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アリスの二重奏 ~ 転生し損ねた俺が、女子高生になっていじめ問題を解決してやる!  作者: オカノヒカル
第三章 終わりの始まりと非共感の共感

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■ゲーム ~ Jabberwock V


 名前も知らない一年生の子に連れられて来たのは、電車で数駅先に行った所にある廃病院。


 見た目はそれほど古くはないのだが、入り口にはベニヤ板が打ち付けられており、完全に閉鎖されていた。


 どこかへ転院したのだろう。ということは、私有地と思われるので不法に入れば法律に触れる。


 だが、今は躊躇している場合じゃない。一年の子に連れられ有里朱は裏口から中へと入っていく。


 廃墟独特の埃臭さと、病院であったことも関係してか消毒薬の匂いが仄かにしてきた。


 明かりが付かないので中は薄暗いが、まだ昼間なのでどうにか歩ける。閉鎖されていて私有地であるものの、病院内はかなり荒らされていた。廃墟マニアやら、地元の不良たちが好き勝手荒らし回ったのだろう。


 壁にはスプレーで落書きがされ、天井のボードは一部剥がれ落ち、エアコンすらその天井から本体部分がぶら下がった状態である。


 そこまでの古さはないのであまり恐怖は感じない。ホラー映画で出てきそうな廃病院とは違って、そこには少し前に実際に使われていたのであろうという痕跡がいくつも残っている。


 だが、さらに奥に行くと、壁には見事なアートとも呼べる落書きがあり、床は瓦礫とがらくたとソファやテーブルなどが無造作にちらばっていた。そこだけ見ると完全に廃墟とも呼べる場所だろう。


 さらに階段を降りて下っていき、扉の前で一年の子の歩みが止まる。


「着いたわよ」


 扉を開けると、そこは地下にある駐車場だった。


 さすがに車は一台もおいていないと思われる。照明が一部にしか点いていないので全体がわからない。だが、ここの壁にもスプレーでの落書きがいくつもされているのがぼんやり見えた。


「ようこそ美浜有里朱さん」


 奥の方から声がする。そして、現れたのはクラスメイトの流山海美と四人の若い男だ。この分だと他にもいるだろう。彼女を含めて周りの者をすべて無力化することは、今の有里朱には到底不可能である。


「かなめちゃんはどこ?」


 有里朱が怒りを帯びた声でそう問いかける。


「せっかちだなキミは。少し話さないか? ボクはキミに興味があるんだ」

「興味?」

「今のキミは、一年前のキミとは違う。そして、つい数日前のキミとも違う。一体キミは何者なんだ?」

「意味がわからない。わたしはわたしよ」


 少し前まで俺が有里朱の身体を掌握してたが、そもそもどちらも彼女自身だからな。


「昔のキミはこの学校で孤立していた。トモダチの若葉かなめに裏切られて、死すら選ぼうとしていた。なのに、別人のようにキミは変わった。それどころか、仲間を増やしてあの松戸美園すら退けた。本当にキミは美浜有里朱なのかい?」

「……そうよ。それは全部わたし」


 まあ、嘘は言ってない。


「それにしては変わりすぎだよね。まるで人格が変わったかのように」

「それがどうしたの? 人間は誰しも多角的な側面を持つのよ。昨日の自分と明日の自分は同じであって同じじゃない」


 それは誤魔化すための常套句。多重人格と見抜かれるのは有里朱としても避けたいのだろう。


「たしかにそういう面はあるよね。ボクも人によって様々なボクを演じてきた。そのどれもがボクといっても過言ではない。ボクは空っぽだからね。けど、キミは少し変わりすぎだよ。すべての人格が虚像ではなく満たされている」

「そもそもあなたは誰? いろいろ調べさせてもらったけど、妹の空美さんの自殺には不審な点が多すぎる」

「キミはボクに興味があるのかい?」

「ええ、人を意のままに操って過ちを犯させて、自分は高みの見物……わたしの大嫌いな人間。そういう意味で興味があるわ」

「ボクが誰かなんてボクにとってはどうでもいいことだ。勝手に想像してくれて構わないよ。それに人を操るのはボクの唯一の趣味でね。人間がどうしようもない生き物だということを証明するための実験だよ」

「自分の所業をそんなにペラペラ喋っていいの?」

「なるほど、キミはこの場所から無事に逃げ出せて警察に駆け込めると思っているのかな? たしかにその可能性もあるだろう。ボクの実験が失敗すればキミは自由の身だ」

「そんなことよりかなめちゃんはどこ?」

「言ったろ? キミに試練を与えると。まあ、ボクにとっては実験なんだけどね。もう少し待ってくれ。こちらにも用意があるんだ」

「わたしたちを殺す気?」

「ボクは直接手をくださない。今回直接手を下すのはボクのトモダチの方だ。事が終われば連絡があるはずだ。けど、あの子は少し遊びたい盛りだからね。殺した後も、死体を弄びそうだけど」


 そう言って、スマホを取り出してちらりとその画面を見る。通知でも確認したのだろうか?


