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アリスの二重奏 ~ 転生し損ねた俺が、女子高生になっていじめ問題を解決してやる!  作者: オカノヒカル
第二章 互恵同盟とトラブルバスター

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■取引 ~ Gryphon II


 話は今日のお昼頃に遡る。


 俺はいじめの被害者である幕張めぐみ先輩に話があると、体育館裏へと連れ出した。その際、友人である花見川ゆり先輩も「心配だから」と付いてくることになる。


 「嫌がらせの件」だということを、ちらりと言っただけで「トモエのことね」とめぐみ先輩はすでに犯人をわかっている様子でもあった。


 だが、彼女の顔は怒りで震えているわけでも脅えている訳でもない。ただただ悲しそうな表情を浮かべているだけだ。


 体育館裏に到着する。建物のおかげで、こちらからは校舎はまったく見えない。校内においては死角となる場所だ。


 ここならば誰かに目撃されることなく静かに話ができるだろう。底辺校であれば、不良たちが誰かをボコるような場所でもあった。


「話はやっぱりトモエのこと?」


 悟りきったような顔のめぐみ先輩。そして花見川先輩は、俺たちから距離をとって視線を外し、静かに空を見上げていた。部外者なので一応気を遣っているのだろうか。


「先輩は、嫌がらせの犯人が佐倉先輩って気付いていたんですか?」

「ええ。けど、あなたは一年生よね? 美術部員でもないし……トモエの関係者? あの子にいじめられた……ってことはないわね。あの子は後輩には優しいから」

「わたしはただの目撃者です。美術科の教室で行われていた一部始終と、そのあと先輩がその……悲しんでいられたのも偶然見てしまったので」


 めぐみ先輩から微かに息が漏れる。それは自嘲したような微かな笑いにも感じられた。


「そうなんだ。けど、私が泣いていたのはね。嫌がらせをされたからじゃないんだよ」

「え?」


 ついつい二つの事象をリンクしてしまったが、よくよく考えてみるとおかしい。嫌がらせが発覚して悲しむのであれば、あの目撃した当日の放課後のはずだ。次の日まで悲しみを引き摺るようであれば、学校を休むくらいはするだろう。


 ならばなぜ?


「意外そうな顔ね? 私、トモエが嫌がらせをしていることは知ってたの。たいした被害じゃないから放置してたけどね」

「でも、大切な絵に落書きしたり、先輩の物を盗んだり」

「あれは額縁の上からでしょ? 表面には透明なアクリル板があるから、イタズラ描きされても簡単に汚れは落とせるからね。それに、あの子の盗んだものって消耗品がほとんどだよ。部費で買った絵筆とかそんなんだし、実質被害はないよ」


 心がぶるりと震える。これは有里朱の感情か? わかっている。かなめと似たような状況だ。だが、一つだけ違うことがあった。それは佐倉先輩の中に宿る嫉妬心である。


「だけど、先輩への嫌がらせには変わりないのでは?」

「そうね。酷い仕打ちよね」

「先輩はこのままでいいんですか?」

「うーん……いろいろ面倒くさいわね。でも私、美術部やめるかもしれないから……どうでもいいかも」


 あれ? いろいろ読み違えている部分が多い気がする。俺が調べるべきは佐倉先輩ではなく、めぐみ先輩の方だったか?


「先輩。失礼を承知でいくつか質問してよろしいでしょうか?」

「うふふ、なに?」


 いたずらっぽい笑みを浮かべるめぐみ先輩。だが、目だけが笑っていない。


「佐倉先輩とは昔仲良かったんですか?」

「ううん。トモエとはクラスも違うし、出身中学も違うよ。部内でもあんまり話す事はなかったわね。なんで?」


 かなめと同じケースを考えていたがハズレだ。


「下の名前で呼んでいらっしゃるので、親しかったのかと……」

「美術部はね。二年生以上になると下の名前で呼び合う伝統があるのよ」

「伝統?」

「変でしょ? でも、それが伝統ってことで代々引き継がれてきたからね。今では仲良くなくても下の名前で呼び合うことに抵抗はなくなっているわ」

「なるほど……」

「あとトモエとは親しくはないけど、ライバルではあるかもね。私あの子の実力を認めているもの」


 視線を外し、ふと遠くの方を見つめるめぐみ先輩。その瞳には何が宿るのか?


