だが、こいつは違う。今までの奴とは違う。

 殺せない。こいつは殺せない。戦ったら勝てるかもしれない。勝てないかもしれない。

 だが、そういう問題ではない。

 はっきりとわかる。こいつは私よりも生き物として上だ。

 下劣な笑み。残虐な目付き。残酷なまでに狂気をはらんだ雰囲気。人間としては程遠い位置にいるものだ。

 だが、私も奴も人間ではない。化け物だ。そして、私など目の前の奴に比べれば、羽虫のようなものだ。

 私は圧倒的なまでの煮えたぎるような感情に押しつぶされた。

 戦う前に私は負けていた。この世界にこんな感情を持つ者がいるなんて。


 私は全力で逃げた。奴は追ってはこなかった。戦う前に負ける駄犬には用はないのだろう。

 暫くして立ち止まる。

 震えが止まらない。これが恐怖という感情だと気づくのに、数分の時間を要した。

 二百一年目にして、恐怖という感情を私は初めて得た。

 私は泣いた。

 その涙の理由は恐怖からか。それとも、感情を得た喜びからか。それは今でもわからない。

 でも、その涙を流させたのは間違いなく奴だ。

 私に感情を与えてくれたのはあの化け物だったのだ。


 もっと。もっと感情が得たい。どうすれば感情は手に入るのだろう。

 奴を刺せばいいのか。

 奴を斬ればいいのか。

 奴を締めればいいのか。

 奴を撃てばいいのか。

 どちらにせよ、私ができるのは一つだけ。

 殺す。それしか私に与えられた選択肢なんてなかった。

 

 



 





 次の戦う場所は学校ではなく、街外れの建築施設だった。何が造られているか知らないがかなり大きな建物ができる事が組み立てられた鉄骨から見て取れた。そんな、鉄骨の上に次の対戦相手がいた。

「目標補足」まるで機械のような感情の乏しい瞳がこちらを見下ろす。

「戦闘準備完了。開始の号令まで待機」

 彼女の名前はスナイプ。軍人のような迷彩服というだけで圧倒的な威圧感を感じさせるのに、彼女の機械のような青色の瞳と170センチはある彼女の身長と同じくらいの背に背負うライフルが彼女のハンターとしての強さを物語っていた。


「来てくれて、ありがとう、スナイプ」そんな彼女に対ししても、探偵は特に緊張することもなく、話しかける。だが、話しかけられた彼女はそれを無視して、ただ、俺を見据える。その目にはやはり何の感情も感じない。彼女は担いでいたライフルを一丁、手に持ち、こちらへと照準を合わせてくる。それを見て、探偵はヤレヤレ、と頭を掻き、建設現場の出口へと向かっていく。ここに来る前に言っていたが、彼はスナイプが苦手だそうだ。理由は何を考えているかわからないから。お前が言うな、と内心思った。


「もう知っているだろうけど、俺は人間なんだよ」照準を向けられている事への怯えを極力伏せ、冷静に言葉を紡ぐ。

「承知。だが、我関せず。テンタコルと同類、否定」


 テンタコルが言っていたことを思い出す。残りの奴らは甘くはない、と。彼女の言った通りだった。スナイプは俺が人間だろうと何だろうと関係ないのだ。俺の現在の姿は人狼そのもの。仮に心が人間だったとしても、彼女から見れば獲物に過ぎないのだろう。わかっていても人間扱いされないというのは、中々に堪えるものだ。だが、それを気にしている暇はない。戦う前に彼女にどうしても聞きたい事があったからだ。


「わかってるよでも、一つだけ聞きたい。....アンタ、何で戦ってるんだ?」

「...回答への利益不明。質問拒絶」 対話はそこまでだった。彼女は2丁目のライフルを手に持ち、天空へと号砲を鳴らす。

「戦闘開始」無機質な声が静かな夜に透き通る。


 その言葉が終わるや否や、直ぐに地を蹴り、その場から離れる。すると、予想通り、静かな夜を弾き飛ばすような銃声が響き渡る。あの場にいたら、今頃、原型も留めていなかっただろう。だが、安心している暇はない。走ってきた足跡を追うようにして銃弾の嵐が迫ってくる。それを回避する為、更に足に力を込める。彼女の死角に入れる積まれた鉄骨の後ろに何とか飛び込む。こちらが飛び込むと銃声が止んだ。


