大時計
カチ、コチ、カチ、コチ、カチン……
長針が真上を向く。
ゴーン、ゴーン、ゴーン……
寝静まって誰も聞かない音。
誰にも聞かれない音。
5つ鳴って、また、カチ、コチ……
毎朝螺子を巻かれて、それから、生真面目に歯車を回した。
ゼンマイが、歯車が、振り子が、粛々と全く同じ時を刻む。
屋敷の主は眠っている……
屋敷の奥方は眠っている……
屋敷の奉公人は眠っている……
古びた大時計だけが埃っぽい大広間で時を刻む。
もうじき夜が明ける、朽ちて落ちた屋根の隙間から朝日がさすだろう。
誰も眠りから覚めない大きな屋敷で時計は時を刻む。
カチ、コチ、カチ、コチ、カチン……
6つ、鳴らして、それから、ギリギリ、ギリ……きっちり毎朝同じ時間に。
螺子を巻く穴はからっぽ。
勝手に回って、また同じ時間を刻む……。
朽ちた屋敷は緑が覆う。
鮮やかな緑が繁茂する。かつての庭園には季節の花々が今も咲いている。
屋敷の人々が眠る墓標も蔦が絡んで、名を刻んだ石の表も風雨にさらされて、まもなく何も見えなくなるだろう。
朝露がきらめいて、やがて小鳥たちのさえずりが聞こえる。
輝く朝に……縫い止められた時間の音が、聞こえる。
カチ、コチ、カチ……
5時半には鳴ってないらしいです(言い訳)