第三話 全ての始まりは対話、そして、覚悟
こんばんわ!第三話です!大分、涼しくなってきましたね。
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(『銀の弾丸』....?)
創作物でしか聞いたことのない単語だ。確か、吸血鬼やら狼男を殺すことのできる物の一つとして、持て囃さやれていたはずだ。だから、現実と照らし合わせて大神というあの化物を殺すために必要な物だということはわかった。だが、探偵は言った。俺自身が『銀の弾丸』だと。ついこの間までただの人間であった俺こそが大神を殺すための切り札だと。
「貴様、本気で言っているのか?」常に無表情を保っていたキングすら顔に戸惑いを浮かべるていた。それほどに、突拍子のない事を探偵は言ったのだろう。
「アンタ、適当な事言ってんじゃないわよ!!」テンタコルが怒鳴る。
「適当じゃないさ。いや、別の意味では適当かな。最適解という意味で」
「は?何で、こんなボロ雑巾みたいになっている奴があのゴミを殺す最適解になるんだよ?」
「この子はあいつを殺すために必要な物を持っている。持ってしまったっていう方が正しいけどね」探偵がこちらを哀れむような目で一度、こちらを見る。
相変わらずの陰気な人相だが、その目に化物になった俺を蔑んだり、見下したり、恐れたりするような感情は一切篭っていなかった。ただ、純粋にこちらを心配し、気遣うそんな温かな感情がそこにはあった。
「意味不明。理解のための情報不足。説明求む」
「わかってるよ、スナイプ。今、説明するさ。何、単純な事だよ。この子はあいつの遺伝子を受け継いでいるんだ。つまり、あいつの眷属だよ」
四人の表情が変わった。驚いたように目を見開く者、あんぐりと口を開ける者、相変わらずの鉄面皮を保つものの、微かに震えている者、そもそも意味がわかっていないのか、周りの雰囲気が変わったのに、不思議そうな表情を浮かべる者。皆、それぞれ違った反応を見せる彼らだったが、ひとりを除いて、皆、驚愕していることだけは同じだった。
「え?え?みんな、どうしたの?」除かれた一人、テンタコルが聞く。だが、他の三人は構っている余裕はないのか、黙って、探偵の次の言葉を待つ。
「嘘じゃないよ。この子はあいつに食われ、一度死んだ。彼の人間としての人生はそこで終わったんだ。ただ、ここで奇跡が起きた。彼はあの大神の血に完全とまではいかないまでも打ち勝ち、こうして蘇ったんだ。姿は奴と同じ狼となってしまったがね」
「大神の血に打ち勝つだと....?そんなこと有り得るのか?」
「僕も信じられないよ。でも、実際に起きたんだ。信じるしかないだろ。大神の眷属として、彼は蘇った。これは真実だ」
(眷....属.....?)
何を言っているんだこの男は。俺があの化物の眷属?そんなことあるわけないだろう。ただの人間である俺がなんでそんなものになるんだ。疑問で頭がどんどん膨らんでいく。だが、どれも自分自身では解決できそうもなく、パンク寸前へと追い込まれていった。
「大神が意図的にやったのか?」リッパーが不信感を隠そうともせずに、探偵に聞く。「それに、そいつがただの狼男じゃないって証拠はあるのかよ?」
「リッパーの意見同意。探偵、偽装の疑い有り」
「二人の言う通りだ。お前はその証拠を示せるのか」
相変わらず意味がわかっていないテンタコルを除いて、三人が口々に探偵へと反論する。ついでにいうならば、自分の命がかかっていなければ、自分もそんなこと有り得るか、と怒鳴っていたことだろう。
「意図的ではないだろうさ。あれは今まで一度として、仲間を作ろうとしなかった文字通りの一匹狼だ。今更、眷属を作ろうとは思わないだろうよ。だから、偶然なんだろうさ、誰かが仕組んだものでない限りはね」
探偵は話しながら、俺のの方へと近づいていき、俺の腹を指差す。
「それに、証拠というなら、ここにあるじゃないか」
「「「「!!!???」」」」
四人が一様に驚愕の表情を浮かべる。何を驚いているか最初はわからなかった。だが、テンタコルがアンタ、その腹と、震える指で探偵同様、こちらを指差してくるので、何かあったのか、と見るとそのわけがわかった。
「な、なんだよ、これ!?」
治っていた。キングに潰され、メチャクチャに潰れていた腹はそんなこと無かったかのように傷一つ付いていなかった。それだけではない。身体を見渡すと、先ほどまでの戦闘で身体中についていた傷が綺麗サッパリ無くなって、痛みすら無くなっていたのだ。
「この回復力は...」キングが呻くように呟く。
「ああ、君らは嫌という程知っているだろう?」
「大神の・・・」
リッパーが小さく悔しそうに探偵を睨みつけるが、一方の探偵は気にせず、いつの間にか吸っていた葉巻を吹かす。
「ああ、これが彼が大神の血を引き継いでいるという何よりの証拠だよ。この文字通りの化物じみた回復力は世界広しといえど、あいつしかいないだろう?」