『ねえ、孝允さん?』


 こういう時はずっと黙っている有里朱が、めずらしく話しかけてくる。


「なんだ? 不審がられたくないからあんまり長く話せねーぞ」

『泣いてた理由って才能のことじゃない?』

「才能?」

『佐倉先輩には敵わないと思っちゃったんじゃないの?』


 たしかにコンクールではめぐみ先輩が入賞している。だけど、自分の作品の出来は自分がよく知っているはずだ。


「私ね。トモエの気持ちがよくわかるのよ。だって、最初に嫌がらせをしたのは私なんだもん。気付いてなかったみたいだけどね」


 自嘲気味の笑いを浮かべるめぐみ先輩。最初に嫌がらせって……まさか、有里朱の予想通りなのか? ということは……。


「泣いていた理由ってもしかして……」

「私はトモエみたいに後輩に教えるのも上手くないし、慕われることもない。たしかに賞とかもらってるけど、私の作品は審査員に受けがいいだけ。私、そういう傾向とかはすぐに理解しちゃうんだよね。過去の受賞作とか見ていれば、どんなものが好まれるかね。だけど、トモエは違うの。自分の描きたい物を圧倒的な才能で見せつけるの。敵わないよね……おまけに惨めだよ。だから、彼女の才能に嫉妬して嫌がらせをしたこともあったの。けど、あの子が逆に私に嫉妬を向けるようになって、ようやく気付いたのよ。自分も持つその感情の醜さを」

「……」


 絵描きにしかわからない苦悩。いや、誰だって他人の才能には敏感だ。そして、自分が他人に負けていることに自ずと気付いてしまう。


「私ね……あの子がやり返してくれたおかげで踏ん切りが付きそうなの。もう描くのはやめようって」


 初めてめぐみ先輩を見た時のように涙を流していた。そんな彼女を心配してか、花見川先輩が横から抱き寄せる。


「ねぇ、目的はなに? めぐみを泣かせて、ただで済む思てへんやろうな?」


 柔らかな関西訛りでボーイッシュな花見川先輩の顔が少しだけ歪む。大切なものを傷つけることは許さないという感情が漏れてくる。それは有里朱のかなめへの気持ちと重なった。


 これは作戦の大幅の修正が必要だな。でも、交渉の仕方によってはめぐみ先輩どころか花見川先輩も引き入れられる。チャンスだった。


「わたしの目的は、佐倉先輩を更正させて仲間になってもらうことです」

「仲間? あんたも美術部に入るん?」

「違います。わたしがいじめを受けている松戸美園に対抗するためです」

「松戸? ああ、一年で女王様がおるって噂しとったな」

「彼女のことはご存じですか?」

「噂程度やで。一年の子たちには影響力強いって」

「少し前まではそうでした。けど、最近は二年生にまでそれは及んでいますよ」

「そないな話聞いたことあらへんで。みんなあの一年のことはあほにしてんって。佐倉かて、あの生意気な一年を直接言い負かしとったし」

「佐倉先輩のお友達の数。少し減ってきていると思いません?」


 俺のその言葉に、めぐみ先輩がはたと顔を上げてこちらを見た。


「そういえばハルカもミナコもチエも、トモエから距離を置くようになっていた」

「松戸美園のやり方は他人の弱みを握って、自分の配下にすることです。そうやって、自分と対立する相手の味方を徐々に奪っていくのでしょう。いずれ報復するために」


 戦略としては間違っていない。だが、敵にそれをやられると面倒なので、封じなければならない。


「へぇー、そないな事してんのや。あの一年。せやけど……うちらには関係あらへんよなあ。佐倉と仲良うなりたいなら勝手にしたらええ。めぐみを巻き込むんちゃうで!!」


 再び敵視するような鋭い視線が俺を貫く。花見川先輩は身長が百七十センチくらいはあるので、上からの威圧感が凄い。身体もそこそこ鍛えているようなので、下手な男子より強いだろう。


