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アリスの二重奏 ~ 転生し損ねた俺が、女子高生になっていじめ問題を解決してやる!  作者: オカノヒカル
第三章 終わりの始まりと非共感の共感

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■一歩を踏み出すためのエピローグ ~ Afternoon tea


 生徒会長への道は険しいものであった。


 対立候補である八栄やさかえ美和は、前期の生徒会役員をやっていたこともあって、現生徒会長の後継者とも言われていた。実際、有里朱が立候補しなければ、彼女は信任投票で次期生徒会長となっていたらしい。


 というわけで、知名度の低い有里朱には厳しい戦いとなりそうだった。


 まずは足がかりとして票を稼ぐために、ゆり先輩とめぐみ先輩、さらに巴先輩にも協力してもらうことにした。


「そっか、巴先輩は特に後輩に慕われているから、協力してもらえればかなり票は稼げるね」


 美術部の事情に詳しいナナリーが有里朱の意図にすぐ気付く。


「でも、めぐみ先輩と巴先輩って仲悪くなかったっけ?」


 と突っ込むのはミドリー。けど、それも想定済みのこと。


「それすらも利用させてもらうの。どっちが多く、わたしを推してくれる人間を説得できるかってね。二人のライバル心を煽れば楽勝だよ」

「図太くなったね、アリリン」


 ミドリーのその言葉は、褒め言葉と受け取っておいた方がいいかもしれない。


 さらに、ミドリンと央佳ちゃんの協力によりネット上から有里朱の知名度を上げていく作戦を開始。最低限の情報を晒すことで最大の効果を得る方法をとった。


 方法はティザーサイトのようなものを作ることだ。話題になりそうなキーワードを盛り込みながら、宅女の生徒にしかわからないような情報を掲載。これで間接的に有里朱の知名度をあげるわけだ。


 これなら個人情報を晒す必要もない。ネットにアクセスが増えても、無関係の人間は宅女の生徒会長選の広告だとはわからないだろう。


 てなわけで、当初は無謀だった戦いも、協力者が増えることで有里朱が有利となり、投票一週間前のアンケートでは八栄やさかえ美和と同程度の票を獲得していた。


 そして、決め手となったのは「禁止となったスマホを取り戻す」という公約だろうか。

 選挙演説に加え、ローカルな校内掲示板とネットの裏掲示板でスマホを取り戻す方法を具体的に宣伝した効果が高かった。


 ローカルポスターのイラストはナナリーに、文章はかなめが作成したのでプロ顔負けの出来となる。八栄美和側もポスター作成していたが、どう見ても素人の作った感じで、有里朱との差はここでさらについたのだ。


 これにより有里朱側がかなりの有利との情報が入り、そのせいで、とある事件が起こる。


八栄側が嫌がらせをしてきたのだ。それは犯罪行為に近いもの。だが、すぐにその証拠を教師たちに突きつけ、八栄美和は生徒会長への立候補資格を失う。情けとして警察への通報は控えた。


 その時点で不戦勝になったともいっていい。あとは、信任投票で三分の一以上の反対票がなければ自動的に有里朱は生徒会長になれるのだった。


 結果は言うまでもない。


 美浜有里朱はほぼ九割の生徒の信任を受け、生徒会長となる。



**



 宅女の場合、生徒会役員は会長が選任することができる。


 有里朱は、副会長には田中央美、会計には若葉かなめ、書記は田中央佳を指名した。


 だけど、ミドリーこと鹿島みどりと、ナナリーこと稲毛七璃は、生徒会役員へ入ることを辞退する。


 というのも、二人は動画撮影や絵描きの活動を本格的に再開したいとの事だった。ミドリーは動画研究会を新たに立ち上げ、ナナリーは美術部に入部し、めぐみ先輩に師事することになる。


