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老王
鏡が何を映すか知ってるか?
自分の顔?そうじゃない。
そんな凡百の鏡じゃない。
特別の鏡だよ。
そうそう、王宮のそのまた奥の、宝物庫に置かれているような。
ああ、そう、ある時、ある国のその王族のとっておきだったものだとか。
ある時、得体の知れない魔術師が置いて行ったものだとか。
古い古い遺跡の中にあったとか、あるいは賢者の墓の中から見つかったとか。
何の話かって?
この私にまつわる話さ。
この宝物庫の、とっておきの、魔法の鏡。
さて……このわたし、一体何を映すと思う?
なに?自分の顔?
つまらん。じつにつまらん。
永いこと人間を見ているが、私がなんにも映せないとは、はじめてだ。
全てを手に入れた王には怖いものなどないのかね?
私を覗く者たちはみんなこぞって恐怖するのに。
そうとも、私は見たものの恐れるものを映すのさ。
まったく、実につまらん王だ……
ふん、神妙な顔などして無駄だとも……