第六話 全ての始まりは小休止
秋になりましたね。ホークス頑張れ!!
次の勝負は3日後。探偵の言葉を信じるなら、どうやらそういう事になっているらしい。どういう基準で日にちを決定しているかはわからないが、早く人間に戻りたい俺にとっては、3日というのは好ましい日取りだった。その分、修行が間に合わない可能性が多いにあることが問題になってくるのだが。
今朝、昨日、帰ってきていない事に激怒した姉貴から電話が1件かかってきていた。まさか本当の事をいうわけにもいかないので、自分探しの旅に出た、心配しないでください、とメールを送っておいた。姉貴が電話をかけてきたのを心配故の行動だと思う方もいるかもしれないが、そんな人ではないことをここで言及したい。彼女は自分の思いどおりにいかない行動をしたことに腹を立てて電話してきたのだ。照れ隠しなどでは断じてない。そんな可愛げのあるようなひとだったら、28にもなって、未だ、彼氏いない歴年齢などやっていないだろう。
俺の適当極まりないメールに案の定、姉貴は電話を嵐の如くかけてきた。余りにもしつこいので、根をあげ、電話に出ると、第一声から罵詈雑言の嵐だった。
「ゴメンって、姉貴」心にもない謝罪を口にする。
「ゴメンじゃないわよ!!このアンポンタン!!!私が怒っているのは、アンタが連絡も寄越さず、一夜を何処かで過ごしたことじゃないのよ!!」
「は?じゃあ、なんでだよ?」この状況で怒られる事なんて、それくらいしかないだろう。まさか、今更、一週間前に勝手に姉貴のプリンを食べたことではないはずだ。そうであって欲しい。俺の心配よりプリンを取られた事への怒りの方が大きいとか切なすぎる。
「アンタ、ジャンプ買い忘れてんじゃないわよ!!アンタが担当でしょうが!!」
「.....」
どうやら、俺はジャンプに負けたらしい。いや、プリンに負けるよりはマシか。まず、どちらがマシかと考えている時点でもう何か終わっている気がするが、考えたら負けだろう。
静かに電話を切った。朝を告げる雀の鳴き声が虚しさを際立たせる。
「....修行しよう」
修行といっても、正直、特記事項が特にあるわけではない。なんせ、自分がテンタコルのようにツルを操る姿をひたすらイメージするだけなのだ。探偵の言っていたように、人狼に下手になって練習するわけにもいかないし、何より今、俺は探偵の家の道場にいた。探偵の家は例の和室から出てみてわかったが、かなりの広さを誇ることに気づいた。まるで大名屋敷のようだ。道場は広いし武道をするのだから、かなり丈夫に造られているはずだが、さすがに人狼の力で暴れたら確実にどこか壊してしまうだろう。仕方なく、道場のど真ん中であぐらをかいて、イメージトレーニングを続けた。だが、元来、我慢の聞かない方の俺は一時間で集中力が切れて、寝転がってしまう。
「まずい、全然、思いつかない...」
なんだよ、ツルを操るって。そんなものどうやってイメージすればいいんだ。テンタコルは身体に刻まれた『呪い』からツルを生やし、それを手足のように上手くコントロールしていた。だが、自分は人狼だ。そんなものあるわけがない。最初は体毛を伸ばして、操れないかイメージしてみたが、体毛では大雑把すぎるのか、上手くイメージを掴むことができない。ならば、一層、腕でも伸ばしてみるか、とも思ったが、何所かの海賊でもあるまいし、できる訳無い事に気づいた。
あてもなく、暫く悩んでいると、道場の扉が開き、誰かが入ってきた。探偵か、と思い、慌てて起き上がる。
「ん?...えっと...」
ドアを開け、入ってきたのは中学生くらいの女の子だった。肩まで伸ばした茶色い髪を後ろで二つにまとめ、優しげな目元が印象的な娘だった。
「あ、岩戸くんだよね!」
「え、ああ、そうだけど...」
なんで、この娘は俺の名前を知っているんだ。探偵が話したのだろうか。でも、仮にも探偵を名乗る男がそんな口が軽いとは思えない。ならば、新手のハンターだろうか。余りにもテンタコルの代わりとして、派遣されてきたというところか。
「あ、私、神島梓っていうの、宜しくね!」戸惑う俺を気にせず、彼女は名乗り、こちらに歩いてくると、握手を求めるように両手をこちらに出す。余りに自然と出されたものだから、思わず反射でこちらも握り返してしまう。だが、そんな警戒心皆無の俺に対して目の前の少女は特に態度が急変することもなく、ニコニコと笑ったままだ。
「君、人の妻に色目を使うとはいい度胸じゃないか」一向に手を離してくれない梓さんに困っていると道場の扉から酷く陰気な声が聞こえた。「覚悟はできているんだろうね?」
「妻?」目の前で握手している少女を見る。
「あれ?言ってなかったけ?神島梓、探偵、神島仁の妻でーす」
手を離し、敬礼するようなポーズで名乗る少女、いや、梓さん。
「はぁ!?」
嘘だろ。どう見たって、中学生にしかみえないぞ。まさか、探偵に弱みを握られて無理やり脅され、妻にされたのか!そうだ。そうに決まっている!