「い、いや、ちょっと待ってくれよ!?」探偵が勝手に断定してしまうので、話についていけない俺は思わず、立ち上がり、彼の肩を掴む。「説明してくれよ!?意味がわからねぇよ!」
「...すまない。だが、勘弁してくれ。これも君のためだ。あとでキチンと説明するから、今は大人しくしていてくれ」
探偵は相変わらずの冷静さで掴みかかる俺に話しかける。その言葉を聞いた瞬間、俺は一瞬の浮遊感に包まれた。そして、その感覚がなくなるといつの間にか地面へと寝転がっていた。
「暫く、眠ってくれ。暫くは寝る間もないだろうからね」
意識が薄れてゆく。だが、先ほどまでの死の誘いのような寒気は感じない。むしろ、その真反対の心地よさに包み込まれていく。ゆっくりと目を閉じていく。こんなに安らかな眠りはいつぶりだろう。あの路上で目が覚めてからの一時間程の時間が100年を思わせるような長さに感じる。それほどまでに濃密な一時間だった。起きたら、俺は人間に戻っているのだろう。だって、これは夢なのだから。こんな現実が夢であるはずがない。俺はそう信じて、意識を手放した。
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「夢じゃないよ、それは」探偵が言った。
「...ここは?」目を開けると先ほどまでいた四人はおらず、場所も山奥ではなく、どこかの和室にいた。
「街はずれの廃屋だよ。誰も使わないから僕が勝手に使っている、」
一体、何が起きたのか。俺は狼男になり、突然、ハンターと名乗る四人に襲われた。そして、殺されかけたところを目の前の不吉が具現化したかのような男に助けられた。そこまでは覚えている。だが、そこからの記憶がおぼろげだ。いや、そもそも覚えていることすら本当に現実なのだろうか。あの痛みや恐怖、絶望、あれが現実だったとはとても思えない。
「だから、それは夢じゃないよ」探偵が繰り返す。「すべて現実だよ。君の身体が今は人間のものであってもね」
そうだ。なぜ、俺があれが夢だったのか疑ったのはそれが原因だ。今、俺は人間に戻っていた。目覚める前のあの毛むくじゃらの身体ではなく、人間そのものの姿に。
「元に戻っている...」
「戻っちゃっいない。薬で一時的に抑えているだけだ。服用しなければすぐに戻るよ。君の意識を飛ばすついでに飲んでもらったから、あと一時間といったところか、あの姿のままじゃ嫌だろ?岩戸大地くん?」
「俺の名前を知っているのか?」
「ああ、僕は探偵だからね。調べるのは得意なのさ。...あ、そういえば僕の名前をまだ言っていなかったね。僕は神島。神島仁だ。よろしく」
男は飄々と自分の好きなように話す。それが混乱した頭をさらにかき乱す。
「...どういうことだよ?」
「何がだい?」
「全てだよ!一体、何が起こっているんだ!?わけがわからないよ!ちゃんと説明してくれよ!?」
俺は混乱の余り、男にあたり散らすように怒鳴ってしまう。この男には何の責任もない。説明する責任すらないだろう。だが、俺はこの人に頼るしかなかった。もう、それしか自分を保つ手段がなかった。それほどにもう、頭の中はグチャグチャでどうしようもない状態だった。
「...そうだね。じゃあ、前振りは止めよう。最初から話そう」
「....頼む。...あと、怒鳴って悪かったよ」
「いいさ、状況が状況だからね」
男は懐から葉巻ケースを取り出し、一本取り出し、吸う。煙が妙に匂う。
「....じゃあ、君を襲った大神という化物の事から始めよう。あれは見ての通り、狼男だ。ただ、普通の狼男ではない。奴は種の王だ」
「種の王?」
「まあ、王様って考えてくれればいいよ。奴はもう何百年も生きていて、世界中で人間を食い散らかしてきた。今回はこの街がターゲットになったってことだ。今、世間を騒がす人狼事件もこいつの仕業だ」
「それに俺が巻き込まれたってことか...」
「そういうことになる。だが、問題はここからだ。君は生き残り、奴と同じ狼男になった。これは初めてのことなんだよ、奴に狙われて生き残り、あまつさえ、奴の血に打ち勝った者なんて存在しなかった。君はその最初の存在になったんだよ、...君の意思は関係なくね」
「俺は...あいつの...確か、眷属だったっけ?それになったのか?」
「そうだ。だが、奴の意思によるものではない。あいつが気まぐれに君を食い残した。その結果がこれだ。君はどういう訳か奴の血に打ち勝ち、そして、眷属になった。だが、君は奴の家来になった訳ではない。奴の意思でなった訳ではなかったからね。君は奴の血を持ちながら、奴に縛られない。君が奴にとって『銀の弾丸』といったのはそういう訳だ」
「なんでだ?なぜ、奴の血を持っただけの俺がそんなものになる?」
『銀の弾丸』。奴を殺すための切り札。ど素人の自分がなぜ、そんな大仰なものになるというのだ。先ほどの四人の方が余程、大神を殺せる可能性が高いだろう。
「奴の血を持つ、それが重要なんだよ。あいつを殺すうえでね。君はまだ見ていないだろうが体験はしただろう?あいつの驚異的な再生能力を」