 彼女に勝つには、有里朱の身体では油断させる以外に必勝法が見つからない。敵ならばね。


「もう巻き込まれていますよ」

「は? どないなこと?」

「佐倉先輩が松戸美園と対立した時点で、その周囲の者は利用されます。特に佐倉先輩の直接の味方と、幕張先輩のような彼女と対立しそうな人が最優先で狙われます」

「ほんまか?」


 と、花見川先輩のそれまで睨んでいた視線が弱まり、あどけない少女が呆けたような顔になる。先ほどまでの男っぽさは薄れて、年相応の女の子の表情となった。


「わたしが松戸美園なら、幕張先輩の弱みを握ります。そのネタを元に脅していいなりにさせるでしょう。それでも無関係と思えますか? きっと松戸美園は死ぬまで幕張先輩を服従させるでしょう。弱みを握られるってそういうことですよ」

「でも、弱みを握られるようなことをしなければ……」

「捏ち上げることも可能ですよ。例えばなんらかの罪を被せたり」

「それ冤罪やないの?」

「そうですよ。でも、無実だと立証できなければ罪として脅されます」

「いやいや……いくらなんでも、たかが高校生にそんなことが……」

「わたし、彼女の配下経由で万引犯に仕立てられそうになりましたよ。防犯カメラと警察呼んでなんとか対応しましたけどね」

「マジか?」

「マジです。おわかりになりましたよね? 松戸美園の醜悪さが」

「わかったよ。でも、協力するかどうかはめぐみに聞いてくれ。うちは、めぐみの味方であるだけで、あんたの仲間じゃないんだから」

「わかっていますよ」


 花見川先輩にそう返答すると、めぐみ先輩へと視線を向ける。


「では、幕張先輩。あらためてお聞きしますが、松戸美園に対抗するために、協力してもらえないでしょうか?」

「協力って、具体的にはどうするの?」

「美術部へ残ってもらいます」

「おい!」


 花見川先輩のツッコミが入る。といっても、これはかなり怒りの帯びたものだ。


「落ち着いて下さい」

「落ち着けるか! めぐみは美術部をやめるってことを悩みに悩んで決めたんや。このまま美術部にいたってツライだけ。それくらいわからんの!」


 ツライってのはわかる。けど、それは逃げだよ。


「幕張先輩。絵を描くのをやめると仰いましたけど、先輩が絵を描いてた理由って佐倉先輩の為ですか?」

「え? 違うよ。私は小学校くらいから絵を描いてたし……トモエは全然関係ない」

「だけどお止めになるのは、佐倉先輩への嫉妬がきっかけなんでしょう?」

「そうよ。でも、それは私が弱いから。他人を嫉んで恨んで、そんなんでいい絵が描けるわけがない」

「それは違います。古今東西、創作者で人格が優れた人なんていません。いても、良い部分だけを見せているだけです。内面なんてグチャグチャですよ。それは、歴史に名を残すような人物でさえ」

「おいおい、それはちょっと無理があるんじゃないか?」


 花見川先輩があきれたように反応する。


「数学者でもあり詩人でもある某作家は少女性愛者という説もあります。ウサギをモチーフにした世界的な絵本作家は人間嫌いだとも言われていますし、ハゲのアニメ監督は他人の作品にダメ出しをしないと気が済まない性格です。某大型掲示板出身の小説家は脱税で捕まってますしね。そう考えると逆に、まともな創作者っていますか?」