「トモダチ?」

「稲毛七璃はそのトモダチが殺す予定だよ。どうにも殺人狂に目覚めてしまってね。予定通りの怪物に仕上がってくれて、とても興味深い実験対象だよ」

「あなたは友達を実験に使ったっていうの?」

「まあね。三年前のキッカケが、ここまで大きくなるとはボクにも予想が付かないところもあったが」

「その子がななりちゃんを殺すの?」

「そうだよ。だって、キミは見捨てたんだろ? 稲毛七璃を」


 悔しさで奥歯を噛みしめる有里朱。彼女自身が決断したとはいえ、そのことは心に重くのしかかっていた。ゆえに返答に詰まってしまう。


「……」

「キミはこのまま逃げ出してくれてもかまわない。ただし、若葉かなめも無事では済まないけどね」

「わたしが警察に通報したら、あなたたちのこれまでやってきたことは罪に問われるのよ」

「そんなことはどうでもいいよ。けど、キミは一生悔やむだろう。稲毛七璃も若葉かなめも助けられなかったことに。キミは二人の大切な人間を失うことになる。美浜有里朱はそれでいいのか?」

「ねえ? わたしとかなめちゃんをどうする気なの?」

「実験だよ。キミにはゲームをしてもらう」

「あなたと対決するってこと?」

「違うよ。若葉かなめとキミがゲームをする」

「かなめちゃんと?」

「単純なゲームだよ」

「なぜ、わたしとかなめちゃんが?」

「お互いにあるものを賭けて戦ってもらうからだよ」

「くだらない……」


 そんなことのために、ナナリーとかなめを選択させたのかと、有里朱は憤っている。


「そうかな? わりと白熱する戦いになると思うよ」

「わたしはかなめちゃんを、かなめちゃんはわたしを大切に想っているはず。お互いに遠慮しあって勝負になんかならない。そんなつまらないゲームを見たいの?」

「お互いに相手を大切に想っているというのは知っているよ。だから、それを利用したゲームだよ」


 流山海美が指を鳴らすと、奥の方から一人の男に引っ張られるようにかなめが出てくる。


「かなめちゃん!」

「あっちゃん!」


 無事であったことをほっとする有里朱だが、安心していられない状況であることは変わらない。


 流山海美はいったい何を仕掛けてくるというのか。


「二人には相手を殺す権利をかけて戦ってもらうんだ」

「な、なに言ってるの?! そんなバカなことするわけないじゃん」


 有里朱が事情が飲みこめずに驚いて目を見開く。


 だが、かなめの方は何か知ってるのか、俯いてしまっていた。


「キミには勝者の権利と敗者の罰を教えてなかったね。単純だよ。負けた者は勝った者に殺される。殺し方は自由だ。なるべく苦痛のない方法をいろいろ用意しているよ。勝者は敗者を安らかに殺せるんだ」