 だからといって疎遠になったわけではない。有里朱を含めた六人は文芸部に席を置いたままであるし、ミドリーやナナリーはしょっちゅう生徒会室へと遊びに来る。


 開放された生徒会を目指していた有里朱たちにとっては、ミドリーやナナリーの来訪はそれを形骸化しないためにも必要なことであった


 そのおかげで生徒会には相談者が多く訪れる。たまに占い師(偽)有里朱が活躍することもあり、彼女のコールドリーディングはさらに磨きがかかったといっていい。


 この技術は、なにも人を騙して金を巻き上げるためだけのものではない。時に迷った人の心を導く灯火となりうるのだ。


 十二月になるとさすがに部室は寒いらしい。校舎の中にあり、比較的人の多い生徒会室の方に集まることが多くなってくる。


「アリス! 来たよ」

「夢見月のショートケーキ買ってきたから食べよう」


 扉が開いてナナリーとミドリーの二人が入ってくる。『夢見月』は最近駅前に出来たケーキ屋だ。


「あ、じゃあ、今お茶入れますね」


 すっかり丸くなった央佳ちゃんが、お湯を沸かす準備をする。その雰囲気は少し前の有里朱に似てきたかな。尖っていたのはクスリと暗示の影響だったしね。


「あっちゃん。仕事の方、一段落させてお茶にしよ」


 かなめが机の上で書類の整理をしていた有里朱に声をかける。


 そこへちょうど職員室へと用事で行っていたプレさんが帰ってきた。


「サイバーセキュリティー講師の件、担当教師と話がついたよ」

「ご苦労さん。ケーキの差し入れきたから、みんなで食べよう」


 プレさんにそう呼びかけた有里朱は、生徒会室の隅にある応接スペースへと移動する。そこには三人掛けのソファーが二つと強化ガラスでできたローテーブルが設置されている飲食スペースだ。


「ね、サイバーセキュリティーの講師って何?」


 ナナリーがそんなことを聞いてくる。彼女は生徒会役員ではないので、知らないのも仕方がない。


「スマホの正しい使い方とか、SNSの使い方、主に炎上しないようにするにはどうするかってのを教えてくれるの」

「へぇー、でも生徒会で呼んだんでしょ? こういう講師とかって、いくらくらいかかるの?」


 ミドリーも興味を持ったらしく、その話に乗ってくる。


「ん? タダだよ」

「え?」

「へ?」


 ナナリーとミドリー顔を見合わせて不思議そうな顔をする。


「だって、呼んだの千葉さんだもん」


 有里朱が涼しい顔でそう告げた。


 アプリ開発の時に、ついでに師匠に頼んだら二つ返事でオッケーをくれたのだ。まあ、あの人フリーランスでやっているみたいだから、わりと時間に余裕があるみたいだしね。そもそも、俺が企業勤めのSEシステムエンジニアだと思い込んでいた設定は、あの人の過去の職種だからな。


「千葉さんって」

「あの千葉孝義さん?」


 ナナリーとミドリーが驚いたように聞いてくる。


「そう。あの千葉孝義さんだよ。そういや千葉さん。女子高に堂々と入れることなんて滅多にないからって喜んでいたな」


 プレさんがそう皆にそう言うと、ナナリーが素朴な疑問を零す。


「そんなに嬉しいものなの?」

「まあ、男性なら女子高への幻想は強いでしょ。あたしだって羨むような、女子高を舞台としたアニメとかコミックあるし」


 とのミドリーの意見。ゆ○ゆりか? け○おんか? それともガ○パンか? ラ○ライブも女子高だったか。廃校問題あるし、こっちだな。


「たしかにねー」

「たしかにねー」


 と、珍しくかなめとナナリーがハモる。彼女たちが想像したのは、ひ○階だろう。たぶん……。


「千葉さんにはアプリのベータ版の説明会以来会ってないからね。あたし、あの人に電子工作のことで聞きたいことがあったからちょうど良かった。講師に来た時に相談しよっと」


 師匠は穏やかで優しい性格というのもあって、文芸部メンバーにはかなり気に入られていた。おまけにエンジニアなので、そっち方面の相談にも乗れるというのがポイントのようだ。