意識を飛ばされる直前を思い出す。グチャグチャになったはずの腹が綺麗に治っていたことを。あれが大神の血によるものだということか。
「あいつを殺すにはあの再生能力をどうにかしなければならない。僕らハンターは色々やってきたよ。頭を潰すことはもちろん、粉微塵にすることすらした。だが、無駄だった。奴は必ず再生し、人を、ハンターを殺し続けた。何百年もの間、僕ら人間の肉を食い散らかしてきたんだよ」
「不死身なのか?」
「いや、不死身じゃないよ。僕らはただ殺されてきたわけじゃない。奴の肉を奪って研究した結果、奴の再生能力の源は身体を巡る血だということがわかった。ならば、その血を奪うか、奴の血の能力を相殺すればいい。まあ、それが一番大変だったんだけどね。だが、やっと見つけた」
「それが俺だっていうのかよ... 」
ただの高校生だった俺があんな化物を殺すための切り札となる。そんなわけのわからない状況が夢でなく、現実だという。漫画の主人公じゃあるまいし、本来なら絶対に信じる事はない。だが、実際に体験してしまった以上、最早、信じるも何もなかった。急に不安になる。切り札ということはまた俺は戦わなければならないのだろうか。また、あの血みどろの戦いに身を投じなければならないのか。あの恐怖を。あの痛みを。また、感じなければならないだろうか。
「...俺はまた戦うのか...?」つい、不安が口に出る。
「...すまないが、そうしてもらうほかないね。それが君のためでもある」
「どういう事だよ?」
「君は人間に戻りたくはないかい?」
「戻りたいに決まっているだろ?当然じゃないか」
今は人間の姿になっているとはいえ、時間が経てば、またあの姿に戻ると探偵は言った。あんな姿はもう勘弁だ。できれば二度となりたくはない。
「なら、僕と君の利害は一致している。いいかい?君が人間に戻る方法は知っている限りたった一つだ。大神を殺すしかない。眷属である君が人間に戻るにはその長である大神を殺すしかないんだよ」
「冗談...だよな...?」
「冗談だったら良かったんだけどね。申し訳ないが、本当だ」
「そんなの、どうすればいいんだよ....」
あんな化物相手にどうやって戦えばいいのか?戦いどころか運動もろくにしていない俺に戦いの心得なんてない。今の状態で出て行ったところで、また何もできずに殺されてしまうだろう。
「君は戦えるさ」だが、探偵は俺の思っていることを見透かしたように真逆のことを言った。「既にその力を君は持っている。現にあの四人から数分とはいえ、戦えていたじゃないか」
「あれは...無我夢中だったからで.....」
「いや、それでいいんだよ。身体能力は桁違いに上がっているし、戦い方は血が教えてくれるさ。聞こえなかったかい?身体の内から湧き上がる声を」
「あ」
思い出した。テンタコルに宙づりにされ、スナイプに狙い撃たれた時のことだ。必死に逃れようともがいていた時、急に頭の中に『木をへし折れ!』と声が響いたのだ。あれのおかげで俺は窮地を脱することができた。
「身に覚えがあるようだね」
「....ああ、自分じゃないみたいに身体が動いたよ」
「大神の血を君は引き継いだから、長年の奴の戦闘経験も一緒に引き継いだんだ。不幸中の幸いというやつだよ」
そう言い終えるのと、丁度、同じくらいに彼の懐からメロディが響く。最近、良く聞くアイドルソングだ。探偵は面倒臭そうに懐からスマホを取り出し、何だい?と電話の主と話し始める。それをずっと聞くのも、失礼かと思って、周囲を眺める事にした。
閉じていた襖を開けて、外を眺める。外はまだ夜で、三日月がまだ出ていた。正確な時間はわからないが、まだ朝まで随分とあるように感じた。月明かりに照らされて、風に揺られた草木がサァサァと音を立てる。街で感じる、車、人の気配はまるで感じない。その代わりにそこかしこから動物の気配を感じる。今は人間の状態であるので、何も感じないが、化物になってしまえば、それを食い荒らしたいという衝動に襲われるのだろうか。ブルッ、と背筋が震える。あの大神に睨まれた時の恐怖。自分が捕食される側であることを自覚させられる絶望。俺はあれを他者に感じさせてしまう存在になってしまったのだ。
(早く、人間に戻らないと....)
誰かを殺す前に、早く戻らないと。俺はあんなものになりたくない。姿形が変わったとしても心だけは変えてはいけない。心まで化物になってしまえば、例え人間に戻ったとしても、それでは意味がない。一生の咎を背負って俺は生きていかなくなる。俺は人間の心のまま人間に戻る。そう決意した。
「岩戸くん、行こうか」電話を切った探偵が唐突に言う。
「え?どこへ?」
「学校だよ」探偵はのんびりと和室を出て行ってしまった。「え?ちょっ、ちょっと待てよ!?」俺はそれを慌てて追いかけるしかなかった。
今回は少し区切りが悪くて申し訳ありません。コメント頂けると励みになります!!