 だが、それは嵐の前の静けさというやつだった。


「ガッッッ!!!??」肩に激痛が走る。見ると銃弾が貫通し、血が流れていた。人狼の体なので、これくらいでは死ぬことはないが、痛みはいつまでたっても慣れるものではない。


(どうやって!?)


 鉄骨を貫通しているわけでもないし、回り込んで狙撃してきているわけでもない。なのに、死角にいる俺を正確に狙撃してきた。その答えを俺が出す必要はなかった。ここにいては危険だ、と再び走ろうとした瞬間、今度は両足に激痛が走ったからだ。だが、そのお陰で死角にいた俺に当てられた訳がわかった。


「跳弾か!?」激痛に耐え、何とか鉄骨の裏から逃げ出す。再び、銃弾の雨に身を晒す羽目になるが、一定の場所に留まるよりははるかにマシだ。あのまま鉄骨の裏にいても、跳弾で嬲り殺されるだけだ。

 走り回りながら、スナイプの狙撃技術に戦慄する。狭い所での跳弾なら聞いたことはあるし想像もできる。だが、ここは屋外だ。跳弾で隠れた敵を狙い打つなんて不可能に近い。彼女に刻まれた『呪い』がそれを可能にしているのか、それとも、純粋な彼女の技術によるものなのかはわからないが今、それは関係ない。彼女に対して身を隠せないとなると、こちらの勝機は一気に薄くなる。銃弾の嵐に常に身をおかねばならない状況におかれては修行の成果を出す暇すらない。


 兎に角、彼女に近づかねば。その思いで組み立てたれた鉄骨の上にいる彼女と距離を縮める方法を模索する。だが、何かを考えようにも少しでも気を緩めれば即蜂の巣の状態でろくな考えが浮かぶはずがない。だが、それが良かったのかもしれない。素人のぶっ飛んだ考えはプロのスパイプにとっては予想もしていなかったのかもしれない。

「オラァアアア!!!」

 気合を入れる為の掛け声と同時に、組み上げられた鉄骨へと走る方向を変える。スナイプからすれば距離が近づく分だけ当てやすいことだろう。事実何発か身体に命中し鋭い痛みが走る。それを無視して、俺は意識を集中させる。

(簡単な事だったんだ)

 イメージする。人間の頃にはなかった身体の部位を。人間の姿でツルを操るイメージをしていたから煮詰まっていたのだ。イメージすべきは人狼としての俺。獣としてあるべき姿を想像する事が大事だったんだ。俺は気がつけば荒野を駆ける狼のように四つ足で走っていた。鉄骨を目の前にしてもそのスピードを緩めることはない。ドゴォォォオオオン!!!という凄まじい音と共に組み立てられた鉄骨へと突っ込んだ。衝撃的にはダンプカーが突っ込んだようなものだ。たかがボルトで固定された鉄骨が無事で済むはずがない。まるでジェンガのように地鳴りをたてて、崩れ去っていく。


 それを引き起こした張本人である俺は慌ててその場から離れる。身体中の筋肉が裂けるように痛い。きっとあちこちの筋肉が断裂していることだろう。それでも、数十秒後には全快してしまうのだから、大神の血は恐ろしい。


(スナイプはどうなった?)