「なによ。ミドリン、待ってないで個人的に連絡取れば良いのに」

「い、いちおう仕事忙しいみたいだから、気を遣ってたのよ」

「じゃあ、七璃もお絵描きツールの改造方法を教えてもらおうかな」

「私も書きかけの小説のアドバイスをもらおうっかな。SFに挑戦してみたし」

「そうだな。ボクも自分の作ったプログラムのアドバイスをもらいたい」


 ミドリー、ナナリーだけでなく、かなめやプレさんまで師匠を頼りにしていた。


「ずいぶんモテモテですね。その千葉さんって人は、ギャルゲの主人公か何かですか?」


 若干皮肉交じりの感想を言う央佳ちゃん。毒っ気は完全には抜けていないようだ。央佳ちゃんは説明会の時に体調不良で来れなかったからな。


 自分の姉まで夢中にさせる師匠に、彼女の心情は複雑なのだろう。


 そうは言っても、皆師匠に恋しているわけではない。面倒見のいい『お兄ちゃん』みたいなものだと思っているだけだ。


 それはそれで師匠はさらに喜びそうだけどね。


「アリス。千葉さんに連絡をとってくれ、例の日付で学校側と調整は付いたって」


 プレさんにそう言われ、有里朱はソファーと定位置に座るとスマホを取り出して宅女専用アプリを起動する。来年の正式採用へ向けてベータ版を試している最中だ。


 連絡先一覧に師匠の名前があり、その横には受話器のようなマークがある。これはメッセージではなく音声通話がオッケーだということを示したものだ。


 文字だけのやりとりだとどうしても誤解が生じることもある。だから、音声での会話ができるなら、その方が誤解は解きやすいだろう。


 音声通話の余裕があることを相手に通知できることで、よりコミュニケーションをとりやすくするのだ。


 有里朱が千葉孝義と表示された箇所をタップすると、すぐに相手を呼び出すような音が鳴る。


『有里朱か?』

「はい、師匠。講師の件でお電話しました。学校側との調整も付いて十一月十六日で決まりましたのでよろしくお願いします」

『ああ、わかった。こちらもよろしく頼む』

「では、日にちが近づいたらまたご連絡しますね。師匠」


 と、今では有里朱も俺の師匠である千葉孝義のことを「師匠」と呼ぶ。知識の共有化だけでなく、俺自身の意識も彼女と統合されつつあった。


 そろそろ俺とロリスという存在もお役御免となる。


 でもそれは消えるのではなく、新しい美浜有里朱を作り出すためのイニシエーションだ。


 一年前の有里朱どころか、今の彼女はどんどん進化し、昨日の有里朱とも違う彼女になりつつある。


 けど、それが人間というものだろう。


 人間はもともと多面性を持ち、だからこそ内面で葛藤が起きる。そして、その葛藤に折り合いをつける事こそが大人になるということだ。


 だからこそ、イマジナリーフレンドは幼い子の誰もが持ち得るもので、そして大人になると自然と消えていく。


 心が成長するためには現実での人付き合いが大切だとも言われるが、実は内面での葛藤こそが大事なのだ。


 思考を停止してはならない。誰だって答えを間違えることはある。だからといって答えを出すのを諦めるのは、もっとも愚かなことなのだから。


 生徒会室の扉がノックされた。


 有里朱が率先してそれに応じる。


 扉を開けると、見慣れない女子生徒が一人ぽつんと立っていた。彼女の目には泣き腫らした痕がある。


 たぶん、一年生だろう。


「あ、あの。生徒会はなんでも相談に乗ってくれるって……」

「ええ、そうよ。何があったのかな?」


 有里朱は穏やかな声で優しくその子に問いかける。


「わたし、クラスの子に嫌がらせを受けてて……その」

「いじめ?」

「……はい」

「安心して。生徒会は全力であなたのいじめ問題を解決するわ!」





◆あとがき


連載を開始してからほぼ一年となりました。最終話までお付き合いいただけた読者の方には大変感謝をしております。ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。



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