「見損なったぞ、探偵!」
「予想通りのリアクションしてんじゃないよ、全く。言っておくが、梓は僕と同い年だぞ」
「そんなわけないだろ!現実を見ろ!!」
「君が見ろよ。ほら、梓、免許証があるだろ」
「え〜、年齢は乙女の秘密だよ」
「乙女って年齢じゃないだろう」
「まぁ、失礼ね」
そう言って、梓さんがポケットに入っていたピンク色の財布から免許証を取り出し、こちらにそれを見せてくれる。
「....嘘だ...まさか、⚪︎⚪︎歳だなんて...ハッ!?もしや、梓さんもハンター!?何か『呪い』を!?」
「僕も不思議だが、彼女は正真正銘の一般市民だよ。僕もこの謎だけは解けない」会った時から、変わらないな、君は、と懐かしむように遠くを見つめる探偵ともう、仁さんったら、と照れ始める梓さん。やはりどこから見ても成人しているようには見えない。
「...で、どうだい調子の方は?」 探偵が梓さんにお茶を持ってくるように頼んだ後、道場に寝転がった探偵はこちらを見ずにそう切り出した。
「...まだ、なんとも。どうしても、イメージができないんだよ」
「まぁ、君は頭が硬そうだからね。余り真面目に考えない方が良いよ」
「そういう訳にはいかないだろ、次の勝負は3日後なんだぞ」
「だからこそ、だよ」
「...どういう意味だよ」
「人間が他の生物より優れているところはどこだと思う?」
「なんだよ、突然?」
「いいから」
意味がわからず、寝転がる探偵のところまで歩いて行き、彼の陰気な顔を見下ろす。柳の木の下に現れる幽霊も真っ青な青白さだ。
「話せる事か?」とりあえず、適当に答えてみる。
「意思伝達は言葉を使わずとも他の生物もしていることさ。僕はね、発想力だと思うんだよ」
「発想力?」
「そ、閃きと思いつきだ。人間は他の生物よりも、これが優れていたからここまで増えたんだよ。まぁ、そのお陰で余計なものまで増やしてしまったけどね。それは置いとくとして、発想する為には、息抜きも必要だぜ?」
探偵お得意の回りくどい言い回しだが、要は少し、休めと言いたいらしい.。確かにこのまま道場に引きこもってもろくな事を思いつきそうにないのは事実だ。ここは彼の言葉に甘えて、少し休むとしよう。
「わかったよ、なんか、俺でも読めそうな本とか持ってないか?街中歩けないし、息抜きって言ってもやることないんだよ」
「ふむ。なら、倉庫にナ◯トがある。螺旋丸でも千鳥でも存分に想像したまえ」
「お、いいね。最後まで読んでいなかったんだ、そういえば」
寝転がる探偵を放っておいて、道場の隣にある倉庫に入る。ドアの鍵は開いていた。不用心な事である。薄暗いので電気をつけると綺麗に本棚にあらゆるコミック、小説、エッセイ、評論あらゆるジャンルのものが種類毎に並べられているのが見えた。
「えーと、ナ◯トはと、お、あった、あった」途中までの内容は覚えていたので、身に覚えのない巻数を適当に取り出し、読み始める。やはり、面白い。忌み嫌われていた少年が様々な人と出会い、別れ、成長し、人々に讃えらえる英雄となる傑作だ。
「俺にも九尾みたいなのが内にいたりしねぇかな」尻尾とか生えて、巨大化したりしないだろうか。尾獣化すれば、流石のハンターもどうしようもないだろう。大きいイコール強い。古来からの常識である。
「ん?尻尾?」人柱力が尾獣化したシーンを片っ端から読み漁る。やっぱりだ。
「発想力ね、その通りだよ。探偵」閃きと想像は確かに人間の武器だ。
読んで頂きありがとうございました!!