 崩れ去っていく鉄骨の雨から少し距離を置いて、様子を伺う。まさか崩壊に巻き込まれて下敷きになっているということはないだろう。すぐに姿を現わすはずだ。その前に銃弾への対策を講じねば勝機はない。

 さらにイメージを加速させ、自分を一匹の獣と重ね合わせる。鼻先から尻尾までの全ての感覚をつなぎ合わせる。尻尾だ。そう、肝心なのは尻尾だった。獣には合って人間にはないもの。それが答えだった。

「ワォォォォオオオオォオンンン!!!!」吠える。それに呼応するかのように自身の身体に生えた尻尾が肥大化していくのを感じ取る。

 テンタコルはツルを操った。だが、俺にツルはない。生やすことだってできはしない。ならば、それと似たものを用いればいい。その結果が尻尾を操るということだった。


 突如、銃弾が瓦礫の下から飛来してくる。それを盾のように巨大化した尻尾で防ぐ。


「.......奇怪」瓦礫から姿を現したスナイプが呟く。彼女は砂塵で汚れているものの傷自体はついておらず、平然と立っていた。だが、その表情には明らかに動揺の色が浮かんでいた。

「目標、正体不明の防御方法を実行。直ちに分析開始」

 だが、その動揺は一瞬で消え、直ぐにこちらへの攻撃を再開する。しかし、先ほどのように上からの優位性を失ったこととこちらが尻尾という新しい武器を得たことからか先ほどよりも楽に攻撃を回避できる。


 銃弾の嵐をかいくぐり距離を詰める。拳が届くまで3メートルというところまで近づく。以前ならここからさらに距離を詰めなければならなかったところを尻尾を盾のように巨大化させるのではなく槍のように長く、鋭く姿を変え、スナイプを穿つ。

 だが、届かない。彼女はいつの間にかライフルと持ち替えていたナイフでそれを斬りつける。何度かそれを繰り返し、これでは拉致があかないと、尻尾を強く振りかぶる。それを待っていたかのようにスナイプがこちらの懐へと飛び込んでくる。

 狙い通りだ。

 これはテンタコルと戦った時に俺が嵌った罠と同じだ。相手の思い通りに作戦が進んでいると思わせるようにわざと隙をつくる。あとはそこに必殺の一撃を叩き込めばいい。拳に力を込め、スナイプへ叩き込む。

 これで決まるはずだった。相手が身体能力よりもツルを操るという特殊能力に特化していたテンタコルならここで決まっていたことだろう。探偵の言葉を思い出す。ハンターはそれぞれ固有の能力を持っている、と。

それは身体に刻まれた『呪い』によって変わるということを。

「フッ!?」

 スナイプは必殺の一撃と思われた拳を避けた。文字通り紙一重で。そして、そのまま持っていたナイフを俺の腹に突き立てる。

「ゴホッ!?」

(今のを避けただと!?)

 完全に狙い通りだったはずだ。事実、彼女の表情に一瞬、驚きの色が浮かんだのが見えた。だが、彼女はそこからこちらの拳を避け、さらにカウンター気味にこちらの腹にナイフを突き立てた。ゼロコンマの世界で彼女は見てからそこまでの行動をやってのけたのだ。

「目標の損傷確認。追撃開始」

「クソッ!?」

 彼女が更にこちらへ懐から取り出した、拳銃を構えたことに気付き、慌てて、尻尾をハンマーのような形に変え、彼女の上へと振り下ろす。それを彼女は悠然とバックステップで回避した。

(近づいたほうが危険だ)

 今更、その事に気がついた。彼女の一番得意な戦い方は近距離での白兵戦だったのだ。巨大なライフルを用いた銃弾の嵐は近づかせるまでのブラフ。近づかせて、その反射神経でもって相手を蹂躙する。それこそが彼女の真骨頂だ。銃弾の嵐で倒れるならそれまでの話。そこを抜けてからが本番だったのだ。

