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賢王
たった一人の年若い王は玉座に崩れ落ちるように座り込んだまま。
静寂の落ちる城には誰もいない。
たったひとつだけの矜持を縁に一人きり、歩き続けた。
過去の亡霊が彼にささやいたのだ、そうあれと。
誰も……臣下も、国民も、そして、彼でさえもそんなものは望んでいなかったのに。
あるいは、その、彼を、彼の国を疎んだものがいたのかもしれないが。
長すぎた王国の歴史は年若い王を押しつぶした。
もう彼は歩き疲れ、屍のような、彼自身の作り上げてきた道程のような、ああ、彼そのものが、もはや亡霊となり果てた。
朽ち果てた王城に彼の民はもはやおらず、絶望の淵に沈んだ彼だけが、かの城を墓標に据えるがごとく。
―――もう城には誰もいないのだ。
美しい、瘦せこけた白皙の面には一筋涙の伝った跡が彫像のように残っていた。
その玉座を覗き込む、悪夢が一つ。
それは女の形をした悪夢であった。