「う……ん。そういえば、そうだね」


 めぐみ先輩が右上に視線を向けながらそう答えると、花見川先輩から「そうなんか?!」というツッコミが入る。


「だから、先輩。誰かを嫉妬するのは、大したことじゃないんですよ。法律さえ守るのであれば」

「私にトモエを嫌ったまま部活を続けろと?」

「逆にその感情を昇華させて芸術にぶつければ、とんでもない作品が出来上がるかもしれませんよ」

「簡単に言ってくれるじゃない?」

「人間、純粋なだけでは到達できない領域があります。闇を知ってこそ、作品に深みが出るのではありませんか?」


 有里朱が『ねぇねぇ、それほんとなの?』と聞いてくるが、そんなのはめぐみ先輩を乗せるための方便だ。そもそも俺はクリエイターじゃないし。


「……」

「あの佐倉先輩でさえ到達できないような、究極の高みに上がれるかもしれませんよ。その景色を見てみたいと思いませんか?」


 呆れたように口をぽかんと開けるめぐみ先輩だが、すぐに愉しそうに笑い出す。


「うふふ。あなたって人を焚きつけるのが上手なのね。そういえば名前聞いていなかったわ」

「一年一組の美浜有里朱です」

「そう、あらためてよろしく。知ってると思うけど、私は幕張めぐみ、こっちの子は私の親友の花見川ゆりよ」



**



「めぐみ……」


 予想外の人物の登場に、佐倉先輩はそれ以上の言葉が出ないようだ。


 めぐみ先輩は腕を組んで佐倉先輩を上から見下ろす。そして力強い口調でこう言った。


「話は聞いたわ。同情の余地もないことはないけど……でも私は許さない!」


 やや演技っぽくなっているが、言っている内容はめぐみ先輩の本音であることは確かだ。


「ごめん……めぐみ。やっちゃいけないってわかってたんだけど……けど、悔しくて……悔しくて」


 めぐみ先輩を前にして感情のタガが外れたのだろう、ボロボロと涙をこぼす佐倉先輩。もともと「嫌がらせ」自体に負い目を感じていたのだろう。


「私ね。ほんとは美術部やめようと思ってた。だけど、悔しいからやっぱりやめた!」

「へ?」

「悔しいけど才能はあんたの方が上よ。そんなことはわかってたの。しかも、あんたに負けてるのに受賞する。それがどんだけ屈辱かわかる?」

「は?」

「私が欲しいのはコンクールの賞なんかじゃない。頭の中のイメージをもっと巧く描ける才能よ!」

「……」


 思いがけない展開に驚いて、きょとんとする佐倉先輩。


「だから、あなたの上を行く」


 佐倉先輩の顔がおれの方を向く。「どういうことなの?」と口が動いた。


「臼井先輩も和田先輩もいなくなりましたからね。これは先輩たち二人の問題になります。いじめではなく喧嘩です。だから佐倉先輩、卑屈にならなくてもいいんですよ」


 こうなればいじめという構図はなくなる。ただの喧嘩なのだ。これにていじめ問題は解決、喧嘩に関しては「知らん」という立場である。


 『詐欺じゃん』という有里朱の声が聞こえてきた。また、心の声の切り替えをまずったかな?


「いじめってさ、パワーバランスが崩れたときに起こる事もあるんだよ」

『ぱわーばらんす?』

「一番は人数の問題。最初は一対一の喧嘩でも、どちらか一方に人数が集まれば、戦力の均衡は崩れる。肉体的、物理的、立場や身分の差に偏りがあった場合も同じだ」

『あ、なんかわかる気がします』

「パワーバランスが崩れれば一方的に攻撃できるからな。いわゆる『弱い者いじめ』に発展するわけだ。けど、対等であればいじめにならない」

『だから、二人の状態を対等に持っていくってこと? 違う、この場合は戻すのね』

「そう、それが今回の作戦の方針」


 俺と有里朱が話している間も、先輩たちの会話はほとんど進んでいない。というのも佐倉先輩が困惑してしまっているからだ。


「でも……めぐみ、わたしのことを許してくれたわけじゃないんだよね?」


 佐倉先輩はめぐみ先輩の方に向き直り、疑問を投げかけていた。


「当たり前じゃない!」

「えーと……わたしはなんて反応すれば……」


 戸惑いを隠せない佐倉先輩の顔が助けを求めて再びこちらを向く。しおらしい佐倉先輩はなんだかかわいくも感じた。だが、彼女には再び強くなってもらわないと困る。だから、そのためのアドバイスを告げた。