 完全に見誤った。テンタコルから力を受け継いでいなければ追撃を食らって確実に殺されていた。

「目標距離10メートル、射撃開始」

 ライフルを持ったスナイプは再び、銃弾の嵐を生む。尻尾を使って、それを防ぐ。が、全てを防ぎきれるわけではない。尻尾をかいくぐるようにして、跳弾が身体の節々を襲う。

 遠のけば、銃弾の餌食。近づけば、ナイフの錆。正に前門の虎、後門の狼だ。嵐から逃れるため、苦し紛れに地面に向けて、吸い込んだ息を思いっきり吐き出す。テンタコルとの戦いの時は上空に逃れるために使ったが今回は平面の移動に用いる。衝撃で身体が横へと吹き飛んでいく。ついでに砂塵が舞うことで、スナイプの追撃から逃れる事に成功する。次いで、崩れた鉄骨をロープのように長く細くした尻尾で持ち上げて、スナイプが先ほどまでいた場所に叩き込む。

 (やったか?)

 砂塵が晴れ、スナイプが姿を現わす。やはりと言うべきか視界を奪った攻撃も彼女には傷一つついていなかった。鉄骨の攻撃もライフルに少し傷がついていることから、軽くガードされたようだ。だが、それで気づいた。

 当たった。今日、初めてこちらの攻撃が彼女へ届いた。彼女の視界を塞いだことで。

 それで確信した。

 彼女に刻まれた「呪い」は目に力を与えているのだと。あの光速反応はそれが起因しているのだ。だから、鉄骨の攻撃は避けずに、否、避けれなかったから銃でガードしたのだ。


「銃への損傷確認。銃撃不可能と判断。廃棄」尻尾を防いだ銃を放り捨てる。


 それを見て即座に彼女に向けて駆ける。すぐさま、銃弾の嵐が迫り来る。それを地面に尻尾を突き刺すことで、無理やり走る方向を変え嵐を掻い潜る。

「くらえっ!!」溜めていた息を思いっきり吐き出し、突風を作り出す。風は見えるものではない。あの超人的な反応はできないはずだ。

「クッ!?」

 こちらの予想通り、スナイプが腕で顔を庇う。その隙に懐に飛び込み、拳を突き出す。

 だが、これすらも当たらない。スナイプは身体を背後に逸らすように曲げ、こちらの拳を回避し、さらにその場で一回転することで、俺の顎を蹴り上げる。

「ガッッッ!?」

 脳が揺れ、身体が倒れそうになる。だが、ここまできて倒れるわけにはいかない。足に力を込め、その場に踏みとどまる。前を見ると、スナイプはナイフが眼前に迫っていた。


 だが、そのナイフは眉間すれすれで止まった。


「!!!」スナイプの表情が驚愕に染まる。 

「ギリギリ、間に合った」


 彼女の動きを止めたのは尻尾。先ほど銃弾の嵐を掻い潜る為に地面に突き刺した尻尾を地中で伸ばし、彼女の背後から攻撃を仕掛けたのだ。

「...反射神経も見えなくちゃ、関係ないだろ?」

「捕縛解除不能。行動不可...」

何とか、尻尾を振り解こうとするスナイプからナイフを取り上げ、逆にそれを彼女に向ける。

「降参してくれ、俺の勝ちだ」


 だが、彼女の機械のような目に焦りは生まれない。それどころか機械のような目は瞳をところ狭しと動き回り、戦闘への意欲をなくさない。

「もう、動けないだろ、諦めてくれよ」

「...諦念選択無し」

 何が彼女をここまでさせるのか。きつく縛り上げた尻尾は彼女の身体を締め上げ、痛めつける。

 仕方ないが、彼女を気絶させるしかない。

 だが、相手を傷つけずに、気絶させるやり方なんて知っているわけがない。

「少し、噛み付くぞ」仕方なく彼女の肩に噛みつき、力を貰うことにする。


 しかし、それを行動に移すことはなかった。

  ドゴォォォオオオン!!!!!

 轟音が鳴り響く。すぐ背後に何かが落ちてきた。それが何かは見ずともわかった。


 血が騒ぐ。

 全身を巡る血液が沸騰するように熱い。

 共鳴している。

 何と?

 決まっている。全ての元凶だ。




読んで頂きありがとうございます!!コメント頂けるとありがたいです!!

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