「なんでわたしがかなめちゃんを殺さなきゃいけないのよ。わたしが負けたとしても、かなめちゃんがわたしを殺すはずがないじゃない!」


 理不尽なルールに憤る有里朱。冷静に考えればそんなゲームが成立するわけがなかった。


「説明がまだ途中だったな。勝者は豪華なベッドで寝てもらって、ショーに出てもらうんだよ」

「ショー?」

「生きたまま解体されるショーだよ。もしキミが勝ち残ったらこう思うだろう。負けて若葉かなめに殺された方がマシだったと。逆に彼女の方も同様に思うかもね」

「狂ってる……」

「この企画を考えたのはボクじゃないよ。ボクの興味は生体解剖なんかより、キミと若葉かなめがどう戦うかだよ。いや『どう結論を出すか?』かな」


 残酷なゲームだ。相手を本当に思うのであれば、勝者となってかなめを楽に死なせてやる方がいいだろう。だが、勝てば自分が絶望的な苦痛を味わうことになる。


 究極の選択。それでも有里朱はかなめを酷い目に合わせることはしたくないはず。ならば勝つしかない。


 けど、それはかなめも一緒だろう。


 そうなると、どちらも負けは譲らない。勝者が相手を殺すという狂気のゲームを、文字通り命を賭けて戦うことになる。


 なるほど、有里朱が負ければかなめの裏切りにも等しい。有里朱の願いは、かなめが苦しむことではないのだから。


 結局はかなめとの話し合いで……いやいや、すんなり話し合いで解決するような問題ではなかった。


 冷静になって思考する。残虐なゲームではあるが、今の状態では思考実験や言葉遊びと変わらない。


 彼女の取り巻きの若い男たちも、いざ殺人となると及び腰になるだろう。そこを突けば、逃げ出す隙はできるはず。


 有里朱も落ち着いてきた。逃げ出すことさえできればこちらは勝ちだ。あの狂っている流山海美さえどうにかできれば、勝機はある。


「これからキミたちにはあの檻の中に入ってもらうよ」


 流山海美が指差す方向に灯りが点く。よく工事現場にあるような投光器だ。電気は通ってないので、発電機によるものだろう。


 そこには縦が二メートルほどで、横幅と奥行きが三メートルはある鉄柵が見えた。鉄格子のようなもので覆われた部屋のようなものだ。動物を入れておくような檻というより、牢獄のような印象を受ける。


 中には倚子が二つあり、その一つには血のような黒い染みが見えた。有里朱たちのためにわざわざ用意したわけではなかったのか? すでに誰かに使われた後なのかもしれない。


「あの中でキミたちは、殺し合ってもらう。相手を殺す方法は問わない。『苦しませないで殺す』ってことに拘らなくてもいいよ。ボクとしてはね」


 流山海美は威圧的な言葉は使わない。あくまでも丁寧に説明してくれる。ゆえに、有里朱も過度な緊張感には囚われていなかった。


 これから殺し合うという実感も沸いてこない。これならば希望も持てるだろうと思っていたところで、流山海美はこんな事を告げる。


「あと、キミたちはあまり危機感を抱いていないようだから、少し余興をしようかと思う。ミイナ、おいで」


 その声にさらに一人の少女がこちらにやってくる。ベリーショートのボーイッシュな女の子。その子にも見覚えはなかった。同じ高校生くらいで、制服は宅女のセーラー服……じゃなくてブレザーであり別の学校のようだ。


 有里朱が首を傾げていると、予想外のところから声があがる。


「ミイナ……なんで、ここにいるのよ」


 それは有里朱をここまで連れてきた気の強そうな一年の子だった。


「あたしもひろみさんに呼ばれたからね」

「だって、ミイナ。お姉さまの話なんてしたことなかったじゃん」


 ミイナという子はニコニコしながら一年の子に近づいていく。


「そうだよ。だって、内緒だったもん」

「内緒って、お姉さまのこと知ってたなら、話してくれても……トモダチでしょ?」

「うん、トモダチだよ。だから、内緒にしたんだよ」

「なに言ってるの? 意味わかんないんだけど」

「だって、リタとトモダチになったのって、ひろみさんに言われたからだもん。でなきゃ、リタとなんかトモダチになるわけないじゃん」

「待って……それじゃ、あたしのこと騙してたの? なんのために?」

「そりゃ、リタが用済みになった時に処分するためじゃん」

「……っぁ」


 ぼたぼたと血液が一年の子の足元に落ちていく。


 ミイナという子は、目の前にいた一年の子の胸の下あたりをナイフで刺したのだ。ニコニコ笑ったままの状態で。


 そのまま足から崩れ落ちるように倒れる一年の子。彼女は苦しそうに自分を刺したミイナという子を見上げる。


「やめ……ぃたい……ぃたいよぉ……ぐはぁっ……」


 胃から逆流してきたと思われる血が彼女の口から吐き出される。まだ致命傷ではない、なんとかして助けないと……と俺も有里朱も思考を巡らす。


「トモダチとして最後まで看取ってあげるよ」

「あ……たし……なんでミイナと……トモダチに……なったんだろう……お姉さまは……あたしを……だましたんだ」


 まだ苦しそうに血を吐きながら、そんな言葉をこぼす一年の子。そしてミイナという子は、それを見下ろしながらしゃがむと、彼女の髪を愛おしそうに撫でながらこう言った。


「バイバイ。リタ」


 それは一瞬であった。ミイナがナイフで一年の子の頸動脈を切る。瞬間的に、血が吹き出して辺り一面が朱に染まる。躊躇もせず、遊びの一環のように彼女は行動した。なんの罪悪感も抱いていないのだろうか?


 俺やロリスはその非人道的な行為に恐怖する。そして、ここまで周到に他人をコントロールできる人間がいることに、怒りとそして焦燥に駆られた。



***************************************


次回 泣き虫


ナナリー視点で、もう一つの対ジャバウォック戦



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