「そういう時はですね。こう言うんですよ」


 二人の先輩どころか、かなめやナナリー、ミドリーたちにまで注目される。


 俺は息を大きく吸うと、気合いを込めて言葉を吐き出した。


「かかってこいやー!」



**



 佐倉先輩とめぐみ先輩は和解したわけではないが、美術部はいつも通りの日常を迎えることになるだろう。いや、少しだけ変わるかな。


 めぐみ先輩は佐倉先輩への不満を直接ぶつけるようになるし、その逆もまた然りだ。


 結局、美術部内の対立構造や殺伐とした雰囲気は悪化するだけなのである。それでも彼女らは、そんな中でもたくましく成長していくはずだ。


 カラオケボックスではめぐみ先輩の親友である花見川先輩が「ありがとね」と帰り際に耳元で囁いてくれた。きっと、めぐみ先輩の悩みを解決した件だろう。


 そして、佐倉先輩も俺たちには感謝していた。最初は何か脅されるか、学校に告げ口されて退学処分になるのではないかと脅えていたらしい。


 そうではなく部内の不穏分子である臼井先輩と和田先輩を排除しただけでなく、自分がやってきた犯罪まがいの嫌がらせを不問としたのだ。美術部での佐倉先輩の立場はこれまでと変わりなく、それでいてめぐみ先輩との関係をお互いに良い方向へと一歩前進させたのだ。


 というわけで、佐倉先輩の協力は簡単に得ることができたのである。


 先輩のクラスタであるお友達と後輩十数名は松戸に下ることなく、引き続き対立してくれるとのことだ。対松戸戦での協力の約束も取り付けることになる。さらに、引き抜かれた生徒たちを取り戻す計画も水面下で進められた。


『うまくいったね』

「ああ、読み違えた時はどうしようかと思ったけどね」

『孝允さんでも間違えることはあるんだね』

「そりゃ、情報が正確に揃ってないことには答えは導き出せない。計算問題ってそうだろ?」

『計算問題? うーん、まあ、そうですねぇ』


 数学嫌いの有里朱が苦々しく答える。俺の言いたいことは伝わっているだろう。どんな計算機だって、入力する数値を間違えれば正確な答えは出ないのだから。


「美術室から回収したカメラも当分は使う事は無いかな」


 と、独り言をこぼすと、カメラから取り出したSDカードを取り出した。ところが、フォーマットしようとPCのカードリーダーに入れ損ねて、机の裏の方へと落としてしまう。


「やべ!」

『あーあ……』


 裏と言うよりは机と隣の本箱の間に入ってしまったようだ。これは取り出すのに苦労する。


 溜息を吐きながら地道に作業。


 まず机の上のものをある程度どかして、机そのものを前へとずらす。


 すると、SDカードとともに誇りにまみれたいくつかの写真が見つかった。


 それは有里朱の昔の写真だ。


 中学の頃にかなめと撮ったプリクラや、小学校の遠足、そして入学式の頃の幼い有里朱の写真。フォト用紙へのプリントではなく銀塩写真か。


 さらに、白い壁の室内で撮られた十人ほどが映った集合写真。その中の有里朱は五才くらいだろうか。


「なんだこれ?」

『どうしたんですか?』


 手が震えてくる。


『孝允さん?』


 幼い有里朱は右端に映っている。面影はあるので、彼女だと一目でわかった。だが、問題は左端に映る二十くらいの男性だ。


「俺がいる」



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